世界が待ってる この一瞬を(絶望) 作:リョオオオオイキテンカァァァ!!
「安心しろよ……俺なら殺してやれる。オマエの魂を、書き換えてやる……!」
真人は俺の目を見て、そう言い放った。
一体どういう意味なのか、俺には理解できなかった。不意を突かれた一撃、真人は確かに掌で俺の身体に触れ、術式を発動したはずだ。
だと言うのに、俺は姿を変形させられるどころか、全くの無傷。それから俺の反撃を喰らった真人は俺を人間でないと言い放った。
まさか……俺の蘇りの能力に気づいている?一体どうやって?疑問は尽きないが、そう考えるのが一番自然な気がする。
そしてその能力に気づいた上で、真人は俺を殺せると、そう言い切ったのだ。
「……何のことだか、よく分からんが」
俺は改めて刀を握る手を強くする。俺は真人の顔面の、鼻から零れ落ちる血を眺めてから口を開く。
「どうやら俺の攻撃もお前に効くようだな……魂が何とか、一切分からんが、その事実だけで十分だ……祓ってやるよ」
「……はっ、いいね。殺る気は十分ってわけか」
そのやり取りを皮切りに、真人の方が動きを見せる。刀の切っ先を真人へと向け、俺は迎撃するように踏み込んだ。
真人は再び口から複数の改造人間のストックを吐き出し、その場で人型へと変形させる。
「行け」
そう言うと、四体ばかりの改造人間達は雄叫びを上げ俺の方へと迫る。俺は先程のように不意を突かれないよう、真人の位置に注意して、目の前に迫る改造人間の対処を行う。
刀を振り、最前の改造人間を斬ろうとした時、その改造人間は急激にその身体を膨張させる。変形していく身体はやがて針の様な形となり、俺の顔面へと急速に伸びる。
時間差での改造人間の変形。他の改造人間達も続けて姿を変形させる。槍、ハンマー、球体と様々な形へと姿を変える改造人間達。
俺は首を傾け、寸前に迫った針を躱してから叩き折る。次いで迫り来るハンマーを飛び退き躱し、槍は刀で受け流す。最後に変形した球体は俺に近づくや否や爆発し始めた。
また目くらましかと思いきや、なんと爆発した内部より小さな体躯の全身縫い目の子供、真人が現れる。
俺は思わず奥に立っていたはずの真人に視線を向ける。ピクリとも動かず立ち尽くしているその身体は分身。本体は改造人間の内部に紛れていたのだ。
両手を広げ、俺につかみかかろうとしてくる真人、俺は両断するつもりで刀を振り下ろす。
刀は真っすぐに真人の身体へと向かうが、刀が触れるより早く、その身体が分裂する。
刀は空を切り、半身となった真人が叩くように俺の胸に触れる。
「ッ!?」
まるで臓物を触られたような気持ちの悪い感覚。俺は思わず身を強張らせる。
「あはっ!今回のは効いたか!」
真人は分裂させた身体を元のサイズの身体に戻し、自身の掌を見つめながらそう呟く。
これが、魂を触られると言う感覚。
まだ体に変化はない、だが確実に先程と違う、魂に触れられたという事実を確信する。
(時間差での術式発動、改造人間同士の複合に自切や分身……聞いた話より大分出来る事の幅が広い!)
