【悲報】一般サラリーマン、目を覚ましたら厳つい男たちに囲まれてた   作:モモンガ大好き倶楽部

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第4話

 

 

 

モモンガが雑用係として赤髪海賊団に迎えられてから数年が経過したある日の夜。

 

レッドフォース号の甲板にてシャンクス、バギー、モモンガのいつもの3人での密やかな宴会が行われていた。

 

モモンガの事情を他のクルーより知っている2人は、モモンガに気を遣って時折3人だけで話ができる環境を作ってくれるのだ。

 

なんて優しい。ここが神職場なのだろうか。モモンガは心の中で涙した。

 

 

「次の目的地はエレジアですか? うーん、聞いたことないですね」

 

「まあそうだろうな。人口こそ数百人と少ないが、中々に音楽が盛んな国らしい。著名な音楽家も多数輩出しているらしくてな。ウタの夢のためにも一度は行っておかないとと思っている」

 

「世界一の歌姫になるってんなら、努力もそうだが相応の環境っつーモンが必要だろう。必要なら長いこと滞在するかもしれねぇなぁ」

 

「そうなったら船は任せといてください」

 

「やっぱりまだ船の外に出る気はねぇか?」

 

「はい。基本的に俺の外見はみんなを怖がらせてしまいますし、かといって変装してると窮屈で何かあった時に対応できませんから」

 

「ならしょうがねぇな。オメェみたいな慎重なタイプは長生きするぜ。面白くはないからおれ様はそんなことしねぇけどよ」

 

「ははは……それにしてもウタちゃんはとっても歌が上手いですもんね。本人も歌手になるって昔から言ってましたけど、しかし世界一かぁ……すごい目標ですね。でも、きっとなれると思いますよ。ウタちゃんなら世界一の歌姫に」

 

「だろう? なんてったっておれの娘だからな」

 

「バーカ。なーに急に親ヅラしてんだ。最近反抗期か知らんがウタから露骨に避けられてる身でよく言うぜ」

 

「……なんか剣の切れ味試したくなってきたな。バギー、ちょっとそこに立ってくれよ。ほら、このリンゴ頭乗せろ。まあ間違ってお前の鼻を切っちまうかもしれないが……見ての通り俺は酔ってる。しょうがないよな」

 

「誰がリンゴみたいな赤っ鼻だぁ!? 上等だオラァ!! お前こそそこに立て!! 最新の特製バギー玉を食らわせてやるよ!! 酔いごとテメェを吹っ飛ばしてやらぁ!!」

 

「はいはい。やるなら船を壊さないでくださいね」

 

 

いつもの喧嘩である。

 

今はまだ口喧嘩だが、すぐに取っ組み合いになるのは目に見えているので、モモンガは巻き込まれないように少し離れた位置に座り直した。

 

ついでにクルーの睡眠の邪魔にならないように消音の魔法をかけておく。気遣いのできる男。それがモモンガである。

 

ひとしきり暴れた後、良い感じに疲れた2人がそれぞれの部屋に戻っていく。流れで解散というやつだ。

 

 

「今日はバギーさんは海に叩き落とされなかったな。平和が一番だ」

 

 

2人を見送った後、モモンガは1人で星空を見上げる。

 

敵襲を避けるためにも船の灯りは最低限にしてある。そのため夜空に瞬く星を遮るものは少なく、満天の星を独り占めすることができる。

 

 

「やっぱり綺麗だ。ブループラネットさんにも見せてあげたかったな」

 

 

モモンガはこの時間がやはり好きだった。

 

満天の星は何度眺めても飽きることは無い。そよそよと吹く潮風も、ざぶざぶと鳴る波音も、全身で感じる自然の全てがいつまで経っても新鮮に感じられた。

 

ひとしきり堪能した後に自分の食器の軽い片付けをして、いつも通り甲板から船の周囲の警戒任務を行う。

 

 

「風良し。敵影無し。大きめの魚影はあれど、海王類の気配も無し」

 

 

慣れてきたおかげで索敵も非常にスムーズだ。まだレッドフォース号の舵を握ることはないものの、練習用の小船くらいなら一人でも操舵できるようになった。

 

そうして身に付けた航海術を存分に使うことでモモンガはレッドフォース号の快適な航海に間違いなく貢献していた。

 

そのまま見張り用の使い魔を召喚し直したり、甲板やマストの掃除をしたりして時間が経っていき早朝に差し掛かった頃。訪ねてきたのは珍しい客人だった。

 

 

「おはよ……モモンガ。今日も見張りありがとう」

 

「ウタちゃん、おはよう。随分早いけど、起こしちゃったかな」

 

