世界が待ってる この一瞬を(絶望) 作:リョオオオオイキテンカァァァ!!
「そう!俺の術式は相手と自分の位置を入れ替える『
「因みに」
「手を」「叩くのが」「発動条件だ」
東堂はそう言って実演を交えて術式の説明を行う。そうして叩かれた手によって位置が変わる。まず入れ替わったのは東堂と呪霊の位置だった。
俺は東堂がいた場所に鎖鋸を振るう。呪力を流し、鎖が旋回する。擦れる金属音共に、鎖鋸が呪霊へ接近する。
呪霊は咄嗟に俺からの攻撃をガードしようと地面から木の根を伸ばすが、それも不発に終わる。
パンッ!
掌の鳴らす音が呪霊と東堂の位置を入れ替える。これによって呪霊は虎杖君の目の前へと移動し、懐はガラ空きとなる。
打撃の音。手を叩く。振るわれる拳、届く寸前で再び手が打ち鳴らさせる。
入れ替え後に併せ振るった鎖鋸が呪霊の肩を削り取る。呪霊は反撃に出ようと動くが、それを未然に防ぐよう再び喝采の音。今度は虎杖君の拳が呪霊の背に叩き込まれる。
もう何度殴ったか、削ったか。呪霊に逃げることも、反撃も許さない。位置替えによる速攻は明確なダメージとなって呪霊を襲う。
単純な入れ替えならこうまではいかないだろう。だが、俺、東堂、虎杖君ではそれぞれ体格に差がある。
更に言えば攻撃のタイミングも得物を扱う俺と肉弾戦を挑む東堂と虎杖君では大きく異なる。
その状況下で東堂による的確なタイミングでの入れ替えが加わる。俺達はただ東堂を信じ呪霊に攻撃を加えるだけだが、それだけで十分成立するほど強力な戦術。
この状況から抜け出すのは、困難を極めるだろう。そんな中、変化が起きる。それは虎杖君から発せられる空気感だった。
思い出すのは川で浴びせた虎杖君の一撃。鋭くなった呪力と、黒閃を経たことによる
その変化を、東堂は見逃さない。手を叩く、虎杖君との位置替えにより、東堂へと放った呪霊の拳が虎杖君の頭上を通過する。
無防備になった腹に叩きこまれた虎杖君の一撃が、空間を黒く染める。
黒閃
____
術式に呪力を流す
______
怯んだ呪霊に今度は蹴りが浴びせらる。空気中を走る黒い残光。
黒閃
________
イメージしろ、普段と違う、進むべき道のその逆を
_________
二度の黒閃による攻撃、たまらず下がった呪霊の頭に叩き込まれる手刀。また黒く、煌めく。
黒閃
_________
理解しろ、思い出せ、自分の術式を。
__________
三度の黒閃、呪霊は本能的に悟るだろう。今この場で最も警戒すべき対象を。その瞳は虎杖君の姿を捉えた。
虎杖君が拳を振りかぶる。ぶつける気だ、四連目の黒閃を。無論、喰らうわけにはいかない。呪霊が警戒を強めたその時だった。
呪霊の背後で呪力が高まる。そこには、両手を広げ、まさに手を叩こうとする東堂の姿があった。
それが意味するのは、東堂と何者かによる位置替え。この時点で警戒すべき選択肢は二つ。俺と東堂での入れ替えか虎杖君と東堂での入れ替えの二つ。
即ち虎杖君が今いる場所で拳を振るうか、東堂と位置替えしてから振るうかの二択だ。呪霊は限界まで見極める。そのどちらに来るかを。
東堂の両の手が衝突する、乾いた音が響き、東堂の居場所は________変わらなかった。
「『!!』」
「“入れ替えれるのは
東堂が入れ替えたのは
隙だらけの呪霊の身体に、虎杖君の拳は何の障害も無く伸ばされる。拳の衝突と同時にぶつかる呪力。空間は歪み、黒い火花が迸る。
黒閃
_____________
呪力を流す、言葉にすると同時に呼応する様に呪力が集う。赤い鎖の形として、穿つ。
「術式反転____
_______________
「ッ!?」
俺は思わず片手で頭を覆う、最初に虎杖君が黒閃を決めた時ほどの痛みではないが、おそらく同じ系統の頭痛。
「先輩!大丈夫!?」
そんな俺を心配した虎杖君より声を掛けらる。
「あぁ、大丈夫だ…それより叩き込むぞ、虎杖君。君の黒閃のラッシュが効いてる」
俺は呪霊を指差し、虎杖君にそう伝える。呪霊は合計五度の黒閃を受け、遠く離れた地点で傷を癒している様だった。
だが、その速度は明らかに最初と比べ遅くなっている。奴の呪力にも限界が近づいてきているのだ。
「……分かった。やろう!」
虎杖君がそう言い、俺達は追撃を開始する。位置替えによる近接の連続。
その最中、東堂へと呪霊が発生させた樹根の先端が向かう。手を叩き、呪霊と東堂の位置が変わる。
俺は入れ替え後の呪霊に攻撃を加えようと、東堂の居た場所に鎖鋸を横振りに振るう。その時だった。
「がッ!?」
口から血を吐き出す。原因は俺の腹を突き刺す樹根の先端だった。
(コイツ!位置替えに対応して…!?)
