TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第91話『毒の殺しかた』

 

 俺のせいで天元が毒を食らってしまった。

 自分の毒の回りを把握できていなかったせいで。

 

 それでも、もしかしたら戦国時代の俺なら平然と戦い続けられたのかもしれない。

 でも、今の俺はそうじゃなかった。

 

 ――心を得てしまったから。

 

 俺は完全に動きを止め、無防備を晒してしまっていた。

 天元がそんな俺に叫ぶ。

 

「テメェ、なにをボケっとしてやがる!?」

 

 全身から血を流しながら天元は俺を庇うように立ち……それは致命的な隙になった。

 妓夫太郎は俺たちではなく、狙いをほかへと変えていた。

 

 すなわち、クナイを放った雛鶴へと。

 天元の表情が絶望に染まる。

 

「雛鶴ーーーーっ!」

 

 

「――よくもやってくれたなぁあ。おれはおめぇに構うからなぁあああ」

 

 

 ダメだ、間に合わない。

 そう思ったそのとき……。

 

「……あぁん?」

 

 妓夫太郎の目の前にいたはずの雛鶴が消えていた。

 すこし離れた場所に、いつの間にか彼女を助け出した炭治郎の姿があった。

 

「で、できた……呼吸を混ぜるんだ。水の呼吸とヒノカミ神楽を合わせて使う。剣士たちはみんな、もっとも自分の力が発揮できる形に呼吸を変化させてきた」

 

「きひひっ、なかなかやるじゃねぇかぁあ。だがいいのかぁあ? ここにいて? ほぉら……」

 

 そう、炭治郎のおかげで雛鶴は助かった。

 しかし、彼がこちらに来てしまったということは……。

 

「あははは! クソいのしし! よくも私をコケにしてくれたわね!」

 

「ぐぅっ……! す、すまねぇ。頸を取り返された」

 

 炭治郎の抜けた穴を突いて、堕姫が頸を取り返してしまっていた。

 状況は振り出しに戻ってしまっていた。

 

 いや、それよりもずっと悪い。

 最悪に近い。

 

「にしても、なんだよぉお? ひひひっ……やっぱり毒、効いてるじゃねぇかぁあ」

 

 妓夫太郎たちにハッタリがバレてしまった。

 それに……。

 

「すいま、……っぜぇ、はぁ……スゥゥゥ……。わたし、もう……」

 

 回復の呼吸をするのがせいぜい。

 もう意識を保っていることもできない。

 

 視界がゆっくりと暗転していく。

 俺の身体は最期までずっと弱いままだった――。

 

   *  *  *

 

 ふと、目が覚めた。

 なぜなら――静かすぎた(・・・・・)から。

 

 力の入らない身体をのそりと起こす。

 あたりは悲惨だった。

 

 遊郭に立ち並んでいた妓楼はそのことごとくが倒壊していた。

 火の手が回ったらしく、あちこちで火事が起こっており……。

 

 

「――なんだおめぇ、まだ生きてんのか」

 

 

「……っ!」

 

 いつの間にか、目の前に妓夫太郎が立っていた。

 彼は俺を見下して言う。

 

「運のいいヤツだなぁあ。運がいいしか取り柄がないんだろうなぁあ。おめぇのせいでみんなもうダメだろうしなぁあ。みっともねぇなぁ、みっともねぇなぁあ」

 

「っ……ぁ、ぁあ」

 

「そういえば、おれの妹を毬玉みたいに吹っ飛ばしたのはこの手だったよ――なぁ!」

 

 ――ボギッ!

 

 と、自分の体内から音が聞こえた。

 俺の指があらぬ方向を向いていた。

 

「~~~~ッ!?」

 

「なぁオイ、今どんな気持ちだ? おめぇのせいでみんなやられたのに、おめぇひとりだけ生き残って。なぁ――虫けら、ボンクラ、のろまの腑抜け、役立たず」

 

「……」

 

 心が折れかけていた。

 こんなことなら、心なんていらなかった。

 

 そう絶望し、すべてを諦めかけたそのとき。

 妓夫太郎が言った。

 

 

「本来なら毒が回ってとっくに死んでるはずだが、さすがに忍だけあって――毒にそれなりの耐性(・・)はあったみたいだがなぁあ」

 

 

「だがまぁ、さすがにそろそろ死ぬだろうなぁあ」

 

 俺は困惑した。

 耐性? そんなものあるはずがない。

 

 でも、事実として俺はまだ生きている。

 普通で死んでいるなら、身体の弱い俺がまだ死んでいないのはあきらかにおかしい。

 

 それで気づいた。

 俺が意識を失っている間も、身体は『氷の呼吸』を続けていたらしい、と。

 

「スゥゥゥ、スゥゥゥ」

 

 それは回復の呼吸のためだ。

 しかし、そのせいで異常に体温が下がっていた。

 

 常人ならすでに死んでいるほどの低体温になっているようだった。

 しかし、もちろん酷い不調ではあるのだが、毒の痛みがマシな分さっきよりも楽だった。

 

 10年以上……あるいは”400年”以上、『氷の呼吸』を使ってきた慣れがそうさせるのだろうか?

 こんな体温なのに寒さはほとんど感じない。

 

「……あぁ」

 

 俺は天を仰いだ。

 あのときは敵から目を逸らすのは悪手だから、とやらなかった行動だった。

 

「人は嘆くときそうするんだぜ。涙が溢れないようになぁあ」

 

 妓夫太郎がそう言って俺を嘲笑する。

 だが、俺は逆に……その行動で気持ちを切り替えられていた。

 

 そうだ、この鬼の毒はあくまで人間に対するものだ。

 なぜなら鬼の敵、あるいは獲物はつねに人間だから。

 

 毒も当然、人間の体温――一定以上の温度で活性化するようにできていたのかも。

 それが『氷の呼吸』で異常な低体温になったおかげで……毒の効き目が落ちた?

 

 本当のところはわからない。

 だから、大事なのはひとつだけ。

 

 ――今、俺はまだ戦えるということ。

 

「いったいいつまで天を仰いでんだぁあ? そこになにかがあるわけでもなし」

 

 妓夫太郎がつられるみたいにして視線を上へと向けた。

 視線が逸れた――その隙に、俺は日輪刀を突き出していた。

 

 

「氷の呼吸・壱ノ型――”雪火(せっか)”」

 

 

「……あぁん?」

 

 妓夫太郎の身体に日輪刀の切っ先がほんのすこしだけ刺さっていた。

 片手の指が折れた状態ではそれが精いっぱいだった。

 

 そして――それで十分だった。

 

 俺は感謝した。

 意識を失ってなお、日輪刀を手放さず握り続けていてくれた己の手に――。

 

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