TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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閑話4『煉獄の炎のごとく』

 

 煉獄さんにまっすぐ見つめられた彼の父は、左腕を持ち上げていた。

 酒に逃げて、目の前のことから目を逸らそうとでもしたのだろう。

 

 だが、そこに酒瓶はない。

 落っことして割ってしまったからだ。

 

 そのことに彼も遅れて気づいたようで、中途半端な位置で動きを止めていた。

 煉獄さんは追い打ちをかけるかのように、彼へと言葉を投げかける。

 

「強さよりも大事なものがある。しかし、強くなければ通せない信念もある。今の俺のままでは、もし次に強敵と相まみえれば……今度こそ、殺されるでしょう!」

 

「……っ」

 

「だから、どうか父上……」

 

 

「――俺にまた、以前のように稽古をつけていただきたい!」

 

 

「俺が、お前に稽古を……だと?」

 

「そうです!」

 

 煉獄さんが1歩、彼の父へと歩み寄る。

 彼の父は動揺しているせいか、そのことにまったく気づいていない様子だった。

 

「俺は弱い! もっともっと強くならねばならぬのです!」

 

「お前は柱だろうが。稽古なぞ、ほかの柱とすれば……」

 

「いいえ、父上がよいのです! 父上でなければダメなのです! 俺が理想とするところの鬼狩りである――父上でなければ!」

 

「……っ」

 

 煉獄さんの父が「ハッ」と顔を上げる。

 いつの間にかふたりにあった距離はほとんどなくなっていた。

 

 至近距離から、煉獄さんはジッと彼の目を見つめ続ける。

 これではどこにも視線の逃げ場はない。

 

「……チッ」

 

 彼はしばらく煉獄さんと目を合わせたあと、舌打ちをして去っていった。

 その背が見えなくなってから、煉獄さんは大きく息を吐いた。

 

「ははは! 人と向き合い、本音で話すというのは緊張するものだな!」

 

「煉獄さん……」

 

 煉獄さんはいつもどこを見ているのかわからない目をしており、表情もほとんど変わらない。

 でも、このときばかりはどこか泣き笑いでもしているように見えた。

 

「すまないな、竈門少年! 我が家に来てそうそう、おかしなことに巻き込んだ!」

 

「いえ、お気になさらないでください」

 

 そう返しながら、俺は思った。

 悩んでいるのは自分だけじゃないんだ、と。

 

 あれだけ強い煉獄さんですら、自分の弱さに苦しんでいる。

 俺も……。

 

「俺も強くなりたいです! 煉獄さん!」

 

「そうか! それはよい心がけだな! だが、稽古の前にまずは屋敷を案内せねばならん!」

 

「そ、そうですね!」

 

 ちょっと気持ちが先走りすぎていたらしい。

 勢いあまって、すっ転びかけた。

 

「そうそう、この屋敷にはもうひとり……俺の弟もいてな! 名は”千寿郎(せんじゅろう)”という! ぜひ仲良くしてやってくれ!」

 

「はい!」

 

「それからもうひとつ! 継子となった者には習わしがある!」

 

「なんでしょうか、煉獄さん!」

 

 

「これから俺のことは『師範』と呼べ――炭治郎(・・・)!」

 

 

「~~~~! はい、師範(・・)っ!」

 

 そうして煉獄家の屋敷での生活と、継子としての稽古がはじまった――。

 

   *  *  *

 

 善逸や伊之助も合流して、俺たち3人は一緒に煉獄師範(・・)に鍛えてもらっていた。

 しかし、彼の稽古はほんとうに厳しかった。

 

 みんな、何度も心が折れそうになった。

 それでも逃げ出さなかったのは……。

 

「今度は俺たちがまふゆを守ってあげられるように!」

 

「まふゆちゃんみたいな女の子ひとりで、戦わせるわけにはいかない!」

 

「あの白髪チビに負けっぱなしでいられるかぁーっ!」

 

 みんな、そんな彼女への想いがあったからにちがいない。

 俺たちはすさまじい勢いで成長していった。

 

 だが、中でももっともその実力を伸ばしていたのは――煉獄師範、自身だった。

 彼は以前とは、戦いかたそのものが変わった気がする。

 

「な、なんだぁ!? やべぇぜ、このギョロギョロ目ん玉……前から強かったが、今じゃまるでこっちの動きを見透かしてるみたいな反応をしてきやがる!?」

 

「ははは! どうした、そんなものか!」

 

 あの鬼――『上弦の参』も言っていた。

 彼はまだ肉体の全盛期ではない、と。

 

 1年後、2年後にはさらに技も研磨され精度も上がるだろう、と。

 まさにそのとおりだった。

 

 片目を失い、弱体化してしまったはずなのに。

 むしろ、煉獄師範はあの戦いのときよりもずっと強くなっていた。

 

 それから……。

 

「……はっ、ヘタクソどもが。全然なっちゃいねぇ。だから才能がないと言っているんだ」

 

愼寿郎(しんじゅろう)さん!」

 

 横から聞こえてきた声に俺は振り返る。

 最初は、彼はただ遠巻きに稽古の様子を眺めるだけだった。

 

 しかし、最近はこうして稽古に口を挟んでくるようになっていた。

 その言葉こそ刺々しいが、しかし助言は非常に的確だった。

 

 さすがは元・炎柱だと思った。

 聞けば、最近は酒瓶も手放しているとか。

 

 その目は鋭いが、しかし以前のような正気を失ったものではなく……戦士の目だった。

 いずれは煉獄師範とも完全に仲直りを果たすだろう。

 

 それから彼は『日の呼吸』についても俺に手がかりをくれた。

 俺たちはまだまだ強くなれるのだ!

 

「カァアアア! カァアアア!」

 

「あっ、手紙の返事が来た!」

 

 稽古の途中で鎹烏が、以前に俺が送った手紙の返事を持ってきてくれた。

 その内容は……。

 

「炭治郎、まふゆちゃんなんて!? おれのこと言ってた!?」

 

「早く、強くなったオレさまの力をあの白髪チビに見せてやりたいぜ!」

 

「ちょっと待ってよ、ふたりとも。えーっと……うん! 『もう傷も全快してるから、いつでも来ていいよ』だって!」

 

 その後、俺たちは稽古の合間を縫って蝶屋敷へと出向く。

 そして、攫われそうになっているまふゆとアオイさんの姿を目撃することになるのだが……。

 

 ――それはまたべつのお話。

 




次話より『遊郭編』本格始動――!
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