世界が待ってる この一瞬を(絶望)   作:リョオオオオイキテンカァァァ!!

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姉妹校交流会編
8話


 「うぉりゃぁああああああああああ!!!」

 

 蝉の声が鳴り響く。東京と聞くと、立ち並ぶ巨大なビル群に、行き交う大量の人。最先端を引き換えに狭苦しさを得た大都会、そんな印象を受ける俺のような田舎出身の人間も少なくはないだろう。

  

 実際東京には多くのビルと人が存在する。だが、所謂東京郊外と言われる場所はその例に収まらない場合も多い。

 

 「にぎゃああああああああああああ!!!」

 

 事実、俺や多数の生徒が活動の拠点および職場としているここ都立呪術高等専門学校は生い茂る草木の山中に位置している。

 

 山の自然の景色というものは全国共通であるのだと、俺はここに来てそう感想を抱いた。そのため夏になると何処からか聞こえる蝉の声が風物詩であり、日々呪いと向き合う俺たちに勇気を与えてくれる。

 

 「こんのぉおおおおおおおおおおお!!!」

 

 蝉の寿命は一週間しか無いと言うのは有名な話だろう。だが、実際には一週間も生きれない蝉も多いらしい。定められた運命の中、自分にとっての生きる意味を探す……。

 

 「蝉って、青春だよな」

 

 「……別に蝉に限った話じゃないと思いますけど」

 

 俺が適当に考え、適当に話していると恵が真面目な意見で返してくる。何だか最近は色々振り回されてばかりだからこう言う休息が必要なんだよ。

 

 「ちょっとそこォ!!何自分達は木陰で涼しんでんのよ!交代よ交代!大体なんで毎日毎日私ばっかり__」

 

 そこまで聞こえた釘崎ちゃんの魂の叫び声も、パンダの投擲によって中断される。

 

 「にぎゃああああああああああああ!!!」

 

 「……たまにはこうやって振り回される側を眺めるのもいいな」

 

 物理的にだけど。俺は憂太が来たばかりの時の事を思い出してそう言った。

 

 飛ばされる釘崎ちゃん、追いかけるパンダ。俺は知らないが、ここ一週間くらいはこの投げては追いかけられを繰り返す特訓をしていたらしい。

 

 そんな特訓風景をぼうっと眺めていると、隣に座っていた恵が立ち上がり、木に掛けていた武具の中から一本、竹刀を取り出した。

 

 「ほら、黒鉦先輩。俺らもそろそろ再開しますよ」

 

 恵が俺に呼びかけるようにそう言うが、俺は唸るように頭を下げて言葉を連ねる。

 

 「特訓なー……今ちょっと色々行き詰まっててなぁ」

 

 「……行き詰まっている、って何がですか?」

 

 俺の漏らした苦悩の声に恵が反応し、質問をする。俺は天を仰ぐように首を傾け、言葉を続けた。

 

 「術式。俺も俺なりに色々手を尽くしたんだけど……どうにも納得できる答えが出なくてなぁ」

 

 『枷縛呪法』の本来の在り方。6月の任務を経て、確かに掴んだ気がする術式の全容。『纏繞鎖』や『縛上』という確かに手に入れた新たな技術。だがどうやって(・・・・・)それを手に入れたのか。それがどうにも思い出せない(・・・・・・)

 

 例えるなら数式において公式のみを与えられ、その仕組みを理解できていない、そんな感覚に近い。

 

 「術式の解釈、ですか……意外ですね。先輩、そう言うの得意だと思ってました」

 

 俺の悩みに恵がそう返事を返す。その返事に俺はこれまでの自分について考える。確かに俺は自分の術式の情報が少ないから自分で術式の使用方法を考えたりはあったが、こう言う根本的な解釈について考える経験は少なかった気がする。

 

 「そうか?縛りとかで術式の使用方法自体を考える事はあるけど、それは解釈じゃなくて拡張に近いんじゃねーかな」

 

