【悲報】一般サラリーマン、目を覚ましたら厳つい男たちに囲まれてた   作:モモンガ大好き倶楽部

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第12話

 

 

 

 

 

『プオーン♪』

 

『おお? 鳴き声がすると思ったら……昨日の子クジラじゃないか。群れからはぐれたのか?』

 

『ヨホホホ。もしかして、私たちの演奏に合わせて合いの手を入れていらっしゃる? なんと素敵なクジラでしょう』

 

『だが、まだ小さいぞ。ほらさっさと群れを探しに行け!!』

 

『プオー……ン!!』

 

『『『か〜わいいな♡』』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブルックの脳裏に浮かぶのは懐かしく、そして美しき思い出。

 

ラブーンと名付けた子クジラは、アイランドクジラという世界一大きくなる種類のクジラだった。出会った時は船より随分と小さかったが。

 

ルンバー海賊団は西の海からラブーンと航海を共にし、しかしラブーンがまだ子供であったことから偉大なる航路には連れて行かなかった。

 

別れの際にブルックとラブーンはある約束をした。

 

 

『ルンバー海賊団は世界を一周し、レッドラインの向こうからラブーンを迎えに行く』

 

『その後は大きくなったラブーンと一緒に冒険をする』

 

 

そしてルンバー海賊団は、ラブーンを偉大なる航路の入口に位置する双子岬にてクロッカスに預けた。

 

海賊船は自分たちを見送るラブーンに向かって盛大に演奏の音を聞かせながら、偉大なる航路へと進み出していった。それは決して悲しい別れではなかった。

 

ブルックはそのことを昨日のように思い出すことができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨホホホ!! まさかまさかですね! ルンバー海賊団の可愛い可愛い相棒、ラブーンは元気に生きている!!! 健気にもルンバー海賊団の帰りを待っている!!! それを知ることができて良かった。私、私……生きてて良かった!!!!」

 

 

ブルックは絶叫した。それは歓喜の叫びだった。

 

 

舵の壊れた船。全滅した仲間。いつまで経っても出られない霧の海域。重なる苦境に折れそうになり、ブルックは何度も自死の選択肢を思い浮かべた。

 

しかし、その度に思い出すのはラブーンのことだった。もし彼が未だにルンバー海賊団の帰りを待っていたとしたら、今ここで諦める訳にはいかない。

 

ブルックはその一心で何十年もの間孤独に耐えてきた。

 

そこでモモンガからの報せである。喜ぶのも当然だった。

 

ブルックにとってはそもそもラブーンが待ってくれているか以前に、生きているかも定かではなかったのだ。しかし可愛がっていた子クジラが見上げるほどの巨体に成長していることを聞き、その生存と成長を素直に喜んだ。

 

 

「喜んでもらえて嬉しいですよ、ブルックさん。俺も実際に目にした時には驚きましたよ。ラブーンはとっても大きかったです。さあ、ブルックさん。双子岬に一緒に帰りましょう。可愛い相棒の成長を見てあげてください」

 

 

モモンガの提案は素晴らしく魅力的で、しかしブルックには選べない選択肢であった。

 

 

「……ヨホホホ!! モモンガさん。あなたの言葉の通りラブーンのもとへ今すぐ飛んでいってあげたい!! 私が生きていることを伝えたい!! 再会の喜びを分かち合いたい!! ですが……ダメです」

 

「……ラブーンとの『約束』があるからですか? 申し訳ありませんが、クロッカスさんに教えていただきました」

 

「ヨホホ、別に構いませんよ。よくある話です。必ず帰ると約束して海に出た海賊が、そのまま故郷に帰ることができずに海に散る。現にルンバー海賊団もそうなりかけている(・・・・・・・・・)

 

 

ブルックは俯き肩を落とす。しかし再び顔を上げた時、そこに見えたのは強い決意。

 

 

「ですが、ルンバー海賊団はまだ終わっていません。だって私がいますから!! 私はまだ諦めていません。たとえ私1人でもこの霧の海を脱出し、必ずや偉大なる航路を一周する。そしてようやくルンバー海賊団は『レッドラインの向こう側』からラブーンのもとへ辿り着くという約束を果たすのです!!」

