TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第9話『女流鍛冶師の誕生』

 

 そうか、鍛冶場は女人禁制!

 考えてみればこの時代、女性だけが入れない場所なんてのは珍しくもない!

 

 もしかしてなくても俺、地雷を踏んじゃったのでは!?

 

「今回、わたくしは特別にここにいますが、普段は里の奥で生活しております」

 

「そ、そうなんですねー!」

 

 あ、でも納得した。

 そういえば、あのひょっとこの面は鍛冶師の素顔がバレて鬼に狙われるのを防ぐためだったか。

 

 鍛冶師でなければ不要なのか。

 里の外に出ることがないのなら、なおさら。

 

「……」

 

「……」

 

 にしても、沈黙が痛い!

 コト、コトと食器の置かれる音がやけに部屋に響いていた。

 

 そ、そろそろ限界!

 お手洗いのフリをして席を立ちかけた、そのとき。

 

「まふゆさまは……どうして、鬼狩りをしていらっしゃるのですか?」

 

「え?」

 

「鬼狩りもまた男優位の世界でございます。手足の長さも、力も……女では男には敵いません」

 

「それは、まぁたしかに」

 

「では、どうして女でありながら鬼と戦うのですか? 戦いは男性に任せて、自身は子を産み育てることに注力すべきだとはお考えにならなかったのでしょうか?」

 

「えっ」

 

 うーん、そう問われると困る。

 それに俺の精神は前世……男であったころとごっちゃになってしまっているし。

 

 男性と付き合ったり、結婚したり……。

 それこそ子どもを産むなんて、少なくとも今は想像もつかない。

 

「しかも、まふゆさまは長に手ずから『打つ』と言わせるほどの逸材だとも伺いました」

 

「!?!?!?」

 

 なんか、めっちゃ誤解されてるー!?

 いやいや、それに関しては完全に縁壱の威光だから!?

 

「えっとね、わたしは本当にその、べつに強くなくて……」

 

「わたくしめはっ! ……本当はっ、刀が打ちたいのですっ!」

 

 突然の大声に俺はビクゥっとなった。

 いったい、急にどうしたんだろう?

 

「子供のころ一度だけ、父の仕事風景を見せてもらったことがあります。それ以来、いずれは自分もそうなるのだと夢見ていました。しかし、現実には鍛冶場に入ることさえ許されず……」

 

「……」

 

「それに鍛冶は体格のいい男ですら音を上げるほどに過酷で、体力も筋力も要します。だから、わたくしには到底……」

 

「あの、お姉さん」

 

 俺は彼女の言葉を遮った。

 この時代の鍛冶において、女人禁制の法がどれほど重いものなのかを俺は知らない。

 

 だが、ひとつだけ絶対に言わなければならないことがあった。

 

「――わたしの師匠は本当に強いんです」

 

「ええっと?」

 

「もう全部、あの人ひとりでいいんじゃ? 自分なんていらないんじゃ? 任せればいいんじゃ? そう言って、やめていった兄弟弟子もたくさんいました」

 

「……!」

 

 わたしがなにを言おうとしているのか、わかったのだろう。

 彼女は口を閉じ、静かに俺の話へと耳を傾けた。

 

「けれど、わたしは……微塵もそうは思えなかった! 思ったこともない! わたしは……たとえ自分が女だろうと、非力だろうと、必ずこの手でお母さんたちを殺した鬼を討つ!」

 

「……っ!」

 

「他人なんて関係ない。わたしがそうしたいから。そうすると決めたから」

 

 憎しみが……俺の、わたしの心をどこまでも凍てつかせる。

 俺の目を見た彼女は寒気でも覚えたかのようにブルリと身体を震わせた。

 

「それに――女性だから(・・・・・)できることもある」

 

「……女性、だから?」

 

 非力で繊細な身体だからこそできる戦いかたもあるのだ。

 縁壱には決してできない戦いかたが。

 

 まぁ、彼の場合は「やる必要がない」って感じだけど。

 

「それに力が足りないならほかのものを使えばいい。頭でも、カラクリでも、なんでも。目的のためなら手段なんて選ぶ必要はない。弱いわたしたちにはそんな余裕はない」

 

 脳裏をよぎるは未来の記憶。

 男女平等が進み、機械が人の手を代替する世界。

 

 未来を知っているからこそ、言い切れる。

 それはじつは外法などではなく――進化なのだ、と。

 

「わたしは男が打ったか、女が打ったかなんて気にしない。そもそも人間が打ったかすらどうだっていい。ただ、鬼を斬れる強い刀が欲しい」

 

「……あは、あははっ」

 

 彼女は震えていた。涙を流しながら笑っていた。

 いや……これは、武者震い?

 

「ありがとうございます、まふゆさん。わたくし決めました。わたくしは、この村の男どもを全員――実力で黙らせてやります!」

 

「そうですか」

 

 彼女の瞳には、まるで炉のごとく煌々と燃える炎が宿っていた。

 うむ。なんかよくわからないが、元気が出たみたいでよかった。

 

「じゃあ、そろそろご飯を……」

 

「まふゆさん! 今すぐはムリでも、わたくしはいずれ必ず……村で一番の刀鍛冶になります! そのときはどうか、わたくしにあなたの刀を打たせてくださいませんか!?」

 

「あ、はい……じゃあ、そのときはぜひ。それよりも今は、先にご飯を……」

 

「じゃあ、わたくし行ってきますね!」

 

「え!? い、いってらっしゃい……? じゃなくて、ご飯は!? あの、待って……待ってください!? 行かないでぇ~!?」

 

 そのまま、彼女はピューンと走り去ってしまった。

 きゅるるるぅ~、と俺のお腹の音がむなしく響いた。

 

 その日、俺はごちそうの代わりにおあずけ(・・・・)を食らうことになった。

 俺は泣いた――。

 

   *  *  *

 

 そんなできごとから、きっかり15日後。

 ついに……。

 

 

 ――俺のもとへと刀が届いた。

 

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