TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第85話『心の声』

 

 今日の昼間、アオイが検査を受けたあと「ついでに」と俺も検査を受けさせられていた。

 だから、問題がない。

 

 そう、困ったことに問題がないのだ。

 まぁ、そもそも未経験だから病気もなにもないのだが。

 

「……はぁ」

 

 俺はさきほどよりもきれいな着物に着替えさせられていた。

 髪も結い上げられていた。

 

 こうなった以上は割り切るしかないな。

 と、そこへアオイが突入してくる。

 

「まふゆ! 話は聞いたわ。でも、どうしてこんなっ!」

 

「アオイさん」

 

「そ、そうよ! 今すぐあたしと一緒にここを抜け出しましょう!」

 

「それはできません。鬼に悟られてはいけませんから。鬼は確実にここで殺します。殺さないといけません」

 

「でも、そのためにまふゆが犠牲になるだなんて」

 

「逆です。たったひとりの犠牲で済むんです」

 

「こらっ! そんな言いかたっ……!」

 

 

「――アオイさんこそ、なにを言っているんですか?」

 

 

「えっ?」

 

「今、この瞬間に何十……いえ、何百・何千という人の命がかかっているんですよ? 貞操や尊厳の話をしている場合じゃない」

 

「……っ!」

 

 俺の気迫に怯んだように、アオイがビクッと一歩下がった。

 それから泣きそうな顔で俯いた。

 

「ごめん、なさい……やっぱりあたし、みんなより覚悟が足りないわね。だから、怯えて鬼とも戦えなくなった。今も人の命がかかっているのにほかのことばかり」

 

「いえ、誤解しないでください。アオイさんを責めようとしたわけじゃありません。あなたはその分、多くの隊士を救っていますし、助けた隊士がみんなの命を救ってくれています」

 

「――ふゆ子、そろそろいいかい?」

 

「今、出ます」

 

 やり手ババアに呼ばれて俺は嘆息しながら立ち上がった。

 と、そこでアオイが「ちょっと待って!」と言って動いた。

 

 なにか決心をした様子。

 それから、やり手ババアとやり取りをしていた。

 

 内容までは聞こえなかったが……交渉している様子?

 俺が首を傾げているうちに、どうやらそれは成功したらしい。

 

「ごめんなさい、お待たせ」

 

「もういいんですか?」

 

「えぇ」

 

「そうですか。……アオイさん」

 

 戻ってきたアオイに、俺は笑いかける。

 そして、告白した。

 

「ずっとアオイさんに隠していたこと……というか、言いそびれていたことがあるんです」

 

「なにかしら」

 

「わたし、じつはアオイさんよりもずっとお姉さんなんですよ。もう大人なんです」

 

「そうなの?」

 

 本当だ。

 俺はアオイよりずっと年上だ。

 

「だから、このくらいのことはもうたくさん経験がありますし、アオイさんが心配するほどわたしは気にしてないんです」

 

「……そう、なの?」

 

 ウソだ。

 そんな経験あるわけがない。

 

 だが、アオイが言うほど気にしてないのは本当。

 もう割り切っている。

 

「じゃあ、アオイさん……いってきます」

 

「まふゆ……いってらっしゃい」

 

 そうして、俺は部屋をあとにした――。

 

   *  *  *

 

 俺は「ここで待ってなさい」とやり手ババアに言われた部屋の中に座っていた。

 どこか落ち着かず、あたりをキョロキョロと見渡す。

 

「……」

 

 室内には布団が敷かれていた。

 ただ睡眠を摂るためだけの道具が、今はどこか艶めかしい。

 

 また、強い香が焚かれていた。

 一番最初、妓楼に入ったときに感じたのはこの匂いだったのか、と気づく。

 

「ま、大丈夫だ。このくらい」

 

 精神が男に近いのに、知らない男の相手をするなんてイヤに決まっている。

 だが、一般的な年ごろの女子のように潔癖でもない――だから、むしろマシだろう。

 

 それに、これは鬼を殺すために必要なこと。

 みんなを守るために必要なこと。

 

「だから、仕方ない」

 

 そう、つぶやいたのと同時。

 スーッとふすまが開いてあの風船のような体型の男性が部屋に入って来た。

 

「それでは、ゆっくりお楽しみくださいませ」

 

 言って、男性をここまで案内してきたのだろうやり手ババアが頭を下げて、ふすまを閉じた。

 部屋に俺と彼のふたりだけとなる。

 

「あぁ、ふゆ子ちゃん……髪を結いあげたんだね。かわいいよ、すごくかわいい。それに真っ白な着物も……髪とすごく合っていて、きれいだよ」

 

 男性が俺のすぐそばに座ってくる。

 身体が強張ろうとするのを、意思の力でなるべく自然体にする。

 

 彼はしばらく俺との雑談を楽しんだあと言った。

 

「じゃあ、そろそろいいかな?」

 

 俺の背を押して布団のほうへと近づけさせる。

 そして、ついにガマンがきかなくなったように乱暴に、俺をそこへと押し倒した。

 

 男性が俺に覆いかぶさってくる。

 荒い鼻息が顔にかかる。

 

「ハァっ、ハァっ……」

 

 あぁ、そっか。俺はこれから……。

 男性の顔が近づいてくる。

 

 けれど、任務のためだ。

 これくらいどうってことはない。

 

 ほんのすこしガマンすればいいだけだ。

 ちょっと耐えるだけで済む。

 

 目を閉じて、終わるまで数字でも数えていればいい。

 そう受け入れようとする。

 

「……」

 

 男性の手が俺の着物にかかる。

 服をはだけさせられ直接、肌へと手が……。

 

 

「――ゃ、だ」

 

 

 一瞬、それがだれの声か俺にはわからなかった。

 しかし、遅れて気づき「ハッ」として自分の口元を押さえた。

 

 無意識に口から言葉がこぼれていた。

 口を押さえたのに、それは止まらなかった。

 

「イヤだ……イヤだ。こんなのやりたくない。怖い……」

 

 ポロポロと言葉が溢れてくる。

 それは俺の本心か――それとも、わたしの本音か。

 

 

「――だれか助けてよぉっ!」

 

 

 次の瞬間、ゴチーン! と音が鳴っていた。

 そして……ドサッ、と俺のとなりに男性がぶっ倒れていた。

 

「えっ? ……えっ?」

 

 見れば男性は気絶していた。

 そして、視線を上げたそこには……。

 

「まふゆっ!」

 

 アオイが立っていた――。

 

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