萌えゲーアワード受賞作に転生できたと思ったら設定が似てる洋館ホラゲーだった件【書籍発売中】   作:シン・タロー

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三女るーと☆ かけおちしてシアワセになっちゃえばよくない!?
#108


「またね! 待雪さん!」

「ゲンさん、また」

 

 校門前。源と手を振りあって別れたマリが、エイイチの元まで歩いてくる。マリは学生カバンを両手に下げ、涼風に揺れるスカートを抑えている。半袖の制服が夏を感じさせた。

 

「終業式おつかれ、マリちゃん」

「うん」

 

 明日から学生待望の夏休みだ。毎日が休みのようなエイイチには縁のない話と思われるかもしれないが、〝夏休み〟という言葉にはそれだけでテンションをあげさせる爽快な響きがある。

 

「見なよこの青い空! 絶好の海日和だろ。ビキニ着て海の家で焼きそば食べたらうまいだろうな~!」

「エイイチくんがビキニ着るみたいな文脈だね。そもそもビキニ着ることと焼きそばのおいしさになんら相関性ないよね」

「……センジュちゃんみたいな理屈を言う。学力あがった?」

「あんなガキンチョと一緒にしないで。焼きそばよりも、わたしはかき氷が食べたい」

 

 かき氷か、とエイイチは修正した食事風景をあらためて脳内に繰り広げる。

 彼方には水平線と青空。白い砂浜。パラソルの下、立て膝でビーチチェアに寝そべるマリは脚線美を強調する。かき氷を食べながらマリが言うのだ。

〝きゃ。冷たい、こぼしちゃった。エイイチくん拭き取って〟

 

「谷間はちょっと拭きにくいな。ビキニの紐をほどかないと。ほら背中向けて? マリちゃん」

「妄想のわたしと会話しないでくれる? エイイチくんってばホラーゲームの世界にいるって信じ込んでるくせに、どんな展開望んでるの」

 

 しかしホラーとエロは親和性が高いものと古来より相場が決まっている。

 エイイチが一人納得している間に、マリはお好み焼屋の軒先でかき氷を購入していた。夏限定で販売しているらしい。

 

「はい。エイイチくんにはブルーハワイ」

「おごり? やったぜ!」

 

 カップを受け取ったエイイチは、スプーンでザクザクと崩した氷を口へ運んだ。

 マリはレモンシロップが染み込んだかき氷を頬張り、身を震わせる。

 

「ん~! レモンの酸味がさわやか」

「シロップの味って、どれも同じって聞いたことある」

「は? そんなわけない。ウソつかないで」

「香料と視覚効果でそう感じるだけみたいな。果汁入ってないジュースと一緒ってこと」

「信じない。レモンの味するもん」

 

 夢のないエイイチに向かって、んべっと舌を出すマリ。

 シロップで黄色に染まった舌を、エイイチはガン見する。

 

「えと……べろちゅーしていいの?」

「いいわけないでしょ? やだよ、べろが青くなっちゃう」

 

 それほど嫌がる素振りはみせないで、マリはエイイチから逃れるように距離を取るとターンする。まぶしい微笑みに呆気なく魅了されてしまうエイイチだった。

 昼下がりの商店街に、風鈴の音色が心地いい。

 とにもかくにも暑い夏がはじまったのだ。

 

 

 

 

 翌日から夏休みを控えたマリは、泊まりがけの用事があるとのこと。源の家に数人で集まり、女子会をやるらしい。

 

「めんどうだけど、主役がいないとはじまらないし」

 

 マリはそんな台詞を残して出かけていった。新しく購入したものだろうか、涼しげに透けたシアーシャツや下ろし立てのスニーカーで身を包み、ちゃんとお洒落をしていた。

 

 つい先日まで呪いに侵されていたマリを思えば、それどころか狼戻館の長い歴史を鑑みても感慨深いことだろう。こうしたマリの変化には、間違いなくエイイチが影響している。

 

「さて、と。俺はなにするかな」

 

 まもなく十五時だ。仕事へ出るにはもう遅いし、小腹が空いた。エイイチはアヤメを捜すことにする。この時間なら大抵、何かしら手作りのおやつをいただける。

 

 ダイニングルームやキッチンを回ったがアヤメの姿はなく、洗濯物の回収だろうかとエイイチはサンルームへ向かった。ここにもアヤメはいなかったものの、意外な人物を目撃する。

 

「あれ……センジュちゃん?」

 

 裏庭へ続く扉は開けっ放しのまま、日差しをもろに浴びて横たわるセンジュ。どうやら眠っている様子だが、タンクトップにホットパンツの薄着とはいえ直射日光では暑いだろう。