俺は真人のこれまでの行動を分析し、その内容に戦慄する。
もう既に元のサイズにまで戻った真人は、再び両手を口にあてがう。恐らくストックの改造人間を取り出そうとしているのだろう。
改造人間を利用し俺の隙を作りだし、本体の掌で触れる。俺の攻撃が効く事を理解したからか、安易に攻め込むリスクは冒してはしてこない。
なら、このまま奴のペースに乗るよりは、こちらから動くべき。
「『
四肢に枷を嵌め、呪力を介して動きの速度を上げる。一分間と言う短時間での運動性能の上昇、相手の改造人間のストックの数が分からない以上、手早く攻めるべきだ。
俺は一歩一歩飛び込むように進み、距離を詰める。上昇した俺の速度に真人は目を見開き、咄嗟に手にした改造人間を重ね合わせた。
「『
改造人間同士の融合攻撃、小さな魂同士はぶつかり、混ざり合い、巨大な顎となって俺を喰らわんとする。
俺は素早く、回転するようにその攻撃を躱すと、改造人間の裏にいる真人本体へ刀を向ける。
真人は腕を刃の様に変形させ、その腕を俺の刀へ打ちつける様に振る。金属同士が弾ける音と共に鍔迫り合いが起きる。
だが走りこんだ分俺の刀に乗った威力が勝る。刀が真人の腕を打ち砕き、その腕は欠けるように削れる。
「やっば!!」
真人は腕を引っこめると、後ろへと飛び退きその場を離脱する。行き場を失った刀が地面へと突き刺さる。
俺は刺さった刀を引き抜き、離れた真人を追いかける。
真人は欠けた腕を肉体の再生を行うように生やす。一見して無傷の状態に戻ったが、本人のリアクションから考えるに、アレは外見だけを取り繕ったに過ぎない。
欠けた腕の分のダメージはしっかりと入っているはずだ。真人に追いついた俺は、刀を袈裟斬りに振るう。
真人はいつの間にか取り出していた二体の改造人間を、今度は剣の形に変え、両手に握る。
刀と剣がぶつかり合い、再び鍔迫り合いが発生する。しかし一刀のこちらに対し相手は二本の剣を握る。真人は空いた方の手で剣を振り、俺の腹を裂こうとする。
俺は刀の柄を握る手の形を変え、掌印を結ぶ。
「『
迫って来る方の剣を鎖で受け止める。そのまま俺は、左足を前方に投げ出し、真人の腹に向け、前蹴りを繰り出す。
足が真人の腹にぶつかるその時、真人は上半身と下半身を分断させ、腹の部分を網の形に変える。
俺の足は網に沈み込むようにして捕らわれ、身体の自由を奪われる。
「捕まえた!」
にやりと笑みを浮かべた真人は剣から片手を離し、再び俺の身体に触れようと掌を伸ばす。
足を捕らわれ、回避もかなわない。俺は迫りくる掌を回避することをあきらめる。
もう既に一度喰らった攻撃だ、もう一度耐えられる根拠はないが……奴の台詞から考えるに、俺には耐性があると考えていい。
俺は刀から手を離し、両手を握りしめ、拳の形にする。
避けれないなら、カウンターに徹する。俺は迫って来る真人の顔面に狙いを定め、拳を振るう。
俺の拳が真人の顔面に衝突するのと、真人の掌が俺の腹へ触れるのは、ほぼ同時だった。
言い難い気持ちの悪さ、それから加わる、確かな痛み。
「……ッ!!」「がっ!!」
真っすぐに飛ばされた両拳による打撃は真人を後ろに吹き飛ばす。
「痛み分け、ってところ?」
真人は顔面を拭うようにしてそう言うが、まだその顔には余裕が存在していた。
単純計算でお互い与えた攻撃の回数は二回。だが一発当たりのダメージの量が違う。俺自身の魂の状態がどうなのかは分からないが、真人に触れられる度、その影響は大きくなってきてる。
恐らく、奴は触れる度、その数だけコツを掴んでいるのだろう。後何度耐えることが出来るか、依然として不明なままだった。
このままぶつかり合えば、先に果てるのは俺だろう。『纏繞鎖』は後三十秒程度、圧倒的に攻撃力が足りていないこの状況、短期決戦には不利であった。
