あんまり見返してないのでガバいっぱいかも?
高いビルの展望台から周りを見回す二人の男。
一人はこの国では珍しい鼻が低く、肌が黄色の人物であった。
一部の人間が見たことのある、オスマン帝国の人間よりは肌の色は薄いが、ここスコットランドの人間から見れば明らかに濃い色の風体である。
もう一人の人間は地元住民から見れば、まさしく貴族という風体をしていた。身長は160cm程度で、ルネッサンス様式の服を着こなし、周辺の在地騎士などとは異なった風体となっていた。
ここはブリテン島北部スコットランド王国、さらに細かく言えばグラスゴー市西方のロズニース半島。
そこにある建築群は所謂、魔法宮や魔法都市と言われる場所であった。
数年前までは牧歌的な風情な田舎であった。高い建物など何もなく、周囲の農村では主に燕麦と大麦が育てられ、一部では羊や牛などを放牧していた。
そこに日本からの宗教者や商人がやってきて、ものすごい勢いで建物を建て始めたのであった。
周囲の住人も
グラスゴーの大聖堂が
その評判はグラスゴー周辺だけでなく、エジンバラはおろか遠くイングランド各地まで広まっていた。
あるものは悪魔が建てたと言い。あるものは先進地域の建築技術を褒めた。
そんな建物の35階の展望エリアに二人はいた。この地域は風が強い為、展望台は階層の一つであり屋内である。外周がガラス張りになっており、周辺が一望出来た。
屋上は他国の建屋と異なり立ち入り禁止となっている。
「まったく信じられませんな。スコットランドで小麦が育つとは」
「いえいえ、周辺の方々が農業指導にしたがって頂いた結果ですよ」
二人の目の前に広がっている光景は一面の小麦畑。スコットランドでは目にすることができないはずの光景だ。ここからグラスゴーまでの農村地帯が、悉く黄金色に色づいているのが見える。
普段であれば小高い山の上から見下ろしても、その光景はパッチワークのような緑と黄の絨毯であった。
大麦は小麦の様に近い色づきをするが、燕麦は茎は緑のままであるから遠目でみれば緑色の畑と映る。
農家達が何を育てるかを自分たちで選んでいるから、統一された色になろうはずもなかった。
だが今は違う。
イングランドどころかフランスやスペインのような小麦畑が広がっている。
それを成しえた目の前の人物、ヒサヒデ・ハギワラは日本という国の伯爵であり、周辺領主に農業指導と種子を与えた人間だ。
「あの小麦、私がイングランドで見たことのあるもののより実りがよさそうです。
一体全体どうやったんですか?私の知っているどんな知識でも、ここスコットランド(寒冷地)で育ち、多くの実をつける小麦の知識はありません」
「わが国でも寒冷地は存在いたしますからね、例えば……蝦夷と言われる地です。
そのような場所で育つ品種を本国から取り寄せましたからね」
ヒサヒデは、そしてと言葉を区切り。
「新しい農法、農具、そして肥料。さらには献身的な農民。
これらを揃えればたやすい事です」
「それはそれは……」
それを揃えるのが大変だというのに、ヒサヒデはこともなげに言う。黒死病が運ばれてきて以来、スコットランドは食うや食わずだ。人が減り農業生産も伸びない状況では南のイングランドに国力で劣るばかり。
王宮から派遣されてきたクライドは思った、彼の本国人口はいったいどれほどなのか。ハギワラなる家は、あのハプスブルク家に勝るとも劣らない家なのではないかと。
「ここからグラスゴーの大聖堂すら見えます。ここからあそこまでの全てが豊かな小麦畑になる、正直に報告しても嘘つき呼ばわりされそうですな」
「たしかにこちらではそうかもしれませんね」
目の前の日本人がなんでもないように言う。
神のごとき手腕を見せておきながらこの態度であるなら、ならば彼らの本国は一体どれほど豊かなのだろうかとクライドは思った。
しかしこの高い建物は一体何なのかクライドは理解できなかった。500feetはありそうな縦長の建物であり、スコットランドではとても手に入れられないガラスをふんだんに使った建物である。
その建築様式についてもまったくもって理解できないが、その技術力については驚きを通り越して恐怖を感じる。
最初王がこの地を許した時、延臣や貴族達は内心あきれたものだった。若く親政を始めたのでこういうのやってみたかったのだなと彼らは思った。
一応スペインから入ってくる情報では、日本なる国からの来た商人と宗教者であるとのことだった。