 事実、俺は今自分の術式の解釈で躓いているわけだし。

 

 今やってる作業は足し算でも引き算でもない。分解、割り算、言い換えれば因数分解に近いと考えてる。

 

 正解を与えられて、その上でその過程を導出する。こんな経験を経てる術師も少ないし、自然と自分1人で解決する方向へと進んでいる。

 

 「そうですか……俺も、自分の術式について色々考えてるんですけど」

 

 相槌を打ってから少し間を空けて、それから今度は恵の方が自分の術式に関する悩みを口にした。

 

 「十種(とくさ)で?……解釈の方は分からんが、拡張の方面なら色々あると思うけどな」

 

 俺がそう言うと、恵は短く息を吐くように俺の言葉に反応を示した。

 

 「……それって、どう言う……」

 

 恵がそこまで口にした所で俺はその口元をストップと手で遮り、言葉を中断させる。

 

 「あー、それ罠だからな。術式なんて結局は自分の中の問題なんだよ。相伝は、まぁ、ある程度決まった道があるかもだけど、それも所詮は他人(だれか)が考えた使い方だ。あんまり他人の意見に固執すんなよ。俺はそれで大分時間を無駄にした」

 

 俺は自分の過去を振り返りながらそう忠告する。俺の場合は実家にいる頃、父や祖父の術式の使用方法を覚えようと躍起になって、結局その半分も習得できなかった。

 

 それも当然の話で、父と俺との間には呪力量も、得意とする戦型も、呪力出力も違うのだ。自分にとっての不得意を伸ばそうとする。それも悪くはないがいざ実践で命を賭けるなら不得意より得意だ。

 

 考え方の違いもある。言われた事を鵜呑みにする方法は解釈の拡大じゃない、それを自分なりの考えに変えなければ術式は育たない。

 

 尤も、その考え方の道筋をしっかり記している教本は至極参考になるのだが。要は口伝えはクソってことだ。

 

 「…………」

 

 俺がそう言うと恵は困った風に眉間に皺を寄せる。恵は頭も回るし、状況の分析も的確だが、考えが凝り固まっている節がある。

 

 「ま、全部自己完結させろってわけじゃないけどな。要は経験、例えば五条先生の術式。あの人のやってる事大抵意味不明だけど、それは結果だけ見てるからだ。屁理屈でもいいからその道筋を立ててみろ。これが拡張の極意……って勝手に考えてる」

 

 ま、これも俺の考えでしかないから絶対に信じろとは言えないけど。

 

 俺が助言っぽい事を言うと恵はさらに難しそうな表情を浮かべる。俺も自分の術式の事を考えて表情を険しく変える。

 

 するとそんな俺の頭にゴツンと音と共に衝撃が走る。

 

 「お前らいつまで座ってんだよ。小休憩にしちゃ長すぎんだろ」

 

 痛みの方に目を向けるとそこには長棒を持ってこちらを見下ろす真希、禪院(ぜんいん) 真希(まき)ちゃんの姿があった。

 

 どうやら痛みは彼女の持つ棒から伝わってきたモノのようだ。俺は隣の恵の方を見る。すると恵も同じように頭を手で摩っており、どうやら両攻撃されたようだ。

 

 「……ま、悩んでてもしょうがないよなぁ」

 

 俺はそう言って頭を摩る手を止め、その場から立ち上がる。俺は同じく木に掛けていた竹刀を手に取ってから真希ちゃんの方に向かう。

 

 「ん?センパイ、竹刀(そんなん)だったか?前までもっと取り回しのいい武器(もん)使ってなかったか?」

 

 そう言って向き合った真希ちゃんは右手に棒を持ち、左手の方の指で俺の手に持つ竹刀を指さしてきた。

 

 「あぁ、これ?前まで使ってたお気に入りの呪具が壊れたんで、代用」

 

 前の任務での特級呪霊との戦闘の最中、高専入学以来俺の相棒だった手鎌が壊れてしまった。そのため、この際昔使ってた呪具に乗り換えをする事に決めたのだ。

 