それでも、攻め手を緩めるわけにはいかない。
俺は落とした刀を拾い上げると、膝を曲げ、地面を踏み締め、跳び込む。真人との距離を詰める。
対する真人は右腕を変形させる。掌の中央に穴が開き、そこから小さな改造人間が連続して射出される。
弾丸のように加速するそれを空中で躱し、着地と同時にその場を駆け出す。
後数歩の距離まで近づいた段階で、真人はもう片方の左腕を巨大な砲へと変化させる。砲から放たれた巨大な改造人間の弾は、俺の付近の地面に着弾すると同時に爆発する。
弾けた砲弾から発生した煙が視界を塞ぐ。また、目くらましを利用してこちらの身体に触れるつもりだろう。
俺は煙越しに真人の居た地点へと刀を投げ出す。しかし刺さったという感覚はない。真人は既にその場を移動していた。
真人を探し、辺りを見渡すが、煙で覆われ接近を確認できない。俺は視覚での判断をあきらめ、目を閉じる。
呪力感知に意識を注ぐ。真人は意図的に呪力を消したり出したりしてくる相手だ、捉えることは簡単ではない。だが、術式を発動する手前、確実に呪力は起こる。
閉じた瞼越しに、呪力を見る。現れた呪力反応に俺は体を捩じり、その方向へと拳を飛ばす。
感覚を頼りに、半分勘で放った俺の拳は真人の顔面を捉え、その掌が俺の身体に触れるより早く真人を吹き飛ばす。
真人の身体が風を切り、煙が晴れる。飛ばされた真人は足から着地し、足の裏が地面を擦る。
「……やるじゃん」
だらりと、真人の口の端から血が滲む。それと同時に、俺の四肢から手枷足枷が外れる。『纏繞鎖』の効果切れだ。
視線を外れた枷へと落とし、目を瞑る。
不思議な感覚だった。相対しているのは自分より格上の、特級呪霊。今もなお、いつ死んだっておかしくない状況だ。
奴の掌が身体に触れる度、確かに感じた、本当の意味での死の感覚。その感覚が、何かを呼び起こそうとしていた。
忘れていた何かが思い出される様な、五感が研ぎ澄まされる様な、不思議な感覚。
俺は目を見開くと同時に、術式を使い、刀を遠隔操作で手繰り寄せる。
「……威力も上がってる、ここからが本番ってわ…け……」
真人は立ち上がりながらそう口を開くと、その言葉を途中で中断させる。その目線は俺ではなく、更に向こう、俺の背後へと向けられていた。
視線誘導からの不意打ちの可能性が高い。俺は背後には目を向けず、真っすぐに真人を視界の中央に置いたままにする。
「黒鉦先輩!!」
しかし、聞こえてきたその声に俺は驚き、振り向く。そこに居たのは、ボロボロの高専制服を身に纏う、虎杖君だった。
「虎杖君……?」
五条先生救出のためにやって来たのだろうか。地上では先程から大きな呪力の爆発の様なものが多発していた。きっと彼も何かに巻き込まれていたに違いない。
だが、見たところ大きな怪我はない。このまま二人掛かりで挑めば、真人を祓う事も……。
そう考えていた時だった。どろり、と地面から不気味な呪力があふれ出す。
辺り一面を覆うように漏れ出るその呪力は、間違いない、真人のものだった。
まさか、そう思い俺は真人の方を振り向く。そこには口を大きく開く真人が居た。
その口内では二対の手が生やされており、掌同士を重ね合わすように印を結んでいた。
「領域展開」
結界が展開されるよりも早く、その場を駆け出すが、間に合わない。
「ッ!?せんぱ__」
結界に覆われる寸前、悲痛な表情でこちらに駆け寄る虎杖君の姿が見えた。
「『
あっという間に結界は構築され、景色は変わる。辺りは巨大な腕が手と手を繋ぎあう、不気味な空間へと変貌していた。
「『
真人が手を翳すと同時に、身体に異変が訪れる。汗が全身から吹き出し、平衡感覚を失う。