ただスコットランド貴族も王も、日本がどこの国であるかはまったくもって分かっていなかった。
そんな国の貴族を協力を得るのは果たして良いことなのか、クライドには判断できなかった。
「それなら……ふむ、その縁に立っていただけませんか……そう私から見て貴方と農村が見える感じで……」
「は、はぁ……」
よくわからない指示をしてくるヒサヒデに疑問を浮かべながらクライドは縁に寄る。ガラスでできた窓は空かないが、ここからは下が見える。落ちたらは一溜まりもないだろう。クライドは顔がひきつるの抑えるので精一杯であった。
「さて……よっと」
彼が取り出した紙が光る。
「どうぞ」
「これは……!?」
ヒサヒデから手渡された紙を見れば、そこには風景が切り取られていた。
風景画のようにヒサヒデから見た光景が本当にそのまま切り取られていた。自分の顔のひきつり具合や服の皺、遠くまで見える麦畑の色、空の青さまでそのままである。
「M、
「いえ、
クライドは納得しかねるような、恐怖を感じたような微妙な表情を浮かべて帰っていった。
その懐にはヒサヒデから渡された写真が大事に大事に抱え込まれていた。まるでアーティファクトに対する態度のようであった。
ヒサヒデがクライドとそのお付き達を見送ったあと自室に帰れば、そこには一人の人物が待っていた。彼は頭頂部を
「使者殿はお帰りで?」
「ああ、写真も渡したし王様、あージェームズ殿だっけ?信じるんじゃないのかな」
「写し身の奇跡ですか、それは重畳」
なぜキリスト教の司祭がいるか、それは彼が魔法教に転んだからである。彼、ロイスはスコットランドに生まれグラスゴー大学で学んだ後ローマに留学、その後地元に帰ってきてグラスゴー司教区の助祭として勤めていた。
彼はキリストの教えに悩んでいた。ローマのキリスト教の腐敗は目を覆わんばかりであるし、神を称えるべきその手も口も自身の欲望を得るために使われている状況に納得しかねていた。
神を試すなかれ、その言葉は正しい。だがローマ教皇を試すのはだめなのか?思考停止させるための方便に聞こえる。
聖書に帰ろうというプロテスタント達も、自分たちの為にキリストの教えを使っているように感じていたし、南の国教会なぞは離婚のための方便にしか聞こえなかった。
そんな悩んでいたロイスであったが、彼がグラスゴーの教会から使者としてこの魔法都市に派遣された時、彼は出会ってしまったのであった。
魔法にである。
ロイスにとってそれは神の奇跡であった。人を癒やし、大地を肥やす。そしてその力を皆のために使う。彼にとってキリストの再臨に思えたし、人々に魔法による力を与えているのは、真なるキリスト教なのではないかと思ってしまったのである。
別に日本は自分たちの為に動いているのに、ロイスにとっては人を教え導く動きに見えてしまったのが運の尽きかもしれない。
ヒサヒデもその誤解に気づいてはいたが、特にその誤解を解くこともないのであるから。
ロイスは魔法都市やヒサヒデと、地元都市や領主農民達の間に立ち、説得などをしてくれたのであるから、日本側に取っては非常に都合のいい人間であった。
ロイスはグラスゴーの教会・魔法都市・地元農村との間を忙しく動き回って、地元の農村の生産力上昇にうごいていた。これは誰にとっても良い話である。
自分の領地が富むことを嫌がる領主は居ないし、農民達も税を収めた後でもパンを食べられるほどの小麦ができて大喜び。教会の大司教・司教であっても教会への感謝と10分の1税の増加は大変良いことである。日本も自分たちの物産を売りつけられるのだから、三方特どころか四方向全部得である。
見返りにロイスは魔法教の教義と魔法そのものを得ることが出来た。彼が癒やしの魔法を覚えたときの喜びようはキリストの再臨でもあったときのようであった。
「さて、グラスゴーとの折衝はどうだったかな?」
「大司教殿は教区が豊かになることは否定しませんから、加工場と鉄道敷設については前向きでしたな」
「そいつは素晴らしいね」
今のロイスは魔法都市、いやヒサヒデ殿が計画している酒や缶詰加工場についての仲立ちをしていた。都市の各ギルドや司教達、王宮にも話をしていた。
ヒサヒデとしては生産された穀物、大麦や燕麦を用いた酒造りがしたかった。なにせ生産に使う瓶や缶は日本からの輸入であり、スコットランド側が生産するだけ日本にも利益が出る。グラスゴーは大きい港がないため、この魔法都市に大きい港を作り、ここからグラスゴーまで輸送するための鉄道設置をも目論んでいた。
