世界が待ってる この一瞬を(絶望)   作:リョオオオオイキテンカァァァ!!

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2話

 ドゴン!!ヤツ(特級)の放った呪力弾が俺の背後の壁に当たり大きく崩れていく。コンクリの壁が崩壊した事によって細かい砂埃の様なものが舞う。そしてその一閃をついて拳がやって来た。

 

 「っ!!」

 

 俺は何とかその一撃を横跳びに躱す。しかしそれでもヤツの猛攻は止まらない。そのままさっきまで俺が居た位置からは無数の細かい呪力弾が飛ばされる。どうやら一撃の火力より弾数を増やして当てる事を優先させたらしい。

 

 躱すより受ける方が容易だ。そう判断した俺は右手で掌印を組む。

 

 「『掩蔽(えんぺい)』」

 

 そう呟くと同時に俺の目の前の空間に僅かな歪みが生まれる。そしてその歪みから伸び出る様にして無数の細かい()が飛び出す。

 

 呪霊から放たれた呪力弾は俺の出した『掩蔽』の鎖に弾かれ霧散していく。全ての弾が撃ち切られた後、俺は右手の掌印と共に術式を解き呪霊の様子を伺う。

 

 「ガァ、ガァアアアア!!!」

 

 憤った様な叫び声が呪霊の口から発せられる。それは自分の攻撃が俺に通らない事に対する苛立ちか。何だか目の前の呪霊が幼子の癇癪を起こす様子と重なって見える。

 

 先程から3回程度こういった攻撃のやり取りが行われていた。攻撃、と言っても俺からの攻撃は皆無で、防戦一方と言う様子であった。俺が攻撃に出ない理由は主に3つ。

 

 1つは単純に俺の攻撃の効き目が薄いからだ。初撃を与えた段階で気付いたが、アイツは俺基準で相当硬い。全身を絶えず呪力で覆っているから常に呪力で防御をされている様な感覚だ。

 

 2つ目は単純にこれ以上この呪霊を刺激したくない。もう既に底知れない呪力で暴れ回っているのに、さっき一撃を与えて以降明らかに呪力出力が上がっている。これ以上刺激したり、仮に瀕死まで追い込んでしまった場合何をされるか分かったものじゃ無い。

 

 3つ目。これが一番の懸念点。アイツの術式の全貌が見えない事だ。少年院(生得領域)に入った時点である程度警戒はしたが未だ特級呪霊による術式の使用は見受けられない。術式とは自身の内面に棲む刻まれた心の様なもの。ここまで具体性のある生得領域を生成できるだけの呪力があるなら術式を使われても不思議じゃない。

 

 だが、使ってこない。生まれたばかりの呪霊だからとか、生得領域の生成に容量(メモリ)を使いすぎて術式が使えないからか。色々考えてみたがどれもしっくり来ない、一番腑に落ちたのがそもそも術式を持っていない(・・・・・・・・・)と言う結論だが、それにしては呪力量が多すぎる。

 

 強い呪霊。つまり呪力量の多い呪霊程知能を持つ傾向にあるとされる。知能があるからこそ、己の内に眠る術式(それ)を知覚できる、だから準一級以上に区分される強い呪霊には術式があるのだ。

 

 だが目の前にいるコイツは呪力量なら一級以上の量であるはずなのに術式を使用せず、呪力だけでこちらを潰そうとしてくる。その印象が何だかチグハグな、未完成(・・・)な印象を受ける。

 

 「ギィイィア!!」

 

 そんな事を考えていると、呪霊の方が痺れを切らした。何も行動をしてこない俺を待ち切れないのか、再び呪力が集約する。

 

 コイツは速いし強い。だが呪力の流れが読み易いためある程度予測して行動ができる。俺は呪力の流れに敏感になりながらヤツの攻撃を待つ。

 

 放たれた呪力弾は強力なものが1つとそれ以外の弱めのものが5発程度。弱い攻撃で俺の行動を誘発してそこに本命の一撃をいれたいのだろうと、俺は予測する。

 

 術式は使わない。俺の勝利条件はコイツを倒せる術師の応援が来るまで耐えること。ただでさえ呪力量が少ない俺が術式を連発しては持久戦には勝てない。最低限の呪力強化のみで回避を選択する事にした。

 