 

 

ブルックの言葉には信念があった。

 

合理的では無いかもしれない。しかし、一度決めた事を簡単に翻すことはできないという強い意志を感じさせた。

 

 

「そうですか……」

 

 

モモンガとて、赤髪海賊団にて何年も"本物の海賊"の生き様を見てきた。海賊の信念は決して折れず、死に瀕してもなお貫くものであると知っている。

 

 

「モモンガさん、ありがとうございます。お恥ずかしいことに私、少々へこたれていましたが……あなたのおかげでまだまだ頑張れそうです。見てくださいこの目を! ギラギラしているでしょう!! ま、私目無いんですけど!! ヨホホホホホ!!!」

 

 

ブルックの持つそれは、モモンガがこの世界に転生してから知った尊いもの。誇りや矜持。大事なものだ。

 

だが、それを知っているからと言ってモモンガは引くつもりは毛頭無かった(・・・・・・・・・・・・)

 

 

「……そうか。威勢の良いことだ。では、舵の壊れた船で、航海士もいない船で。どうやって偉大なる航路を進むつもりなんだ?」

 

 

ゆらり、と漆黒のオーラがモモンガの背から立ち上る。

 

その口調は先ほどまでとはまるで別人。そこにいたのは気さくで親切な骸骨のモモンガではなく、"魔王"その人であった。

 

 

「モモンガさん? 何か出てますよ? あ、屁ですか!? やだなー!! 黒いし滅茶苦茶お腹壊してそう!!」

 

「……遠くの氷山を容易く切り裂く斬撃を飛ばす剣士。海賊の存在を絶対に許さないマグマの男。全ての種族を集めるために国まで作った生まれながらの怪物。知っているか? 今この海に蔓延る化け物たちを。お前はその中を突き進めるというのか? 繰り返すが、お前程度がたった1人で(・・・・・・・・・・・)か?」

 

「……ッ!!」

 

「ブルック。舐めるなよ。私など今言った者たちと比べれば大したことはない。だが、そんな私にすら勝てないのであれば偉大なる航路の一周など夢のまた夢とは思わないか」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ、と地鳴りがしている。そう錯覚するほどのオーラを、ブルックは目の前の骸骨から感じていた。

 

思わず武器を構える。だがその細剣のなんと頼りないことか。今から己はこの得物と身一つで目の前の化け物と戦わねばならないのだ。

 

そう思うと体が震える。だが、それが何だというのか。

 

 

「……それが、どうかしましたか。言ったでしょう。私は何としてもやり遂げる! やり遂げねばならない!!」

 

「そうだ。海賊なんだろう。見せてみろ、ブルック。貴様の信念を。それを我が力でへし折ってやろう」

 

 

ブルックは決死の覚悟でモモンガに挑み掛かった。残してきた相棒との約束を守るために。己の海賊としての誇りのために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし現実は非情である。

 

 

 

 

 

 

 

 

蟻が象に攻撃を仕掛けたとして、果たしてそれは戦いと言えるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

答えは否。

 

いっそ一思いに蹂躙してくれればとブルックが思うほど、両者の間には圧倒的な差が存在していた。

 

戦闘が始まってからモモンガは一歩も動いていない。ブルックは多彩な技を繰り出し、怒涛の攻撃を続けているのにもかかわらず、その一切が通用しない。

 

 

「どういう仕掛けですか!? 『切れない』のも『貫けない』のもまだわかりますが……私の全力で微動だにしないなんて信じられない!!」

 

 

モモンガが特別重い訳でも、何か達人級の技術でブルックの力を受け流している訳でもない。

 

ただ『レベルの低い物理攻撃を無効にするパッシブスキル』がある。それだけでモモンガは棒立ちのままブルックの攻撃を全て無効化していた。

 

何をしようとのけぞらせることすらできない現実に、ブルックの心は折れそうになる。

 

