やはり魔法都市にキャラを動かさないとかも
時を告げる大聖堂の鐘が鳴り響く中、仕事を終えた官僚達が退出していく。
ここはフェリペ二世統治下のスペインはバリャドリッド。
新首都であるマドリードは建設中であり、ようやく完成が見えてきたところである。彼らも数年後にはそちらで仕事をすること成る。
「まったく陛下は何故カディスの地に異教徒をお許しになったのだ」
官僚でもあるスペイン貴族がそう愚痴る。彼はやや痩せぎす気味の体型と相反するような長身を持っていた。
180を超える大男ではあるが、騎士に向いた体型では無く、武門の一族ながらそれを諦めざるを得なかった。友人からはからかうように、
今日、東洋の日本、そこの国から来たマホーキョー(魔法教)なる団体に対し、フェリペ二世が勅許状にてカディスの地に
フェリペ二世下の政治では、すべて王が、書類にて決済する。
貴族官僚は王が判断する為の材料を提供するのみであり、王が出した結論を変更することなど出来ない。
だが幸いにもフェリペ二世は有能で勤勉な君主だ。仕事をほったらかし自分の趣味に打ち込むような人では無い。
隣国の冒険王(笑)のように偉大なる王にならんとしモロッコに出征するようなアホでは無い。
「そう声を荒げるな、陛下もああ見えて苦渋の決断だったのだろうさ」
別の貴族がたしなめる。彼は愚痴をいった貴族とは逆に平均より低い身長と、それとは逆なふくよか体形を持っていた。
彼らは貴族に生まれたものの嫡男というわけでもなく、禄に活躍できそうもない軍隊に行くよりはと官僚の道に進んだ者達だった。
彼らがどんな仕事をしているかといえば、金勘定であった。カソリックでは金を忌むべきものとして扱う傾向があった。ユダヤ人みたいで汚らしいというものもいる。だが国家の運営では金こそが血液なのであり、誰かがそれを取り扱わなければならないのである。
農民が育てた穀物によって国を持たせればいいじゃなかと嘯く奴もいる。
レオン王国がレコンキスタをやっていた時代ですら無理だった妄想では国は動かない。
あるいは……人が知恵の実を齧る前なら可能だったかもしれない。
「君も我が国の国庫の事は分かっているだろう。
金はいくらあってもたりないさ」
ノッポの貴族は押し黙る。
今のスペインはかつてないほどの収入を得ている。
新大陸の銀は尽きぬほどであり、莫大な富がスペインに運ばれてくる。
だが支出も絶大である。
建設中の新首都マドリードの予算だけでも信じられないほどの富が注ぎ込まれている。
また、各地の反乱も国庫負担となっている。
それらへの対処の為、どうにか金をひねり出さなくてはならないのは彼らだ。
他にも問題はある。運ばれてくる富をめぐって海賊の動きも活発だ。
どうもイングランドあたりが裏で動いているような気配がある。
商人たちから上がってくる情報にはイングランドのエリザベス女王が一枚噛んでいるとの話もある。
せっかくの新大陸からの富をかすめ取られては敵わない。彼らへの懲罰の動きもあり、船舶建設もまた金がかかっている。
さらには、カソリックの擁護者を自認する陛下は各地のカソリックへ手を差し伸べている。
プロテスタントを名乗る異端者達に容赦無い事については手放しで褒めたいところだが、国庫負担も顧みてほしいとも彼らは思っている。
「君も知っているだろう、例の日本だかの
それについてはノッポも知っていた。アレクサンダー大王が求めたアジアの富、それを今握っているのは彼らだ。
信じられないくらいの富をポンと出す彼らの財布に空恐ろしいものを感じたものだ。
「それにだ」
太っちょが声を小さくして続ける。
「ローマからも話があったそうだ。ほら君も読んだだろ?聖書の逸話の絵本(漫画)」
あああれかとノッポは思い出す。確かに聖書の逸話たちを絵と文字によって表した本であり、その表現技法に驚いたものだった。
絵には絵画のように色が付いていたが、それが印刷によって作られた事に対し、いくらかかるのかと考えてしまったのは彼らの職業柄ゆえか。
「陛下はあれのおかげでずいぶんご機嫌でね。
聖書のすばらしさが文字の読めない人々にすら伝わるだろうとね」