 「ふーん……ま、いいぜ。代理の得物で負けてやらないけどな」

 

 真希ちゃんはそう言って棒先を下へ、両足を組み替え戦闘体制へと移行する。俺もそれに倣って両手で竹刀を持ち、真希ちゃんの方にジリジリと距離を詰める。

 

 「安心してくれ。握ってた時間なら(こっち)のが上だから」

 

 俺はそう言って少しずつ間合いを見極めながら近づく。

 

 交流会には当然、アイツもいるはずだし、それまでに術式無しでも真希ちゃんから一本取れるようにならなくちゃ話にならないだろう。

 

 俺は今は目の前の目標へと頭の意識を切り替え、間合いまでの一歩を勢いよく踏み出した。

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

 

 

 

 「結局、交流会までに一本しか取れなかったなぁ」

 

 俺はいざやって来た交流会当日になってそう呟いた。

 

 「いいじゃんか結ー。俺なんて野薔薇投げてばっかだったぞ」

 

 俺のそんな呟きを聞き取ったのか、近くに来ていたパンダがそう言葉を返す。パンダ(パンダ)である。

 

 いつもより早い朝に起きて、事前に指定された地点に集合、全員が揃った状態で京都校の到着を待つ。この時間が体感すごく長く感じられる、出荷を目前にした家畜の気分を味わってる気がする。

 

 本当は今すぐにでも回れ右してこの場を去りたい思いを脳内に押し込めてその場に立ち尽くす。

 

 「……黒鉦先輩って何かあったの?なんか日に日に表情から活気が消えてる気がするんだけど」

 

 同じく京都校の到着を待つ釘崎ちゃんが横の恵を肘で突きながらそう言った。

 

 「……俺も詳しく知らんが、先輩が一年の時に交流会で大怪我したらしい。まぁ要するに、黒歴史(トラウマ)だな」

 

 俺の方をチラッと見てから配慮をして小声で話す恵。だけど別に君ら以外喋ってないし、めちゃくちゃ聞こえてるからね。

 

 「にしても今年はどう言う面子で来るんだろうな。京都校(あっち)は二、三年だけで交流会来るのか?」

 

 それでも俺は気にしてない風を装ってパンダに話を振る。

 

 「どうだろな。俺らは今年初参加だし、結の記憶だけが頼りだぞ」

 

 俺がそう問いかけるが、パンダから明確な回答は返ってこない。俺は視線を他の二年衆に向ける。

 

 「おかか!」

 

 「こっちはアンタが唯一の三年だからな、私らはほぼ初参加だな」

 

 俺はそんな2人の発言に今度はガックリと肩を下ろしてため息を吐いた。唯一の3年、経験者、年長者。様々な言葉で俺にプレッシャーが押しかかってくる。

 

 「三年って、他にも居るんじゃないの?」

 

 釘崎ちゃんがそう疑問の声を上げると、それに対して棘が答える。

 

 「しゃけいくら、すじこツナ!」

 

 「……いや、やっぱり分からないわ。伏黒、アンタ翻訳しなさいよ」

 

 しかし、まだ高専に入って歴の浅い釘崎ちゃんには棘との意思疎通は早かったらしい。仕方ないな、と俺が補足を入れるように口を開く。

 

 「他にも2人、居るには居るんだけど、去年から一年の停学になってる。原因は京都のお偉いさんと言い合い……殴り合い?になった事らしい」

 

 あの五条先生と同期であり、最悪の呪詛師でもある夏油(げとう) (すぐる)。彼の起こした今後呪術界の歴史に名を刻むであろう事件、百鬼夜行。

 

 事件の襲撃地に選ばれた東京と京都の二ヶ所。俺は東京で迎撃にあたったけど、秤と綺羅羅は京都に向かった。

 

 結果、事件は色々あって解決したんだが、東京でいつまで経っても帰ってこない2人を待ってると、事件一週間後位に2人の停学を夜蛾学長から聞かされた。

 

