萌えゲーアワード受賞作に転生できたと思ったら設定が似てる洋館ホラゲーだった件【書籍発売中】   作:シン・タロー

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 先へあっちに行く。

 センジュの残した言葉だが、意味するところはエイイチもわかっている。

 シャワーを浴びると、センジュはさっさと一人で私室へ戻っていった。宣言通り、先に夢の世界へ向かったのだろう。

 

「夢で会いましょう、か。なんだかロマンチックだよな」

 

 エイイチも自室のベッドで横になり、天井で回るシーリングファンを眺めていた。このシーリングファン、狼戻館を建て直す際に新たに取り付けられたものである。

 エイイチはきっかり(・・・・)三十分だけ(・・・・・)寝るつもりだった。

 静かに目を閉じる。

 

 意識まで確実に落として、そしてジャスト三十分。

 目を開けたエイイチは、シーリングファンから視線を外して身を起こす。

 

「……ふむ。なるほど」

 

 エイイチ単体で眠っても異世界へは行けない。センジュと手を繋いで寝た場合のみあちらの世界へ誘われるということは、夢の主体はセンジュにあるのだ。

 エイイチはこれが確認したかった。しかしそんな勘の良さよりも、三十分だけ寝ようと考えて目覚ましも使わず実現可能なところがむしろ異常である。

 

 壁に立て掛けてある錫杖を手に取り、もう片方の腕に枕を抱えて、エイイチはゲストルームを出た。

 向かうは三階、センジュの私室だ。年頃の女の子の部屋へ無断で入室する後ろめたさがあるのか、エイイチは一応辺りをキョロキョロしながら侵入を果たした。

 

 

 

 

 砂を含む風に目を細めながら、センジュは街の東門の前で腕組みをして仁王立ちしていた。

 隣ではトカゲ男のグレアムが、太い尻尾を地面にバシンと叩きつける。

 

「……おい、それやめてくんない? 砂が舞うだろ」

「グゲ。エイイチはどうした、まだ来ないのか」

「しらねーよ! あいつ、またブッチする気じゃ――」

 

 つま先を上げては倒し、パタンパタンと繰り返す。だんだんと尖った犬歯も剥き出しに、センジュが苛立ちを隠さなくなった頃。

 

「おーい。ごめんごめん」

 

 走るでもなく、ご近所散歩のような足取りでエイイチがやってきた。片手に掲げた錫杖をシャランシャラン振り回している。

 クソみたいな態度だ。これがデートの待ち合わせだったらセンジュは鉄拳制裁しているところだ。

 

「おっせーな! 何やってたんだよ!?」

「まあまあ。それよりセンジュちゃん、聞いてくれ。夢の解明に俺は一歩近づいた」

「ああ!?」

 

 エイイチはなぜ遅れたのか、理由をつぶさに説明した。一人で眠ると異世界へは辿り着けず、つまりはここはセンジュの認知世界であると。

 話を聞いたセンジュは、思い切り息を吐いた。もはや怒りも失せたようで、呆れた顔をエイイチへ向ける。

 

「……いや、まぁ。そんなこと、わかってるよ。だから昨日は一緒に寝てくれっておまえに頼んだんだろ」

「え!? じゃあ言ってくれよ! 推理の無駄遣いしちゃったよ!」

「わかんだろふつー! アホなりに頭の体操できてよかったじゃねーか!」

 

 どうやら二人には考えの共有がまだまだ足りないようだ。報、連、相の基本を実践しなければ足並みは揃わない。

 唯一イレヴンの触手を介せば、ホウレンソウを使わず相手の思考を正しく理解することが可能だが。月出身のエイイチとセンジュは確実に拒絶するだろう。

 

「あたしが今、考えてることはだな。ここが本当に夢に過ぎない世界なのか……ってことだよ」

「それって、どういう」

 

 醜い言い争いが一転、静かになる。深刻に視線を落とすセンジュを、エイイチは心配そうに見つめている。

 

 これまでずっと蚊帳の外だったグレアムが、牙だらけの口をグアッと開けた。

 

「なんだ? 察するにおめえらは、ここが現実か幻想か区別ついてねえってわけか。変なやつらだぜ」

 

 断片的な会話を聞いただけなのに、理解力の高いトカゲ男であった。突飛な発言を受け入れる柔軟性もある。ひょっとするとエイイチやセンジュよりよほど理知的なのかもしれない。

 

「安心しな。ここがちゃんとした現実だとオレが保証してやる」

「あんたがあたしの夢の産物だとしても、おんなじ台詞言いそうな気がすんだよな」

「じきにわかるさ、プリミティブバースト。まずは存分に力を振るおうや」

「……うん。ま、それもそうだな。考えてもわかんねーことウジウジ悩んでも仕方ねーし。行こうぜエイイチ!」

「う、うん」

 

 脳筋なやり取りに戸惑っているかのようなエイイチだが、〝プリミティブバースト〟がセンジュの通名らしいことに衝撃を受けていた。てっきり必殺技の名前かと思っていたのだ。どんな技かと楽しみにしていたのに。

