ハルケギニア大陸の大国ガリアの王女『イザベラ・ド・ガリア』は、落ちこぼれである。
魔法の才能によって人の価値が決まるこの世界において、イザベラは魔法の才能にまったく恵まれなかった。
この大陸に魔法をもたらした始祖ブリミルの血統である王家において異端とも言うべき才能の無さであった。
彼女の父ジョゼフやその予備であるジョゼットのように始祖の魔法である虚無の系統に選ばれたがゆえに通常の系統魔法が使えないと言う救いすらない。
彼女は、ごく普通の水系統のメイジであり、どれほど努力してもラインにすら届かない、正真正銘の
彼女の父は、虚無の系統が失われて久しいために本来の系統に目覚めることが出来ず、魔法を使えない無能王子と蔑まれている。
そんな父の娘として生まれ、どれほど努力してもいくつかのドット魔法しか使えない王女。
その上、魔法の天才と名高いシャルル王子の娘にして、本人も魔法の才に恵まれ、魔法の勉強を始めて間もないにも関わらず、すでにいくつもの魔法を覚え、ラインへの昇格も時間の問題だと言われているシャルロット王女を従姉妹に持つ。
そんなイザベラが周りからどんな目で見られるだろうか?
イザベラ王女は、父親に似て無能らしい。
ドット魔法すら碌に使えないと聞きました。
シャルロット姫は、あれほど魔法がお上手ですのに。
所詮、無能の子は無能ということか。
子供は大人が思うより周りからどう思われているのか敏感に感じ取っている。
生きるための本能か、自分に対する感情を感じ取り、愛されるためにはどうすればいいかを必死に考えるのだ。
また、失敗しちゃった。
もっと頑張らないと。
いっぱい、いっぱい練習して、魔法を上手く使えるようになればみんな優しくしてくれるよね。
そうなれば、きっとお父様も私を見てくれるはず。
母を早くに亡くし、父も自分に無関心。
周りからは無能と蔑む目を向けられる。
魔法を失敗するたびに期待外れだと、お前は無価値なのだと蔑む目が多くなっていく。
魔法を上手く出来ない自分が悪いのだ。
シャルロットが愛されるのも魔法が上手だから。
だから、自分も魔法が上達すれば愛してくれるはず。
幼い彼女が導き出した答えは確かに正しいものだった。
だが、そのためのハードルは高く、それを乗り越えるための才能もイザベラにはなかった。
誰からも愛されず、認められない環境の中で愛されたいと必死に努力を重ねるも、一向に上達しない魔法。
幼い心は擦り切れ、限界に近づいていた。
こんな過酷な環境で希望を持ち続けられるほど人は強くない。
イザベラの願いは大それたものではなかった。
叔父や従姉妹のように周りから称賛されなくてもいい。
一人でいいから、自分を愛し、認めてくれる者にそばにいてほしい。
そう願う幼女が
自分に忠実で絶対に裏切らない、死ぬまでそばにいてくれる味方。
それは、彼女が狂おしいほど求めていた存在だった。
王宮の外れでイザベラが使い魔召喚の呪文を唱えている。
「我が名はイザベラ!
五つの力を司るペンタゴン!
我が運命に従いし、使い魔を召喚せよ!」
イザベラの前に光のゲートが浮かび上がる。
この宇宙のどこかにいる、私のそばにいてくれる優しい使い魔さん。
お願い、来て!!
ゲートが一際強く輝いた後、彼女の必死の呼びかけに応えた存在がゲートから出現し、目の前に立っていた。
この人が私の使い魔?
召喚された存在は、若い男性だった。
ハルケギニアでは珍しい黒髪、黒目ではあるがただの人間に見える。
男は召喚されたことに戸惑っているのか辺りを見回した後、真剣な顔で考え込んでいる。
本来、使い魔召喚で人間が呼び出されるなどあり得ない。
だが、そんな常識をイザベラに教えてくれる者はいなかった。
だから、人間が召喚されたことに疑問を持たないイザベラは、
「ごめんなさい!