 本当に、衝撃で開いた口が塞がらなかった。以降、東京校三年は実質俺1人となり、本来二、三年が主役である今回の交流会も人数合わせで一年の2人を参加させることとなった。

 

 「へー、私達はその2人の人数合わせってわけね」

 

 納得した様に拳を掌の上に打ち付ける釘崎ちゃん。そんな風に一年2人が今回の交流会に参加した経緯を説明していると、肩をトントンと叩かれた。

 

 叩かれた方向を振り返ると、正面の階段を指さして俺に呼びかける棘の姿があった。

 

 「すじこすじこ」

 

 その言葉に俺は棘の指差す方向を見る。俺が目線を向けてから間も無く、彼らの姿が視界へと映り始める。

 

 「来たか……」

 

 俺はやって来たその集団に思わず言葉を漏らした。

 

 「あら、お出迎え?気色悪い」

 

 「乙骨いねぇじゃん」

 

 ゾロゾロと歩いてこちらに近づいてくる京都校の面子。友好的とは言えないその雰囲気と言葉に俺は顔を引き攣らせる、主に後者。

 

 「うるせぇ菓子折り出せコラ。八ツ橋、くずきり、そばぼうろ」

 

 「しゃけ」

 

 やだ、ウチの後輩頼もしすぎ……!

 

 顔を引き攣らせて固まる俺の前へと出て、釘崎ちゃんと棘が口を開く。てかまだ京都行けなかった件引きずってんのか。

 

 ジリジリと火花が散ってそうな睨み合いを行う、京都校の女生徒と釘崎ちゃん。多分彼女が先日釘崎ちゃんと争いになった真希ちゃんの妹なのだろう。

 

 「怖……」

 

 俺と同じ感想を口にしているのは、自身の背丈以上の棕櫚箒を抱えた金髪の小柄な生徒。確か西宮(にしみや) (もも)さんだっただろうか。俺と同じ三年で去年、索敵用に空を駆ける姿を見た気がする。

 

 「乙骨がいないのはいいとしテ、一年2人はハンデが過ぎないカ?」

 

 わずかに加工がかかったような声色がその口より響く。なんと京都校の連中に1人……1台?ロボット生徒が居た。

 

 「ロボだ!ロボがいる!!」

 

 口を開閉するロボット君に釘崎ちゃんが目を光らせて反応する。気持ちはすごく分かるが、多分操作の術式とかだろう。あのレベルの緻密な機械を人間の動きと同じように動かせるなら、術師本人の腕は相当だろう。

 

 「呪術師に歳は関係ないよ。特に伏黒君、彼は禪院家の血筋だが、宗家より余程できが良い」

 

 加茂(かも) 憲紀(のりとし)。加茂家次期当主の最有力候補の1人であり、京都校の中でも優れたリーダーシップを発揮する敵にしたら厄介なタイプ。

 

 使用術式が『赤血操術』と言う強く歴史のある術式だったと記憶している。

 

 「チッ」

 

 しかし加茂君の放った言葉が逆鱗に触れたのか、推定真希ちゃんの妹さんが舌打ちをする。

 

 「何か?」

 

 「別に?」

 

 視線の火花が加茂君にも向けられる。ここで勝手に三つ巴を開戦するのやめてもらいたいのだが。

 

 俺のそんな願いが届いたのか、青髪のスーツを着た女生徒が宥めるように入るが、あまり効果はない様だった。

 

 開幕すらしてない状況だが、なかなかどうしてもう既に血生臭い匂いが漏れ出てる様だった。これだから交流会は嫌いなのだ。

 

 地獄みたいな空気の中、ようやく救いの糸が垂らされる。パンパン、と手を叩く音と共に階段から新たに人影が現れる。

 

 「はーい。内輪で喧嘩しない。まったくこの子らは」

 

 現れたのは京都校引率の1人、準一級術師である、何かと苦労を重ねていそうな女性、(いおり) 歌姫(うたひめ)先生であった。

 

