イザベラの使い魔になったことで王宮に部屋をもらい住むことが許された。
表向きの理由はイザベラの個人的な客人で話し相手と言うことになっている。
イザベラが自分の使い魔だと言っても誰も信じてくれなかった。(コンストラクト・サーバントを行なっていない為、使い魔のルーンが刻まれていない。そもそも、人間が使い魔になることなどないと言う先入観があるなどが理由)
幼いイザベラが気に入った相手をそばに置こうとしてわがままを言っていると思われたようだ。
幼い王女に何処の馬の骨ともわからぬ平民が近づくことに眉をひそめる者もいたが所詮は落ちこぼれの王女と強く反対する者はいなかった。
何より、父親であるジョゼフがあっさりと許可したことが大きい。
娘が突然見知らぬ男を連れてきて、使い魔にしたから一緒に住むと言い出したのに何も聞かずに許可を出したのだ。
自分にとっては好都合だが、娘に対する無関心ぶりに憤りを感じ、抗議しようとしたがジョゼフの目の奥にある澱みを見たことでやめた。
こいつも鬱屈した何かを抱えているんだな。
もう少しイザベラに目を向けてもいいじゃないか!
血を分けた娘なんだろ!
そんな言葉を投げつけても、今のこいつには届かないことを理解してしまった。
翌日からイザベラの付き人みたいなことをして過ごすようになった。
彼女がこの国の王族であることはすでに聞いている。
だが、イザベラの生活は王族という言葉から想像していた華やかなものではなかった。
一日の大半を勉強に費やす。
マナーやダンスなどは、一般人だった俺にはよく分からないが数学や歴史、政治、経済などの授業は、イザベラが9歳であることを考慮すれば、かなり高レベルなことを教わっているように感じた。
イザベラ自身、授業内容を理解しているようなので優秀なんだなと思うが教師が褒めることはなかった。
一番気分が悪くなったのは魔法の授業だった。
イザベラに魔法を使わせて、失敗したら彼女を否定する言葉で責めるだけなのだ。
なんで、こんな簡単な魔法も出来ないんですか!
2歳年下のシャルロット様でも出来たことですよ。
なぜ失敗したのか、どうすれば上手く使えるようになるのかと言った具体的な指導は一切ない。
これで授業と言えるのか!
その場で教師を殴り飛ばさなかった自分を褒めてやりたい。
イザベラは、教師の暴言に身体を震わせながら、それでも必死に魔法の練習を続けていた。
話に聞いていただけではわからなかった。
彼女がどれほど辛い環境にいたのかを少し理解できた。
その日の授業が終わって、すぐに父親であるジョゼフに会いに行き、今の魔法の教師を辞めさせ、今後は自分が教えたいと伝えた。
自分が教えると言い出した時は多少驚いていたようだが、メイジだったのかとすぐに無関心に戻ってしまった。
まあ、何の問題もなく許可を出してくれたので良しとするか。
首になった教師も王家の命令だから仕方なく教えていたと言う態度であっさりと受け入れていた。
どうやら本当に魔法の腕だけで人を判断しているらしい。
「と言うことで、明日から俺がイザベラに教えることになったよ」
「マサトって、メイジだったの?」
「メイジではないよ。
ほら、変わった力があるって言っただろ?」
「メイジじゃないのに大丈夫なの?」
「ああ、少なくとも前の教師より君を成長させることが出来るよ。
信じてくれないか?」
「うん、信じる」
信じると即答するイザベラに思わず苦笑する。
不用心だとは思わない。
あれだけ悪意にさらされる生活をしてきたんだ。
悪意に敏感になっているイザベラだから俺に悪意がないってことが分かるんだろうな。
子供が身につけていい能力じゃないってのに。
翌日、魔法の授業のためにイザベラを連れて王宮のはずれにきていた。
イザベラが俺を召喚した場所だ。
こっそり使い魔召喚を試した場所だけあって人気がない。
能力を公にしたくない俺にとって都合の良い場所だった。
「ここで魔法の練習をするの?」
イザベラの疑問も尤もだ。
普通の授業をするならいつもの場所で問題ない。
普通じゃない授業をするからここに来たのだ。
俺はメイジじゃないから具体的な指導は出来ない。
「ただ魔法を使わせるだけなんて前の教師と同じだろ?