 そもそもセンジュがこんな時間に寝ているなどこれまでなかったし、ましてサンルームの床で眠るとはエイイチから見ても異様に思う。

 

「おーいセンジュちゃん。うわ、体あっつ! 熱中症になるだろ……! アヤメさーん!」

 

 汗びっしょりのセンジュを抱きかかえると、エイイチはアヤメを呼びながら室内へと退避した。

 

 

 

 

「――効かねぇよそんな火の玉ッ!」

 

 突然の叫びと共にセンジュは跳ね起きた。

 クッションに座るエイイチとアヤメが驚いて目を見開く。

 

 場所はセンジュの私室。ベッド上のセンジュが額に手をやると冷感シートが貼ってあり、状況から判断すればエイイチとアヤメが介抱していたようだ。

 

「火の玉はどちらに?」

 

 敵襲を警戒したアヤメが窓の外を確認する。明かりはなく、すっかり日も暮れてしまっている。

 センジュはばつが悪そうに苦笑いして、ベッドから足を下ろした。

 

「あー……悪い。夢だよ夢」

「それより体大丈夫? あんなとこで寝てたからびっくりしたよ」

「ちょっと寝不足でさ。トレーニングの合間に休むつもりが寝ちゃってて」

 

 めずらしい話だが、センジュとてそういう日があるのだろう。顔色も悪くはなく、体調も問題なさそうなのでとりあえずエイイチは安心した。

 

「お食事はどうなさいますか? こちらへお持ちはしましたが」

 

 テーブルには二人分のお膳が載っている。エイイチもここで食事を摂るつもりだったらしい。

 介抱までしてもらっておいて、今さら追い出すのも忍びない。とセンジュは私室での相伴を快諾する。

 

「そだな、ここで一緒に食べよっか。よかったらアヤメさんもどお?」

「いえ、私は……」

「いーじゃん、たまにはさ。メシ食ったら、この前の勝負の続きやりたいし」

「ですが、また寝不足になるのでは」

「そんな遅くまでしないったら! ちょっとだけだよ」

 

 やけに食い下がるセンジュに、エイイチも笑顔で同調する。勝負とやらはわからないが、アヤメと食事を共にする機会は貴重だからだ。

 ややあって、アヤメは控えめに頷いた。

 

「わかりました。そこまでおっしゃってくださるのなら、ご相伴にあずからせていただきます」

 

 かくしてセンジュがシャワーで汗を流してくる間に、アヤメは自身の食事を用意する流れとなった。実にめずらしい。魔窟と名高い狼戻館にあるまじき平穏である。

 だが外泊するマリ同様、一時くらい。星の瞬く夜にちょっぴり夏休み気分を味わうくらい、館の住人にも許されて然るべきなのだ。

 

 

 

 ――一方で、ダイニングルーム。

 広々とした室内を見渡したツキハは、無表情でローストビーフを口に運ぶ。

 

「……静かね。今夜はだれも来ないのかしら」

 

 一人つぶやくと、あとにはナイフとフォークが皿に擦れる音だけが寂しく響いた。

 食後はソファに身を沈め、テレビをみる。夏の心霊特集なるテレビ番組へ〝フェイクね〟や〝こんな怪異あるはずないわ〟など冷笑して時間を潰したが、その後結局だれもダイニングルームへ現れることはなかった。

 

 

 

 

 和気藹々とした食事ののち、センジュの部屋で三人はゲームに興じた。センジュとアヤメはたまにテレビゲームで遊んでいるらしく、勝負というのもレースゲームや格闘ゲームの決着を指してのことだ。

 エイイチも下手なりに楽しんでいたのだが、時計の針が真上を指す頃にはセンジュが寝落ちした。

 

「昼寝もしてたのに、センジュちゃんが真っ先に眠っちゃいましたね」

「やはり本調子ではなかったのでしょう。私もそろそろ失礼いたします」

 

 アヤメと一緒に部屋を出ようとしたところ、ベッドに寝かせたセンジュがエイイチの袖口を掴む。起きたわけではなく無意識のようだ。

 

「エイイチ様がよろしければ、もう少しだけお側にいてあげてはいかがですか」

 

 アヤメの眼差しはどこかやさしい。かつてエイイチを弟のショウブと重ねたように、エイイチとセンジュの関係性も近しいものと認識しているのかもしれない。

 

「じゃあ、少しだけここにいますよ」

 

 部屋からアヤメが退室すると、エイイチはセンジュのベッドに腰を落とした。寝顔を見下ろし、まぶたにかかった金髪を指で整えてやる。センジュは平然を装っていたが、やはり疲れが溜まっていたのだろう。

 

「ぅ……ん」

 