その場に立つことも難しく、なんとか膝を屈めてその場に踏みとどまる。
状況は最悪だった。腹の中を探られる様な感覚もだが、なによりも俺を閉じ込めるこの空間が最悪であった。
真人が、徒党を組んでる特級呪霊が領域展開を習得している事は知っていた。領域は呪力消費も大きい。無意識下で、俺単体に使用することはないだろうと、どこか油断していた。
領域内では術式が必中になる。当然、魂に干渉する真人の術式も例外ではなく、今の俺はまさに真人の掌の上に置かれているようなものだった。
必中必殺の強力な領域展開。
早く拳銃を取り出し、自死を図ろうとするが、手が震え、まともに制服内の拳銃に触れることが出来ない。
領域内からの自力脱出は不可能。外に居た虎杖君が外部から領域を破壊しようとしてくれているかもしれないが、それまでに俺の魂がもつかは不明。
真人の様子を見るに、もって数秒の猶予だろう。
ここまでか。心の中、諦観の二文字が心を覆いつくす。
真人は俺を殺せると、そう言っていた。今までは死んでも次があったが、今回は別。
死んだら、ただ無が待っているだけの、終わりが待っている。
目を瞑り、諦めてしまおうかと考える。
『……死んだら呪いますからね』
目を瞑った途端、そんな言葉が頭の中に響く。それは何時だったか、恵が俺に送った言葉だった。
『私らも、アンタにはまだ色々言いたい事があんだよ……死ぬなよ』
走馬灯と言う奴だろうか、次々と記憶が蘇る。しかも記憶の中の人達は、誰もが死ぬなと、そう言ってくる。
『お前はさ……長生き、しろよな』
もう声を思い出すのも大変だったはずなのに、そんな言葉が、脳内に響く。
『結……生きて、生き残って……』
俺は、倒れそうになる身体を、地面を踏みしめ、持ち直す。目を開き、真っすぐに敵を見つめる。
意識が、朦朧とする。自我が消失していくようだった。それでも……。
左手で掌印を結び、その震える腕を真っ直ぐに伸ばす。
「今更なにを……」
それは、死に際に放った最後の悪あがき。だが、その本番はここからだった。
俺は掌印を結んだままの手を、真人の身体へと向け、もう片方の手で刀を振り上げる。
息を吐き出し、意識を呪力操作に集中させる。この技は、成功した試しがない。
だが、どちらにしろ出来なければ死ぬだけだ。術式の解釈を広げろ、常識に囚われるな、術式の対象を人から、空間に。
俺は神経を研ぎ澄まし、術式に呪力を流すと同時に、刀をその場で振り下ろす。
イメージは、空間を立体的に箱として捉える。
俺の身体を覆う箱と、真人の身体を覆う箱。その二つを鎖で結び、繋ぎ合わせる。通常、箱と箱を繋ぐには鎖を縮める過程が必要だ。
その工程を、限りなく密に、一つへと纏める。
繋がれた箱同士はやがて一つの箱となる。それはまるで、最初からそこに空間など無かったかの様に、一瞬にして距離を無にする。
術式順転
「『
過剰なまでに注がれた呪力は伝い、満ちる。術式の形となり、空間を繋ぎ合わせる。
先程まで遠方に映った真人の顔は直ぐそこまでに近づく。その表情は、まだ事態を理解できていないかのように、平然としていた。
奴の表情が驚きに変わる前に、俺の振り下ろしていた刀の刀身が奴の肩へと触れる。
それは、予感だった。今まで一度だって成功した事ない『斂』の成功に、自分の中の感覚が極限まで研ぎ澄まされているのを理解した。
そこに、わずかな高揚感が加わり、確信へと変わる。
刀身が触れたその瞬間、刀へと込められた呪力が色を変える。
暗い領域の中を奔る、一筋の黒い閃光が真人の身体を斬り裂いた。
黒閃
真人の肩から胸にかけてを、一筋の線で斬り裂く。それと同時に領域を覆う黒い外殻が崩壊を開始する。
俺は霞む視界に最期、願うような、祈るような、そんな表情を浮かべる虎杖君を目にした______