「ううん、頑張って早起きしたんだ。この時間ならモモンガはここにいるだろうって教えてもらって。私、モモンガとお話ししに来たんだ」

 

 

緊張した面持ちのウタに、モモンガもまた少し緊張した。

 

 

「ねぇ、モモンガ。海賊なりなよ」

 

「海賊に? ああ、それは……赤髪海賊団の正式なクルーになって欲しいってことかな?」

 

「うん。シャンクスも他の人も言うんだ。航海術も泳ぐのも合格だって。モモンガはいつか独り立ちするだろうって。そもそも雑用係なんかの器じゃない。それどころか一つの海賊船に縛られるのも窮屈な男だって」

 

「……その言葉は嬉しいけど、ちょっと過大評価かな」

 

「そんなことないよ。私だってモモンガがとっても凄いってわかるもん。でも……そんなの嫌だよ。シャンクスとバギーとみんながいて、そしてモモンガがいる。それが私に取って当たり前なんだ」

 

 

自分の傍にいて欲しい。幼子の純粋な気持ちはモモンガの心を揺らすに足りる。

 

モモンガも元々幼少の頃から孤独な身だったのだ。その言葉の意味も、発することの重さも本当に理解できる。自分も親を亡くした時にそう思ったのだ。モモンガは言えない側だったが。

 

 

「そばにいて。置いていかないで」

 

 

目の前のウタに自分の幼い頃の姿が重なる。ウタにとって赤髪海賊団は家族なのだ。そこには当然モモンガも含まれていて、それはとても嬉しいことで。

 

いつの間にかモモンガの手はウタの頭を撫でていた。優しく丁寧に。ゆっくりと撫でた。

 

 

「ものすごく嬉しいよ。ありがとう、ウタちゃん。俺は娘を持ったことどころか結婚もしたこともないけど……ウタちゃんのことは家族みたいに大事だと思ってるよ」

 

「『うん』って言ってくれないんだね……ねぇ、モモンガ。私本当に世界一の歌手になるよ。そしたらもっと一緒にいられるよね? だって私は赤髪海賊団の音楽家なんだから、この船に乗ってないと世界一の歌が聞けなくなっちゃうんだよ?」

 

「はは、それは本当に困るなぁ」

 

「ね、今度の目的地……エレジアに行った後も私たちと一緒に航海しようね。絶対だよ」

 

 

やはり即答はできず、モモンガは悩んだ。

 

赤髪海賊団を離れる理由は無い。ただし、ずっといる理由も無いのだ。

 

拾ってもらった恩は返したいとは思う。モモンガには便利な魔法やスキルがあるが、船を操りこの広い世界を旅するという『この世界らしい』冒険を実行できる段階に至ったのは間違いなくクルーたちの優しさのおかげだ。

 

ウタが今回の目的地のエレジアで一人前の音楽家として評価されれば、『船の外への好奇心の高まり』はいよいよ抑えられなくなるだろう。

 

なんだかんだウタが小さい頃からよく面倒を見ているので愛着も湧いているが、親とはいつかは子離れするものであるとも聞く。

 

モモンガ自身も元々冒険というものは好きだし、何年も時間をかけたおかげで身を守るための情報(・・・・・・・・・)も集まりつつある。少しずつ外の世界への憧れが強くなっていたのは事実だった。

 

 

「……そうだね。まだ俺は一人前とは言えないし、追い出されない限りはここにいさせてもらおうかな。ウタちゃんが世界一の歌姫になるのも近くで見ていたいし」

 

「本当だよね? 最近のモモンガは何か遠くを見てるような気がして……ふらっとどこかに行っちゃう気がする。私、嫌だよそんなの」

 

「……大丈夫だよ。俺はここにいる」

 

 

内心を言い当てられてしまい、その動揺が伝わったのか。モモンガの言葉を聞いてもウタの表情は晴れない。

 

2人の間にしばらくの間沈黙が流れた。

 

 

「……エレジア、楽しみだね。私の歌、エレジアで沢山の人に聴いてもらうんだ。だから……いっぱい練習したいから、まだみんなが起きないように魔法かけてよ」

 

「……良いよ。いつものやつだね。そしたら俺は赤髪海賊団の歌姫を独り占めだ。楽しみだな」

 

「そんなこと言っても、『うん』って言わなかったことは許してあげないからね!!」

 

「ははは……これは手厳しいな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウタと話した翌日、バギーが深夜に誰も連れずに甲板に現れた。

 

 

「バギーさん、聞きましたよ。俺の泳ぎもついに合格らしいですね」

 

