【悲報】一般サラリーマン、目を覚ましたら厳つい男たちに囲まれてた   作:モモンガ大好き倶楽部

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第2話

 

 

「『火球(ファイヤーボール)』」

 

「おお、こりゃすごい。本物の炎を出せるのか」

 

「確かに炎だが……これなら何かの仕掛けでも使えばできそうだな。もっとハデなのはねぇのか? もちろん船が燃えちまったらおれ様たちはお前を生かしちゃおけねぇが」

 

「……心臓に悪いです、バギーさん。一応もっと派手な火炎系魔法もありますけど……良いですか? 出してもすぐに消しますよ」

 

「おお、そうしてくれモモンガ」

 

 

モモンガは手のひらの上の火球を消し、新たに魔法を発動する。選んだのはお望み通り派手めな炎系魔法だ。

 

 

「『獄炎(ヘルフレイム)』」

 

「これは……確かにすごいな。大きさはさっきよりだいぶ小さいが、何というか……込められている力がまるで違う。威力もさっきのやつとは比べ物にならないんだろうな」

 

「小せぇのは見た目だけ。油断したところをハデに燃やすって感じか。えげつねぇなぁオイ」

 

「消しますよ。はい、消しました。アレは燃え移った対象を一瞬で燃やし尽くすものなので……あー、怖かった」

 

 

無駄にハラハラさせられた気はするものの、とりあえずシャンクスとバギーから一通り観賞されたと判断した。何らかの能力を行使できることは証明できただろう。

 

これでこの世界の常識で言えば、モモンガは火に関する悪魔の実を食べた能力者ということになる。

 

問題は、モモンガは海水がなみなみと注がれた樽の中に入っている状態でこれを成し遂げていることだ。

 

このあり得ない現象にシャンクスとバギーは頭を抱えた。

 

 

「……本当に悪魔の実は食べていないんだな。モモンガ」

 

「はい、そうです」

 

「その骸骨の体は生まれつきで、こことは全然違う場所で生まれて気付いたら箱の中にいたと」

 

「はい、そうです」

 

「まあ…… 偉大なる航路(グランドライン)には巨人や魚人、ミンク族もいる。骨だけの体の種族がいてもおかしくはないのか?」

 

「……やっぱり信じられねぇ。見た目も常識外れだが、首まで海水に浸かった状態で能力が使える能力者なんて聞いたことがねぇ。そもそも能力じゃなくて"魔法"だって言うじゃねぇか。なんだよ魔法って。骨だけで動いてるのもその魔法ってやつのおかげなのか? いや、悪魔の実なんてものがあるんだ……そんなことがあってもおかしくねぇのか? さっきお前が呼び出した使い魔とやらも元気にパタパタ飛んでやがるし……頭がパンクしちまいそうだ」

 

 

バギーは頭をガシガシと掻き、眼光鋭くモモンガを見つめる。

 

 

「モモンガ、マジでお前何者なんだ?」

 

「バギー、まずは能力者じゃないことは確定したんだ。悪いな、モモンガ。狭いとこに入ってもらって。もう上がっても良いぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 

船内でクルーが酔い潰れているのを他所に、レッドフォース号の甲板にて船長、副船長、そしてモモンガの3人による密談が行われている。

 

なお、モモンガの盗聴妨害魔法と周囲を監視する使い魔により、ここで話した内容が外部に漏れることは無い。

 

 

「まず、何者かと言われると説明しにくいです。俺は元々この体なので。あとは俺の元々いたところでは悪魔の実は有名じゃなくて……むしろ魔法やスキルの方が一般的でした。あまりにも常識が違うのでこの辺りでも魔法が使えるかは不安でしたが、どうやら使えるみたいです」

 

 

続けてモモンガが呟く。シャンクスとバギーはそれを黙って聞いていた。

 

 

「……シャンクスさんとバギーさんが結構自然に受け入れてくれたので、もしかして俺みたいな姿でも案外普通なのかなって思ってました。故郷ではもっと奇抜な見た目の友人もいましたし」

 

「おれ様はお前みたいなドハデな奴がいたら一生忘れねぇな。お前以上ともなると末代まで忘れられんだろうよ。残念だがこのあたりで骸骨が当たり前に闊歩している場所に心当たりは無ぇな」

 

「そうですか……」

 

「モモンガ。まずは誤解させて悪かった。この尋問みたいな真似もな。あの場はとりあえず収めたかったし、おれは船長としてクルーの安全を守らないといけないんでな」

 