 大人の登場によって、ようやく場の雰囲気が交流会本編の方へと向かう。

 

 「で、あの馬鹿は?」

 

 京都校の生徒達を宥める様に声を掛けた後、今度は東京校(おれたち)の方にそう声を掛けてきた。

 

 馬鹿。今この場に居ない人物かつ庵先生が馬鹿と形容する人物、言うまでもない我等の担任であった。

 

 「悟は遅刻だ」「(バカ)が時間通りに来るわけねーだろ」

 

 「誰もバカが五条先生のこととは言ってませんよ」

 

 酷い言われ様である。恵も一見フォローする様に台詞を吐くが、その表情を見れば五条先生に対する評価も伝わってきた。

 

 しかし、京都側の教師含めメンバーが集結したのだ、流石の五条先生もそろそろ来るとは思うが。

 

 そんな風に考えてると、俺たちの後ろ側。校舎の方からドタドタと音を立てて何かがやってくるのが分かった。

 

 俺は音のする方向に振り向く、すると奥からやってくるのは話に挙がったその張本人、五条先生がキャスター付きの箱の様なものを押しながらやって来ていた。

 

 「おまたー!!」

 

 自分が遅刻している事なんて一ミリも理解していない、もしくは理解した上で気にしていないのだろう。陽気な雰囲気を纏って俺らと京都校との間にやって来た。

 

 「……遅刻ですよ、五条先生」

 

 俺が一応常識的な発言をすると、五条先生はこちらを向いて口角を上げた後、何かを語り始めた。

 

 「やぁやぁ皆さんおそろいで、私出張で海外に行ってましてね」

 

 そう言って五条先生は箱を引き摺ったまま、その箱の上にある何か……すげぇキモい感じの人形を手に持ち始めた。

 

 「はいお土産。京都の皆にはとある部族のお守りを。歌姫のはないよ」

 

 「いらねぇよ!!」

  

 そうして五条先生はお土産と称したキモい人形を京都の生徒達に配っていく……何だか申し訳なく感じてきた。

 

 それから五条先生は庵先生の怒りの声を聞き流し、今度は東京側の方に近づいてくると、勢い良く箱を両手を広げてアピールし始めた。

 

 「そして東京校の皆にはコチラ!!」

 

 その言葉を五条先生が言い終えると同時に、図ったかの様に箱の上面がひとりでに開き始めた。

 

 バゴッ!!勢いよく開かれた箱の中から、びっくり箱の要領で中身が飛び出てきた。両手を広げ、片足立ちでバランスをとりながら現れたそのお土産は。

 

 「故人の虎杖悠仁君でぇーっす!!」

 

 「はい!!おっぱっぴー!!」

 

 一ヶ月程前、宿儺に心臓を取られたことが死因で亡くなったはずの、虎杖君そのものであった。

 

 「……」「……」「……」

 

 冷たい沈黙が、虎杖君と俺たちの間に流れる。主に任務に同行した俺、恵、釘崎ちゃんから発せられた沈黙だ。

 

 元気よく登場した故人虎杖君は、登場と同時に瞑っていたその両目を開き、何故かすごく驚いた表情を浮かべた。もしかして、ウケると思ってやったのだろうか……故人復活ドッキリとか言うトンデモギャグを。

 

 そう考えると何だか不憫に思えてきたが、冷静に考えて何ドッキリで登場してんだよ、と言う考えの方が勝る。

 

 上層部への隠匿とか、正当な理由はあるのだろうが、せめて五条先生。あなたは俺に一週間前くらいに会ってるんだから伝えとくべきでは?