 センジュが身動ぎをして、布団代わりのタオルケットが捲れた。風呂上がりにも薄手のキャミソール一枚。寝惚けたままセンジュは、エイイチの腕を抱き込むようにベッドへ引きずった。

 

「おわ……!」

 

 たとえ密着するセンジュの熱い体温が腕越しに伝わってきても、控えめな胸の中心に突起物を覚えたとしても。エイイチは紳士である。アヤメの信頼を裏切るわけにはいかない。

 さりとて振り払うような無粋な真似も出来ず、仕方がないので天井のシミを小声で数えはじめるエイイチだった。修行僧の気分だった。どうしても理性が飛びそうになったら、ビーチの軽薄な顔を思い浮かべて無駄に怒りを燃やした。

 

 センジュの体に触れる指を石のごとく硬直させ、どれくらいの時間が過ぎただろう。ようやく訪れた睡魔が、終わりのない苦悩からエイイチを解き放ってくれる。閉じるまぶたに身を任せる。センジュの寝息を聴きながら、エイイチは眠りに落ちた。

 

 

 

 

 ――乾燥した空気の匂い。粒子のようなざらついた空気を吸い込むと、口の中に砂のジャリジャリが残る。

 エイイチはだだっ広い荒野に立っていた。

 

「……あれ」

 

 センジュの部屋で寝ていたはずだ。たしかに記憶がある。しかし踏みしめる足には、大地の感触がしっかりとある。

 

「じゃあ、夢か」

 

 明晰夢というやつなのだろう。荒野にはエイイチが見たことのない原色のドきつい植物が生えていて、遠目には複数の建物が見える。遠方の街は立ち上る陽炎のせいで揺らいでおり、まるで蜃気楼だ。日本の夏よりも遥かに暑い。

 サバイバル的には無闇に動くのは得策じゃないだろう。されど所詮は夢。エイイチは気にせず歩んだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 夢のくせに疲労が蓄積する。体感で一時間ほど歩き、エイイチは街へとたどり着く。石造りの街並みは、どこか中東の知らない国を思わせる。

 歴史の深さを感じさせる寺院っぽい建物や、神でも模した像など見かけるも、どれもエイイチの記憶にはない。とくに様々な甲冑に身を包んだ像はあちらこちらに建っていて、頭に猫耳が生えていたり背に羽が生えていたりとやりたい放題だ。

 

「はえー」

 

 街を行き交う人々も例外ではない。人種どころか、種族を人間と定義していいのか怪しい人物もそこかしこにいる。それでいて聞こえてくる言語はエイイチにも理解できるのだ。

 

「まあ、夢だしな」

 

 この都合のよさ、夢でないはずがない。

 露店の建ち並ぶエリアでなんの肉かわからない串焼きに見入っていると、ひときわ大きな喧騒がエイイチの耳へ届いた。何事かと人々が騒ぎの中心へ向かっていく。興味を引かれたエイイチも野次馬の列に加わる。

 

「るせーな! 一人でやれるっつってんだろ! あたしをだれだと思ってんだ!」

 

 一人の血気盛んな少女を、複数人が止める構図らしい。それにしても聞き覚えのある声だ、とエイイチは人混みを掻き分けていく。

 

「ギルド創設以来の傑物だぞ傑物! 最短で〝クラス(サベージ)〟の称号もらってんの! コカトリスだかバジリスクだか知らねーけど、あたしの〝黄金の血の拳(プリミティブバースト)〟の敵じゃねーんだよ!」

 

 マリ並の中二病患者が、こんなところにもいたのかとエイイチは驚愕する。

 西洋風の甲冑を纏った男達の制止を振り切り、少女は牙を剥いていた。胸部と腰回りのみの薄い装甲を身につけた少女は、戦意を示すためか両腕にはめた無骨な〝鉄製の籠手(ガントレット)〟をガチンと打ちつける。

 少女の台詞と格好に、エイイチの共感性羞恥は最大限に達していた。なぜなら金髪を結った少女は、どうみてもセンジュだった。

 

「センジュちゃん……なにしてんの?」

「あンッ!?」

 

 睨むような眼光で、勢いよく振り向くセンジュ。エイイチと目が合い、わかりやすく固まる。

 

「プリミティブバーストって、なに?」

 

 喧騒の中心で。人混みのど真ん中で、センジュは微動だにせず棒立ちしている。状況を理解している顔ではない。

 

「ねえ、プリミティブバーストってなに?」

 

 頬をヒクつかせて、センジュはゆっくりと顔をそむける。

 

「し……しらない。あたし、センジュじゃない……よ?」

 

 その反応でシラを切るには無理があった。

 

「クラス(サベージ)のプリミティブバースト――」

「しつけぇなッ!! もういいだろッ!?」

 

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