「はい、それは重々承知してます。むしろ怪し過ぎる俺に対して理性的に対応していただいて感謝しかありませんよ」

 

「おれもモモンガが話がわかるやつで嬉しいよ。おれの仲間は悪い奴らじゃあないんだが、お前の見た目だけで判断してお前に危害を加える可能性が高かったのは事実だ」

 

「下手に騒げば同士討ちもあり得たんだぜ、モモンガ。お前のドハデな見た目もそうだが……わざわざ箱の中から登場してくれたせいでなぁ」

 

「す、すみません。それについては俺の意思とは関係無く、本当に気が付いたらあの箱の中にいたので……言い訳になってしまいますけど」

 

「オメェの故郷とやらでは"魔法"で人を勝手にどっか遠くに飛ばす風習でもあるのか? さっきの黒い炎もそうだが……あんなもんが普通に飛び交うってことは随分野蛮なとこみてぇだしな」

 

「野蛮は否定できませんね。そして……うーん……他者を転移させる魔法も普通にありますけど、ちょっと具合が違うと言うか。ここまで遠いところまで飛ばせるものは俺も初めてですね。俺も魔法について全部わかってる訳じゃないので完全に無いとは言い切れませんけど」

 

「そんなもんか。まあ偉大なる航路は広い。今、おれたちが初めて知った"魔法"みたいにモモンガの知らないものもあるだろう」

 

「偉大なる航路に常識は通用しねぇ。わかっちゃあいたが、ハデに思い知らされたな。なぁシャンクス。世界はまだまだ広いぜ」

 

「そうだなバギー。ロジャー船長のたどり着いたラフテルもまた一つのゴールだが、冒険先は他にもまだまだ世界にゴロゴロあるってことだ」

 

「……ワクワクしますね。皆さんには及ばないかもしれませんが、俺も故郷では仲間と冒険してましたよ」

 

「お、わかるクチか? 良いよな冒険」

 

 

最初は緊張感に包まれていた密談も、会話が進むにつれて和やかになった。

 

これはモモンガが『嘘は吐かず、話すとややこしくなることは話さない』というスタンスで、良い感じに自分の状況を説明することに成功したことが大きい。

 

転生者であること。そしてゲームのキャラクターそのものになってしまったことは伏せる。

 

魔法やスキルが当たり前に使えて、どこか遠い場所から来たこと、そして箱の中にいた理由がわからないことは事実であるので素直に話す。

 

実は魔法やスキルについて話すかは少し悩んだが、自分が有用であることをアピールすれば船から即降ろされることはないという打算もあり、使える魔法の種類や上限を制限した上で話すことにした。

 

とりあえず今のモモンガのポジションは『ワンピースの世界のどこかにある、魔法使いや骸骨の闊歩する場所から何故か赤髪海賊団の船内に転移させられた被害者』である。

 

 

「よし。とりあえず今日はこの辺で終わりにするか。明日、モモンガは客人として船に乗せるっておれからクルーに伝える。モモンガの魔法やスキルに関しては"ちょっと不思議な力を使える"くらいにしとくか。なんで箱に入ってたかは……うーん」

 

「故郷のマッドサイエンティストの魔法実験の失敗に巻き込まれて飛ばされてきた、とかどうでしょう。弱めの転移系の魔法を披露すれば納得もしてもらえるかなぁと」

 

「それだとお前の魔法は暴走するリスクがあるって言ってるようなもんじゃねぇか?」

 

「じゃあ『勝手に魔法を使わない』約束をしたことにしよう。おれかバギーの許可が出ない限りはダメだ、という内容でどうだ? 実際あまりポンポン使われると困るしな」

 

「わかりました。それでお願いします」

 

「よし、決まりだ。じゃあ改めてよろしくなモモンガ。赤髪海賊団へようこそ」

 

「すぐに仕事をしてもらうぜ。あんまり役に立たねぇようなら次の港で降ろす。雑用としてこき使ってやるから覚悟しろよ。まずは甲板の拭き掃除からだな」

 

「ま、そういうことだ。頑張ってくれ。しかし懐かしいな……おれたちも最初はそうだった。まあ、モモンガは海賊じゃないからちょっと違うけどな」

 

「海賊名乗るにはちっとモノを知らな過ぎるしなぁ。覚悟も足りねぇ。そのナリでビビり過ぎだ。まあ、気張れや」

 

「はは……お手柔らかに頼みます」

 

 

こうして密談は滞りなく遂行され、モモンガは客人兼レッドフォース号の雑用係に就任した。

 