だが、やはり折れない。諦めずに攻撃を繰り出す。何か攻略法があるはずだと様々な角度から技を繰り出す。

 

 

「ここで折れるくらいなら……私はもうこの世にいない!!」

 

「そうか……全く効かないとはいえ、少し煩いな」

 

「グッ!!」

 

 

ブルックは身を投げ出すような全力の一撃を繰り出したが、やはり効果は無かった。それどころか隙を突かれモモンガのカウンターを食らい、無様に吹き飛ばされた。

 

 

「ただ腕で払っただけだぞ。立て、ブルック」

 

 

派手に吹き飛ばされ、体の至る所にヒビが入ったブルックはそれでも立ち上がる。

 

 

「言われなくとも!! うおおおおおおおおお!!!」

 

 

胸部の紅い玉に突撃を仕掛ける。しかし、やはり剣は通らない。その瞬間にモモンガの手がブルックの首を捕えた。

 

 

「うっ……あ……くそぉ……!!」

 

「お前も知っているだろう。気合いだけで何とかなるのであれば、この世の理不尽な物事などとうの昔に消え去っている」

 

 

その気になれば折れるだろうに、絶妙な力加減でモモンガはブルックの首を絞め続ける。ブルックは振り払うためにモモンガの腕に攻撃を繰り出すが、やはりモモンガの腕はビクともしない。

 

 

「……お前は随分長生きできるようだが、ラブーンはいつまで生きる? あと100年か? それ以上かも知れんな。しかし断言してやろう。どれだけの時間をかけたとしてもお前には無理だ。無理なんだよ。早く楽になれ、ブルック」

 

「……だが、私にも海賊の意地が……ある。死んでいった……ルンバー海賊団の想いが、私の背に乗っている……!! そしておめおめと帰ればラブーンに合わせる顔など……!!」

 

「思い上がるな!!!!」

 

 

突然のモモンガの大喝に大気が震え、ブルックは怯んだ。

 

眼前の骸骨は未だかつてないほどの怒りをその全身から迸らせていた。その怒りは何故かすぐに霧散したが、ブルックは理解した。

 

モモンガが何に怒っているのかを。

 

 

「……思い上がるなよ。ブルック。落ち着いて考えろ。ルンバー海賊団とは仲間が無駄死にすることを喜ぶような輩の集まりだったのか? お前の相棒のラブーンは、相棒がもし自分の背中側から戻ってきたら、軽蔑するような考え無しだったのか?」

 

「……」

 

 

ブルックの手がダラリとぶら下がる。自分の首を絞める力も随分と弱まっているのに、抵抗する気力が湧き上がらなかった。

 

モモンガは優しく語りかける。

 

 

「ブルック。お前には帰る場所があるだろう。私と違ってな。少し愚痴になるが……お前のような勇敢でひたむきな者たちはいつもそうだ。自らの選んだ道が正しいと信じればひたすらに進み続け、残された者たちのことなど考えもしない」

 

「モモンガさん……あなた、もしかして……」

 

「……フン。くだらん感傷だ」

 

 

モモンガの手から力が抜け、ブルックがドサリと落とされる。

 

見上げると変わらぬ骸骨の姿があった。しかし、そこにいたのはもう"魔王"ではない。

 

孤独を知り、今まさに大切なものを投げ出そうとしていたブルックを叱る心優しきモモンガだった。

 

 

「……ブルックさん。ラブーンはあなたがたとえレッドラインの向こうから現れなかったとしても、決して嘲笑することはありません。ただ、帰ってきてくれたことを喜ぶでしょう」

 

 

俺ならそうしたでしょうから。

 

 

最後の一文は、実際に言葉には出ていない。

 

だがブルックには目の前の骸骨がそう言って泣いているように見えた。そしてその姿がまるで幼子のようでもあると思った。帰ってこない親を想い涙を流す、哀れな子供のようだと。

 

 

「……俺が少しでも豊かに生きていけるようにと無理をした人たちがいた。俺はそんなことをしてほしくなかった。ただそばにいてくれたら良かった」

 

