TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手 作:可愛ケイ@VTuber兼小説家
落雷のような轟音。
部屋の外に集まっていた面々も「なにごとか」とキョロキョロあたりを見渡していた。
一方の俺はというと、前世の記憶が蘇っていた。
今のは、もしかして……。
「わらび姫花魁は今どこに!?」
俺はやり手ババアに尋ねた。
彼女は剣幕に押されたのか、困惑しながらも答えてしまう。
「そりゃ、自分の部屋にいるはずだけれど」
言われて、俺は部屋を飛び出した。
アオイもついてくる。
「ふゆ子、アオ子! 待ちなさい! まずは、この状況の説明をっ……!」
「すいません、時間がないので!」
やり手ババアの制止をムシして走る。
俺はわらび姫の部屋の前まで来ると、そのふすまを勢いよくパンッ! と開いた。
近くにいた遊女見習いが、彼女に怒られることを想像したのだろう。
「ヒィイイイっ!?」と悲鳴を上げるが……。
「……あれ?」
そこにはだれもいなかった。
やっぱり――すでに、戦闘がはじまっている。
おそらく、さっきの轟音は天元が地下まで地面をぶち抜いた音だ。
鬼の食糧庫となっているそこから人質を助け出すために。
「アオイさん……ううん、アオイ
「えぇ、まふゆ」
多くの言葉は必要なかった。
それだけでやろうとしていることが通じ合った。
天井の隙間から「チュ! チュ!」と鳴き声が聞こえてくる。
そして、外された板の合間から刀を担いだねずみが現れた。
天元との連絡でも活躍してくれていたムキムキねずみだ。
彼らは1匹で刀を1本運べるほどの怪力だ。
俺の長大な刀も軽量化がされているからか、1匹で運べてしまうらしい。
鬼がいる世界でこんなこと言うのもなんだけど……なんだこのファンタジー生物。
まぁ、それはともかく。
俺は髪をほどいて、刀を背中に担いだ。
残念ながら着替えるほどの時間の余裕はない。
アオイも珍しく、今日だけは腰に刀を差している。
「行こう」
「行きましょう」
俺たちは京極屋を飛び出し、夜の道を駆けだす。
戦場はすぐそこだった――。
* * *
俺たちがそこへ到着したとき、あたりは悲惨な状態になっていた。
いくつもの建物が切断され、崩壊している。
重軽傷者のうめき声があちこちから聞こえていた。
と、上のほうから炭治郎の声が降ってくる。
「なにが楽しい? なにがおもしろい? 命を――なんだと思っているんだ?」
見上げると、すこし離れた屋根の上で炭治郎と鬼が対峙しているのが見えた。
彼のその姿はどこか、お師匠さま――継国縁壱と被って見えた。
「まふゆ、今のうちに」
「うん!」
阿吽の呼吸で動き出す。
なにをすべきかはすぐにわかった。
炭治郎が鬼を引きつけている間に、ここにいるケガ人をなんとかする。
今すぐに手当てをしないと命にかかわる人が大勢いた。
俺はアオイの指示を受けながら、必死に治療を手伝う。
そこは戦場だった。
医療現場という名のここにおいて、アオイはだれよりも強かった。
彼女は次々と命を救いあげていく。
――あたしは戦えないから。
その分、必死に身につけてきた技術が大勢の命を救っていた。
それは決してムダな努力や逃げではなく、アオイだからこそできること……彼女にしかできないことだった。
* * *
「……ふぅ」
アオイが息を吐いたのを見て、俺もヘナヘナと崩れ落ちる。
ようやく、ひとしきりの手当てが終わったようだ。
た、大変だった……。
だが、俺以上にハードに治療をこなしていたはずのアオイはケロリとしている。
しかし、いつまでも休んでいるわけにはいかない。
俺はここからが本番だ。
「アオイお姉ちゃん」
「わかってる。ここからは別行動でしょう?」
「うん」
「でも、まふゆあんた本当に……」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
心配そうなまなざしを向けてくるアオイに俺は笑みを返した。
今度はウソでも、勘違いでもない。
「本当にわたしはもう平気だよ。だって――ひとりじゃないってわかったから」
――ひとりでできることなんて、ほんのこれっぽっちだよ。だから、人は力を合わせてがんばるんだ。
いつだったか、原作で言った炭治郎のセリフが脳内で再生されていた。
本当にそのとおりだと思った。
「……そう」
「だから、残りのケガ人と避難誘導は任せてもいい? わたしはどっちも向いてないから」
医療の知識も技術も、俺より圧倒的にアオイのほうが上。
それに俺のような小さな子どもの言葉では、なかなかみんな従ってくれない。
「わかったわ。じゃあ、まふゆ。気をつけて、いってらっしゃい」
「うん。いってきます」
そう言って、俺は駆けだした。
すでに疲労は蓄積しているはずなのに身体が軽い。
――もうなにも恐くない。
身体中に力がみなぎっていた。
* * *
「――頸くらい自分でくっつけろよなぁ。おめぇは本当に頭が足りねぇなあ」
いつの間にかシミやアザだらけの男の鬼――”
彼は、わらび姫を――いや、泣きわめく”
妓夫太郎が触れたさきから堕姫の顔にあった火傷の痕が消えていく。
その様子を見ていた、天元の判断は早かった。
すぐさま地面を蹴り、攻撃を仕掛けようとする。
その顔面に……。
――ガァン! と俺は鞘に収まったままの刀を振り抜いた。
勢いがよかった分だけ天元が跳ね飛ばされてゴロンゴロンと後転する。
彼は当然、ブチ切れた。
「テメェ、いきなり現れて派手になにしやがる!? ……と、言いてェところだが助かったぜ」
ブチ切れた、かに思われたが彼は冷静だった。
いつの間にか、妓夫太郎の手には鎌が握られていた。
もし、あのまま踏み込んでいたらカウンターで斬りつけられていただろう。
そのことを天元は即座に理解したのだ。
「すいません。手が届かなかったので、ああするしか」
「いや、構わねェ」
間に合ってよかった、と俺は「ホっ」と息を吐く。
俺が到着したのはギリギリのタイミングだった。
「だが、次はもう必要ねェ。俺は柱だ。あの程度の地味な攻撃、食らったところで……」
「いえ、一撃も食らってはいけません」
「なぜだ」
「――毒です」
そう、決して天元に毒を食らわせてはいけない。
この戦いで彼を引退させるわけにはいかないから。
俺のこの戦いでの目標は、彼に最終決戦のときまで現役で居てもらうことなのだから。
そうして、俺は鬼との戦いへと身を投じた――。