TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第92話『戦いの終わり』

 

 妓夫太郎の腹部にほんのわずかに刺さった、日輪刀の切っ先。

 彼は油断しているらしく、あまりに弱々しい俺の力に大口を開けて笑っていた。

 

「きひひっ! みっともねぇなぁ、情けねぇなぁあ。残った力を振り絞っても、この程度の傷しかおれにつけられないんだから」

 

「……」

 

「ひひひ、ひひっ……あぁん?」

 

 ひとしきり笑っていた妓夫太郎だが、やがて異変に気づく。

 しかし、もう遅い。

 

 

「咲け――”氷華(ひょうか)”」

 

 

「がっ、はっ……!? なん、だぁっ……こりゃあああ!? お、おれの腹から棘がっ!?」

 

「お兄ちゃん、なにしてるの!?」

 

 遠くからこちらを見ていた堕姫が慌てた様子で立ち上がる。

 妓夫太郎の腹部からは真っ赤な――凍った血でできた華が咲いていた。

 

「こ、このクソガキがぁあッ!」

 

 妓夫太郎が拳を振るった。

 その裏拳が俺の頭へと迫ってくる。

 

 しかし、俺は避けなかった。

 彼の攻撃が当たるその瞬間まで冷気を注ぎ込み続けた。

 

 ――ゴッ!

 

 と、拳が俺のアゴに直撃する。

 ぐしゃり、と骨が砕ける感覚。

 

 ギリギリで自分から跳んで衝撃を減らしたが……気休め程度。

 殺しきれなかった衝撃で身体がきりもみ回転しながら吹き飛んでいった。

 

 地面を何度もバウンドしながら転がる。

 何十メートルもすべった先で、ようやく俺は停止した。

 

 かすむ視界の中で、俺は妓夫太郎が膝を着いているのを見た。

 彼は胸元に刺さっていた俺の日輪刀を引き抜き、怒りに任せて叩き折るが……。

 

「な、なんだこれはぁあ……クソがぁあ、寒い……身体の自由が利かねぇえ!」

 

 

「――あドハ……マカせダよ、みンナ」

 

 

 わめく妓夫太郎を見ながら、俺は小さく呟いた。

 砕けたアゴのせいでほとんど言葉になっていなかったが、それでも「伝わった」と思った。

 

 次の瞬間、ガレキの中から複数の人影が飛び出していた。

 ふたつは妓夫太郎へ、そしてもうふたつは堕姫へと突進していく。

 

「ガアアアァアア!」

 

「”譜面”が完成した!」

 

 黒と二刀一対の日輪刀が妓夫太郎の頸に食い込んでいた。

 同時に、炭治郎の額の痣がまるで烈火のごとく変貌していた。

 

「アアアアアアア!」

 

「ウオオオオオオ!」

 

 雷模様と、ギザ刃の日輪刀が堕姫の頸に食い込んでいた。

 善逸の脚からはバチバチと電気がほとばしっているかのような錯覚がした。

 

「は、早く”円斬旋回”を……!」

 

「お兄ちゃん! なんとかして、お兄ちゃん!」

 

 ふたりは必死に頸を斬られまいとする。

 だが、その動きは鈍かった。

 

 鬼としての二人の関係は対等ではない。

 あくまで妓夫太郎が『主』で堕姫が『従』だ。

 

 そのせいだろう、妓夫太郎の凍結による影響は堕姫にまで及んでいた。

 そして……。

 

 

 ――ふたりの頸が同時に宙を舞った。

 

 

「……斬った? 斬った、斬った! キャーッ!」

 

 天元の嫁のひとり――須磨(すま)の歓声がすこし離れた場所から聞こえてきた。

 どうやら戦いを見に来ていたらしい。

 

 残りのふたり――雛鶴とまきをの姿もそのとなりに見えた。

 それから……。

 

「まふゆーっ!」

 

 そこにはアオイの姿も一緒にあった。

 彼女たちとともに行動していたらしい。

 

 おそらく、協力して救助や避難誘導をしていたのだろう。

 このまま無事に終わり……いや、ちがう!?

 

「ニ……ゲ、て……!」

 

 俺は思い出していた――まだ、もうひと波乱あることを。

 だが、声は届かない。

 

 かなりの距離を殴り飛ばされてしまったから、遠いのだ。

 そしてなにより、叫ぼうにも砕けたアゴじゃうまく言葉を紡げなかった。

 

 天元が気づいたのは、すこし遅れてだった。

 近くにいた炭治郎を庇いながら周囲へ向けて叫んだ。

 

 

「――逃げろーーーーっ!」

 

 

 次の瞬間、妓夫太郎の身体が爆発した。

 いや、頸を斬られる前に使おうとしていた『血鬼術』が遅れて発動していた。

 

 それも、今までみたいな少量の血でできた斬撃ではない。

 暴走し、身体中に残ったすべての血液を周囲へとまき散らす。

 

 あぁ、ダメだ……死ぬ。

 そう絶望しかけたそのとき、炭治郎の背負っていた霧雲杉(きりくもすぎ)でできた箱が開いた。

 

 中から飛び出してきた禰豆子から炎が噴き出した。

 そして、すべての血の斬撃を燃やし尽くした――。

 

   *  *  *

 

 意識がもうろうとしていた。

 気づけば火事も収まり、あたりは真っ暗になっていた。

 

 と、どこかから声が聞こえてくる。

 それはだんだんと近づいてきて……。

 

「まふゆっ! まふゆ……まふゆぅっ!」

 

 アオイが俺に駆け寄り、そして縋りつくみたいに顔を覗き込んでいた。

 俺はボソボソとうまく動かない口で答える。

 

「……アオ、イ……おネ、チゃ……」

 

「しゃべらないで! ヒドい……アゴが砕けてる。そしてなにより、これは……毒!?」

 

 そうか、どうやら俺はまだ死んでいないらしい。

 記憶どおりに禰豆子が血鬼術でみんなを守ってくれたようだ。

 

「待ってて! 今、助けるから! あたし、しのぶさまから鬼の毒全般に効く解毒薬を持たされているの。特効薬にはならないけど……多少はマシになるはず!」

 

「わタし……は、いイ……カ、ら……」

 

「バカっ! 諦めるなんて許さない! 大丈夫、あたしが絶対に助ける! 救助が来るまで、絶対にまふゆの命を繋ぎとめてみせるから!」

 

 いや、そうではなく……。

 禰豆子がいれば、血鬼術で毒はどうにかしてくれるから、という意味だったのだが。

 

 だが、身体も動かず、アゴの砕けた俺ではアオイにうまく伝えられなかった。

 それと……彼女が必死に俺を助けようとしてくれる姿があまりにも美しくて、かっこよくて、それでちょっと見惚れてたいたのもある……かも?

 

「くっ、ここまで強い鬼の毒にはどれだけ効果があるか」

 

 言いながらアオイが注射器を取り出し、俺の腕を取ろうとする。

 しかし……。

 

「ひゃっ!? つ、冷たっ……なに、これ」

 

 アオイは俺の体温に驚き、そして泣きそうになっていた。

 まるで死体にでも触れたような気持ちになったのかもしれない。

 

「だ、大丈夫……ひぐっ……大丈夫、だからっ! 那田蜘蛛山で人を蜘蛛に変える鬼がいたでしょ? その毒も、鬼が死んだあとは効果が弱まっていたんだって。だからきっと……!」

 

 泣きながら治療を続けるアオイの肩越しに、こちらへ近づいてくる禰豆子の姿が見えた。

 あぁ、もう本当に限界だ。

 

 俺はその光景を最後に、完全に意識を手放した――。

 

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