【悲報】一般サラリーマン、目を覚ましたら厳つい男たちに囲まれてた   作:モモンガ大好き倶楽部

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第3話

 

 

〜1ヶ月後〜

 

 

赤髪海賊団が"雑用係"、モモンガの朝は早い。

 

というより彼には朝も夜も関係なかった。なぜなら彼は常に起きているから。

 

モモンガは不死者(アンデッド)であり、睡眠の必要もなければそもそも『疲労』という概念すら無い体を持っている。

 

闇夜を真昼間のように見通す目を待ち、なおかつ太陽光が苦手というような弱点も無い。まさに『24時間働ける』というこの世の理から外れた存在である。

 

 

「クー!」

 

「ああ、おはよう。もう新聞が来る時間か……ほら、これと1部交換よろしく」

 

「クー!」

 

 

カモメの新聞配達屋、ニュース・クーがバサバサと羽ばたきながら去っていく。

 

早朝の甲板はモモンガが仕事をしているタイミングであることが多く、必然的に新聞の受け取りは主にモモンガが担当していた。

 

 

「世界経済新聞社長、新聞王(ビッグ・ニュース)ことモルガンズ……いつか会わないとな」

 

 

転生者掲示板のテンプレに載っていた"覚えておくべき人物リスト"の一人。

 

 

モモンガはその名をポツリと呟き、すぐに切り替えて自分の仕事の続きをしようとした。

 

すると船内から人が上がってくる音がする。その人影はモモンガを見つけると陽気に手を振った。

 

 

「おお、もう受け取っちまったか。今日は惜しかったなぁ。もう少し早く起きればおれが新聞を受け取れたってのによ」

 

「あ、おはようございます。クー、かわいいですよね」

 

「だよな……いつか一羽飼いてぇもんだ。んで、おはようモモンガ。今日も精が出るな。もう夜が明けたしそろそろ休憩時間じゃねぇか? ちゃんと休めよ? じゃないとバギー副船長にどやされちまうからな」

 

「わかりました」

 

 

当初、赤髪海賊団のクルーの多くは宴会芸が面白いだけの不審なモモンガを船に乗せることを疑問に思っていた。

 

しかしそこからひと月経った後の今では、クルーの誰もが立派な戦力としてモモンガを見做している。

 

働かざる者食うべからず。船に乗るからには何かしらの意味で航海に貢献しなくてはならない。

 

モモンガは当初から雑用係としてその基準をクリアしていたが、日々船内におけるモモンガの重要度は増していっている。

 

つい先日も持ち前の勤勉さと内面の真面目さを認められ、初日に船長のシャンクスと交わした『許可が無い限り魔法を使わない』という約束も緩和されることになった。

 

自己判断での魔法の使用の許可。即ち真の意味での信用を勝ち取ったのである。これにより、いよいよモモンガは他のクルーたちから重宝されることとなった。

 

一方で勤勉かつ体力が無尽蔵なモモンガは、放っておけばいつまでも仕事をし続けるため、クルーからは『アイツは働き過ぎて自分が死んだことに気付かないまま骸骨になり、今もなお働き続けているから誰かが止めてやらないといけない』と本気で心配されるほどだった。

 

もっとも、この不健全な労働形態は副船長のバギーによりすぐに是正されたが。

 

 

「メリハリを付けろ。休む時はハデに休め」

 

「はい」

 

 

副船長の鶴の一声により、モモンガは毎日一定の休憩時間を取ることを定められた。

 

その前提の下に話し合いが行われた結果、モモンガは昼間や夕方のどこかで休憩を取り、早朝や深夜といった普通の人間が不得意とする時間の雑用を主に担当することになった。

 

結局他のクルーが楽になっているだけじゃないかというバギーの言葉に対して、モモンガは自分がどれだけ夜間の見張りに向いているかを語る。

 

そのメリットは3つ。

 

 

一つ、モモンガは非常に夜目が利き、なおかつ視力、聴力共に常人とは比べ物にならないほど鋭敏であること

 

一つ、"スキル"を使えば全方位数kmに渡っての継続的な監視が可能であること

 

一つ、『メッセージ』の魔法が使えるので、闇夜に紛れての敵襲など何らかの不測の事態に陥った際に大声を出さずともクルー全員に即座に緊急連絡ができること

 

 

「……確かに一人でこれだけのことをこなせる奴はこの船にはいねぇ。実際にこの前の夜襲をオメェが滅茶苦茶事前に感知してくれたもんで、余裕で防げたしな。その点でおれたちは非常に助かっている。ありがとよ」

 

「いえ、お役に立てて光栄ですよ」

 

