世界が待ってる この一瞬を(絶望) 作:リョオオオオイキテンカァァァ!!
「何考えてやがる……!?」
結がそう呟くと同時に、先刻まで3人を見下ろしていた白い巨体の呪霊が動きを見せる。
スピードタイプには見えないその見た目から繰り出される素早い動き。そこに帳が下ろされたことによる困惑も加わり、3名の反応は遅れた。
「動くな!」
だが、その奇襲も付近に接近していた狗巻の声により中断される。痺れる様な感覚と共に、呪霊の動きは不自然に止まり出した。
呪言は呪霊相手にも動きを強制させる強力な術式だ。しかし、その効力は呪霊の
高専生が相対するその白い呪霊は最高位に位置される特級呪霊。当然、止められる時間も長くはない。一瞬である。
だが、その隙を逃す者はこの中にはいなかった。真っ先に動いたのは京都校の三年、加茂憲紀だった。
加茂は懐からストックしてある自身の血を詰めた輸血パックを取り出し、切り裂くとその中身を取り出す。
加茂家相伝『赤血操術』。自身の血を自在に操ることができるその術式によって姿を刃へと変えた血が呪霊目掛けて射出される。
「『
旋回する血の刃は呪霊の頭部へと勢いよく衝突する。衝突箇所である頭からは煙が吹き出し、呪霊自身の視界を奪う効果となった。
そこに続くように、今度は伏黒が動きを見せた。自身が呪霊に向かって走り出すのと同時に、術式を介して加茂との戦いの最中出した鵺に指示を出す。
伏黒からの指示を受けた鵺は上空から勢いよく落下し、煙を上げる呪霊に攻撃を仕掛ける。
帯電した翼を持つ鵺の一撃は呪霊へと電撃の攻撃を浴びせる。そこで新たに生じた隙に今度は術師本人である伏黒が一撃を叩き込む。
地面を、自身の影をなぞる様にして手を
影の中に収納した黒い剣の呪具を取り出し、そのままシームレスに攻撃へと転じる。
剣の刃が呪霊の脚部とぶつかり合い、金属同士の衝突したような音が響く。
それはとてもじゃないが呪霊自身の肉体を裂いた音には聞こえなかった。
術式による攻撃を浴びせた2人、加茂と伏黒。その両者は同時に感じとる、その手ごたえのなさを。
((硬い……!!))
今まで祓ってきた呪霊と比べ、類を見ないほどの強度を持った呪霊であることを2人は理解した。
だが、4名の内1人、結のみはその強度に関して、前もって理解をしていた。故に、攻撃には転じない。
片手で印を結び、余った片手で蓋の開いた箱を投げつける。投げられた箱の中身は勢いよく溢れかえる。それは大量の
『赤血操術』の使い手である加茂もそうだが、術式の都合上一般の術師では持ち歩かない装備というものがある。
加茂にすれば自身の血を込めた輸血液。そしてこの細かな鎖は『枷縛呪法』を扱う結にとってそれらに値する道具であった。
投げつけたのは細かであるが、ただ細かいだけではない。元々は長い一本の鎖であったものを、結本人の術式と呪力によって細かく分解された鎖である。
前回使用してから三ヶ月間、毎晩少しづつ呪力を込め、夜なべして制作をした正しく努力の結晶であった。
それらに、術式を介して一斉に呪力を込める。
「『
その声と同時に、分解された鎖等は一本へと収束し出す。一瞬にして呪霊の全身を三重にして縛り付ける鎖が完成した。
短い逡巡、しかし結は結論づけた。今ここにいるメンバーだけではこの呪霊を祓うどころか、時間を稼ぐことすら難しいと。
つまり今行うべきは、撤退の一択。再び時間を稼ぎながら逃げ、他の戦える生徒と合流をすること。
今ある情報で判断することは難しいが、とにかく今は逃げることが最善策だと考えた。
「逃げるぞ!三ヶ月分全部使った、少しは時間を稼げるはずだ!」
結は他の3名にそう告げるや否や、近くの仏閣の入り口へと駆け込んだ。呪霊の術式の都合上、広い森に逃げ込むのは不利と判断したのだ。
結のその指示に従わない者はいなかった。全員がこのままではジリ貧だという事実に気づいたのだ。
全員が仏閣の入り口に入り込もうとしたその時、急激に生じた呪力の起こり。全員の視線がその発生源に向けられる。