俺の力で作った課題に挑戦してもらうんだ」
そう言って、俺はこの世界で初めて力を行使した。
力を使ったことで門のようなものが出現する。
扉の部分は光の渦になっている。
これが俺のダンジョンメーカーとしての力。
その名の通り、ダンジョンを創る能力だ。
今回創ったダンジョンは、インスタントダンジョン。
簡単に言うと一回クリアしたら消滅するダンジョンのことだ。
中にはモンスターがいて、最奥にいるボスを倒したらクリア。
「モンスターと戦うの?」
それをイザベラに伝えると不安そうにしている。
「大丈夫だよ。
このダンジョンは、一番難易度の低いもの。
魔法を使えない子供でもクリアできるようになっているから」
そう、いわゆるチュートリアルダンジョンってやつだ。
必要なコストは風石300
ダンジョンを創るために最小限の量しか使っていないため、中にいるモンスターはスライムのような小型のものだけ。
年齢一桁の子供でもクリア出来るのは地球で実証済みだった。
ある日、世界各地に大量のダンジョンが出現した。
その日を境に地球はファンタジーと化した。
ダンジョン内のモンスターを倒すことで身体能力が向上し、スキルと呼ばれる不思議な力を身につけることも可能となる。
モンスターが落とす素材は、技術革新をもたらした。
世界は瞬く間にダンジョン攻略に夢中になり、ダンジョンに挑む者達は冒険者と呼ばれるようになった。
そのダンジョンを創ったのが俺だ。
別に遊びで創ったわけじゃない。
チュートリアルダンジョンはともかく、モンスターとの戦いは命懸けだ。
特に初期の頃は多くの犠牲を出した。
その上、ダンジョンには厄介な特性がある。
一定期間モンスターの間引きが行われないとダンジョンブレイクを起こし、大量のモンスターを地上に放出する。
大規模なダンジョンがブレイクすると冗談じゃなく国が滅びる可能性がある。
それでもダンジョンを創ったのは、そうする必要があったからだ。
地球でパネルを開いたらこう表示されてたんだ。
マナ:823759・・・・
星の核から発生するエネルギー
一定の濃度に達すると
これを見て、意味を理解した時は血の気が引く思いだった。
環境激変による生物種の置き換えって地球の歴史で何度か発生した生物の大量絶滅の事だ。
巨大隕石による恐竜の絶滅はどうか分からないけど、地球規模の火山活動活性化や海水中の酸素濃度の激変、
既存の生物が大量絶滅した後、必ず生物の種類が爆発的に増加している。
それも、大量絶滅以前にはなかった新たな性質や能力を獲得した新種がだ。
これが生物種の置き換えだろう。
俺がこの事実に気付いた時、猶予は10年程しかなかった。
どうにかしてマナを減らす、せめて増やさないようにする必要があったのは分かってもらえたかな?
そして、マナの消費はダンジョンを創ってモンスターを生み出すことでしか出来なかった。
だから、俺は世界中にダンジョンを創り、冒険者達の成長に合わせてダンジョンの規模を拡張していった。
ちなみに、その過程でパネルで見れる俺の種族が人間からダンジョンメーカーに変わっている。
俺が人間ではなくなったから召喚対象になったのかな。
亜人なら召喚されたことがあると言う話も聞いた。
人間が召喚されることはないと言われて使い魔だと信じてもらえなかったのも納得だ。
今、地球にあるダンジョンはクリアしても消滅しないレギュラーダンジョンだから、しばらく俺が戻らなくても数百年は環境激変が起こらないくらいには安定している。
ハルケギニアの風石による大隆起問題を解決するための時間はあるってことだ。
故郷である地球で行ってきたこと、ハルケギニアの大隆起に関することをイザベラに説明した。
年齢一桁の子供に話すには難しすぎることだが、イザベラが聡明なのは昨日の授業で分かっている。
実際、イザベラは理解を示してくれた。
「つまり、いずれハルケギニアにも大きなダンジョンを創るから、その予行演習も兼ねているのね?」
「ああ、それにモンスターを倒せば能力も成長するし、スキルと呼ばれる魔法のような力が得られる可能性もある。
実戦で魔法を使い続けることも考えれば魔法を使いこなす力も磨かれるよ。
もちろん、危険は出来る限り少なくする」
地球で冒険者達の成長を見てきた経験から、リスクヘッジのノウハウは得ている。
直接指導できる環境でなら、危険も最小限に出来るだろう。
「信じるよ。
マサトなら私を強くしてくれるって。
だから私もマサトに協力する」
本当に聡明だな。
いずれハルケギニア各地にダンジョンを創った時、冒険者達の先頭に立って引っ張っていく役割を期待していることにまで気付くなんて。
「ありがとう。
こんな優秀な生徒を持てて嬉しいよ」
イザベラは嬉しそうな顔をして、光の渦の中に入っていった。
普通の子供でもクリア出来るダンジョンだ。
イザベラが苦戦するはずもない。
今日の目的は、ダンジョンがどういったものか知ることとダンジョンに慣れることだ。
それでも心配になってしまうのは過保護なのかな?