TS転生幼女は「氷の呼吸」の使い手   作:可愛ケイ@VTuber兼小説家

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第94話『音は鳴り続ける』

 

 毒だけが凍っていた?

 低体温が理由で毒が弱まったと思っていたのだが、もしかしてそっちが一番の理由だったのか?

 

 でも、そんなことできるわけが……。

 そう考えかけて「いや」と脳内で否定した。

 

「……」

 

 できる、かもしれない。

 なぜなら俺も炭治郎もすでに似たようなことができるから。

 

 具体的には呼吸を使った”止血”だ。

 呼吸を使いこなせる者であれば、体内に意識を向けて破れた血管を特定し、ピンポイントでその傷を閉じることができる。

 

 同じように体内の患部を――毒を受けた箇所だけを『氷の呼吸』で凍らせ、毒が体内に侵入することを防ぐことが可能かもしれない。

 考えているうちに、その可能性は確信へと変わっていった。

 

 かもしれない、じゃない。

 間違いなくできる。

 

 それどころか、俺はすでに一度……実際にしている気がする。

 遊郭の話ではなく、もっと前――いや、()に。

 

あのとき(・・・・)もそうでした。あなたを雪山から救い出したとき。身体の一部がなぜか凍ったままで……目を覚ましてからは、だんだんと溶けていったようですが」

 

 そう、それは最初にこの大正時代で目を覚ましたときのこと。

 しのぶにそんなことを言われた。

 

 当時は「なんじゃそりゃ!?」で終わってしまっていたが……。

 俺は自分の手のひらを見下ろした。

 

 感覚でわかる。

 自覚した今なら、意識的に……身体の一部のみを凍らせられそうだった。

 

 しかし、だとしたら当時――雪山に埋まっていたとき、俺は体内のナニ(・・)を凍らせていたのだろう? いったいなにを食い止めていたのだろう?

 その答えは今は出せなかった。

 

 それよりも今は……しのぶから向けられる、疑念と俺への心配が半々になったようなまなざし。

 俺はそれに答えることにした。

 

「……しノ、ぶ……サん」

 

 そのためにひとつ頼みごとをした。

 持ってきてもらったのは筆と紙。

 

 砕けたアゴではうまく話せないし……それに言葉をまとめられる自信がなかったから。

 そして、俺はそこに自分のことを書き綴った。

 

 利き手の指は折られてしまっていたため、反対の手で書いた。

 ずいぶんと不格好な文字になってしまったが、伝わりはするだろう。

 

 できあがった文章を――手紙を読んだ彼女は目を見開いて驚いていた。

 もう無惨にはバレてしまったし、隠す必要もなくなったからな。

 

 だから、俺はすべてを告白することに決めたのだ。

 彼女はその突拍子もない内容に……。

 

「すこし、みんなに伝えるのは待ってちょうだい。私も判断する時間が欲しいわ。ただ、まふゆに頼まれたとおり……これはお館さまにお渡ししておきます」

 

「……」

 

 わかりました。お願いします。

 そういう意味を込めて、俺は頭を下げた。

 

 この手紙をきっかけに俺の境遇は大きく変わってしまうかもしれない。

 だが、これこそが今の最善だと俺は判断した。

 

 それと同時に、すこしだけ肩の荷が下りたような気分になった。

 今までは自分ひとりで考えるしかなかった。

 

 でも、これからは相談できる相手ができるだろうから。

 みんなと一緒に問題へと立ち向かえる――。

 

   *  *  *

 

「おぉ、チビスケ! ハハっ、テメェも派手にやられたな!」

 

「……」

 

 俺は松葉杖を突いて、天元の病室を訪れていた。

 口をあまり動かせないので、頭を下げてあいさつする。

 

 今思うと、アゴを砕かれて指を折られてって……口封じでもされたみたいになってるな。

 ただの偶然なのだけれど。

 

 ちなみに、俺は腕と足も折れていた。

 妓夫太郎に殴り飛ばされて地面を転がったときに、やってしまっていたらしい。

 

 天元のほうも全身、包帯でグルグル巻きになっていた。

 身体中を切り刻まれたから、当然だろう。

 

「……ごめ、ナ……サい」

 

 俺はポロポロと涙を流しながら謝った。

 天元がこれほどのケガを負ってしまったのは俺のせいだ。

 

 彼だけじゃない。

 べつの病室で療養している炭治郎たちもみんな、俺のミスさえなければ無傷で勝利できていたはずなのだ。

 

「かァーっ。まーだそんなこと気にしてんのか! むしろ金星じゃねェか! なにせ上弦の鬼を倒したんだからよォ!」

 

「でモ……」

 

「それともなんだ、テメェは無傷で勝って当然とでも考えやがったのか? ハッ、柱でもねェクセにテメェはずいぶんとお強いんだなァ?」

 

「っ……!」

 

 言われて「ハッ」とした。

 自分が無意識に驕っていたことに気づかされる。

 

 歴史を知っていて有利(・・)だから。

 勝てて当然(・・)だから。

 

 自分の弱さを忘れて、それ以上の結果を求めようとしていた。

 そうか……だから俺は今回、自分の限界を見誤まるなんてミスをしたんだ。

 

 なんでもできる気になっていた。

 なんにもできない自分なのに。

 

「わかったか? なら、あとは派手によろこべ! 100年振りの偉業を成し遂げたんだ!」

 

「……っ」

 

 俺はコクコクと頷いた。

 それから天元は「……ハァ」と息を吐いた。

 

「オレももっと鍛錬しねェとな」

 

「……ぇ? いんタ、い……するン、ジゃ」

 

 驚きのあまり、思わず声が出た。

 結局、天元は重傷を負ってしまった。

 

 だから、本来の歴史どおり引退するものだと思っていたが、まさか残ってくれるのか!?

 そう期待した目で彼を見ると……。

 

「なぜ、オレが地味に引退するつもりだとわかった?」

 

 天元は目を丸くしてこちらを見ていた。

 うっかりした。

 

 でも、やっぱり引退してしまうのか。

 俺のせいで……。

 

「オイオイ、勘違いすんじゃねェぞ。ケガは関係ねェ。つーかこの程度の傷、1ヶ月もすりゃ派手に治るわ! 忍の鍛えかたナメんな」

 

「ェっ?」

 

 たしかに、言われてみると天元は四肢も欠損していないし、目も潰されていない。

 見た目こそ酷いありさまだが、傷そのものは本来の歴史よりもずっとマシだ。

 

「もともと上弦の鬼を倒したら一線から退いて、普通の人間として生きるつもりだったんだ」

 

 そうか、その目的は今回の戦いで果たされたことになる。

 だから……と思いかけたそのとき、天元は「ハッ!」と笑った。

 

「だが、あいにく――今回の手柄はオレのもんじゃねェ。テメェらが派手に活躍したおかげだ。たしかに上弦の鬼は倒したが、オレの働きは地味だった」

 

「……」

 

 それは謙遜だ、と思った。

 どう考えても一番、活躍していたのは天元だったから。

 

 だから、それは彼なりの照れ隠しだったのだろう。

 彼は言った。

 

「つーわけで、間を取ることにした! 引退はするが、普通の生活はもうちょいおあずけだ。裏方から鬼殺隊を支えてやる。それに――オレも派手に本腰を入れて調べたいことがあったからな」

 

「……じゃ、ア!」

 

「おう、これからも派手に活躍させてもらうぜ」

 

 天元はそう冗談っぽく言って、笑った――。

 

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