 体幹を崩さない様に、右へ、左へ、体を捻らせ攻撃を回避していく。

 

 「ギャ!!」

 

 大きめの呪力弾を回避したその次、ヤツは再び大きな呪力を集約し、それを打ち込んできた。しかし躱せない距離じゃない。俺は後ろに飛び跳ねる様にして回避しようとした。

 

 「っ!?」

 

 が、その目論見は外れた。呪力弾の軌道が急激に変わったのだ。普通、放たれた呪力はここまで角度をつけて曲げる事は術式無しには不可能だ。ならば術式を使ったのか……いや、生得領域か。領域内ならある程度アイツが有利になるように環境が働きかけるはずだ。

 

 今まで真っ直ぐだったのは全部これを当てるための偽造(ブラフ)だったか、それとも今思い付き、呪力操作を行ったのか。どちらにせよ不味い状況だった。

 

 「『掩蔽(えんぺい)』!!」

 

 空中での回避は不可。ならば術式での防御を。俺は両手で印を結び俺の目の前に無数の鎖を発現させる。両手で行う事で術式効果の増加を図ったのだ。

 

 しかし、俺の狙いはとことん外れていく。俺が術式を使って阻もうと思っていたヤツの呪力弾は『掩蔽』の鎖に当たることは無く、その更に下、俺の着地する予定の地面へと衝突した。

 

 「しまった……!!」

 

 2段階のチェンジアップ。それが呪霊の狙いだったのだ。俺は地に足を着ける事は叶わず、コンクリートの地面の下に広がる広い空間に身体が投げ出された。

 

 「ケケケ!」

 

 いつの間にか迫っていたのか、俺の落ちて来た穴から覗き込むようにやって来た呪霊は、宙に浮き無防備を晒す俺の腹に一撃、大きな蹴りを浴びせた。

 

 「がぁっっ!!!」

 

 肺から空気が抜ける様だった。それから俺は広い空間の地面に叩き落とされ、その衝撃が身体に奔ると同時に意識を失った…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ガァ、ガァアアアア!!!」

 

 憤った様な叫び声が呪霊の口から発せられる。それは自分の攻撃が俺に通らない事に対する苛立ちか。何だか目の前の呪霊が幼子の癇癪を起こす様子と重なって見える。

 

 画面が切り替わるように、視界がついさっきの光景に映り変わる。今回俺の視界には影に飲まれる釘崎ちゃんの姿は映らず、代わりに雄叫びを上げる呪霊の姿が映った。どうやら復活地点(セーブポイント)が変わったようだ。

 

 「更新されんのかよ……」

 

 俺は自身の身体に降り掛かった異変に不気味な不快感を覚える。原理も仕組みも分からない、どういった理由で俺の体は変わってしまったのか。そんな疑問は尽きないが、今は目の前の呪霊(特級)に集中だ。

 

 呪霊は再び呪力を集約させると俺に向かいそれらを放ってきた。飛来するのは複数の小さな呪力弾と大きな呪力弾が1つ。さっきと同じ内容の攻撃だ。ならば。

 

 俺はさっきと全く同じ様にヤツの攻撃を躱す。体幹を崩さず、右へ、左へ、同じような回避を続ける。すると、やはりと言うか当然と言うか、呪霊は再び大きめ呪力弾を俺に向かって放ってきた。この攻撃は2段階変化をするものだ。

 

 俺はここでも同じように(・・・・・)後ろへ跳んで回避をする。当然俺の動きを読んでいたその呪力弾は軌道を変え、空中にいる俺の方へ向かってくる。そのまま飛んでくる呪力弾に合わせて掌印を組む。しかし、今度は片手で。

 

 「『掩蔽(えんぺい)』」

 

 その言葉と共に俺の目の前に細かい鎖の層が発生する。しかし今回は前回と比べて量も密度も少ない、このレベルの一撃を受け切るには不安の残る防御だ。しかし、これでいい。

 

 そのまま知っていた通りの展開が起こる。手筈通り2段階目の軌道変更を行った呪力弾は俺の着地予定の足場を潰し、落とし穴の様に穴が開く。

 

 それを見ると同時に、俺はもう片方の余っている左手で掌印を組む。そして、丁度俺の体が穴の中に入り、ヤツの視界から消える頃口を開く。

 

 「『鉤鈎(かぎつる)』」

 