さらに言えば缶詰工場を作り、周囲の牛や羊肉、漁業で取れた魚を缶詰化し、輸出させようとも思っていた。保存食にも金にもなる物産は今であればヨーロッパ中に売れるだろうし、為替格差が生じれば日本向けにもできる。
無論日本向けは品質検査は厳しくしなければならないだろうが。
何がやりたいかと言えば、有り体に言って経済植民地である。その経済力や技術格差を使って外国を紐づけにし、うまく行けば魔法教のさらなる拡大が見込めるだろう。
ヒサヒデは萩原久滋の息子であるから、魔法教を拡大させるのは彼らの中では当然の話であった。悪いことをしているつもりも無ければ、ロイスが魔法教の教えに帰依したのも素晴らしいと思っていた。
「商人たちもおこぼれを狙っておりましたよ。
今ではココに入れる人間は少なくなってしまいましたからね、勅許状持ちでなければ入れないとなれば、豊富な物産を手に入れるのに否応もないでしょう」
「彼らは利益さえでれば大抵のことは飲み込んでくれるからね。
いやよくやってくれたよ、ありがとう」
「いえ、これも真なるキリスト、魔法様の為でございます」
魔法様そんな事考えてないし、やっても居ないと思うけど、とは言えないヒサヒデであった。
さて、魔法都市は利益をだしてはいる。居るがゆえに、魔法教のお陰で一部農民などが逃げ込んでしまっていた。食えないなら食えるところに行く、これは生命にとって正しい。が、人が減ることは領主などにとってはマイナスである。これに危機感を覚えた王が、半島の付け根のゲアロックヘッドに関所を作ってしまったのだった。
人の往来は難しくなってしまったが、物品の動きさえあればなんとでもなるとヒサヒデは思っており、地元へ利益(最終的には日本や自分の利益である)がある各種政策をロイスを通じて行っていた。
「ロイス、君もさらなる魔法の習得を目指してはどうかい?私の方から一筆添えるから身分証明書を取るといい。それで図書館にも入りやすくなるだろう」
「よろしいのですか?」
「ああ、ここでの君は私が私的に雇っている人間ということになる。給料もだすから必要な物を買うといい」
「それはそれは……ありがとうございます、同士も喜ぶでしょう」
ロイスは密かに魔法教に帰依しそうな人間に接触し、同士を作っていた。彼らは教えに感銘を受けるもの、魔法そのものが目的のもの、魔法都市がもたらす利益が目的のもの、色々居るが外に秘密を漏らさないという共通項はあった。
彼らが今後この国でどのような動きをするかは別の話である。
さて、その後どうなったかをいくらか記しておこう。
魔法都市から買う肥料と農業指導によって、グラスゴー周辺だけでなく、遠方まで農業生産量は増加した。
農業指導には新しい農具も含まれており農業従事者の必要数を減らしていた。
グラスゴー近辺で缶詰工場、酒工場が設立され周辺の余剰農民を吸収した。
工場から出荷される缶詰(主に魚後に肉やチーズが追加された)はブリテン島を中心にヨーロッパ中に出荷された。
酒については、ヨーロッパはおろか日本にまで出荷された。(読者で言うスコッチやビール)
元々集積されつつあった毛織物業も魔法都市の商館を通じて日本向け出荷が行われた。当初は品質がバラバラであり、日本が求める品質に至ったものだけが出荷された。
その後一部日本商人が品質チェック体制とブランド化によって、日本での売上が増加した。品質と手織りという付加価値で高級品になったのであった。
スコットランドが稼いだ金は一部が再投資、一部が税となったが、大多数は日本への支払いとなった。稼ぐために稼ぐという循環になっており、結局稼ぐために日本との交易が必要となり、日本側の黒字で推移していた。
また後に先進的軍事装備の輸出解禁も日本側への支払い増加に繋がった。
さらに言えば魔法都市、グラスゴー間に鉄道が引かれ、蒸気機関車が運航された。その軌道幅はFive shak gauge(5尺軌、約1500mm)となり、後に日本標準としてブリテン島全体で認識された。
スコットランドが今後どうなるか、魔法教が国教となってしまうのか、それは分からないが、一つ言えるのは、貧乏だったスコットランドでは無くなってしまったという事であり、そのままでは居られないだろう、ということである。
本編見てると魔法使いの壁結構低かったんだなーって思いますね。
まさか現代大学程度の事だとは思わんかったぜ。