「『愚かな児等よ……死してその身を星に捧げなさい』」
そこには既に鎖を引きちぎり、解放された姿の呪霊が背後に大量の木の根を引き連れ、こちらに迫ってきている姿があった。
「嘘だろ!?」
自身の呪力で分解した鎖は通常のものより強度が遥かに高く、せめて10秒は時間を稼げると考えていた結は悲哀の表情でその光景を見る。
「止まれ!」
迫ってくる呪霊と大量の樹根の群れ。それらを再び一喝して狗巻が止める。どうやら呪霊は呪言への対策である耳から脳にかけての呪力でのガードを理解していないようだった。
呪言の効きが良いことは大きなアドバンテージであった。一瞬止まった呪霊と樹根の動き、その好機に伏黒が印を結び式神を呼び出す。
「『
影から這うよう、巨大な象の式神である満象が現れた。満象の鼻先より多量の水が噴出され、呪霊を呑み込む。
「呪言の効きが良い。狗巻先輩!今みたいにアイツの攻撃のタイミングに合わせて呪言でのストップをお願いできますか?」
伏黒がそう言うと狗巻がその提案に対し首を縦に振る。
「しゃけしゃけ」
狗巻のその返事により、現状の4人の行動指針は決定した。ひとまずはダメージを受けないことを第一に、帳の外へと向かうこと。
結は3人の顔を見渡す。3名の目には確かに覚悟を決めた光が宿っていた。
「よし、じゃあ行くぞ!」
全員が今やるべきことを理解していることを確認した結は先陣を切るように仏閣内部を走り出した。
外見通りというべきか、古風な見た目の仏閣内部もまた予想通りの古風な内部であった。
余分な飾りはなく、質素な日本家屋を連想させるその廊下を4人は走り抜ける。
そしてその数秒後には4人の通った道を質量により押しつぶす例の呪霊が追いかけ進んでいく。
4人の全力の速度にも、呪霊は追いつく。そのスピードは無慈悲なほどで、もう少しで呪霊の攻撃が届く間合いまで近づいていた。
「棘!」
結がそう声をかけると同時に、狗巻は口元を覆う学生服のチャックを下ろし、声を上げる。
「動くな」
その言葉を聞いた呪霊と呪霊の操る樹根は同時に動きを止める。
「『
狗巻が口を開くより早く迎撃の準備を開始していた加茂はそう呟くと同時に自身の周りに滞空させていた血液を凝縮する。
『百斂』は自身の血を圧縮し、ビー玉程度の小さな球体へと変化させる技。そして加茂は圧縮したその血液を両の手を重ね合わすようにして包む。
そして圧縮された血液に指向性を持たせ、指先から一気に解き放つ。放たれるその血液の弾丸は音速をも越える、すなわち高威力のビームとして呪霊へと放たれる。
『
空気を切り裂く音と共に、赤の軌跡が、呪霊の頭部を穿った。
そのダメージは先ほど加茂の放った『刈祓』とは比較にならないもので、呪霊の頭部に確かに傷を残したのだ。
その光景を目撃した伏黒、結、狗巻は瞠目する。御三家相伝術式のその力とそれを操る加茂自身の実力に。
「急げ、どうせすぐ治してくる」
しかし
加茂のその言葉に意識を再び目の前の呪霊からの逃走に切り替えた3人もまた、前を走る加茂に続く。
廊下を進み、階段を登り、上へ、遠くへと移動を重ねていく。
その最中、無言で走りながらも結は考える。これからの流れに関してだ。
(さて、このまま迎撃と逃げを繰り返して帳の外までいけたらいいんだが……それまでに保つか…)
結はチラと隣を走る狗巻へと視線を向ける。汗を流す狗巻は、当然走っている運動量から当たり前ではあるが、それ以上に別の箇所への負担が大きそうに見えた。
「棘、まだいけるか?」
結が抱く一抹の不安、それを拭うため狗巻へとそう問いかける。
「ゲホッ、しゃけしゃけ」
心配するなと告げる狗巻であったが、漏れ出る咳より、やはり喉への負担が大きそうに見えた。
狗巻の扱う呪言には明確な弱点として、連続の使用や強い言葉を吐く事で喉への負担が大きくなる点が挙げられる。
今も自前の喉薬を飲み、回復させている狗巻だが、その限界もそう遠くはないだろう。
(このままのペースでいけるか?やっぱり最悪でも後二、三人との合流……いやだが、どうやって?)
