吾輩はあくまである。名前はまだない。
再誕を果たしたことで肉体を取り戻したが、そうホイホイ外を出歩いては「無能悪魔の首きり職人」こと世界の
今日は特に予定も無いので、少女の自宅でごろごろ日和だ。
「わ、私の胃の中に、悪魔が……いるのか。ふ、ふふ、へへ」
少女はなんだか虚ろな目で自分のお腹をぽんぽん撫でていた。
悪魔の肉体は自由が利くから、胃を圧迫することもない。あんまり苦しくないだろう?
「うん……苦しくは無いが、なんだろうな……私の体がお前に良いように使われてると思うと、ちょっとな。思う所が、あるような……ないような……」
不愉快ならばそう言えばいい。
少女から流れ込んでくる、じりじりとした焼けるような感情。うま味の籠った味わい深いそれを食しながら、吾輩は少女に気を利かす。
床に落ちていた海誓の髪の毛。その1本を対象に依代を変更。吾輩の存在が、少女の体内から転移した。
「ぁ……」
なにやら少女が寂しそうな声をあげる。
「さすがに髪の毛一本から身体を再構築するのは、少し疲れるな」
「……別に出て行けとは言っていない。あと服をきろ、服を」
「面倒だな。虎の姿なら服など要らんのに……見ろこの姿。ふざけてるのか」
にゃぁ~、と虎の姿に戻ろうとするが、微妙な結果に終わる。
虎の尻尾と耳が加わっただけの少女の姿。なんだこれ。少女の魂が強すぎて、吾輩要素が少ないぞ!!
吾輩の鋭く尖った爪はどこにある!? カッコいい目つきはどこいった!?
なあ少女よ! これでは吾輩ただ可愛らしい虎っこ少女ではないか! ――どうだ! 可愛いだろう!?
「や、止めろ……私が恥ずかしいから、今すぐそのポーズを止めろ……」
どうして虎の姿に戻れぬのだ!
吾輩はかわいらしさよりも、カッコいい方がよいのだ!
にゃわーとソファーの上でゴロゴロ喚いたら、布団を放り投げられた。少女が上から押さえつけてくる。
「わっぷ!」
「お前! いいから、私の姿になってる時に裸で騒ぐのは止めろっ……変なポーズもとるな! 頼むから!」
「ぬぅ……服はごわごわするから、着たくないのだが……まあ、仕方ない。貴様がそう言うなら、従おう」
「……そうか」
ほっとしたのだろう。でも嫌悪も残っている。
美味しい感情と、不味い感情が、吾輩の口の中へと同時にぶち込まれて、なんとも言えない顔になる。
少女と出会って3日ほど経つが、最近の少女はずっとこんな感じだ。
"あの時"から少女が抵抗することは一切無くなった。
吾輩が命令するとビクッと身体を震わせて、おどおどしてしまう。息も少し荒い。
どうも脅かし過ぎたのが悪かったのか。しょうがないので、慰めるように頭をポンポン撫でてやると、ふにゃっと顔がとろける。愛い奴だ。
吾輩も少女に謝罪して魂を解放したから、もはや海誓に何かを強制することはでいない。吾輩と海誓は、すっかり仲良しさんになったのだ。
でも、そのせいで吾輩はしばらく食事にありつけていない。
「……腹が減ったな」
じゅるりと涎を啜る。
少女の美味しい悪感情を食べたいな……っは! いや! いかんいかん! 吾輩はもう少女をイジメぬと誓ったのだ。海誓と約束したのだ。だから、ダメなのだ。
少女は、我慢を続ける吾輩を不憫そうに見ているが、内心はイジメられないことで、かなり喜んでいるようだった。少女が常に安堵していることは、吾輩のお口を犠牲によく分かってる。
「なあ、本当に、私のことイジメなくていいのか? いいんだぞ、無理しなくて。私は大丈夫だぞ」
「ふん。吾輩は自分の半身を痛めつけて、腹を満たすほど堕ちておらぬわ」
「お前、釣った魚にエサをやらないタイプかぁ……くそぅ」
「虎は釣りなどせぬわ馬鹿者め。するのは狩りだ」
いや、吾輩は狩りもした事ないけど……。
まあいいや。
はあ……腹が減った。気晴らしに散歩にでも行ってくるか。
どっか道端で絶望してる奴いないかな。海誓の顔で人を虐める訳にもいかぬしなぁ……どうするか。
室内で干されていた服を適当に手に取って、着替えを済ませると扉に手を掛ける。後ろから服を引っ張られた。
「……」
「なんだ?」
なにやら少女が、物言いたそうな表情で吾輩を見つめてた。
数度口をもごもごさせてから、少女は意を決したように口を開いた。
「私も行く」
「いや、同じ顔が二人同時に出歩いたらおかしくないか? 貴様、双子では無いだろう」
「……」
「……」
はい論破~。
一人で散歩に行くか。
扉に手を掛けて――肩を掴まれた。無理やり少女の方を向かされる。
「私も行くと言っている」
「え……どうやって?」
「私も! 行くと言っている!!」
「わ、分かった分かった。そう怒鳴るな。聞こえておるわ」
少女が吾輩と一緒に行きたいと言っているが……どうしろというのだ。
吾輩が少女の体内に戻れば良いのか? それでは吾輩の散歩にならないではないか!
少女の魂だけ、身体から抜き取って一緒に行くか。それなら一般人には気付かれずに済むだろう。同じ姿かたちの二人が歩くよりは幾分健全。
うむ、試してみるか。
「――ぁ」
「どれ、吾輩が優しく包んでやろう」
魂の扱いは悪魔の専売特許……という訳でもないが、人間や天使と比べれば上手いのは確か。少女の体から抜け出てきた小さな光――海誓の魂を優しく受け止めて、胸に抱く。
魂の抜け落ちた少女の肉体が勢いよく玄関に転がった。
「……あ」
『……』
ヤバい音したな今。
だ、大丈夫かな……頭から凄い血が出てるけど……。生きてる?
うわ、この体、呼吸止まってる! 魂抜けたから仮死状態ではないか!
「これ、客が来たら大変なことに成らんか……!? 絶対ビビって救急車呼ぶぞ!」
『……なんとかなるだろ』
「なるわけ、ないだろうが!」
今は少女がもう満足したから仕事を引退するだのなんだの騒いで、方々が混乱しているさなか。
いつ誰が引き止めに訪ねて来るかわからない。
こうして海誓は1人お留守番ということに相成ったが。
吾輩がお散歩から帰って来た時、海誓は拗ねてスマホを弄ってた。
何をしているのかと聞けば「掲示板」とそっけなく返される。
ううん、吾輩にはよく分からぬが、海誓は現代っ子という奴だろう。
なんでコイツ等いちゃついてんねん(=゚ω゚)
もうキャラが勝手に動き始めたから、こりゃ続き書くとやっぱりギャグ主体に作風変わっちゃうですね
女の子が二人揃うとすぐイチャイチャしちゃうし……困っちゃーう(*'ω'*)