 

 グレアムの受注したクエストへいざ出発。一行が東門を通り抜けたところで、グレアムがふとエイイチを振り返る。

 

「ところで、エイイチ。その武器……もしかして〝儀仗の葬奏輪〟――か? 昔、オレが活動拠点にしてたエッケンバムの宮殿で見たやつにそっくりだ」

「ぎじょう? べっけんばうあ……」

 

 エイイチはよくわからないといった表情で、指摘された錫杖を揺すってシャンシャン鳴らした。

 

「最近忽然と消えたらしくってな。悪魔への対抗武器と目されていただけに、血眼になって盗っ人を探してるって話だ」

「お、お、俺じゃない! これはプレゼントに貰っただけで! ガンピールとチャンバラするためのおもちゃっていうか!」

 

 焦って後ろ手に錫杖を隠すエイイチを尻目に、ゲッゲと笑うとグレアムは前を向く。

 

「なぁに、脛に傷を持つのはお互い様よ。過去を追及したりしねえ。――……と、砂が濃くなってきたな」

 

 グレアムはマントを広げて顔を覆い隠す。

 エイイチはTシャツの胸もとを引っ張り上げて鼻と口を塞いだが、センジュは両手を後頭部に置いて平然と歩いていた。

 

 街を離れると、昼間なのにどこか薄暗い世界が広がる。砂が舞い、大地は荒れ果て、乾燥した熱い空気はやはりよく知る現代とまるで異なる。

 いったいどこなのだろうか。夢にしては本当にリアルだ。足もとを見下ろせば一般的なアリの三倍は大きな昆虫が列を成して蠢いており、エイイチは「ひ」と悲鳴を上げて急ぎ足でその場を離れた。

 

「なあ、えーと、グレアム? 俺からも聞いていい?」

「なんだ」

 

 遠景の三角形の山らしき影にぼんやり焦点を合わせながら、エイイチは錫杖でこつん、こつんと自らの頭を打っていた。まるで記憶の片隅から何かを呼び覚ますように。

 

「なんだったかなぁ……えーと、えーと……〝ゾラウ、ベスリィラ、モルドゥ、ミシスア、アティマ、シュガルグヨネ〟」

「ああ。〝聖堂に棲む霊核喰らいの大骨蛇精〟か。悪魔の一体」

「せ、聖堂に棲む霊核喰らいの大骨蛇精?」

「そいつも聖堂ごと消えたって話だな。例の〝勇者さま御一行〟が倒したんじゃねえかって、街でも噂んなってたぜ」

「ゾラウ、ベスリィラ、モルドゥ、ミシスア、アティマ、シュガルグヨネ」

「? 聖堂に棲む心身喰らいの大骨蛇精を連呼してどうした。やり合いたかったのか? エイイチ」

 

 こんな文言を思い出すエイイチも大概だが、問題はそこではない。

 言葉が通じている。元から互いの言語は理解できていたが、意味を成さないと思われた文言も変換されて通じている。いや、逆かもしれない。意味がわからない異世界言語が、ずっと日本語へと変換されていた。

 シオンが住んでいたあの教会。呪いの書物。マリの命を奪う寸前だった骨と蛇の化物。いずれにせよ、意味するところは――。

 

 エイイチとグレアムの会話を不審に思い、寄ってきたセンジュが問い詰める。

 

「おい、エイイチ。さっきから何言ってんだよ、おまえ。何語しゃべってんの?」

「センジュちゃん……ここは夢じゃないのかもしれない」

「あ……?」

「現実に存在してる世界なのかもしれない」

 

 強い風が吹く。

 さすがのセンジュも片目を閉じて、腕を顔の前にかざす。やがて砂埃が消えると視界が開け、進む先の大地は陥没したかのように下る段差となっていた。

 見下ろす奥には湖のような景観があり、水辺に原色の植物も確認できる。また変な昆虫や両生類が棲んでいそうだな、とエイイチは憂鬱になる。

 

「着いたぜ。討伐対象は、砂で凶暴化した魔物が二体。オレらの連携を試すには絶好の獲物だ」

「へぇ、街からけっこう近けーんだな」

「そりゃあそうだろ。放っとくと危険だからって緊急の案件が回ってきたんだ。さ、行こうぜ」

 

 尻尾を左右にずりずり擦りつつ、グレアムが臆することなく先陣を切る。エイイチの助言通りでこぼこにしたこん棒を、勇ましく背から抜き放つ。

 二番手はセンジュが続く。エイイチに「続きはまたあとでね」と耳打ちし、余裕綽々に首を鳴らす。両手のガントレットを力強くガッチンと打ちつける。

 最後尾のエイイチは、自身の錫杖に目を向け思った。

 

 全員鈍器じゃねえか、と。

 自分たちは絶対に〝勇者さま御一行〟なんて呼ばれるパーティーにはなれないんだろうなと、少し悲しくなった。

 

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