TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
アオイに誘われて、俺たちは庭で木刀を持って向き合っていた。
彼女からこういったことを頼まれるのは珍しい。
「いくわよ」
「いつでもどうぞ」
「ヒュゥゥゥ!」
全集中特有の呼吸音を鳴らしながら、アオイが踏み込んでくる。
水しぶきを錯覚させるような攻撃。
「水の呼吸・壱ノ型――”水面斬り”!」
俺はその水平斬りを、木刀を斜めにして滑らせるように軽く受け流した。
アオイはそこで止まらず、さらに連続で打ち込んでくる。
「水の呼吸・参ノ型――”
その攻撃をすべて、俺はカン! とはじき返していく。
交わる刃から、彼女の実直な性格が伝わってきた。
「くっ、防御を崩せない! あたしのほうが腕力は勝ってるはずなのに!」
「そうですね。でも力だけで勝ち負けが決まるなら、わたしは鬼狩りにはなれていませんから」
アオイの攻撃は教科書に非常に忠実だ。
しかし、それゆえに良くも悪くも読みやすかった。
俺の場合『水の呼吸』を知っているから余計に、だろう。
構えから次にどこをどう攻撃をしてくるのかわかってしまう。
だから、俺のような細腕でも彼女の攻撃をあっさり受けられてしまう。
相手の動きに合わせて、力が乗り切る前に刃をぶつけてしまえばいいのだから。
「水の呼吸・捌ノ型――たきつ……」
「隙あり、です」
「きゃっ!?」
アオイが大きく振り上げたタイミングで俺は距離を詰めた。
それから、木刀を足もとに引っ掛けて彼女を転ばせた。
「……はぁ~。わかっちゃいたけど、まったく敵わないわね」
「いえ、そんなことないと思います。太刀筋もきれいですし、アオイさんがこれまでマジメに稽古に取り組んできたのがよくわかります。ただ……」
「ただ……なによ? はっきり言っていいわよ」
「そうですね。アオイさんの剣は――マジメすぎると思います」
「さっきと言っていることが真逆なんだけど」
アオイの剣は長所も短所も『マジメ』であることだ。
それはきっと彼女の性格に――心に起因しているのだろう。
「……やっぱり恐いですか?」
「っ!」
「基本は大切です。けれど、アオイさんはその基本から外れることを恐れているように思います」
俺はオブラートに包んで『マジメ』と称した。
だが、その実態は――『臆病さ』だ。
心が恐怖に負けて縮こまってしまっている。
選択肢の幅を自ら狭めてしまっている。
「『水の呼吸』の特徴は手数の多さです。それを活かすには、相手や周囲の状況に合わせて、使う技や戦法を柔軟に変えることが必要になってきます」
実戦は平地ともかぎらないし、障害物だってある。
鬼が人型かもわからないし、1体ともかぎらない。
それに、特殊な能力を持っていることも多い。
教科書どおりに戦えることはまずない。
「わかってるわよ。だから相手に合わせて――力の弱いまふゆに有効だと思って、『水の呼吸』唯一の剛剣である『滝壺』を……」
「いえ、もしもわたしと腕力勝負に持ち込みたかったのであれば、型なんて使わずそのまま刀を押し込んで鍔迫り合いに持っていってしまえばよかったんです」
「……! で、でもそんなの」
「教わってない、ですか?」
そりゃそうだ。
俺たち鬼殺隊の相手は鬼だ。
そして、人間と鬼ならば力が強いのは圧倒的に向こうのほう。
こちらから鍔迫り合いに持ち込むなんてのは――力比べを挑むのは、悪手中の悪手。
「でも、今の相手はわたしですよ」
「それは……」
「使えるものはなんでも使っていいんです。いえ、使わなければ生き残れません」
俺たちは女の身だ。
男よりもずっと力が弱い。
その時点で大きなハンデを背負っているのだ。
それでも戦おうとするなら、才能や工夫が必須になってくる。
「……はぁ~。あたし、本当に弱いなぁ」
「いえ、わたしはそうは思いません。アオイさんは毎日、欠かさず稽古もしていますし。あとは勇気だけの問題だと思います」
「あはは……稽古を続けているのだって、習慣を変える勇気がなかっただけよ。あるいは、しのぶさまたちに教えていただいたことをムダにしてしまうのが申し訳なかっただけ」
「アオイさんの育手はしのぶさんでしたっけ」
「えぇ、そうよ。カナエさまにも見てもらっていたけれど」
しのぶもカナエも『水の呼吸』の使い手ではない。
だが、まったく使えないわけでもないだろう。
俺がモドキではあるが多少は使えるのと同じ。
彼女らの使う呼吸も源流は『水の呼吸』にあるから。
「あたしもカナヲみたいに『花の呼吸』を使えればよかったんだけどね」
「べつに、必ずしも育手と同じ呼吸を使えなくちゃいけないわけでもないと思いますが」
「それでも、よ」
もちろん、同じほうが教えやすいとは思うけれど。
でも、それよりもずっと自分の適性にあった呼吸を使うことのほうが重要だ。
ただ、もしかすると彼女は自分だけ適性がちがうことに、疎外感を覚えているのかも。
しのぶも『花の呼吸』を使ってないだろ、という意見があるかもしれないが……。
あくまでアレも『花の呼吸』をアレンジして生み出されたものだ。
逆にいえば、しのぶももともとは『花の呼吸』を使っていた――その適性がある、ということ。
「そういえば、まふゆの剣はどこかしのぶさまの剣と似ているわね」
「たしかに、そうかもしれませんね。わたしたちは同じ問題を抱えていますから」
それは”非力”という名の致命的な欠陥だ。
俺たちは道のりもちがうし、時代もちがった。
けれど、求めるものが同じならば辿りつく場所は同じなのかもしれない。
俺と彼女の剣は収斂進化のごとく、似た部分が多かった。
「わたしの使っている剣技も、体格に合わせてかなり改良されていますから」
オリジナルの『氷の呼吸』そのままではなく、かなりアレンジされている……
なぜ伝聞調なのかというと、それをしたのは俺ではなく縁壱、だから。
ゆえに、俺は――オリジナルの『氷の呼吸』を知らない。