 瞬間俺が掌印を構えた状態で伸ばした手の先から鎖が発現する。それは『掩蔽』のものよりよっぽど大きく掌で掴めるサイズの物だ。鎖の先も『掩蔽』のものとは大きく異なる。鋭利な、槍の先端の様なものとなっていた。通常、呪霊に対して突き刺したりするための攻撃の術だが、今回は用途が異なる。

 

 俺は落ちた先の空間で宙に浮いたまま、天井にそれを突き刺し、持ち手側の鎖を握る。宙にぶら下がる様にしてじっと落ちて来た穴の方を眺める。するとしばらくもしない内に待ち構えていたヤツの姿が現れた。

 

 自分の誘導に乗って無様にも無防備を晒す俺に追撃を入れるためやって来たであろうソイツの表情は正に嬉々としており、それはそれは新しい玩具を与えられた子供の様に楽しそうであった。

 

 しかし、その表情もすぐさま一転した。勢い良く降りたは良いが、肝心の落下中であるはずの俺の姿が見受けられないからだ。そして俺はそんな呪霊に向かって鎖にぶら下がったまま両足を振り上げ、

 

 「お前が落ちろ」

 

 呪力を足に集中させ一息に振り下ろす。ゴウン、という人を蹴った、と言うよりはボウリングのボールでも蹴り飛ばした様な音が響き、直後俺の蹴りを喰らった呪霊は下へと蹴り落とされていく。

 

 「ガァァ!!?」

 

 完全な不意打ちだったからだろうか、思ったより深く入った蹴りはそれなりの速度で呪霊を飛ばした。それでも俺が死んだ時程ではないだろう。この呪霊と俺では膂力と纏う呪力量に差がありすぎる。

 

 とにかく、俺は呪霊が下に落ちていく姿を確認し、急いで鎖を伝い穴から地上に出る。まだ恵からの合図は来ないが、このまま戦っていてはさっきの様に殺される可能性が高い。逃げつつ時間を稼ぐのが吉だろう。

 

 そう思って俺は虎杖君と恵の走って行った出口の方に駆け出す。

 

 「アアアアアアアア!!!」

 

 しかしそう上手くは行かなかった。地面に割れる様なヒビが入る。不味い、崩壊する。そう悟った俺はその場から飛び交う様にしてとにかくヒビの入っていない地面を目指す。

 

 が、間に合わない。勢いよく破られた地面は俺の考えるよりも早いペースで崩れて行く。それでも何とか下の階に落ちる事だけは避けようとその場から大きく飛び跳ね、飛び込むように遠くの足場に飛び移る。

 

 半ば転がるように、それでも何とか崩落してない地面にありつく。

 

 「フゥぅゥゥゥ…!!!」

 

 それでも状況は最悪であった。息巻くような、そんな呼吸音を聞いて俺は転がった状態のまま顔だけを向ける。そこには土や瓦礫により汚れ、所々傷を負って青紫の血を流すヤツの姿があった。

 

 すぐ立ち上がらなくては死ぬ。本能でそう悟る。だが勢い良く飛び込んだ事が災いしたか、左足にズキリと痛みが走った。どうやら負傷したようだ。

 

 間に合わない。そう判断して術式を発動しようと掌印を組むが、言葉が出ない。何を使えばいい?俺の今持つ術式では今からやってくる攻撃を防ぎ切れない。『掩蔽』では駄目だ。両手で使えば数発は防げるかもしれないが、その数発を越えれば目の前の怒りに満ちた呪霊に嬲り殺されるのは確定だろう。

 

 しかし『掩蔽』で防げないならどうすれば?『鉤鈎』で攻撃してもそれは致命傷にならない。

 

 詰み。その一言が俺の脳内を埋め尽くす頃、声が響いた。

 

 「黒鉦先輩!!」

 

 名前を呼ばれた事に驚き、一瞬思考が止まる。それから声の方向に目を向けようとした瞬間、俺の頭部に重い痛みが奔った…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間に合わない。そう判断して術式を発動しようと掌印を組むが、言葉が出ない。

 

 ここかよ!!俺は思わず声に出そうになるのを堪える。目の前には既に攻撃を行う体勢へと移行している呪霊の姿が映った。この状態からどうすれば良いって言うのか、俺は理不尽なこの状況に憤りを覚える。

