TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
――わらび姫。
名前を聞いた俺は、前世の記憶が刺激されるのを感じていた。
かの鬼は『姫』という文字を好んで使んだという……。
「その、わらび姫花魁の部屋ってどこですか?」
「っ! あんたなにするつもりなの!?」
「あ、あはは。ちがいますよ。危ないなら、そこには近づかないようにしないとなって」
「あぁ、なんだい。ビックリした。それなら、むしろ知っといたほうがいいね」
そうやって先輩遊女からわらび姫の部屋の場所を聞き出した。
騙して申し訳ないが、必要なことだから。
「ふたりがわらび姫に目をつけられるようなこと、あたしらも望んでないからね。あんたらが来てくれて、みんな救われてるから」
「そうなんですか?」
「ここは家族に会えなくなっちまった子ばかりだからね。姉妹で仲良くしてるあんたらに自分の姿を投影して……すこしだけ夢を見れるのさ」
「そう、ですか」
「それにここ最近、暗いことばかりだったから。先日、
「もしかしてそれも」
「わらび姫花魁がなにかしたんじゃないのか、って話だね」
ますます疑いが深くなる。
俺とアオイは顔を見合わせコクリと頷いた――。
* * *
俺とアオイは雑用や稽古の合間を縫ってわらび姫の部屋を見に来ていた。
ちなみに、アオイもわらび姫が怪しいとは感じているようだが、俺ほどの確信はまだ持っていない。
まぁ、当然だろう。
俺だって前世の記憶のおかげだし。
ただ、それでも現状では確証がない。
一目でいいから直接確認しないと、天元に発見の報告ができない。
「……ん?」
と、俺は首を傾げた。
目的地のほうからだれかの泣き声が聞こえてきたのだ。
アオイと顔を見合わせ急いで部屋に近づいて中を見た。
ふすまが全開にされたそこはひどく荒れていた。
中でひとりの見習い――”
ちなみに、かむろに『
いや、そんなことよりも今は。
俺たちは慌ててその女の子に駆け寄る。
「どうしたの? 部屋がめちゃくちゃじゃない」
「う……うえーん!」
「あっ、いや。あんたを怒ったわけじゃなくて……」
アオイが禿の女の子をなだめようとする。
その様子をすぐ後ろで見ながら……俺はハッとした。
俺はこのシチュエーションに覚えがあった。
これは……。
――ゾクリ。
そのとき背中をすさまじい悪寒が駆けのぼった。
気配もなく、俺たちの背後にだれかが立っていた。
「アンタ、人の部屋でなにしてんの?」
室内の温度がいきなり氷点下にでもなったかのような、そんな錯覚が俺の全身を襲っていた。
俺には炭治郎のような嗅覚も、善逸みたいな聴覚も、伊之助みたいな触覚もない。
だが俺にも温度感覚とでも呼ぶべきものがある。
これは先天的なものではなく、後天的に……鬼と戦い続けることで身についたものだ。
経験から敵の強さを測るための指標。
実際に温度を感じているわけではなく、ある種の共感覚。
「え、ええっと。部屋がめちゃくちゃだったし、この子が泣いていたので」
特殊な能力のないアオイは、鬼の完璧に近い擬態に気づいていない様子だった。
だが、この場合はそれで正解だったろう。
「ふぅん、部屋はたしかにめちゃくちゃなままだね」
背後に立つ存在が移動する気配。
それがゆっくりと禿の女の子に近づいていく。
こ、このままじゃマズい!
俺は意を決して振り返った。
「あ、あの!」
そこに立っていたのはおぞましいほどの美女だった。
はっきり言う。
――この鬼はべつに恐くない。
だが、その中から感じるもうひとつの存在が恐ろしくてたまらない。
それにアオイを守りきれる自信がない。
日輪刀すら今の俺にはないのだ。
だから、残された唯一の……『弱さ』という武器を使い、精いっぱいの愛想を振りまいた。
「わたしに部屋の片づけを手伝わせてもらえませんか! わたし、お部屋掃除が大好きで!」
「あんた……」
ギロリ、とその目が俺を見下ろす。
わらび姫の手が俺の顔へと伸びてくる。
――殴られる!
そう身構えた次の瞬間だった。
彼女はついっと俺のあごを掴むと、強引に顔を上げさせていた。
「……ふぅん。お前、なかなか悪くないツラをしてるわね。私はね、きれいなものが好きなんだ。逆に醜いものは死ねばいいとさえ思うけれどね」
そうやってわらび姫は俺の見た目を確認すると、ドンっと突き飛ばすようにして投げ捨てた。
俺はどたんっと尻もちをついた、がそれだけだった。
「感謝しな。お前に私の部屋を片付けるのを手伝わせてやろう。好きなんだろう?」
「あ、ありがとうございます」
「ふん」
言って、わらび姫はその場にゆったりと腰かけた。
その様子を見て、アオイが口を眉を顰める。
「ちょっと、あんた――」
「アオ子お姉ちゃん! 先に、戻っておいてくれる?」
「なにを……」
「いいから!」
そう言って、俺はアオイを追い返した。
すこしして、騒ぎを聞いた楼主が駆けつけてくる。
だが、あるのはせっせと掃除する俺たちの姿だけ。
大ごとではなかったのか、とホッとした様子で彼は帰っていった。
逆に俺は気が気じゃなかった。
すぐそばに鬼がいる状況で……ときおり視線を感じながら掃除させられ続けたのだ。
冷たい刃をずっと首に押し当てられているような気分だった。
そのいくばくかでまるで何歳も老いた気分になりながら(まぁ、見た目年齢はあいかわらずちっとも変わらないのだけれど)、俺はようやくその場所をあとにした……。
* * *
俺は自分たちの部屋に戻ると、すぐさま天元に連絡を取った。
彼はすぐさま俺たちのもとへやってきて……。
「ついに見つけやがったか! 派手にでかした!」
そう、ギラギラと目を輝かせながら攻撃的な笑みを浮かべた――。