やっぱり不安は募るばかりだが、いくら悩んだところで事態が好転するわけではなかった。
ならば、やれる事など同じことを繰り返すことのみ。結はいやな想像を振り払い、自分にできる精一杯を行うよう努める。
逃げて、呪言と攻撃による足止めを繰り返していくうち、やがて景色は変わり、仏閣の外部へと飛び出た。
飛び出ると同時に、例の呪霊が放った樹根による攻撃が建物内部より浴びせられた。
それらを飛び退く様にして回避した後、4人は迎撃へと回る。対象は目の前に迫る呪霊に、狗巻が大きく口を開き呪言を告げる前段階に移る。
「狗巻先輩が止めてくれる。ビビらずいけ」
そして呪言のタイミングに合わせ、伏黒は自身の式神である鵺を呼び出し、呪霊に向け飛行させる。
攻撃を加えるため、勢いよく呪霊にぶつかりに行く鵺。裂ける肉の音。飛び散る血の赤。
「ぁ……!!」
本来なら呪言によって止めらるはずの呪霊の動き。だが肝心の呪霊の動きは静止せず、突き出された拳が伏黒の式神である鵺の身体を貫く。
「棘!?」
結が悲壮感溢れる声で狗巻を呼ぶも、その狗巻の容態は優れない。呪言の多用による反動で喉に限界が来たのだ。
ポタポタと垂れる血は狗巻の口からであり、反動から動けず、その場に膝を折っていた。
(先に限界が来たのは
苦虫を噛み潰したような表情で狗巻の様子を確認する加茂。しかしその一瞬の動揺が明確な隙となってしまった。
その一瞬を逃さぬよう加茂へと接近した呪霊は加茂の頭部を瓦屋根に叩きつけるよう、垂直に殴りつける。
その一撃はモロに加茂の顔面に直撃し、まるでゴムボールを弾くように、加茂の全身が屋根の上に投げ出される。
そして無慈悲にも、呪霊は完全に1人ずつ潰すことを選択した。吹き飛ばされた加茂の周辺に三つの木の根で構成された毱が展開され、一斉に加茂へ向け射出される。
が、その追撃が当たる寸前、急いで駆けつけた伏黒が加茂を抱え救出する。
「生きてますか!加茂さん!」
返事は返ってこない。不意を突かれた一撃、たかが一撃だが、それでも加茂の意識を奪ってしまうほどの強力な呪霊の攻撃。
絶望感をその場が段々と支配する。幸い、まだ加茂にも狗巻にも息はある。だがその幸運は不幸の中にある小さな芽のひとつでしかなかった。
(クソ!どうする!?守りの要の棘の喉がやられた!加茂君に至っては気を失う程の重症……考えろ!最適解を!この場を切り抜けるための!)
結は必死になって自分にできることを考える。しかし考えれば考える程状況は絶望的だった。
呪霊の強さを侮っていたのだ。恐らく、結が呪霊に最初に出会った時は全力どころか、その数割程度しか出していなかったのだ。
呪霊の攻撃の規模とスピードが段違いだと、結は肌で感じ取っていた。それは恐らく帳が下りた事で
この状態の呪霊の猛攻を、怪我人を庇い、伏黒と結の2人で捌き切れるか?考えても脳内には否定の答えしか出てこなかった。
「……チッ!」
それから数巡思考を巡らせ、結は腹を括った。刀を握り、呪霊と相対するよう構える。
練られた殺意は呪力として呪霊に向けられる。やがて呪霊の注目は加茂から結へと変更される。
「恵!!棘と加茂君連れて逃げろ!とにかく帳の外向かうの優先!こいつは俺が相手する!」
その台詞は、奇しくも少年院で特級呪霊と遭遇した際、結が伏黒に告げた台詞を同じであった。
あの時と同様の理由であった。このまま全員で固まってても全滅は想像に難くない。ならば、死んでも死なない自分が単騎で挑むのが最適解と考えたのだ。
尤も、この“死なない“と言う表現が最適であるかは不明であるが。結は何かと不明な点が多い自身の不死身性を信用し切ってはいなかった。
回数制限があるのかもしれないし、それ以上に死ぬたび大事なものが欠けていってるのかもしれない。
そもそも、少年院にて経験したように、どう足掻いても死んでしまう場面では、役に立たない事だってある。
降って湧いたその能力を過信することはない、だが現状結に使える手札はこれくらいしか無かった。
「先輩……!」
伏黒はその言葉を聞き、自身の先輩にあたるその男の背中を眺めていた。
何かと短い付き合いでない分、伏黒は結が冗談でそのようなことを言う人間ではない事を知っていた。
詰まるところ、今自分の目の前にいる男は死ぬつもりなのだ。
伏黒は、自分を呪うことになるだろう。前回の時もそうだった。自分は大事な場面でいつも手が届かない。救える人間を、取り逃がしてしまう。