入れ替えを前提に、東堂に放たれたように見えた攻撃は垂直に曲がり、俺の腹を貫いたのだ。
「『まずは一人』」
そう言った呪霊の拳はすでに俺の目前まで迫っていた。
遠くで東堂が手を叩こうとするのが見えたが、間に合わない。
呪霊の拳は無防備な俺の頭を潰すように、勢いよく衝突したのだった_________
その最中、東堂へと呪霊が発生させた樹根の先端が向かう。手を叩き、呪霊と東堂の位置が変わる。
「ッ『
俺は寸前の記憶を頼りに、東堂から俺へと標的を変えた樹根の前に、細かな鎖の群れを発生させ、受け止める。
その後、東堂との位置替えによって俺の近くに現れた呪霊の攻撃を避ける。先程は俺の命を葬ったその拳は空を切る。
俺は回避のため動かした体の勢いを乗せ、返すように鎖鋸を振るう。
振るわれた鎖鋸は勢いよく回転し、呪霊へと向かうが、呪霊の頭部の芽の様な部分を削るだけで致命傷にはならない。
「黒鉦!!」
「平気だ!喰らってない!」
俺が東堂からの呼びかけに答えると、今度は呪霊が行動を起こす。俺たちから離れるように大きく飛び退くと、その背後に巨大な人面花の様なものを生成した。
恐らくは奴の術式による顕現、だがあの人面花が何を行うのか見当がつかなかった。
そんな俺達に向かい、攻撃が開始される。人面花の雌蕊の様な部分から、大量の種子が放たれる。
東堂が手を叩く、行われたのは呪霊と虎杖君の位置替え。これで虎杖君は攻撃範囲から離れる。だがこれでは俺と東堂は回避することが出来ない。
「……っ、東堂!使え!!俺なら大丈夫だ!」
俺は咄嗟に手に持つ鎖鋸を虎杖君の近くの地面に投げつけた。それは賭けだった。
東堂が呪霊に言った術式の内容は“自分と相手同士の入れ替え”……つまりは"生物同士の入れ替え"。だが一度目の内容が
なら本当の入れ替えの対象は……呪力を帯びているモノ!これだと仮定すれば……!