 

 出来ることは、無い。ならせめて情報を、と思い俺は耳を澄ませる。激しい自分の動悸の音と、呪霊から発せられる怒りの吐息。その間、確かに遠くから声が聞こえた。

 

 「黒鉦先輩!!」

 

 それは確かに俺を呼ぶ声だった。俺を呼ぶ方向を見るとそこには高専の制服に身を包んだ少年、明るい髪色と何処までも真正面な目線が特徴な少年だった。

 

 「虎杖君……?」

 

 俺がそう言うと同時に、頭に鈍い痛みが加わり、俺の意識は闇に包まれた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 間に合わない。そう判断して術式を発動しようと掌印を組むが、言葉が出ない。

 

 相変わらず絶望的な状況からのリスタート、いっそ笑えて来そうだ。だが、得るものはあった。どう言う理由かは分からないが虎杖君が戻ってきた様だ。彼のあの性格だ、恐らく俺を置いていく判断に納得しきれずに戻って来たのだろう。

 

 もしそういった経緯なら褒められた事ではない。集団行動では集団の行動方針に従うべきだ。だが、それを咎められる程の余裕も俺には無い。もし俺を助けに来てくれたのならその意思に是非とも乗らせてもらおう。

 

 俺は右手の掌印を呪霊の方に、左手で組んでいた掌印を左前方、虎杖君がやって来た方向に向ける。そして待つ、絶望的な、死が目の前にある状況だが、俺に出来るのはそれくらいだった。

 

 やがて、虎杖君の恐らく靴先だろうか、彼の片鱗が目に入ると同時に言葉を紡ぐ。

 

 「『掩蔽(えんぺい)』『鉤鈎(かぎつる)』」

 

 右手と左手の掌印でそれぞれ異なる術を発動させる。俺と呪霊との間に複数の細かい鎖の壁が生まれ、左手の先からは勢い付いた鎖が虎杖君の方へと伸びていく。『掩蔽』は呪霊の初撃を防ぎ、時間を稼ぐため。『鉤鈎』はこの状況からの脱出のため。

 

 「黒鉦先って、何だコレ!?」

 

 当然、急に飛来してきた鎖に驚く虎杖君。俺はそんな彼に向かって肺一杯に吸い込んだ空気を吐き出し叫ぶ。

 

 「虎杖君、引けっ!!」

 

 ガシャン!!俺と呪霊との間にある『掩蔽』の鎖が砕かれ、呪力となって霧散していく。次の一撃は防げない。虎杖君が俺の意図を汲んでくれるかに全てが懸かっている。

 

 「!!」

 

 目線が、虎杖君と合う。すると、彼はこちらが驚く程の早さの反応で『鉤鈎』の鎖を握り締め、そして力一杯に引き抜いた。

 

 身体が引きずられる様な感覚の後にグワンとした浮遊感を得る。ドスン!という力強い音が聞こえ、俺が倒れていた地点には大きな砂埃が舞っていた。俺は掴んだ鎖を通して虎杖君に引き上げられる様にしてその場からの脱出に成功した。

 

 想像よりも虎杖君の鎖を引く力が強く、俺は空を飛ぶように投げ出された。それから両手で受け身をとって着地をし、それから虎杖君の方へ駆けて近づく。走り出すと左足の負傷を負った箇所からズキンと痛みが加わる様だった。

 

 「……良く反応できたな、今の」

 

 俺は出来るだけ気負ってない風を装って、そう呟きつながら虎杖君の様子を伺う。

 

 「いやビックリしたけどよ。先輩ヤバそうだったし、反射的に引っ張ってた」

 

 「そうか」

 

 長く話す間は無い。悠長に話してる間に死亡なんてシャレにならん。出来るだけ簡潔に、それでもこの戦闘中お互いに背中を預けられる様に意思の疎通は行う必要がある。

 

 「恵は?」「釘崎連れて外」

 

 「虎杖君は?」「先輩助けに」

 

 「そうか……」

 

 俺はこれを言うべきか一瞬悩んで、それから口を開いた。

 

 「何で来た?逃げろって言ったろ」

 

 俺の言葉に虎杖君は少しだけ言葉を詰まらせ、ゆっくり息を吐き出すように言った。

 

