TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第80話『房中術』

 

「えぇえええ!? アオイさんが……じゃなくて、アオ子お姉ちゃんが!? 遊女としてのお仕事を!? しかも、今晩から!?」

 

 となりを見るとアオイは顔が真っ青になっていた。

 そりゃそうだろう。

 

 経験もないだろうし、あくまで遊郭で働くのは”フリ”のはずだったのに。

 アオイが優秀だったがゆえのトラブルだった。

 

「まぁ、とりあえずは休憩にしましょうか」

 

 言われて俺たちは稽古の手を止め、畳に腰を下ろす。

 先輩遊女は感心したように言ってくる。

 

「ふたりとも本当に物覚えがいいわ。体力があって厳しいお稽古にもしっかりついてくるし」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 俺は前世で高等教育を受けた身だし、アオイはしのぶから医学や薬学を仕込まれている。

 この時代においてはかなりの学力だろう。

 

 そして、体力については言わずもがな。

 呼吸を使える俺たちと一般人では比べものにもならない。

 

「うん、やっぱりもう今日から入ってもらったほうがいいわね。普通はもうちょっと様子を見てからお客さんの前に立ってもらうんだけど」

 

「じゃ、じゃあアオ子お姉ちゃんももうちょっとあとでもっ……!」

 

 固まっているアオイの代わりに俺はそう全力で促す。

 しかし、先輩遊女はキッパリと拒否してくる。

 

「なに言ってるの。早く働けるようになったほうがいいでしょ? あんたらだってそのほうが早く借金を返せるんだから」

 

「で、でも……」

 

「あのね、ここでの生活費も借金になるんだよ? 客の前に出てお金をもらわないと、借金は減るどころか増え続けるだけなんだからね?」

 

「だからって入った翌日というのは早すぎると思います!」

 

「まぁ、昔はじっくり教育に時間を割いてたみたいだけど。今はもうそんな時代じゃないし」

 

 客が何百万円も使って宴会を開いて、しかも初回は顔合わせだけ。

 それどころか遊女に気に入られず最後までなにもさせてもらえなかったり、金を払ったのに遊女が来ずにほったらかしにされることすらある。

 

 そんな風に、遊女たちが現代のアイドルみたく扱われ、希少性をウリにしていたのは昔の話。

 だって、当然だが……買う側からしたらそんなことされちゃたまったもんじゃないから。

 

 次第に幕府非公認の、遊郭以外の確実にヤれる娼婦たちに人が流れていったとか。

 そのあおりを受けて遊郭も大衆化していったらしい。

 

「あたしもやり手ババアに聞いた話だから、正確な話じゃないかもだけど」

 

 ともかく、そんなわけで今じゃそんなアイドル(・・・・)はごく一部の花魁たちくらいだとか。

 世知辛いというかなんというか。

 

 聞いたかぎり、現在の遊郭はもう現代の風俗に近そうだ。

 そう聞くと当日や翌日から働きはじめるのも、べつにおかしなことではなく思える……が。

 

「とりあえず検査だけ今日のお昼のうちに受けておきましょうか」

 

 そう、親切な(・・・)先輩遊女は言ってやさしく笑った。

 

   *  *  *

 

「いったいどうしてこんなことに」

 

 俺はひとり、畳の上で頭を抱えていた。

 そのとき、突然……。

 

「おい、オレが地味に来てやったぞ」

 

「う、宇随さん!?」

 

 いつの間にか天元が俺のすぐ背後に立っていた。

 さすがは忍……足音も風もまったくと言っていいほど感じなかった。

 

 俺たちは先輩遊女に言われたあと、すぐさま『緊急事態だ』と彼に連絡を取った。

 ちなみに手紙はムキムキねずみと呼ばれる忍獣が運んでくれた。

 

「ん? お前の姉貴分のほうはどこだ?」

 

「あぁ、彼女は今、検査に連れて行かれてます」

 

 俺たちは姉妹ということでずっと一緒に行動させられていたが、さすがに今は別行動だった。

 まぁ、じつは効率でいえば分担して鬼を探したほうがいいのだが……。

 

 アオイはまだトラウマを克服できていないし、そんな状態でひとりにはしづらかった。

 ちなみに、俺もあとでついでに検査を受けさせられるらしい。

 

「そうか、そりゃ――都合がいい(・・・・・)な」

 

「……? それより宇随さん、このままじゃアオイさんが遊女として本当にお仕事をさせられてしまいます。彼女だけでも先に帰してあげられませんか?」

 

 正直、戦闘に巻き込みたくないしここで離脱させられたら一石二鳥だ。

 そんな思いからのお願いだったのだが……。

 

「まぁ――大丈夫だろ(・・・・・)。それに鬼殺隊の仕事としてここにいるんだ、それくらいは地味に覚悟のうえだろ。人の命がかかってんだ」

 

「そ、それはっ……!」

 

 たしかにそうだが、と言いかけて気づく。

 そもそも天元は自分の嫁を遊女としてここに売っているのだ。

 

 根本的に、貞操観念や価値観が俺たちとはちがう。

 あるいはそれは鬼殺隊として……というより、元・忍がゆえかもしれないが。

 

「もし、どうしても派手に気になるっつうんなら……最悪、そうなったときはお前が引き受けてやりゃあいい」

 

「へっ? わ、わたしがですか!?」

 

 いやいやいや、当然だけど俺もできるわけないが!?

 精神的には男性に近いのに、同じ男の相手なんて……!?

 

「できんだろ? だって……」

 

 

「――テメェも”忍”なんだから」

 

 

「……えぇっ!?」

 

 俺が忍だって!?

 いやいやいや、んなわけないが!?

 

「あの、わたしは本当に忍じゃないです」

 

「あぁ、まっとうな忍じゃあねェだろうよ。んなもんはとっくに廃れてる。だが、忍としての訓練を受けたことがあるはずだ」

 

「そ、それは」

 

 図星だった。

 天元は畳みかけるように言ってくる。

 

「その音を消す歩きかた、どんだけ地味でもオレの目は誤魔化せねェ。まさか今の時代に、ウチの流派以外にも忍が生き残っていたとはな」

 

 天元は「はじめて見たぜ」と言って興味深そうに俺の顔を覗き込んでいた。

 まさか、俺を連れて行こうとしたのはそれが理由だったのか?

 

 だが、それは誤解だ。

 俺は戦国時代、現役の忍から教わった技や術を自分の戦闘スタイルに組み込んでいるだけだ。

 

 

「テメェだって忍なんだ。だから――”房中術”くらい地味に仕込まれてんだろ?」

 

 

「……んんんっ!?!?!?」

 

「もうひとりのガキは派手にカタブツでそういうのはできそうにねェからな。そっち方面はテメェに任せたぞ。じゃあ、話はこれで終わりだ」

 

 言った次の瞬間、カタンと音が鳴ってふすまが開きアオイたちが帰ってくる。

 振り返るともう天元の姿はどこにもなかった。

 

 どどど、どうすりゃいいんだこれぇーーーー!?

 




くのいちの房中術がフィクションだと聞いたときの悲しみ。
でも自分の宇宙じゃ音が鳴るし、房中術だってあるんだ……!(泣
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