「だが、モモンガ。お前が来る前からこの船は夜間の航海もちゃんとできてたんだ。やっぱりおれたちばっかり得して、結局お前だけに負担がかかってるんじゃねぇのか?」

 

「お気遣いありがとうございます。バギー副船長。でも、俺にとっても良いことはちゃんとあります」

 

 

言ってみろ、とバギーのめんどくさそうな目が先を促す。もはやモモンガが折れそうにないことは察しているのだろう。

 

 

「先ほども言った通り、俺は夜目が利きます。夜の仕事の合間に空を眺めると、星が特に綺麗に見えるんです。俺の故郷では星が見れる場所なんてなかった。だから俺は夜に星を眺められるのがすごく嬉しいんです」

 

「そりゃあロマンチックで良いな。それで?」

 

「あとは……俺が見張っている間、皆さんがしっかり眠って体力を回復してくれれば、それだけこの船の防衛力が上がります。お恥ずかしながら守っていただいてる立場なので、それがそのまま俺の安全に繋がるんですよ」

 

「……フン、おれたちが傭兵代わりたぁ言うようになったなぁモモンガ。まあ良い。要するにおれ様もお前もどっちも得をしてるってことだな? なら、これからも好きなだけ星を眺めると良い」

 

「ありがとうございます」

 

 

副船長のバギーが認めてしまえば、もうモモンガの毎夜の見張りを止める者はいなかった。

 

実際、雑務をこなしてくれる人手というものはいくらあっても余ることは無く、モモンガが担当することで空く人手を他に回すことでより航海の安全性は上がるのだ。

 

しかし黙ってそのまま任せ続けるのも忍びないのか、程なくしてモモンガに対し航海術のレクチャーが始まることとなった。

 

昼間の仕事ができるようになれば、休憩時間を取れるタイミングの選択肢も広がるだろうというクルーたちの気遣いである。

 

元ブラック企業勤めのモモンガからすればその心遣いがある時点で涙が出るほど嬉しい事態だった。

 

実際には骨の体は涙を流さないが、とにかくモモンガは感動した。

 

 

「偉大なる航路はとにかく気候変動が激しい。風を読み天気を予想し、それでも突然襲い来るシケから船を守らねばならない。まずは帆の張り方と風の向きの相関からだな」

 

「はい!」

 

 

新世界にも通用する航海術の開示。新参者に対して行われるには破格の待遇だが、義理堅い海賊たちはモモンガの働きに報いることを優先した。

 

また、モモンガは知識の珍妙な欠落こそあるものの、言われたことは素直にこなせるだけの理解力はあるし、何より未知への好奇心が強く、航海術を学ぶことに対してのモチベーションも高かった。

 

こりゃあ教え甲斐があるな、とは教師担当の航海士の言葉だ。

 

その言葉の通り、モモンガはやがて船と適切な人員の頭数さえあれば、偉大なる航路すら航海できるくらいに成長することになる。

 

 

「モモンガ。お前、力は強いし馬鹿みたいにタフだが、戦いはからっきしらしいな。敵船との戦闘の時はウタのお守りをしてもらっていてそれは助かるが、そろそろ戦い方も知るべきだろう。海賊船に乗るってことはそういうことだ」

 

「は、はい!」

 

 

航海術と並行して、一人で自分の身を守れるようにしてやろうと護身術を教えようとする者も現れたが、これに関しては徒労だった。

 

モモンガは『相手を無闇に傷付けない』という条件のつけられた模擬戦において無類の強さを誇った。

 

モモンガはどこで鍛えたのか何手もの先を読む戦術眼を持ち、戦闘時のカンもよく冴えていた。

 

相手の癖を見抜き、嫌がる攻め方を躊躇無く選択する。時に一時は劣勢になることも厭わず、最終的に勝っていれば良いという老獪な思想の下に模擬戦での勝利を積み上げた。

 

加えて、鍛え上げられたクルー3人がかりでも持ち上がらない錨もヒョイと持ち上げる腕力。そしてそれがオマケ扱いになるほど、モモンガが"魔法"と自称する多種多様な特殊技能を使った状況対応能力が光った。

 

こりゃあ鍛え甲斐があるな、とはシャンクスの言葉だった。

 

しかしすぐにシャンクスから直々に『ポテンシャルは凄いのに実戦向きでは無い』という無慈悲な判断が下されることとなった。

 

これはモモンガが一般的な海賊が行う血生臭い(人間を殺す可能性のある)戦闘行為に対する精神的耐性が全く無く、敵船に乗り込んで大暴れするなんてことは到底無理だったからだ。

 