私があなたを召喚したの。
でも、元の場所に帰す魔法を知らなくて。
ちゃんと調べて、ぜったい元の場所に帰すから」
だから、嫌いにならないで。
最後は消え入りそうな声になってしまった。
味方を求めて行ったサモン・サーバントで召喚されたのは、その服装から明らかに異国の人間だった。
彼からすれば、家族や友人から引き離されて、見知らぬ国に連れてこられたのだ。
使い魔がほしいと言うわがままの為に自分がしてしまったことに後悔と自責の念が募る。
????サイド
突然、光る鏡のようなものが目の前に現れた。
驚きはしたがこう言う
その鏡を観察していると放っておけないような気持ちが湧いてきて、つい触れてしまった。
次の瞬間には、見慣れぬ場所に立っていた。
辺りを見ればヨーロッパのお城のような建物が目に入る。
正面には、これまたお姫様のようなドレスを着た幼女がこちらを見上げていた。
状況を理解しようと頭を整理していると、お姫様が謝りだした。
この状況を作り出したのはこの子らしい。
嫌わないでと弱々しく話す、その瞳には恐怖と絶望が見えた。
子供がこんな目をしているなんて、気に入らないな。
「すまない。
少し考え込んでしまってた。
大丈夫だから、そんなに謝らないでくれ」
目に涙すら浮かべている幼女を慰めながら、何故こんな状況になったのかを聞いていく。
その結果、
「なるほど、それで使い魔が欲しくてサモン・サーバントを行なったんだね」
話を聞いて、怒りで腹が煮えくりかえっている。
もちろん、目の前の幼女に対してではない。
彼女をここまで追い詰めた周りの大人達に対してだ。
「うん、ごめんなさい」
「謝らなくていい。
確認したいことがあるからちょっと待っててくれ」
そう言って、頭の中で念話を試してみる。
あっ、やっと繋がった!
聞こえるよ、お兄ちゃん。
何処にいるの?
突然、気配が消えたから心配してたんだよ。
すまない。
だけど、詳しい話は後だ。
実は今、異世界にいるっぽい。
異世界!?
いや、お兄ちゃんなら有り得るか。
で、帰って来れそう?
ああ、玲奈とのパスも繋がってるし、帰還系のアイテムで帰れそうだ。
じゃあ、早く帰ってきてよ。
その事なんだが、しばらくこっちにいようと思う。
え〜、なんでよ!
放っておけない子がいるんだ。
はぁ〜、相変わらずお人好しだね。
それだけじゃなく、こっちもなんかヤバそうな感じがするんだよ。
えっ!そっちもなの?
だからお兄ちゃんだったんだ。
そう言う運命だったのかは分からないけど、しばらくはこっちに集中したい。
そっちの管理は玲奈に任せる。
出来るな?
うん、私じゃ新しく作ることは出来ないけど維持管理と調整くらいなら大丈夫。
頼んだ。
地球の妹との念話を終わらせて、不安そうにこちらを見ている幼女と向き合う。
「えっと、イザベラちゃんだったよね?
俺で良ければ使い魔になるよ」
「本当!?」
喜びの表情が浮かぶが、すぐに顔を曇らせてしまう。
「でも、使い魔は死ぬまで一緒にいるものだって。
お兄さんが家族と離れ離れになっちゃうよ?」
まったく、周りの大人達は本当に碌でもない奴ばっかりだな。
寂しくて、辛いのに助けを求めた相手を思いやって無事に帰そうとするほど優しい子なのに。
「大丈夫、俺は少し変わった力を持っててね。
たまに家族の顔を見に行くくらい出来るから問題ないんだ」
だから、よろしくね。
そう言った時、ようやく全ての憂いが消え、純粋な笑顔を見せてくれた。
「そう言えば、お兄さんの名前はなんて言うの?」
イザベラちゃんに名前を聞かれて、俺がまだ名乗ってなかったことに気付いた。
「ごめん、名乗ってなかったね。
俺は
マサトって呼んでくれ」
「マサト・・・」
大切なものを確認するように小さく呟く様子を見ながら自分と眷属にした妹の玲奈にしか見えない半透明の青いパネルを出現させる。
そこにはこう書かれていた。
風石:53249・・・・
ハルケギニア大陸の地下に存在する風石鉱脈。
一定量を超えると大隆起を引き起こす。
風石の数値は今も増え続けている。
大隆起がどんなものかは分からないが、地球での経験からとんでもない被害が出る災害だと思う。
この子が大隆起とか言う災害に遭わないように頑張るとしよう。
ちなみにサモン・サーバントで呼び出しただけでは使い魔にはならない。
コンストラクト・サーバントと言う魔法で契約して初めて使い魔となるのだ。
幼いイザベラは、コンストラクト・サーバントのことを知らなかった。
後年、コンストラクト・サーバントと契約方法(キス)を知って大いに狼狽えることになる。
えっ、使い魔じゃなかったの?
今更、契約したいなんて言ってキスしたらエッチな子だって思われちゃうかも。
どうしたらいいのよ!
辛い時にそばにいて、寂しさを癒してくれた大好きなお兄ちゃん。
幼い憧れは、やがて異性に対する想いへと変わっていた。
ずっと兄のように思っていた故になかなか素直になれないイザベラ。
この小さな恋の行方がどうなるのか?
それは誰にもわからない。