俺がそう願い投げた呪具を見た東堂は数瞬考え、それからその両手を合わせ、手を叩いた。
すると東堂の居た場所には俺が先程投げた鎖鋸剣が落ちており、鎖鋸の落ちていた地点には東堂が立っていた。
どうやら俺は賭けに勝ったらしい。
「『
俺には東堂と虎杖君と違い、防御の手段がある。だから離脱する優先対象は東堂で正解__
「ッ!黒鉦!やめろ!!」
そう思い、『掩蔽』の鎖目の前に発生させて防御を行う。が、俺の行動を見ていた東堂からそのような声が掛けられる。
一体何を言っているのか。俺は考えるが東堂の言葉の意味が分からなかった。そしてそのまま種子は『掩蔽』の鎖まで飛来し……
その鎖を貫通し、俺の目前までやって来た。
「!?」
俺は驚き固まる。『掩蔽』の鎖は防御に特化させた鎖を生成する防御技であり、呪霊が射出した樹根を止める程度の強度は存在していた。
それが小さな種子一つに呆気なく破られたのだ。それほどの威力があるように見えない種子にだ。
動揺しながらも、俺は次の手に回る。呪力を身体に流し、せめてもの防御を行う。
だが防御も虚しく、呪力でのガードを貫通、いや呪力自体を剥がされるような感覚と共に種子が俺の体に突き刺さり、付着する。
まずい、急いで剥がさなくては__
そう思いどんどんと伸びていく種子の芽を剥がそうと掴むが、そこで体が違和感に気づく。
呪力が練れないのだ。否、正確には練れないのでは無く、練ったそばからどこかへと消えていく。
「『無駄ですよ。その種子は呪力を食って成長する……アナタの呪力量なら、もう数分の命でしょう』」
脳内に呪霊のそんな声が響いた。術式情報の開示を行う縛りで、早く殺そうという算段なのだろう。
俺は種子を剥がすことを諦め、その手をダラリと垂らし、膝をつく。
「先輩!?」「黒鉦!!」
虎杖君と東堂の悲痛そうな声が聞こえる。だが、もう無理だと、俺は諦め懐のそれに手を伸ばす。
黒い光を放つそれを片手に、呪霊へと口を開く。
「…説明ありがとうな……
そう言った後、俺は五条先生に頼んで仕入れてもらった
その鎖を貫通し、俺の目前までやって来た。
俺は戻った意識が、種子をくらう直前であった事に内心安堵しながら、体に流す呪力を止めて、飛んでくる種子をそのまま受け止める。
「この種子は呪力を食って成長する……だろ?」
「『!!』」
俺がそう言うと呪霊はわずかに動揺を見せた。その隙を徹底的に叩くため、動きを見せたのは虎杖君と東堂だった。
2人による連撃、殴り蹴りの連続により呪霊の体力を削っていく。
再び東堂が手を叩くことで、呪霊と虎杖君の位置が入れ替わる。入れ替わった瞬間虎杖君が呪霊に一発、近くまで移動した東堂が蹴りを打ち込む。
そして次、東堂が再び手を叩く。また位置替えかと警戒する呪霊。
だが、その叩いた手は予想外なモノを入れ替えた。乾いた音が響く、その直後、虎杖君のいた場所に三節棍が現れる。
「あれは……!!」
若干遠くで見ていた俺は、その三節棍の正体に気づく。
以前は特級呪詛師の夏油傑によって使用され、そこから高専の武器庫に保管されている、特級呪具。
名前を、
それが何故虎杖君と入れ替えに?
そこまで考え、俺はハッとなり辺りを見渡す。すると少し離れた場所に水面のきらめきが目に入った。
呪霊との戦闘の中で、一周回って帰って来たのだ、虎杖君と東堂の現れたこの川の付近に。
恐らくは真希ちゃんが使用した游雲が川の中に放置されたまま、『不義遊戯』の入れ替えで虎杖君と游雲が交換になり、今それは東堂の手の中に渡ったのだ。
一瞬の出来事、呪霊の理解が遅れるのは当たり前の事だった。これに関しては完全に東堂が上回る形となる。
そして不意をついた一撃が、特級呪具に上乗せされた東堂の呪力と共に、呪霊の顔面へと叩き込まれる。
鈍く大きな打撃音が響く。その一撃は今までで一番のダメージとなり、喰らった呪霊の口から赤黒い液体が漏れる。
恐らくは致命傷、通常の呪霊では耐えることのできない威力だ。
「やった、のか……?」
俺がそう呟くと、背後から駆け寄るような足音が聞こえた。
「あ!先輩!どうなってんの!?俺何と入れ替わって…?」
やって来たのは游雲と入れ替わりになった虎杖君で、川の方から走って来た様だった。
「ん?いや虎杖君は川の中に――ってマジか!?まだ倒れてない!?」
俺は虎杖君に状況を説明しようとして、それから未だ放たれる凶悪な呪力の気配を感じ取る。