 

 俺は冷ややかな目線を虎杖君から五条先生に移動させるが、この状況を仕組んだであろうボンクラ目隠しはニコニコと嬉しそうな様子だ。

 

 「宿儺の器!?」

 

 驚きや感動やら怒りやら、色々と混ざって反応が出来ない俺たちに代わって驚きの声があげられる。

 

 声を上げた人物を見ると、その正体は京都校学長である楽巌寺(がくがんじ) 嘉伸(よしのぶ)学長であった。確か、前に五条先生から聞かされた内容が正しければ、彼も保守派の一角、つまり虎杖君(宿儺)の秘匿死刑肯定派なのだろう。

 

 「楽巌寺学長ー!いやー、良かった良かった。びっくりして死んじゃったらどうしようかと、心配しましたよ」

 

 そしてそんな楽巌寺学長と五条先生の仲が良い訳もなく、早速ウキウキな様子で五条先生は煽りに向かっていた。

 

 「糞餓鬼が……!!」

 

 そしてそんな五条先生の目論見は成功したようで、見事学長の神経を見事に逆撫でしていた。五条先生と楽巌寺学長を中心として再びピリピリとした雰囲気が戻る。

 

 せっかくいい方向に行ったんだからやめてくれよ。俺がそう思い2人の様子を眺めてると、視界の端に動きが見えた。

 

 「おい」

 

 ガンっ…!と音を立てて蹴られる箱。蹴ったのは釘崎ちゃんのようで、箱の中にいる虎杖君に呼びかけているようだ。

 

 「あ、はい」

 

 何だかこの空気に乗り遅れたのか、呆然としていた虎杖君に釘崎ちゃんが再び口を開く。

 

 「何か言うことあんだろ」

 

 そう言い放つ釘崎ちゃんの目尻には小さな水滴が浮かんでおり、それはようやく情報の処理を終えた脳が溢れ出させる感情の色であった。

 

 「生きてること……黙っててすんませんでした……」

 

 本当に、そうだよ。虎杖君も目尻に涙を浮かべ、ようやく虎杖君の再会が現実となった。

 

 

 

 

_____________

 

 

 

 

 

 「で、虎杖君なんで生きてんの?」

 

 東京校サイドに与えられた一回戦である団体戦のミーティング用の部屋の中、遺影用の黒い額縁に顔を潜らせたままの虎杖君に俺は問いかけた。

 

 「あ!黒鉦先輩!久しぶり!元気してた?」

 

 虎杖君の戦力分析、東京校との軽い自己紹介を終えた後だった。話かけた俺に対し、虎杖君が元気よく返事をするので、俺も軽く手を上げてから言葉を返す。

 

 「おう。すっかり元気よ。で、結局あれから何で生きてたの?俺報告書しか読んでないんだけど」

 

 俺がそう問いかけると、虎杖君は考え込むように俯いたまま返事を続けた。

 

 「うーん……あんま覚えてねぇんだけど。宿儺と何か話して……それで気づいたら生き返ってたっつーか……」

 

 「……覚えてないって事か?」

 

 虎杖君のその返事に俺は親近感を覚えた。あの日の宿儺の入れ代わりを通じて失った記憶。これを解明できれば俺の不自然記憶の理由も解ける様な気がした。

 

 「……宿儺は反転術式を使えるんだろ?だったら虎杖に身体の主導権取られた後、時間差で反転術式を使って蘇ったとか、ないのか?」

 

 俺たちの会話を聞いていた柱に背を合わせる恵がそう仮説を一つ立てた。

 

 時間差での反転術式……普通、できるとは思えないが、心臓が無くてもあそこまで動けた宿儺だ。規格外な存在は規格外な事ができるから規格外なのだ。出来てもおかしくはない。

 

 「……無くはないと思うけど、何かそれだとしっくりこないんだよなぁ。アイツ、一度俺への協力断ったし」

 

 恵からの仮説に否定の色で返す虎杖君。

 

 「無料(タダ)で生き返らせるってのは、確かに納得出来ない気がするな」

 

 俺は一度対面した宿儺の様子を思い出すが、あの傲岸不遜を地でいくような性格だ。何もせず、殺した事に反省して生き返らせるなんて善良性があるとは思えなかった。

 

