TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
「わ、わたしを”身請け”したい……ですか?」
困惑しているうちに客であるその男性は、やり手ババアを呼び出していた。
それから俺を身請けしたい、とまくし立てていた。
「あんた、その髪色は」
「す、すいません。目立つので染め粉で隠していました」
俺は身体を縮こめながらやり手ババアの問いに答える。
マズい、マズい、マズい!
なにごとか、と周囲に人が集まりつつあった。
このまま騒ぎが大きくなったら、わらび姫にまで届いてしまうかもしれない。
ここで逃げられたらすべてがご破算だ。
やり手ババアはそのまま、詳しい話を聞きはじめていた。
もしかして、このまま俺……売られるのか!? 冗談じゃないぞ!?
俺は慌てて口を挟んだ。
「あの、わたしはまだ正式な遊女じゃないのですけれど。身請け話なんてまだ早いんじゃ」
「あぁ、お嬢ちゃん……
「そのとおりだよ。むしろ遊女より安いくらいさ」
”身請け”とはいわば借金の肩代わりだ。
そして、その借金には利子がつく。
複利の力とは恐ろしいもので……ほぼすべての遊女が、”年季”が明けるまで――定年を迎えるまで自由になることが難しいほどだとか。
だが、逆にいえば……今の俺にはまだほとんど利子がかかっていない。
「とはいえ私はそこいらのケチな男どもとはちがう。安く買い叩こうというわけではない。ゆえに、彼女の代金としてこれだけの金額を支払おう」
「……!」
男性が指で示して見せた金額にやり手ババアの目が丸くなる。
それから脳内でそろばんでも弾くような顔になった。
終わった……俺、完全に売られるわ。
そう絶望に打ちひしがれるも、しかしなかなか彼女は結論を出さなかった。
商売人としては売らない理由がないだろう。
ならば、なぜ……と首を傾げていると、彼女は俺に小声で尋ねてきた。
「ちょっといいかい? あんた、その白髪……もしかして、あの売りに来たすっごい美男子のじつの娘だったりすんのかい?」
「ん? んんんっ?」
それって天元のことだろうか?
たしかに俺とはすこし色合いがちがうのだが、彼も白い髪色をしていた。
「いったいなんの話ですか?」
「……なるほど、そうかい」
なにが「なるほど」なんだ。
俺は本当に思ったことを言っただけなのだが、なぜかやり手ババアは俺の発言を『肯定』として――あえてはぐらかした、と受け取っていた。
「……うーん、……うーーーーん」
やり手ババアがなにやらすさまじい葛藤をしていた。
そしてついに「すまないが」と男性へ、首を横に振った。
「この子は『立派な遊女にする』と約束していてね。そうなる前に売っちまうのはできないね。それに……ほら、この美しい髪だ。将来は花魁も間違いなしだろう」
「そ、そんなっ!?」
「悪いねぇ。あんたはうちの店をひいきにしてくれている。あたし個人もあんたになら任せてもいい、と思うんだが……こればっかりはねぇ」
まるで自分には決定権がないから仕方ない、みたいな口ぶり。
やり手ババアは残念そうな顔を作っていた……が。
こ、このババア!?
もしかして、天元への好感度を考えて答えを出さなかったか、今!?
もちろん俺の髪色を見て「将来、もっと高値で売れる」と判断したのも一部は真実だろう。
けど、絶対そっちの理由は
だが、まぁ納得する部分もある。
本来の歴史では、天元にポッとなって善逸を買っちゃうくらいだもんな。
だが、さすがに頬に傷がバレていたら、今この場で即座に売られていただろうけど。
花魁にはすっぴんでも美しいことが求められる、という話だから。
「そうか……残念だ。本当に残念だ。残念でならない」
「じゃ、じゃあそういうことで」
「待ちたまえ!」
立ち去ろうとした俺を男性が引き留める。
それから彼は「じゃあ代わりに」と話を続けた。
「私に彼女の”水揚げ”をさせてほしい」
「水揚げ?」
「その遊女がはじめて客と肌を重ねることだよ」
「えぇっ!?」
昼間はアオイがそうなりかけていたが(まぁ、誤解だったわけだけど)。
まさか、今度は俺が本当にそうなりかけてる!?
「それも、できれば今晩中に」
「こ、今晩かい!?」
その発言にはさすがにやり手ババアも困惑した。
それから、それが難しい当たり前の理由を述べる。
「この子にはまだ
「それで構わない」
「準備も必要ですし、せめて後日なら……」
「それは困る。私は明日の昼には海外に発ってしまうのだ」
「貿易のお仕事ですか」
「あぁ」
上客だけあってか、やり手ババアはその男性の仕事を把握していた。
彼は「だから」と続ける。
「身請けできないなら、彼女のハジメテはせめて私がいただきたい。長らく戻ってこれないうちに、彼女がだれかのものになっていたら……耐えられない」
「ふぅむ、ですが……」
「もちろん、ムリを言っているのは百も承知だ。ゆえに、先ほど提示した身請けの金額……あれで彼女の今晩を買わせていただこう」
「あ、あの金額をたった一晩にですか!? で、でも彼女はまだ年齢が」
そんなやり手ババアの最後の抵抗は、男性の発言であっさりと崩された。
彼は言った。
「――彼女はもう大人の年齢だと聞いた」
「あぁっ!?」
厠へと案内するときに、たしかにそんな話をした。
男性はかなり酔っぱらっていたのに、どうやら覚えていたらしい。
「……たしかに、私も聞いたね」
その発言で、やり手ババアの声音が変わったのがわかった。
それに、さっきまでは男性に身体を向けていたのに、今は俺へと向けていた。
「ふゆ子、よろこびな。あんたの水揚げは今からだよ。これは決定事項だ」
「そ、そんな……」
俺の吐いたウソがまさかこんな形で返ってくるだなんて。
いや、ウソではなく真実なのだけれど……。
周囲に集まっていた人たちが異例の事態にザワついていた。
だ、ダメだ。もう限界だ。
「……わかりました」
これ以上は騒ぎを大きくすることはできない。
俺は抵抗できず、うなずくほかなかった――。