TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
「テメェら、よくやった」
天元がそう言って俺たちを褒めてくる。
ようやく奪われた自分の嫁たちを助け出せる目が出てきたのだ。
うれしくないわけがない。
一方、俺のとなりでその話を聞いたアオイは顔を真っ青にしていた。
「ま、まさかあの人が鬼だったなんて……」
アオイのトラウマが再発しかけていた。
俺は安心させるように彼女の手を握りながら、わかっているかぎりの情報を天元へと共有する。
「おそらく、相手は上弦の鬼だと思います」
「やはりな。その可能性はオレも考えていた。気配を消すのが地味にうますぎるからな」
俺の主観でしかない情報だったが、あっさり天元は受け入れた。
というより、最初から当たりをつけていたらしい。
「向こうはお前たちに気づいたか?」
「いえ、大丈夫だと思います」
「そうか。だったら……」
「えぇ、アオイさんには今すぐ退避してもらって、わたしたちは鬼に攻撃を……」
「――それは派手に拒否する」
「な、なんで!?」
ようやくアオイを安全な場所に退避させられると思ったのに。
いったいなにを考えているんだ、と俺は天元に敵対的な視線を向けてしまう。
「敵を派手に間違えるな。テメェがその目を向けるべきは鬼だろうが」
「す、すいません」
「悪ィが今すぐには動けない事情がある。鬼に攻撃を仕掛けるのは明日の朝だ」
「どうして今すぐじゃダメなんですか?」
「もうすぐ日が落ちる」
外に視線を向けると、沈んでいく夕日が見えた。
これから夜が――鬼の時間が訪れる。
「まだ鬼は地味に気づいてない。なら、ギリギリまで奇襲をかけるのは待つ。なにせ相手は上弦の鬼だ。可能なかぎり、俺たちに有利な状況で戦いてェ。すなわち――夜明けだ」
「……なるほど」
本来の歴史であれば、善逸が鬼にさらわれていた。
鬼も、彼をきっかけに鬼殺隊が来ていることを知ったが……今回はそうではない。
いつだって鬼が攻める側で、戦うのは夜が当たり前だった。
だが、今なら逆にこちらに有利な状況を作れるのだ。
「でも、その間に鬼が人間を襲ったら」
「もし、そのそぶりを見せたらもちろん派手に戦うさ。だが、この鬼は巧妙に人間のフリをしている。ならば夜は遊女としての仕事がある。むしろ身動きが取りづれェはずだ」
「たしかに」
「なにより、待てば応援が来る。お前から連絡をもらったあとすぐに、
「……!」
これほど心強いことがあるだろうか?
今までずっと強力な鬼と戦うときは不利な条件ばかりが並んでいた。
けれど、今回は真逆。
これほど俺たちに有利な条件が次々と揃っていくことがあるだなんて。
「わかりました。でも、それでどうしてアオイさんを退避させられないんですか?」
「なにせ、相手はこれまで一切オレたち鬼殺隊に尻尾を掴ませなかった用心深い鬼だからな。もし、急にテメェらがいなくなって『足抜けだ』と騒ぎになりゃあ、勘づくかもしれねェ」
「それは……」
「あとテメェらが気づいてないだけで、すでに目をつけられているっつーのも十分にありえる」
その可能性を否定することは俺たち自身にはできない。
だから、もう俺にできることは……。
「アオイさん、なるべくわたしから離れないでください」
「……そうね」
それくらいしかなかった。
そして、刻一刻と時間は過ぎていき……。
* * *
「ふゆ子ちゃん、そろそろ行くわよ」
「わかりました」
先輩遊女に言われ、きれいな着物に着替えさせられた俺は立ち上がった。
引き受けてしまった、接客などのお手伝いだ。
「じゃあ、あちらのお客さんを
「わかりました」
言って、俺はお客さんのもとへと近づいていく。
たしかに、妓楼の中って同じような部屋が並んでいて……ひとりだともとの部屋がわからなくなってしまいそうだもんな。
「ご案内します」
「おぉ、頼むよ。にしても……ほほう。ずいぶんと小さくてかわいらしい遊女さんだ」
「あ、あはは。これでも立派な大人ですよ」
「おや、それは失礼した」
まるで膨らませた風船のような体格の男性の手を取って、厠まで案内する。
彼は酔っているのかずいぶんと足取りがおぼつかなかった。
頼むから転ばないでくれよ、と俺は内心で祈った。
俺の筋力じゃ絶対に支えきれないから。
「はい、到着しました」
「おぉ、ありがとう。ちょっと待っていておくれよ」
それからしばしして……。
「ふぅ~、お待たせ。それで手を洗う場所は、と」
「こちらです」
男性が用を足し終えるのを待ち、今度は手洗いへと案内する。
相変わらず彼はフラフラとしていて……。
「あっ!?」
そのときだった。
男性が足をもつれさせてひっくり返っていく。
慌てて、支えんと駆け寄るが――あ、ムリだこれ。
俺まで一緒に倒れてしまい、さらには……。
「うわっ!?」「ぎゃっ!?」
手を洗おうとしていた彼の持っていた水がバシャァン! と頭上に降ってくる。
俺と男性は頭から水を被ってビショビショになってしまっていた。
うわ~、最悪だ。
とっさに腕を掲げて顔は庇ったが、髪は濡れてしまい……と、そのときだった。
「――ふ、ふつくしい」
男性の視線がジッと俺へと向けられていた。
頭から水を被った彼は酔いが覚めたかのように……いや、あるいは今、恋に酔ったかのような目になっていた。
その視線は染め粉の落ちた俺の真っ白な髪へと向けられていた。
そして、男性は言った。
「決めた。私が――君を”身請け”する」
と――。