 「……正直、俺特級呪霊(アイツ)が怖いし、逃げ出したかったけど、先輩に言われて、何で呪術師になるか思い出して、それで」

 

 そこまで言ってから虎杖君は瞬きより僅かに長い時間目を瞑り、ガッと目を開いた。その目には確固たる強さの光が宿っていた。

 

 「生き様に後悔はしたくないって、そう思ったから」

 

 はっきりと淀みない通った声だった。その眩し過ぎるくらいの言葉に俺は自分の中の何かが叩き直される、そんな衝撃を受けた。

 

 「そうか。じゃ生き延びろよ」

 

 「……っ!!応よ!」

 

 頼もしい返事声を耳にした俺は自然と戦闘体制へと身体の意識を切り替え、自身の中の呪力の流れに集中する。

 

 「ガァ、ギアァアァア!!」

 

 何度も俺を仕留め損なった事に対する怒りか、ヤツは咆哮と共に先ほどよりも更に呪力出力を上げた。

 

 「攻撃後離脱(ヒットアンドアウェイ)だ!虎杖君、俺たちの目的は逃げと攻撃を繰り返して時間を稼ぐ事だ!」

 

 俺はそう言って手印を組んでから言葉を続ける。

 

 「俺の術式は呪力の鎖を生成したり操作したりできる。俺は後方から鎖による援護を行う、君は攻撃を仕掛けてくれ、俺が離脱のタイミングを作る」

 

 そういうや否や虎杖君は短い返事と共に地面を踏みしめヤツの方に向かって行った。

 

 率直に感想を抱く。速い動きだ、恐らく俺よりも俊敏性が高いし、手にしてる呪具も近接戦闘用の短刀だ。恐らく虎杖君は俺とは異なる近接戦闘型(インファイター)だ。前衛と後衛を分けるなら彼を前衛とした方がいいと判断する。

 

 虎杖君は呪霊に向かって懐に近づこうとするが、先に仕掛けて来たのは向こうからだった。

 

 「っ!?」

 

 横薙ぎに振るわれる右腕、スライディングの要領で彼は器用にその攻撃を交わす。だが反応が遅い。呪力の流れをまだ読み切れていないのか、単純な反射神経だけで躱している様だった。

 

 次の一撃を避け切れる保証は無い。俺はその様子を見て援護の為に術式の発動を準備する。

 

 「『穿孔(せんこう)』!」

 

 言葉と共に俺はわざとらしく呪力を大きく乱れさせる。目立つ様、声にだって呪力を乗せる。洗礼された呪術師程呪力の流れは凪の様に穏やかだ。時と場合によっては異なるだろうが、その理由は単純で呪力の流れから術式の発動タイミングが呪霊や呪詛師に悟られるからだ。しかし俺はそれを理解した上で呪力を乱す。

 

 「!!」

 

 当然俺の呪力の起こりには目の前の呪霊も気付いたようで、警戒の対象を虎杖君から俺に移し、目線がこちらに向けられる。だが、それこそが俺の狙いであった。

 

 「アァ?」

 

 ワザとらしく揺らした俺の呪力は炎の様に揺らいで見えただろうか、だが俺の周りには術式の鎖は現れてないし、ヤツに対する攻撃の手段足り得るものは何一つなかった。それもそもはず、今回俺が使用した『穿孔』は鎖の発生ではなく操作(・・・・・・・・)。操作対象は俺の呪力でマーキングした鎖。

 

 ビュンッ!勢い良く風を切る音共にそれはやって来た。

 

 「ギャァァ!?」

 

 痛みを覚え、呪霊の口から悲鳴が上がる。ヤツの腹には背面から飛んで来た鎖付きの鎌(・・・・・)の刃先が初撃の傷を抉る様に刺さり続けていた。

 

俺の術式対象は、初撃以降呪霊によって投げ飛ばされていた鎌の呪具であった。ヤツの視界の外に行くよう、俺は呪力で注意を引いたのだ。

 

 明確な隙だ。痛みからかヤツの身体を覆う呪力に大きな乱れが生じる。俺はそれを確認すると同時に大声で叫ぶ。

 

 「今だ!!ぶち込め!!」

 

 俺がそう声を張るとその声は目的の彼に届いた様で、既に右手に持つ呪具を構えていた。

 

 「らあ!!」

 

 勢い良く振られたその一撃は速く、鋭利だった。近接が得意であろう虎杖君の一撃は風を切る音すら追い越してヤツの首元一点に突き進み……!