振り返るとそこにはまだ辛うじて立つ呪霊と、地面から生えてきた樹根の攻撃を躱す東堂の姿があった。
「虎杖君!」「応!」
俺と虎杖君は援護のため、急いで東堂の元に駆け寄る。
「『出来ることなら、使いたくは無かった』」
走り出す俺と虎杖君、だが東堂の元に辿り着く前に呪霊とその周囲に変化が起きる。
呪霊が左腕を地面へと伸ばす。すると周りの木々が枯れ、代わりと言わんばかりに呪霊の肩の花の様な部分に呪力が収束する。
まるで植物のエネルギーを吸い取って集約させている様だった。そして肌で感じ取ることができた、あのエネルギーの威力はやばい、と。
「東堂!!」
「来るなブラザー!とんでもない呪力出力だ!!」
虎杖君がすぐさま東堂の元に駆け寄るが、先に東堂自身より静止命令がかかる。
俺は東堂の『不義遊戯』ですぐさま脱出できるよう、近場の地面に転がる石を掴み取り、その石に呪力を纏わせる。
「『しかしアナタの術式があれば躱すのは容易いでしょう……ならばどうするか』」
その言葉を皮切りに、呪霊から放たれる呪力がより一層重鈍で不気味なものへと変質する。その不気味な、何かが起こりそうな気配に固唾を飲む。
それはまるで、少年院にて宿儺と対峙した時に感じ取った、“あの”気配と似通っていた。
「『
そこまで聞こえた段階で、終わりが訪れた。
それは俺たちにとってではなく、呪霊にとっての、であった。
「あ!帳が!!」
空を覆っていた対五条悟用の帳が、唐突に解除されたのだ。それが表すのは即ち、
俺は空を見上げ、その人物を探す。その人物はすぐに見つかった。遥か空中より俯瞰するように森全体を見下ろしているその姿に、俺は思わず声を上げる。
「五条先生……!」
散々嫌がっていた五条悟の乱入により呪霊の思惑は完全に頓挫しただろう。そう思い呪霊の方を見ると、もう既に
「『どうやら、ここまでのようですね……退きます。五条悟を相手にする程、傲ってはいない』」
そう言いながら呪霊は段々と身体を地面へと沈めていく。地中を経由して撤退する気なのだろう。
「っ!ざけんな!何がしてェんだよ!テメェらは!」
呪霊の撤退宣言を聞き、そのあまりの身勝手さに憤る虎杖君は、咄嗟に呪霊の方へと駆け寄ろうとする。俺はその虎杖君の肩を掴み、その場に留まらせる。
「って、なんで止めるんだよ!先輩!」
逃げる敵をみすみす見逃すなんて、と言いたげな虎杖君に、今度は横に居る東堂が声をかける。
「やめろ
巻き込まれる。それが俺の止めた理由でもあるのだが、何の事か分かっていない虎杖君は不思議そうな表情を浮かべる。
だがそれも、一瞬の事だった。
飛んできた、と言うよりはいつの間にか現れていた、その表現の方が正しいだろう。捉えることすら叶わない速度での攻撃。紫色の閃光が俺たち3人の前方を通り過ぎる。
「えげつねぇ……」
「相変わらず、規格外だな……これでは祓えたかも分からん」
数十メートルとかけて裂けた大地。地面ごと抉る、広範囲の文字通り規格外な攻撃。
これは五条先生による攻撃の跡。まるで天災にでも襲われたのかと思うほどのその損害に、俺たちは驚くことしかできなかった。
一度だけ遠巻きに見たことのあるその攻撃、五条先生が言うに『虚式「茈」』……仮想の質量がどうとか、まぁよく分からん。とにかく強すぎる技と言う事だけは確かだった。
東堂の言う通り、これでは祓えたかどうかは分からない。が、どちらにしろこれでお終いだろう。俺はやっと終わった長すぎる、濃すぎる団体戦の終わりに胸を撫で下ろす。
「まぁ、取り敢えず終わったことだし、他の人たちの安否確認も含めて先生たちと合流を__」
そこまで話したところだった。唐突に眩暈が視界を襲う。それと同時に脱力感、次いで嘔吐感が身体を襲う。
「先輩!?」
唐突に倒れた俺を心配するように虎杖君が駆け寄ってくれるが、もう俺は立てそうにも無かった。
一体何故、そう考えると、答えは明白だった。
高熱と激しい筋肉痛を同時に味わうような痛みと不快感。懐かしい感覚だった。
(まぁ、あんだけ無茶すれば妥当か……)
幼少の時、呪力量の少ない俺が限界を超えた鍛錬をしようとした時と同じ感覚。ただでさえ少ないのに、燃費が最悪な鎖鋸剣を使ったのだ。こうなって当たり前だった。
端的に言ってしまえば呪力切れ。情けない話だった。俺は遠くなる意識に抗うことも出来ず、その場で意識を失うのだった。