「モモンガさん……」

 

「ラブーンにとってあなたはそういう存在です。大切な家族なんです。誇りが何だって言うんですか。帰りましょう。ブルックさん」

 

 

ブルックはボロボロの甲板の上で仰向けになった。

 

ヨーキー船長、毒に侵され死んでいった仲間たち。そしてラブーン。会いたくない訳がなかった。そしてもう今会うことができるのはラブーンしかいない。

 

ブルックはその現実を受け入れた。

 

 

「……私の負けです。あぁ、ルンバー海賊団は終わりなのですね。いや、終わっていたのか……もしかしたらヨーキー船長が離脱した時から、私はヤケになっていたのかもしれません……」

 

 

ブルックの心は折れた訳ではない。ただ、モモンガの剥き出しの心の一端に触れ、流石にこれ以上独りよがりの理想に浸かり続けることはできなくなったと悟ったのだ。

 

 

「帰りましょうか。ラブーンのもとへ」

 

「ええ。敗者はただ勝者に従うのみ……いや、違いますね。私の意思で私はラブーンに会いに行きます。そのために力を貸してください、モモンガさん」

 

「もちろんです。実は俺は魔法使いなんですよ。すぐにこの船ごとあなたの家族が待つあの場所へ連れて行ってあげましょう。あ、でもすみません。結構ボコボコにしてしまって。全身ひび割れてますけど大丈夫ですか? 普通の傷薬で治るんですかね」

 

「ああ、それなら大丈夫ですよモモンガさん。何か食べ物は持っていませんか? 特に牛乳が良いですね。アレを飲めば私の体は元通りになりますので。ほら、船は見ての通りの有様、食料はとっくに尽きてしまいまして……もうお腹と背中の皮がくっつきそうです。ま、ワタクシ骨なので皮がないんですけど!!!」

 

「え?」

 

「エ?」

 

「お腹、空くんですか? というか食べ物が食べられるんですか!? ええ!? 骨なのに? 胃袋も食道も無いのに!?」

 

「エエ!? 食べられないんですか!? 同じ骸骨ボディなのに!?」

 

「ええ……悪魔の実、やっぱりこわ。あれ? じゃあ屁が何とかってもしかして……ジョークとか挑発とかじゃなかったの? ブルックさんって本当に屁がこけるんですか?」

 

「ヨホホホ!! 屁どころかうんこもできますよ!!」

 

「うんこもできるんですか!? うわー……ええー……いや、俺も大概だけど不思議生物過ぎるでしょブルックさん。悪魔の実ってやっぱりなんかおかしいよ」

 

「全く攻撃が通じない不思議骸骨に言われたくありませんね!!!」

 

「確かに……まあお互い不思議な存在ってことでいいのかな。うんこは未だに気になるけど。あ! そういえばもう一つお願いがあるんでした」

 

「何でしょう、モモンガさん。大事なものに気付かせていただきましたし、全身全霊でお答えしますよ!! まあ、全身って言っても私骨しかないんですけどね!!」

 

「ああ、はい。あのー……ブルックさんって音楽家なんですよね? 俺に歌の稽古を付けてくれませんか? ちょっと歌を聞かせたい人がいまして」

 

「ほうほう、それは素晴らしい。音楽の良さを広めるのもまた音楽家たる私の勤め。是非ともやらせていただきましょう。ただし! 私は厳しいですよ!!」

 

「ははは、お手柔らかにお願いしますね」

 

 

 

 

ブルックは安心した。

 

少なくとも今のモモンガが歌を聞かせたいと思うような人間がいることに。

 

帰る場所があることに、安心した。

 

 







うんこができない方の骸骨が勝ちました

なお内面はうんこができる方の骸骨の方が老成しているので、歌の稽古を付けているうちになんだかんだ孫を見るような目で見守られるようになります

ちなみにうんこができない方は飲食ができる事を滅茶苦茶羨ましがっている反面、空腹を感じるのに何十年も彷徨っていたうんこができる骸骨のメンタルの強さにドン引きしています
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