 

 

 

 

 

 ポキリと音が溢れると同時に彼の手に持つ呪具の刃が折れていった。

 

 「……は?」

 

 瞬間、殺気と戦意に満ちていたその空間に沈黙が訪れる。空気は困惑と絶望の二色で彩られていた。

 

 何故、何故何故何故。と頭の中で必死に繰り返す。明確な隙だった、急所である首元を晒す程度には。虎杖君の一撃は綺麗に入った。刹那を縫うようなそのひと針を彼は通した筈だった。

 

 ならば何故、と考えている内に呪霊の方から動きが見える。

 

 「っ!?虎杖君!!」

 

 俺は必死に彼に呼びかけるが、自分の得物が折れた事によるショックからか彼の反応は遅れる。

 

 蹴り上げた呪霊の足は虎杖君の腹部を捉え、彼はサッカーボールの様に勢い良く壁に飛んで行った。その光景を見て、あぁ、とやっと気づく。

 

 勘違いしていたのだ。近接格闘型(インファイター)を思わせる程素早く、人間離れした身体能力に、これは呪力強化によるものだ(・・・・・・・・・・・・・)、って。

 

 しかしそれは俺の勘違いで、彼は攻撃を受けるその瞬間も、彼自身が攻撃を仕掛ける瞬間にも呪力を纏っていなかったのだ。ドン!と、虎杖君が壁と衝突する音を聞いて、それから俺はようやく頭の中で整理を終えた。

 

 彼が呪具を持っていた理由は真希(まき)ちゃんと同じ、普通の術師が自身の呪力を呪具に上乗せして殺傷能力を高めるのとは別で、彼自身が呪力を持たないか、呪力を練れないか(・・・・・・・・・・・・・・・・・)のどちらかの理由だろう。

 

 どれだけ勢い良く振るわれる呪具も特級レベルの呪力には勝てない。呪術師では常識だが、膂力じゃ呪霊は祓えない。力任せに振るわれた彼の攻撃は目の前の圧倒的な呪力量を持つ呪霊には敵う道理が無かった。

 

 気付くと先程まで怒りに顔を歪ませていたヤツの表情に変化が訪れていた。ニタニタと、最初に姿を見せた時と同じ様な気味の悪い笑みを浮かべてこちらを見ていた。呪霊は人の負の感情から生まれる生き物だ。だからこそ、そう言った類の感情に敏感なヤツは俺の感じる落胆と動揺の負の感情を感じ取ったのだろう。

 

 バキリ、今度も刃の折れる音。狙われたのは呪霊の腹元に刺さっていた俺の鎖付きの鎌で、それをヤツは見せびらかすように両手で握り潰し、潰された呪具は無惨にも散っていった。

 

 「……ちっ!」

 

 俺は恐怖を拭う様に大きく舌打ちをして感情を誤魔化す。恐怖は呪力に、今はこの場を凌ぐ事を考えろ。

 

 そう思って次の手を探るよう両手で手印を構えた時、枯れ切れる様な震えた大声が空間に響いた。

 

 「ぜ、先輩!!!すく、はぁ、宿儺に代わる!!俺が全力でコイツ足止めするから、今すぐとにかく遠くに逃げてくれ!!」

 

 虎杖君の声だった。俺は驚いていつの間にか呪霊の後ろに立っていた彼の姿に目を奪われる。呪霊に吹き飛ばされた彼の頭からはドクドクと血が流れ続けていて、その血が汚れだらけ、所々破けている黒い制服に滴っていた。

 

 あの一撃を受けて、無事だったのか。俺が色々な意味で驚いてると虎杖君は息も絶え絶えと言った様子で言葉を続けた。

 

 「はぁー……俺、多分この出血だと、逃げれねぇし、最後に宿儺に代わって、コイツ倒したら先輩の方に向かう、だから出来るだけ遠くに」

 

 逃げてくれ。虎杖君の懇願する様な視線が俺の眼を貫いた。

 

 

 

 




戦闘描写がむず過ぎる。執筆の呪力出力が足りな過ぎる。

どの位の長さがいい?(試験的にアンケを実施してみただけなので必ずアンケの結果通りになるとは限りません)

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