TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第68話『人は死して名を残す』

 

「まふゆ、どうしてここに!?」

 

「白髪チビ!?」

 

「キミはっ……!」

 

 炭治郎、伊之助、杏寿郎が唐突に現れた俺の存在に目を見張っていた。

 だが言葉を返す余裕はない。

 

 今この瞬間、運命が大きく変わろうとしているのだ。

 俺の振り下ろした刀の切っ先が、猗窩座の腕に触れていた。

 

「斬れろぉおおおッ!」

 

 刃がズプズプと沈み込んでいく。

 すでに攻撃の体勢に入っていた猗窩座は躱すことができない。

 

 伸びきる直前の腕。

 どれほど強靭な筋肉を持っていようとも、動かす瞬間だけはわずかに緩むものだ。

 

 というより、緩めなければ動かせない。

 構造上の必然だ。

 

 それこそが俺でも猗窩座ほどの頑強な鬼を斬れる唯一の瞬間。

 猗窩座の血鬼術が純粋な肉体強化だからこそ、彼はその縛りから逃れられない。

 

「スゥウウウッ!」

 

 『氷の呼吸』最大威力の技である『雪崩』。

 そこに長い刀の重量と遠心力をすべて乗せた一撃。

 

 本当は直接、頸を狙いたかった。

 だが、俺の力では不意打ちでも肉体強化に特化した猗窩座の頸を斬るのは困難だと判断した。

 

 いや、そもそも戦闘中の今、最大限に警戒されているそこへの不意打ちは不可能だ。

 杏寿郎ですら頸を狙わず、『煉獄』にて多くの面積を根こそぎえぐり斬るほうを選んだ。

 

 ほかにも、俺には熱鬼に使った『氷華(ひょうか)』などが選択肢にあったが……。

 いずれの技も即効性に欠けていた。

 

 今この瞬間だけでいい。

 猗窩座の腕を斬り落とせれば運命を変えられる。

 

「お、女ァあああ! キサマぁあああ!?」

 

 そして、ついに――ズッパシと猗窩座の腕を、中ほどから両断することに成功する。

 杏寿郎の刀と猗窩座の拳が交わることはなく……。

 

 ――一方的に杏寿郎の刃だけが猗窩座へと到達する。

 

「このっ、杏寿郎ォおおおッ!」

 

 炎が炸裂した。

 そう錯覚するほどの一撃が猗窩座を袈裟斬りにする。

 

 猗窩座の身体がえぐれていた。

 その切断面はまるで焼けているかのようにも見えた。

 

 肉体の多くを一度に失い、一瞬だが猗窩座の回復が遅れる。

 その動きが止まっていた。

 

「煉獄さん!」

 

 それだけで俺の意図は杏寿郎にすべて伝わっていた。

 彼が刀を再度、振りかぶる。

 

 その刀身が――猗窩座の頸に届いた。

 すさまじい硬度。

 

 ギャリリリと甲高い金属音にも似た音が響く。

 しかし、すこしずつ、確実に……その刃は猗窩座の頸を両断しはじめていた。

 

「――なんだ、これは」

 

 愕然とした顔で猗窩座は呟いていた。

 周囲からその様子を見ていた炭治郎たちの声が聞こえてくる。

 

「まふゆ……全然、気づけなかった。まったくと言っていいくらい匂いがしなかった」

 

 それは俺が『氷の呼吸』で体温をコントロールして、発汗まで抑えていたからだろう。

 鬼の中には鼻の利くやつも多い。

 

 猗窩座ほどの鬼ならその五感すべてがすぐれているにちがいない。

 音や光だけではなく、俺は匂いからも自分の存在を消した。

 

「オレもまったく気配も感じられなかったぜぇ」

 

 伊之助が気づけなかったのはおそらく、彼の六感ともいうべき獣の勘が弱肉強食に基づいているからだろう。

 強い気配を探るのには長けていても、弱い気配には鈍くなる。

 

「うおぉおおおッ!」

 

「煉獄さん!」「ギョロギョロ目ん玉!」

 

 杏寿郎が獅子のごとく吼える。

 炭治郎と伊之助がまるで後押しするみたいに彼へと叫ぶ。

 

「――いったいなんだ。なんでこうなった」

 

 猗窩座は自身の頸を両断しようとしている刃を見下ろしていた。

 それから彼の目は杏寿郎を捉え、そして最後に――俺へと向けられた。

 

 瞬間、ビキビキィっとその顔中に血管が浮かび上がる。

 その表情は憤怒に染まっていた。

 

「キサマだ。キサマがすべての原因だ」

 

 ボコリ、と肉が盛り上がりすさまじい速度で回復しはじめる。

 それと同時に、斬り落とされずに残っていたもう片方の拳が振りかぶられた。

 

「よくも……よくもオレたちの崇高な闘いを汚したなァあああッ!」

 

 瞬間、直感した。

 俺は――ここで死ぬ、と。

 

 世界がスローモーションに見えた。

 猗窩座の強烈な殺意が俺の全身へと叩きつけられていた。

 

 そして、必殺の威力が込められた拳が近づいてくる。

 これは決闘を土足で踏み荒らした罰なのだろう。

 

 この至近距離。

 刀を振り下ろした直後で俺は動けない。

 

 回避はもう間に合わなかった。

 俺はその『死』をこの身で受けとめることになるだろう。

 

 だが、それでもかまわなかった。

 ここで彼を狩れるなら、それは未来へとつながる。

 

「煉獄さん、斬って! その鬼の頸を斬れぇえええ!」

 

 俺は叫んだ。

 ここで俺が死んでも意思は受け継がれる。

 

 

 ――人の想いは永遠であり、不滅だ。

 

 

 俺は自分がいつ死んでもいいように遺書を残している。

 それはお館さまへ宛てた手紙だ。

 

 そこには現時点で思い出せているかぎりの、未来の記憶をすべて記してある。

 まぁ、それがどれほど役に立つかはわからないけれど。

 

 なぜなら、俺が死んだ時点で――俺という”修正者”がいなくなった時点で、おそらく……本来の歴史から大きく乖離しはじめるから。

 だが、彼ならば有効活用してくれるはずだと思い、託した。

 

 ただまぁ、俺が恐れていたように知ってしまうことで逆に悪い運命を引き寄せることもある。

 だから、中を見るかどうかの判断まで含めて彼に委ねた。

 

 使うも使わないも彼次第。

 しかし、情報だけは――選択肢だけは残すべきだと思い、そうした。

 

 

「炭治郎、伊之助、煉獄さん……あとのことは頼みました」

 

 

 俺はそう呟くように言った――。

 

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