結局モモンガはウタの護衛係、つまり元鞘に落ち着いた。

 

しかし変わったのはモモンガの戦闘力が多くのクルーから認められたことで、『最も安全な場所』としてウタを預けられるようになったことだった。

 

おかげでモモンガは前にも増してウタの傍に控えることになり、当然ウタはモモンガにそれはもう懐いてしまう。モモンガも慕われること自体は悪い気はしなかった。

 

しかし仲良くなればなるほど、時折シャンクスから感じる視線が厳しくなってきている気がしてモモンガは気が気で無かった。

 

 

そんなモモンガも、ウタの傍を離れる時がある。それは船が港に停泊する時だ。

 

 

「では、皆さん行ってらっしゃい。船は全力で守ります」

 

「いつも悪いな、モモンガ。本当はお前も町に連れて行ってやりたいんだが……ウタも『モモンガをルフィに会わせる!!』って最近騒いでるんだが、やはりな……」

 

「はは、ウタちゃんには後で俺からも言っておきます。すみません、いつも世話をかけてしまって」

 

「おーおーシャンクス。お前よりよっぽどモモンガの方がウタの親やってるぜ」

 

「バギー。それを言うならお前もだろう。拾った時はみんなでウタの親をやろうって話だったぞ」

 

「シャンクスさん、バギーさん。そろそろ行ってあげてください。先に行ったウタちゃんが待ちくたびれてしまいますよ」

 

「ああ、すまないモモンガ。行ってくるよ」

 

「モモンガ、お前の見た目は普通の人間にとってはちっとハデ過ぎるからな。まあ、土産は期待しとけ」

 

「バギーさん、分かってますから気にしないでください。シャンクスさんもありがとうございます。俺は皆さんの気遣いが本当に嬉しいです」

 

 

骸骨の体を持つモモンガはどうやっても目立つ。そのため基本的に船の外に出ることはできなかった。

 

 

「……確かにたまには船の外に出たくなるけどね。魔法で鎧でも作って変装したら行けるかな? いやでも転生者テンプレを見る限り、万全じゃない状態で不意打ち受けたら本気で死にかねない世界だしな……我慢だな」

 

 

他の世界の転生者たちから得た情報から、モモンガはこのワンピースの世界では極力目立たないことが最善であると判断した。

 

万が一、町の中に天竜人が歩いていて、「そこのお前、鎧のヘルムを取るえ」なんて言われたら終わりだ。見つかれば珍しい生き物として奴隷にされるのがオチだろう。

 

 

「変装魔法もMPの無駄遣いになっていざという時の戦闘に支障が出るしなぁ。やっぱり引きこもるのが一番か」

 

 

天竜人の奴隷。それはもう悲惨な生活が待っていることは明らかだ。

そもそもいざ奴隷にされそうになったら一目散に逃走してしまう気だが。

 

そうでなくても、もし町を歩いている時にピカピカの実の能力者に突如襲撃され、光の速さで攻撃されたら?

常識的に考えてモモンガは反応すらできずに身体を粉砕されるだろう。

 

 

「いや、テンプレ情報的には光の速さで蹴られたのに普通にみんな生きてるらしいけどね? やっぱりおかしいよなこの世界の人たちの耐久力。そんで俺が同じように耐えられるとは思わない方が良い」

 

 

というわけで今日もモモンガは一人でお留守番をしたのであった。

 

楽しみなのはクルーのみんなの土産物と、ウタの新しい友達の土産話だった。

 

それに胸を躍らせながら、今日もモモンガはレッドフォース号の手入れを丁寧に行っていった。

 

 

 





以下、補足


モモンガはゲーム時代に"情報を偽装する"ことの優位性と、逆にやられた際の被害の大きさを嫌というほど知っているため、転生者掲示板の情報を鵜呑みにはしない。ちゃんと自分で調べた上で判断する。

ついでにワクワクも大事にするタイプなので、テンプレの内容を大体覚えたあたりで掲示板はあまり覗かないようになった。今頃スレ住人は暇してる。

しかしテンプレから得た情報と、ワンピース世界で過ごす中でこの世界での新聞が情報媒体として重要な役割を担っていることを実感し、いざという時に大いに利用したいのでモルガンズと何とかして関わりを持とうとしている。

具体的には二度と手に入らない貴重な『物体検知』のスクロールを使ったり、不可知化のスキルを持つアンデッドを毎日限界数まで召喚して召喚時間が尽きるまでニュース・クーの後をつけさせたり等、割と本気で世界経済新聞本社の場所を突き止めようとしている。

残念ながら『今は』まだ見つかっていない
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