TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第74話『蝶屋敷の恐い姉たち』

 

「ひぃっ!?」

 

 アオイとカナヲ、ふたりからジッと圧をかけられて屋台のおじさんもさすがに怯んでいた。

 そりゃあそうだろう。

 

 そんなの俺だって恐い。

 継子と、それから継子をいつも叱りつけている姉だぞ。

 

 というか……えっ!?

 このポイ、そんな細工がされてたのか!?

 

 どうりで、やけに破れやすいわけだよ!

 ふたりとも気づいてたなら、もっと早く教えてくれよ!?

 

「……ほ、ほらよ。持ち帰り缶の代金はまけといてやる。しっしっ、とっとと行った」

 

 圧に負けた店主が、持ち帰り用の缶を差し出した。

 アオイが針金の持ち手がつけられたその缶の中へ、俺の取った金魚を移してくれる。

 

 そうか、この時代はまだビニール袋もないもんな。

 こうやって持ち帰るのか。

 

 小さな缶の中を金魚はちょろちょろと動き回っていた。

 それを見ていると、なんだか胸の奥が温かくなってくる。

 

「……ぁ、」

 

「「ん?」」

 

「……ありが、とう」

 

「「どういたしまして」」

 

 自然と笑顔と言葉がこぼれていた。

 金魚すくいに熱中しているうちに、あたりは暗くなってきていた。

 

 遠くの空にバァーン! ときれいな光の花が咲いた。

 その日、俺は400年ぶりに鬼のことを一切考えない夜を過ごした――。

 

   *  *  *

 

 ちなみに連れ帰った金魚の名前は”カマス”になった。

 ……な、なじぇぇ???

 

「ふふっ、とってもいい名前だと思わない? ほらほら、カマス~」

 

 それはカマスではない。

 金魚だ。

 

「しのぶ……」「しのぶさま……」「師範……」

 

 カナエ、アオイ、カナヲの3人も残念なものを見る目をしのぶへと向けていた。

 いやまぁ、いいんだけどね。

 

 俺よりもしのぶのほうがお世話をする機会が多くなりそうだし。

 彼女が呼びやすい名前をつけてくれたら、それで。

 

 すでにカマス(金魚)は金魚鉢に移されていた。

 彼……彼女? は先住していたほかの金魚と、じゃれあうみたいに泳いでいる。

 

「そういえば、ほかの金魚って名前なんていうんでしたっけ」

 

「この子は”フグ”よ。とってもいい名前でしょう? ふぐのように大きくまるまるとした金魚に育ってほしい、という思いからつけたの! それでこっちは――」

 

 しのぶが笑顔で教えてくれる。

 冗談とかじゃなく本気でいい名前だと思ってるんだよなぁ、この人……。

 

 さすがに俺の『鮭大根』はいくらか冗談が入っていると思うけれど。

 ……入ってるよね?

 

 頼むからそうであってくれ!

 そう願っていると、となりでカナヲがブルブルと恐怖の表情で震えていた。

 

「カナヲはあたしに感謝していいと思うわ」

 

「ありがとう、アオイちゃん。止めてくれて本当によかった……」

 

「なにかあったんですか?」

 

「あの『カマス』って名前、もともとはカナヲの名前候補だったのよ。ほら、そこ」

 

 アオイがそう言って、金魚鉢のとなりに並んでいる折り紙を指さす。

 その折られたツルや風船ウサギをよく見てみると……。

 

「ん? なにか書かれてる?」

 

「な、懐かしいわね~。それ私が折ったのよ~」

 

 話を聞いていたカナエが珍しく動揺しながら言う。

 そこに書かれていた文字は……スズメ、ハコベ、タナゴ、とびこ。

 

 それから――カマス。

 えっ、もしかしてこれ……しのぶが提案したカナヲの名前候補なのか!?

 

「……カナヲも苦労してるんだね」

 

「みんな、どうかしましたか?」

 

「「「なんでもないです」」」

 

 そんなこんなで夏が終わり、季節は移ろっていき――。

 

   *  *  *

 

「ほーら、エサだぞー。食べろー」

 

 俺はそう言って金魚鉢の中にエサを放り込んでいた。

 季節もそろそろ秋。

 

 すこし寒くなってきたからか、金魚たちの動きは鈍くなっている。

 だが、今もしっかりと生きていた。

 

「けっこう丈夫なもんだなー」

 

 屋台で取ってきたのなんてすぐに弱って死ぬと思っていた。

 でも、そういえば金魚ってちゃんと育てれば10年くらい生きるんだっけ?

 

 きっと俺ひとりで育てていたら、ここまで元気には育たなかっただろう。

 生物学に詳しいしのぶが面倒を見てくれていたおかげだと思う。

 

「けど、今日はしのぶさんいないから、わたしのお世話で勘弁してねー」

 

「そんなことないわ。きっと、まふゆが面倒を見てくれてその子たちもよろこんでるわよ」

 

「あっ、アオイさん」

 

「『さん』……『さん』ね」

 

 名前を呼ばれた彼女はなぜかちょっと不満そうな顔をしていたが、すぐに表情を切り替えた。

 それから俺の足を指さしてくる。

 

立膝(たてひざ)

 

「あっ」

 

 慌てて、片膝を立てて座っていたのを正座に直した。

 アオイは「まぁいいけどね」と笑う。

 

「ここにはあたしたちしかいないから。ただ、お行儀が悪いから外ではしないようにね」

 

 いけない、いけない……。

 大正時代で目を覚ましてから、もう結構な時間がすぎた。

 

 それでもいまだに、気を抜くとこうやって戦国時代のクセが出ることがある。

 なにせ、10年近くも座るときはそうしていたのだ。

 

 戦国時代にはまだ正座がなかった。

 女性でもあぐらをかいたり、片膝を立てて座るのが普通だった。

 

 立ち居振る舞いも、言葉遣いも……マナーってのは難しいなぁ。

 『正しい』は年月とともに移ろい続けるものだから。

 

「それより、まふゆにちょっとお願いしたいことがあって」

 

「どうかしたんですか?」

 

 

「あたしの――剣術の稽古に付き合ってくれない?」

 

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