 「となると宿儺以外の手段で生き返った……あ、恵が最後虎杖君が死ぬ寸前居合わせたんだよな?ほら、じゃあ、あれは?十種の中にいる反転術式の効果持ってる……」

 

 俺が指を立て、恵の方に視線を向けると、恵には無言で首を横に振られた。

 

 「円鹿(まどか)はまだ調伏出来てませんし、それなら俺の目の前で生き返るはずでしょう」

 

 まぁ、確かに。俺は恵のもっともなその言い分に人差し指を下げ、再び原因の考察に頭を回す。

 

 直近で虎杖君の死亡時に干渉できた恵でも無いとすると、やはり宿儺自身の反転術式である可能性が高い。だが宿儺が虎杖君の身体を治す道理もない。

 

 ……いや、道理が無くても交渉ならあり得るか?

 

 俺はうーん、うーんと唸って頭を動かす虎杖君の方を見る。

 

 「……虎杖君、“縛り“って知ってるか?」

 

 俺が虎杖君にそう尋ねると、彼は少し考えるよう目を閉じた後、思い出したようにその目を開いた。

 

 「あー!ナナミンが言ってた気がする。あれだろ、「〇〇する代わりに◇◇できる様になる」みたいな!」

 

 虎杖君は指を鳴らして自信満々と言った様子でそう語った。

 

 ナナミン……?よく分からんが、多分五条先生に近しい術師の誰かが教えてくれたのだろう。

 

 「そう、それ。だけどその説明だと半分だ」

 

 「半分?」

 

 首を傾げながら呟く虎杖君に俺は説明を続ける。

 

 「虎杖君が今言ったのは自分の中での“縛り”だ。もう一つ、他者との“縛り”ってやつがあって、これはまぁ、色々違いがあるんだが、重要な要素が2つ」

 

 俺は2本の指を立てて虎杖君へと“縛り”について語る。

 

 「1つ、両者での合意が必須。これは絶対で、勝手な押し付けで縛りを他者と結ぶことは出来ない」

 

 俺は指を1本下げ、もう1つの要素について語る。

 

 「でもう1つ、他者間との縛りには強制力がある。破ったらとんでもない罰があるとか……ま、大体は“縛り”の効果で破ることすら出来ないけど」

 

 「……つまり虎杖は宿儺と縛りを結んで生き返った。そう言う事ですか?」

 

 俺がそこまで説明すると俺の言いたい事を察した恵が話の結論を話す。

 

 「そういうこと。ま、虎杖君は“縛り”について知ってたし、多分違うと思うけど……虎杖君?」

 

 俺はそこまで話して虎杖君の様子を見ようと顔に視線を向けるが、虎杖君は何だか放心している様だった。

 

 「……んあ、あー、ごめんごめん。何かぼうっとしてた…で、何だっけ?」

 

 しかし少し経つとすっかり何時もの虎杖君に戻り、再び明るい表情を浮かべる彼が戻ってきていた。

 

 ……一応、五条先生に伝えとくか。

 

 「……いや、何でもないよ。ま、とりあえず過去の事考えても仕方ないし、これからについて考えるか」

 

 俺は僅かに考えたある(・・)可能性を考え、それからそれを切り捨てて、虎杖君との会話を終えると、その場に立ち上がった。

 

 「よっし、じゃあ、虎杖君含めて改めて作戦の確認だ」

 

 俺は全員の注目を集めるように手を叩き、それから作戦の概要を確かめるように言葉にしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ここまでの読了、ありがとうございます!改めて、いつも誤字脱字報告や感想ありがとうございます!感想は返せない場合もありますが全て目を通させていただいてます!

特にお知らせはありません。改めて伝えさせていただきたく、この場を借りてお礼を言わせてもらいました。

追記:やっとアンケートのやり方が分かったのでやってみます。文字数に関してです。

どの位の長さがいい?(試験的にアンケを実施してみただけなので必ずアンケの結果通りになるとは限りません)

  • 今と同じ(1万字程度)
  • 長く(1万〜2万字程度)
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  • もっと長く(1万〜)
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