宗教画を見れる人は限られている。庶民は教会で説法を聞いたり、教会に設えたステンドグラスを見る程度である。
魔法教が持ってきたおびただしい量の本を配ることによって、教えが広がると考えれば、フェリペ二世もご機嫌になろう。
絵本でキリストの偉大さを理解し、そこから文字を読めるようになればさらに理解が深まる。
剣も初めから切れるの物を使用するのではなく、木剣からはじめるようなものかとノッポの貴族は理解した。
「まったく、ローマの坊主達がしっかりしないからプロテスタントなるもの達が出てくるのだ」
「あまり文句を言うものではないよ、司教達を陛下は深く信頼されている。
だが……その気持ちには十分同意する」
二人はお互いに肩をすくめる。
カソリック教徒であることとと、カソリックの坊主を信頼することは別だと合意に至ったからだ。
「で、カディスだが」
「まだあるのか?」
太っちょの貴族は、手元に着た報告を自分でも全て信じた訳では無いと前置きをしながら続ける。
「うちの手の物をあっちに送っているんだが……
建設中の建屋、今マドリードで建設中の王宮より高そうな気配なのだ」
「理解しがたいね。どうやってそこまで大きくするのだね。
尖塔で無い限り大いなる土台を必要とするだろう。
あの島はそこまで広くは無かったと覚えている」
偉大なるローマ帝国ですら人が済む建屋は4階程度だったのだ。商館や宗教施設なら人が住むのであるからそ こまで高くはできないはずだ。なによりローマでも問題となった水の問題がある。
その程度の知識はもっている二人だ。だからこそ高い建物に理解が及ばない。
「うむ、そうだ。だがな……聞いてみたところ鉄の柱を芯にするそうだ」
太っちょの貴族の言葉を聴いたのっぽ貴族の眉が顰められる。
彼の頭でざっと計算すれば、信じがたい量の鉄が使わている事が理解できるからだ。
「ふん、それほど鉄をもっているなら、我が国も鉄を買えばいいんじゃないか。
精々買い叩いてやれば兵士たちが持つ武器防具も用意できるだろうさ」
「そうだねぇ、自弁といっても限界があるからねぇ
それに関税も期待できるしね、まあ、聡い商人はもう群がっているみたいだよ」
太っちょ貴族は他人事のように言う。
スペインが鉄生産で一歩先を行っているとしても、鉄の値段はいつも頭痛の種だ。
鉄は武具にも道具にも農具にも必要で、量と質、そして値段の関係が重要だ。
安く買えるのであれば、スペインの使用分を除いても、ヨーロッパ諸国に転売しさらなる稼ぎが得られるかもしれない。
実際に行うのは商人でも、そこから税が取れるのであれば、彼らの仕事の困難さが多少は減るだろう。
貴族たちは商人たちを汚らわしい連中だと思っているし、それについてはこの二人も同様だ。だが、富をもたらすのであれば特別に許してやろうじゃないかとも思っている。
彼ら商人の1ダカットでも逃すまいという姿勢だけは貴族たちも信頼するところである。
「景気のいい話を聞くと……やはりフィリピンを得られなかったのは痛かったな」
「それはそうだけど、しょうがないんじゃないかな。彼らの祖国が近かったみたいだしね」
商人からの情報では、日本という国はフィリピンと名付けられた島から北に十数日といったところのようだ。
フィリピンを取れれば、そこを起点にチャイナとも貿易できた、そんな皮算用を数年前にしていた。
それも原住民とは異なる野蛮人たる日本人が都市を築くいたことでご破算となった。さすがに1000人程度の兵士で奪うことはできなかったようだ。
「まー、カディスの方はさ、特権を永遠に認めるかはわからないからねぇ」
「そうだな」
太っちょの貴族の言葉を訳せば、いざとなれば貯金箱は割れるという含みが入っていた。
カディスは島であるゆえに、周りを囲めば食料はともかく水は早期に尽きる。あそこから連絡してもスペインからフィリピンが遠いように、カディスから日本本国は遠い。数年後に駆けつけたときには降伏しているに決まっている。
「そうだ、彼らの住居が完成したら”監査”に行ってみないか」
なるほど、彼らがスペインの”法”を遵守しているか見に行くということかと理解した。商人からの