無力感に胸中が覆われそうになるその時、伏黒の肩をポンと叩く者がいた。
「狗巻先輩?」
伏黒が自分の肩を叩く者の正体を見ると、それは先ほど呪言の反動によって血を吐いていた狗巻であった。
口元には未だ拭いきれていない血の跡が存在しており、もう既に限界を迎えているのは誰の目からも明らかであった。
「高菜」
それでも、彼は前へと進むことを選んだ。自身1人が残り、時間を稼ごうと考えている結のその前にまで進む。
「棘、何をして…お前!もう限界だろ!!」
自分より前に、呪霊に近づいている事からその事実は察して余りあるものだった。
限界を超えての術式使用をしようとしているのである。
一歩一歩進んでいくその足に、迷いは無かった。呼吸を肺へと送り込み、言葉を紡ぐ。
「ぶっとべ!!」
瞬間、呪霊は突風にでも吹かれたかのように、身体を吹き飛ばされる。向かいの屋根まで衝突するのと、狗巻が倒れ込むのは同時であった。
「棘!!」
倒れ込む狗巻を支えるよう、抱き抱える結。容態を見るに、こちらも死には至っていないものの、気を失っており、放っておくことは出来なかった。
「なんだ、あれ……」
一方伏黒は結の胸の中で倒れ込む棘を心配しつつも、呪霊の居る反対側の屋根に異変が起きたこと察した。
それは、交流会開始時に別れた別班の真希が刀を両手に呪霊に斬りかかっている姿だった。
「真希さん!」
伏黒のその声につられて結は呪霊の方を見ると、確かにそこには自身の後輩である禪院真希の姿があった。
それは今この状況では一筋の光明のようなものだった。そして同時に、天から流れ落ちた蜘蛛の糸のようなものでもあった。
この
どちらかが真希の援護へ、もう一方が2人を運び出す必要があった。
「……」
どうするべきか、考え、結は真っ直ぐに伏黒を見つめ言葉を告げる。
「恵、頼んだ。真希ちゃんの援護を頼む」
それはあの日自身が受け取るべきだった言葉だった。
伏黒は静かに拳を握りしめてから両手を重ね印を結び、鵺を呼び出す。
「2人は任せました、黒鉦先輩」
伏黒は振り返らず、即座に真希の方へと鵺を利用して飛び出す。その様子を結は静かに眺めてから、次に自分のすべきことに取り掛かる。
結は手で掌印を結び、鎖を発現させる。それから倒れている2人に巻きつけ、2人分の重さを同時に背負えるよう、自分の体に鎖を結びつける。
そこまで処置した時だった。結の視界の端に遠方からこちらに向かってくる影があることに気づいた。
「あれは……人?」
遠くから近づいてくるその影は、段々と大きく、肉眼でその正体が分かるまでになる。その正体は人、箒に跨り上空を飛ぶその姿は京都校3年の西宮桃であった。
「そこにいるのは、黒鉦君、だよね?状況を教えて!」
箒の上からそう尋ねる西宮はやがて屋根の上の結の元までやって来た。
「呪霊が出た。恐らく特級クラスの、こっちの2人は気を失っていて、今は伏黒恵と禪院真希が対処に出てる」
結がそう告げると、驚いたような表情を浮かべた西宮はやがて自身の知っている情報を話し始めた。
話によると西宮は帳が落ちるとその異変を察し、帳の外まで移動し教師陣と連絡を取ったとのことだった。
大きくまとめると重要な情報は1つ。
「で、この帳なんだけど。対五条悟用の帳らしくて、私たちは自由に出入りできるらしいの」
「最初から五条先生対策って訳か……」
納得したように頷き話を聞き終えた結は少し考え、次に自分の体に結びつけていた鎖を解き始めた。
「それ、術式の鎖?なんでそんな風に」
「あぁ、気を失ってる2人を運び出そうと思ってな。流石に2人同時に運ぶのは難しいから体に括り付けて運ぼうと思ったんだが」
ボスン、と2人分の人間を静かに屋根の上に寝かせて置く。それから結は西宮にこう告げた。
「この2人、安全な帳の外まで運んでもらえるか?」
結はそう言って西宮に怪我人の輸送を頼み込んだ。飛行能力のある西宮に頼んだ方が効率的だと判断したからだ。
「いいけど……黒鉦君はどうするの」
西宮はその頼みには素直に首を縦に振ったが、疑問は残った。だったら残った結はどうするのかと。
「後輩がまだ頑張ってるからな、援護に向かうよ」
黒鉦がそういうと西宮は目を瞑り色々と考えたのち、空気を吐き出すように言葉を出した。
「……はぁー、本当は、黒鉦君は行かない方がいいって、言うつもりだったんだけどね」