なお雑用係としての最初の仕事は、酔っ払って使い物にならなくなったクルーたちを各自のベッドに運ぶ作業であった。

 

 

「モモンガのやつ、骨しか無いくせに物凄い力持ちじゃないか。つくづく面白い」

 

「この分じゃ次の港で降ろすことは無さそうだなぁ。馴染むのも早そうだ。結構じゃねぇか」

 

 

呟くシャンクスとバギーの横顔は妙に嬉しそうだった。

 

それは未知を楽しむことのできる、強者特有の余裕からくる笑顔だ。

 

一方、初仕事を終えて報酬として与えられた一室のベッドの上に転がっているモモンガはというと。

 

 

「……怖かったぁ。転生者テンプレ横目で見てて思ったけど、この世界の海賊の上澄みの方、強すぎじゃない? 何だよ"馬鹿デカい氷山を斬る飛ぶ斬撃"とか"島を真っ二つに割る拳"とか。本当か? あとシャンクスさんたち雰囲気ありすぎでしょ。獄炎のときミスって指先から離したりしたら、その瞬間俺の首飛んでただろ……いやクリティカル無効なはずなんだけどさ……」

 

 

アンデッドは致命の一撃を無効にする種族特性を持つ。

 

例えば首を切断であったり心臓を潰すといった人間が食らえば必殺となる一撃が、ただの攻撃と同じ扱いになる。

 

加えて、モモンガには低レベルな物理攻撃を無効化するスキルが備わっている。この世界の適当な銃や大砲の乱射くらいなら棒立ちでもノーダメージで過ごせるだろう。

 

それに加えて斬撃や刺突耐性も最高レベルまで高めている。このおかげでゲーム時代でもレベルカンストプレイヤーの近接攻撃をかなり低減できていた。

 

だが、おそらくシャンクスの斬撃はモモンガに大ダメージを与え得るだろう。目の前で見た剣とシャンクス自身の雰囲気が、モモンガにそれを予感させた。

 

杞憂かもしれない。だが、僅かでも可能性があるならそのリスクは冒せない。モモンガは石橋を叩いて渡るタイプだ。

 

 

「覇気も厄介だよなぁ……気配遮断の指輪と『完全不可知化(パーフェクトアンノウンアブル)』の組み合わせなら見聞色も誤魔化せるかな? 試してみたいけど……バレた時が怖いな。奥の手に取っておくか」

 

 

覇気といえば武装色も厄介である。

 

鈍の武器やただの拳にも、纏ってしまえばその威力は底無しに上がるときた。

 

己のステータスで、どこまでの量の覇気が込められた一撃を耐えられるのか? そもそも覇気の量が多いほどモモンガへの貫通ダメージは増えるものなのか?

 

疑問は尽きない。それは恐怖でもあり、好奇心を駆り立てる要素でもある。

 

モモンガの内心は複雑だった。元々ただのサラリーマンなのだ。自分の命を懸けて全力で未知を楽しむにはまだ覚悟が足りなかった。

 

 

「バギー副船長も怖かったなぁ……やっぱり海賊ってそうだよな。敵も海賊とはいえ、生きてる人を殺したり略奪したりもするんだよな……」

 

 

バギーの脅しも、骸骨の体でなかったらその場で土下座していた自信があった。こればっかりはアンデッド化したおかげで冷静に切り抜けることができたので良かったと思えた。

 

はぁ、と溜息をついて天井を見上げる。アンデッドの身ゆえに、何人運ぼうとも体力的には何の負担にもならなかったが、それでもベッドに転がってリラックスしていると何かが回復するような気がした。

 

 

「今日凄く濃かったし大変だったけど……ちょっとワクワクするな。あ……でもさっきの『魔法を勝手に使わない約束』も破ったら首飛ぶやつだよね? 掟破りは厳禁とかありそうだし。ほんと気をつけよ。明日からもミスしないように、ちょっとだけ楽しみながら全力で失礼が無いように頑張ろう」

 

 

大きな不安と少しのワクワクを胸に抱えたまま、明日からも真面目に生きようと固く誓ったモモンガであった。

 

 

 

 





「その骸骨の体は生まれつきで、こことは全然違う場所で生まれて気付いたら箱の中にいたと」
 
「はい、(モモンガというキャラクターはユグドラシルを始めた時に生まれたので)そうです」

ヨシ! 嘘は言ってないな!!

※モモンガは意外と腹芸ができるタイプ
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