TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
彼が煉獄さんの継子になった直後のお話――。
閑話3『煉獄家の屋敷にて』
「ははは! 竈門少年! よくぞ我が家に来たな!」
「煉獄さん!」
屋敷を訪れると、煉獄さんが笑顔で出迎えてくれた。
そんな彼の左目は眼帯で覆われていた。
「あの、目……大丈夫ですか?」
「ははは、これか! どうだ、なかなかカッコイイだろう! じつは胡蝶にも目を診てもらったんだが、もう2度と光を映すことはないと言われてな!」
「……っ!」
『上弦の参』にやられた傷が原因だ。
けれど、煉獄さんはちっとも気にしていない様子で笑っていた。
「最初はかなり戸惑ったが、今はもう慣れたものだ! むしろ、見えなくなったことで逆に……不思議と、今まで見えなかったものが見えるようになった気がする!」
「見えないものが、見える? よくわからないです」
「ははは! 竈門少年にはまだすこし早いかもしれないな! まずは基礎だ! 継子となったキミを、俺が徹底的にしごいてやろう!」
「はい! これからよろしくお願いします!」
そう、俺は今日からここで煉獄さんの継子として生活しはじめるのだ。
がんばるぞ! と、やる気に燃えていると……。
「はんっ、杏寿郎。そいつが新しい継子か。やめておけ、どうせお前もそいつも大した才能などないのだから。くだらない」
屋敷の奥から酒瓶を片手にした男が現れた。
彼はいったいだれだろうか?
「人間の能力は生まれたときから決まっている。才能のある者はごく一部。あとは有象無象。なんの価値もない塵芥だ」
「父上、そのような言いかたは」
「……父上? ということは、あの人が煉獄さんのお父さん?」
にしては、ずいぶんとひどい風体をしている。
荒れていて、その目はとても正気だとは思えない。
それでも、煉獄さんの父だというならきちんとあいさつしておかないと。
俺はそう思って、彼に頭を下げようとする。
「はじめまして! 俺は今日からお世話になる――」
そのとき、彼の持っていた酒瓶が落下した。
ガシャーン! と甲高い音を立てて破片が散らばる。
彼はそれを気にも留めず、震えながら俺を――いや、俺の耳飾りを指さしていた。
そして、言ってくる。
「――お前『日の呼吸』の使い手だな!? そうだろう!?」
次の瞬間、彼の姿が消えた。
気づくと俺は地面に組み伏せられていた。
「――っ!?」
は、速い!?
素人の動きじゃないぞ!?
「父上、いきなりなにを!?」
「うるさい、杏寿郎は黙っていろ!」
彼が体重をかけてくる。
ミシミシと自分の腕からイヤな音が聞こえてくる。
「ぐっ……!?」
「お前、俺たちのことをバカにしているだろう!?」
「どうしてそうなるんだ……!? 言いがかりだ!」
「『日の呼吸』の使い手だからといって――調子に乗るなよ、小僧!」
「……っ!」
調子? 調子だって?
そんなの……。
「乗れるわけないだろうが!? 今、俺がどれだけ打ちのめされてると思ってんだ!」
俺はただ見ていることしかできなかった。
自分よりも小さな女の子が命がけで戦うところを、横で見ていることしか。
それから煉獄さんにも癒えない傷を負わせてしまった。
俺たちを守るために、ふたりとも……。
「いい加減にしろ! この人でなし!」
俺は強引に立ち上がると、彼へと反撃しようとした。
それを見ていた煉獄さんが焦ったように叫ぶ。
「危ない、竈門少年! 父上は――元・柱だ!」
バキッ! と音が鳴っていた。
気づくと、俺は殴り飛ばされていた。
なんでだ、なんでなんだ。
どうして、俺はこんなにも弱い……。
「すべての呼吸が『日の呼吸』の後追いに過ぎない! 猿真似をし、劣化した呼吸だ!」
彼はそう叫びながら、さらに拳を振りかぶってくる。
俺は痛みに備えて、身体を固くした。
しかし、その拳が俺へと到達することはなかった。
俺の前に煉獄さんが立ちふさがり、彼の腕を掴んでいた。
「杏寿郎、その手はなんだ。さっさと離せ」
「それはできません。いくら父上といえど、これ以上の……俺の継子への暴行は容認できない!」
「お前ぇ! この俺に逆らうのか!?」
彼が掴まれていた腕を振り払う。
煉獄さんがたたらを踏んで、後ずさる。
ふたりの間に剣呑な空気が流れていた。
しかし、煉獄さんはまっすぐに彼の目を見返す。
「……父上、俺は先日の戦いで弱者の持つ可能性を見ました」
「可能性だと?」
「そうです。父上、お言葉ですが――弱者の剣のなにがいけないというのでしょう!」
「なんだと、お前ぇ!? いいわけがないだろう! 弱いものに価値などない!」
「しかし、強い弱いでいえばそもそも、人間それ自体が弱い生きものです! 鬼とはちがい、一度ケガをすればなかなか治らない! こうして一生治らない傷を負うことすらある!」
「っ……」
煉獄さんの父はその言葉にわずかに目を逸らした。
片目を失い、痛ましい姿となった己の息子から……現実から逃げるみたいに。
「父上、もし本当にただ強くなりたいだけなら――鬼にでもなればよいのです!」
「鬼だと!? ふざけるな! 俺を侮辱しているのか!? 鬼になぞなるわけがないだろう!」
「そうです! なるわけがない! 俺も同じです! 父上も本当はわかっておられるのだ! 力や技術よりも大切なものがあるということを!」
「……!」
「俺がなりたいのは強者ではない! 父上のように立派な――鬼狩りです!」
「お、俺は……」
煉獄さんのまっすぐな言葉に怯んだように、彼は後ずさっていた――。