「それが今回話しかけてきた本題か?」
太っちょ貴族はニコリと笑みを返す。
「いやー僕も噂に聞く缶詰というのも興味があってねぇ。
それに彼ら商人がいろいろ持ってきているという話じゃないか、お金さえあればいろいろ手にいれられそうじゃない?」
「暴利でなければいいがな」
「なに、知り合いの商人を連れていくさ」
御用商人は守るべき立場があるゆえに無理ができない。先方と謀って暴利を貪るような事をすれば国元での立場は怪しくなる。そうであるがゆえに、その目利きから出てきた値段はきっと適切だろう。
「そうだな……安いのであればそちらから買うのも検討するか」
「新都市建設、治安維持、帝国郵便の維持、ローマへの喜捨、いくらあってもお金は足りないねぇ、新大陸の維持もなんだかんだいってお金がでていくしね」
「南は黒字だからまだ良い。
問題は北だ」
現在の新大陸は、スペイン、ポルトガル、日本によって三分割されている。トルデシリャス条約によってスペイン、ポルトガルの取り分は確定しているが、条約外の日本がいつの間にか入り込んでいるのだ。もちろん他のフランスなどでも、新大陸へ地歩を確保する試みはあるがうまくいっていない。
スペインにとって新大陸の問題はいくつかある。そのうちの一つが北大陸でいつのまにか隣接してしまった日本植民地だ。1520年ごろに植民したフロリダのいくつかの都市に、1560年代になるといつの間にか日本が近くまで来ていたし。1560年ごろに
1520年から30年代にかけての探検者達による調査では、北新大陸では現地民がいるのみで日本人は影も形も無かった。だが実際にいつのまにか日本の都市や開拓村ができており、その勢いは留まる事を知らなかった。
「結局は陛下のお考え次第だろうけど、北大陸に数個ある植民都市、どうするんだろうね」
「最悪高値で売り払えないだろうか。日本が我らに交易に来れるということは、拠点にしても意味がないだろう。そこから拡大できないとなれば、南に注力してほしいところだな」
「皆がいい顔をしなそうだねぇ」
ノッポの貴族が短期的な手法を述べれば、太っちょ貴族は感想を返す。一度とれた土地を手放すのは惜しいが、それが録に開拓されておらず、面積も体しかことも無いとくれば、高値であれば売り払えるのではとのっぽは考えていた。
戦力差があれば、最悪戦争で奪われる可能性もあるだから先に売っておけば良い。法衣貴族で官僚な彼は
そう考えてしまうのであった。
「メキシコから北上している連中からの報告では、砂漠地帯に日本の都市があったそうだ。
そのあたりで国境策定し銀を守りたいが……金勘定の我らではどうにもならんな」
「働きかけはできるさ。でも、何をもって条約を結ぶんだい?
神の名の元と言っても彼らは異教だよ。
ノッポの貴族はそれに同意するようにうなずく。
ポルトガルが和議にて何事か条約を結んだようだが、そのへんの事を調べておくかとノッポの貴族は思った。
仕事が増えたことにうんざりした気持ちになったが、目の前の太っちょ貴族はカディスへの期待で、見てわかるくらいワクワクした面持ちだ。
「まったく……お前さんが羨ましいよ」
「君ぃ、仕事は楽しんでやることが重要だよ。
我ら現世にて、仕事と言う苦行にさらされる一介のキリスト教徒だとしても、気持ちだけは前向きに生きたいと思っているよ」
ノッポ貴族は太っちょ貴族の言葉に鼻を鳴らし、警告する。
「ふん、プロテスタントみたいな言葉だぞ」
警告にも太っちょ貴族は動じない。
「何、私は美食家だからね。いやー、日本が売っているという南国の果物の缶詰が楽しみでしょうがないのさ」
言外にプロテスタントたちを馬鹿にした言葉を放つ太っちょ貴族。確かになとノッポの貴族は思う。それを短い言葉で同意する。
「そうか」
その腹が何ダカットで出来ているか、という言葉を飲み込むくらいの良識はノッポの貴族にあった。
会話を続けながら帰路に着く二人であったが、彼らがカディスで何を見るのかは別の物語である。
マクロな話は出てくるけど、ミクロな話がさっぱりなので文中のあれこれは適当です。
フェリペ二世時代のスペイン政府とか貴族たちの話、どっかで調べられませんかね。