TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

92 / 136
第88話『兄妹vs.父娘』

 

 妓夫太郎と堕姫、それから天元と俺が向かい合っていた。

 ここはどこかの妓楼の一室だ。

 

 この場所を見つけるのは比較的簡単だった。

 なにせ建物のすぐ外で、炭治郎が暴れようとする禰豆子を必死になだめていたから。

 

「あの鎌には毒がある、と思います」

 

 俺は繰り返すように言った。

 天元は俺の言葉に対し、いぶかしげに眉をひそめる。

 

「毒だと?」

 

 まぁ、そりゃ疑わしいだろうな。

 まだ食らっていないのに毒だと判断できるなんて。

 

「なぜそう思う?」

 

「経験則です」

 

 根拠がない。

 だから、俺はないままに押し通す。

 

 天元はそれを聞いて「ハッ」と鼻で笑った。

 しかし、妓夫太郎は余裕からかあっさりと認めた。

 

「オメぇ……勘がいいなぁ、いいなぁあ?」

 

「おいおい、マジかよ」

 

 天元がタラリと冷や汗を流す。

 しかし、それをすぐに引っ込めて「ハハハっ!」と笑った。

 

「だが、あいにくムダな忠告だったな! オレは忍だ。当然、毒には耐性がある! どんな派手な毒だろうと微塵も利きやしねぇからな!」

 

 天元がそう言って余裕な態度を取っていた。

 だが、相手は『上弦の鬼』だ。

 

 その毒は忍である彼にも通用する。

 と、慌てて訂正しようとしたのだが……。

 

 ――天元は指文字で『感謝』の言葉を綴っていた。

 

 それで俺も理解した。

 これはハッタリだ、と。

 

 この鬼の毒は彼でも耐えられないとわかっている。

 だからこそ(・・・・)、効かないと言い張ったのだ。

 

「忍だとぉ? ふざけやがってよぉお」

 

「忍なんて江戸のころには絶えてたんじゃないの!?」

 

 妓夫太郎と堕姫がそう反応していた。

 まんまと引っかかっていた。

 

「だがよぉ、オメぇに毒が効かねぇとしてもそっちのガキはどうだろうなぁあ? 見るからに弱っちそうだもんなぁあ? 毒なんて耐えられないだろうなぁあ」

 

「ハッ、言っとくがコイツも忍だ。当然、毒には耐性がある」

 

「あぁん? ウソ言ってんじゃねぇぞ」

 

「じゃあ聞くがテメェ、どうしてコイツの存在に気づくのが遅れたんだ?」

 

「……たしかにそいつぁ、気配がなかったがよぉお」

 

「地味に隠れ潜むは忍の特権だ! だからテメェも気づけなかった! それにこの髪色を見な! こいつはオレの娘だ。忍じゃねェわけがねェだろ!」

 

「当然だよ。ねっ、お父さん(・・・・)

 

「おうとも、()よ!」

 

 つい最近もどこかで聞いたような勘違い。

 そんなに似ているわけでもないと思うし、あきらかにお互いそんな年齢でもないのだが……相手はあっさりと騙されていた。

 

「チぃっ、じゃあテメェらふたりとも忍なのかよぉお。こんな時代によぉお。めんどくせぇなぁ、めんどくせぇなぁあ」

 

「あーもう、お兄ちゃん! こいつらムカつく!」

 

「そうだなぁ、そうだなぁあ」

 

 天元のブラフは効果てきめんだった。

 これによって生まれる差は、俺たちに大きな有利をもたらすだろう。

 

「ハハッ、テメェら派手に運がなかったな! よりによってオレらが相手なんてよォ!」

 

「仕方ねぇなぁあ。全身切り刻んで、殺してやるよぉお」

 

「今度は私がお前の首を切り落としてやる!」

 

 妓夫太郎も堕姫も前のめりになっていた。

 なぜなら彼らの勝利条件が変わったから。

 

 これまではかすり傷をつけるだけでよかった。

 だが、今は『殺しきる必要がある』と思い込んでいる。

 

 その両者では戦いかたがまるでちがってくるだろう。

 もし前者の戦いかたをされたら、俺たちはひとたまりもなかった。

 

 敵の隙が小さくなるうえ、こちらは身体のどこを狙われるかわからない。

 なにせ、全身が致命傷になるから。

 

 とくに俺はそうだ。

 耐性なんてあるはずもないし……。

 

 なにより、身体が小さすぎるのだ。

 毒の回りが早く、少しですぐに致死量に達してしまう。

 

「おい、やるぞ娘。それと、どうやらコイツらは……」

 

「わかっています」

 

「ならいい」

 

 妓夫太郎と堕姫は同時に頸を斬らなければ殺せない。

 しかも、相手は勘違いしているが、実際にはこっちが圧倒的に不利。

 

「……ははっ」

 

 こんなにも強い鬼に、かすり傷ひとつ食らわずに勝利しなければいけないのだ。

 ムリゲーすぎるな。

 

 仮に禰豆子がいれば毒も癒せるだろう。

 なにせ、彼女の血鬼術は鬼だけを燃やす――鬼の毒だけを燃やすことも可能なのだから。

 

 しかし……と、俺は耳を澄ました。

 いつの間にか、外で暴れていた禰豆子の声が聞こえなくなっている。

 

 今ごろ彼女は眠りについているのだろう。

 だから、目を覚ますまではその手段も使えない。

 

 もしも今、毒を食らってしまったら……。

 俺の貧弱な身体はきっと、彼女が目を覚ますまではもたないだろうな。

 

「女の鬼はテメェに任せる。オレはこっちをやる」

 

「……わかりました」

 

 きっと天元は毒のことを考慮してくれたのだろう。

 彼ならば万が一毒を食らっても、多少は耐えられるから、と。

 

「きひひっ。それじゃあ、兄妹(きょうだい)父娘(おやこ)……どっちの絆が強いか試そうじゃねぇかぁあ!?」

 

 

「血鬼術――”()()(がま)”」

 

 

 妓夫太郎の攻撃と同時に止まっていた戦況が動き出す。

 戦うふたりを横目に、俺も堕姫と対峙していた。

 

「ははっ! さっさとお前を殺して、あのクソ野郎に仕返ししてやる!」

 

 俺は背負いなおした長い刀の柄を握り、構える。

 それを見て彼女はバカにしたように「はっ!」と笑った。

 

「お前バカじゃないの? この狭い室内にそんな長い刀持ってきて。天井に引っかかって抜くことすらできないでしょ!? ほらっ、すぐに死ね!」

 

 堕姫が床を蹴って突っ込んでくる。

 次の瞬間……。

 

 

「――えっ? 斬られた? なんで……?」

 

 

 油断していたのか、硬度が低かった堕姫の頸を俺はあっさりと斬り飛ばしていた。

 俺の手には抜き身(・・・)になった長い日輪刀が握られていた――。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。