西宮は瞼の裏、去年の結の姿を思い出す。そこにいたのは個人戦にて冴えた動きの一つも出来ず、京都校の加茂に圧倒されていた姿だった。
当時西宮は、なんとなく結は来年の交流会には姿を現すことはないだろうと考えていた。理由はシンプルに、弱かったからだ。
全くダメなわけではないが、話によると彼は五条悟が担任らしく、上層部からの嫌がらせで高難度の任務に就かされているとのことだった。
このままではいつ死んでもおかしくない。仮に西宮が同じ状況ならば窓にでも役職を移すだろうと、そう感想を抱いた記憶があった。
だけど。西宮は目を開き、目の前の結を見る。
そこには外見的な変化は大きくは変わっていない、だが確実に“何か”が変わった姿があった。
今の彼なら、きっと。西宮は告げる。
「今の黒鉦君ならきっと、大丈夫だから。頼んだよ」
西宮と結の間には同学年という事実以上の繋がりはない。故に信頼はない。だが、頼むことができる程度には信じることができた。
「……おうよ」
結はその言葉をゆっくりと咀嚼するように受け取った後、踵を返し、伏黒と真希のいるであろう場所を辿る。
黒鉦結の中にある“何か”の正体。それはきっと彼にも分からない。だからこそ、彼は前へと進むのだった。
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屋根から屋根へと飛び移りながら、先程まで呪霊と真希ちゃん、恵が戦っていた場所まで近づく。
当然のことだが、もう既にその場には誰もいない。だが戦った時使用した呪力や術式の残穢は残っている。
俺は呪力の残穢を辿り、2人の後を探る。
「……あそこか」
なんとなくの場所を掴んだ俺は、その場所を目指すことにした。『鉤鈎』の鎖を屋根に突き刺し、仏閣の屋根の上から地面へと降っていく。
地面についた後は森の中へと入る。段々と濃くなる呪力の気配に目的の呪霊に近づいていることを実感する。
『今の黒鉦君ならきっと、大丈夫だから。頼んだよ』
その最中俺は京都校の西宮さんの言葉を思い返していた。彼女とは特に親しい仲でもないが、その言葉が妙に頭に残っていた。
きっと、今までの俺なら逃げていたと思う。「他の生徒を呼ぶ」や「結界を張った呪詛師を探す」とかの言い訳を並べ、特級クラスの呪霊と戦うことを避けていたと思う。
生き残りさえすれば、いつか五条先生が来て解決してくれるだろうと。
それが一番生き残るのに最適な解答だから。何がなんでも生き残ることを前提にしている俺ならそちらを選んだはずだ。
だが、結果は違った。呪霊の存在が、戦うことが恐ろしいのは変わらないのに、俺は援護に向かうことを選んだ。
「…………」
それが何故かは、分からない。だが、今の俺の決断が間違っているとは言いたくなかった。
走りながら残穢を追っていた俺は、やがて森から川へと辿り着いた。そこには例の白い呪霊の姿があった。
だがそれ以上に、視界の中で強烈な印象を残したのは川の真ん中で倒れ込む恵と、呪霊の操る根に首を掴まれ、持ち上げられている真希ちゃんの姿だった。
「__っ!!!」
声に出ない悲鳴のような音が喉から漏れ出た。考えるより早く、呪霊に向かい走り出す。
そこまで時間は経っていなかったはずだ。真希ちゃんも、肩書上では四級とされてるが十分強く、俺よりも何倍も動けるはずだ。
もちろん恵も十分戦える。つまりそんな2人を簡単に無力化できてしまうほどの格上。
今、この瞬間にでも2人の命は奪われてもおかしくない。俺は自分の認識が甘かったことに唇を噛み締めた。
手を伸ばして駆ける。せめて術式の届く範囲まで近づかなくては、2人を助けられない。
足が川の水面を叩き、足首から下が水中へと沈む。その時だった。
空から飛来してきたソレが呪霊と真希ちゃんの間に降り立ったのだ。
「な、なんだ!?」
思わぬ展開に俺は驚き、その場に立ち止まる。新手の呪霊?いやしかし空は帳で覆われている。今更乱入はありえない。
となると飛来物の正体は……。
衝撃によって舞い上がった水飛沫が落下しきる。そうしてその正体が明らかになる。
「いけるか!?
出会った頃と比べすっかり意気を投合させた虎杖君と東堂であった。
感想、色々書いて下さりありがとうございます!
実はまだ3話くらい書き溜めがあるので、一通り投稿し終えたら返事をさせてもらいたいと思います