「あぁ? 言ったっけかそんなこと。確かに最初のブザマな泳ぎからは想像もできねぇほど上手くはなったことは認めるがな。ま、教えたやつが上手かったんだろうな」

 

「ふふふ、ありがとうございます」

 

 

珍しいことにバギーは酒を持ってきていなかった。いつになく真剣な顔でモモンガの目を真っ直ぐに見て、言った。

 

 

「なあ、モモンガ。静かになる魔法、かけてくれねぇか。」

 

「いいですけど……はい、かけました」

 

「おし。モモンガ。お前、俺たちの正式なクルーにならないか」

 

「……驚きました。今朝、ウタちゃんにも同じことを言われましたよ」

 

「おお、そうか。アイツは中々賢い。色々とわかってきてんだろうなぁ」

 

 

しみじみとバギーは言う。モモンガは黙って先を促した。

 

 

「海賊王。オメェにこの意味がわかるか?」

 

「……かつてゴールドロジャーが得た称号、なんて答えはつまらないですね。バギーさんやシャンクスさんが元々いた船の船長が成し遂げた偉業。世の海賊全てが目指す海賊の頂点、ですね」

 

「正解だ。そして海賊王はシャンクスがなるべきだ。ロジャー船長の遺志を継ぎ、次なる王になるのはアイツしかいねぇ。おれ様はずっとそう思ってる」

 

「……」

 

「なぁ、モモンガよ。オメェの力を貸せ。ロジャー船長が一人では無理だったように、あの馬鹿も一人じゃ無理だ。業腹だがおれ様の力を以てしてもな」

 

「そんなことは……」

 

「いや、あるんだ。偉大なる航路はバケモン揃いだ。だからこそ、オメェが欲しい。おれ様がガキの頃から抱いてた夢……『海賊王シャンクス』。オメェも乗ってみねぇか?」

 

「俺は……」

 

 

モモンガは赤髪海賊団が、そしてシャンクスとバギーの関係性が好きだった。

 

王の器を持つ船長のシャンクス。そして真に王と慕いながら、対等な関係を築く副船長のバギー。彼らを慕い、命を懸けることも厭わないクルーたち。

 

かつてのギルメンが自分を魔王とからかってくる姿とダブる。違うのは、バギーは本当に対等な関係をシャンクスと築けていること。

 

それこそが、常に一歩引いていた自分がギルメンたちと築けなかった本当の友情だと思い知らされた。

 

 

「ウタだってお前によく懐いてる。お前はロジャー船長とは全然違うが、ある日フラッといなくなりそうな雰囲気だけはそっくりだ。なぁ、アイツを泣かすなよ?」

 

「……痛いところをつかれましたね」

 

 

バギーの言わんとすることは一つ。

 

 

「ケジメ、付けろよ」

 

 

中途半端な者は海賊になれない。ならば、船にはいられない。航海術も泳ぎも覚えたモモンガはもはや見習いや雑用ではない。だが戦闘もできない、その覚悟も無いものは海賊とは呼べない。

 

モモンガは決断の時を迫られていた。

 

 

「……すみません。もう少し考えさせてください。せめてエレジアに着いてから」

 

「おぉ、それでいい。むしろ本格的に海賊になろうってんならもっと悩んで欲しいくらいだぜ。殺すか殺されるか。そして信念は殺されても曲げねぇ。海賊王のクルーになるってんなら、オメェにもそういう覚悟を持ってもらわねぇとな」

 

 

あっさりと引いたバギーはモモンガの答えを予期していたのだろう。

 

言葉が示す通り苛烈かつ海賊に誇りを持つバギーが、むしろこんな半端な状態のモモンガをよく何年も船に置いてくれたものだ。

 

 

「みなさんの優しさに甘え過ぎてしまいましたね。ありがとうございます。気付かせてもらって」

 

「ハッ、ならその優しさとやらに感謝して、諦めて決断しちまえば楽になるぜ」

 

「ふふふ、そうですね。とりあえず、エレジアが楽しみです」

 

「あぁそうだな。ハデに楽しもうぜ。なんてったってうちの歌姫さんの初のお披露目だ。音楽家のヤロウ共、ハデに驚くぜ」

 

「ええ、本当に楽しみです」

 

 

そうやってしばし談笑した後、バギーと解散した。

 

 

 

「もしリアルに帰れたらみんなと真剣に話さなきゃな」

 

 

 

モモンガは叶わない願いを、1人夜空に誓った。

 

 

 






※シャンクスがモモンガの独立を止めてくれないので、ウタは最近拗ねてシャンクスを無視している
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