魔法少女更生計画   作:親指ゴリラ

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P.S. 地獄の炎はいつ凍る
次回、魔法少女ネクスタシー 『地獄』


 

◇ルダ

 

 

千代(ちよ)? 聞こえているかい、千代……ダメみたいだね」

 

「……小官の呼びかけにも反応がありません。通信系統が壊れているか、あまり考えたくはありませんが……何かあったのかと」

 

 

 ルダは早急に、判断を改める必要があった。

 

 何かが起きるかもしれない、ではない。

 恐らくだが、既に何かが起きてしまっている。

 

 「第八宿舎」ではこれまで、ルダの想定を外れるような出来事は起こっていない。収容されたばかりの囚人が問題を起こした、とか。あるいは、封印を解いた囚人がパニックに陥り看守に攻撃を仕掛けてきた、とか。そういう軽微なトラブルこそあれど、能力に優れた看守達の働きと、ルダの采配によって全て“軽微なトラブル”として処理していて、それで万事上手くいっていた。

 

 だが、この不穏さはいただけない。

 

 囚人が内外の協力者と共謀出来ないように、「第八宿舎」内での通信は大きく制限されている。外部との通信など以ての外であり、施設の内部における──階層間のやり取りですら、監視役の看守を通すことで渡しが行われる。これはあまり考えたくない事だが──内通者による脱走の手引きの可能性を考慮しての事であり、緊急時を除いて通信に大きく制限をかける事で、不届者達に連携を取らせない仕組みとなっている。

 

 そして、監視役というのはルダが呼びかけているカルパ千代一人のことを示すのではなく。先ほどからルダ、403、マンダラクタル、シスター・サンドラの四人でそれぞれ監視役の魔法少女達──ダイヤのシャッフリンへコンタクトを試みているものの、その全員から返答がない。

 

 通常ならば、考えられない事だ。

 「第八宿舎」の、その役割の性質上。看守間の情報のやり取りに影響が出る可能性というのは、事前に対策が施されている。施設の内壁は全て結界を応用したものであり、壁内を張り巡らされている通信路に対して、施設内外問わず、魔法を行使した干渉は出来ないようになっている。

 

 その上で、監視役を複数用意する事で人的な非常事態に対しても対策を施している。通信経路が無事であれば、監視網が生きているのであれば、非常事態を把握できる魔法少女がいるのであれば。監視役による設定の変更で施設内の通信は一時的に解放され、看守間のやり取りは全てオープン状態となり、看守全員に対して共有される筈だ。

 

 だが、そうなってはいない。

 

 

「マスター、通信系統は問題ないぜ。使えていないように見えるが、間違いなく活きている。だが、監視役からの反応がない。こちらからの強制接続も弾かれた。マスターの看守長権限を使ってもダメだ、応答がない。監視カメラの映像にすらアクセスできない……それも、全回線だ。こりゃ……考えたくねぇが、人為的に起こされた事象だ。何者かの意図を感じるぜ──ぽん」

 

「ファザー、ありがとう。それだけ分かれば十分だ」

 

 ルダは魔法の国の──望んでそうなった訳ではないが──名誉国民であり、長年に渡って公私共に貢献し続けてきた、立場のある魔法少女だ。

 

 当然、マスコットキャラクターを与えられている。FAシリーズの電脳妖精、ファザだ。ルダは親しみを込めて、冗談混じりでファザー(神父)と呼んでいるが、今のところ本人……本妖精からそれを咎められた事はない。

 

 ルダがファザに求めている役割は多い。ルダもそれなりに知識があるとはいえ、電脳妖精と比較すると電算処理の能力は大きく劣る。そのため、主に施設の機能に関する実行処理は任せている。

 

 そのファザが、何も成果を得られなかったという。それはつまり、今この異常が自然に起きた事象ではなく。何者か、少なくともファザと同等かそれ以上にシステムに干渉できる存在がいる事を示している。

 

 

「それと、これはあまり言いたくねぇが……あのカルパ千代って奴は信用できないぜ。看守としては合格だが、マスターの方針とは全く別の方向を見ている──ぽん」

 

 考え事に集中していたルダへと、ファザが警告を口にした。マスターの意志に迎合するだけではなく、協力者として意見を述べる。それは、ルダがファザに求めている役割の一つでもあり、数いるマスコットキャラクターの中からFAシリーズを選んだ理由でもある。

 

「ファザー、君の懸念は最もだけど……千代が何かしたわけじゃないさ。勿論、危うい部分があるのは知っているけどね。それも含めて、彼女を信用している」

 

「……マスターがそう言うなら仕方がねぇ──ぽん」

 

「彼女が何かをした──という前提の報告書を用意するつもりなら、やめてくれ。確かに、能力的にも立ち位置的にもこの事態を起こすことは可能だけど。疑わしきは罰さず、だ。今のところは、(せつ)は内通者の存在を懸念すれど、誰か個人を疑うつもりはないよ──勿論、可能性に織り込んで行動はするとも」

 

「チッ、仕方のないマスターだぜ。その甘さに足元を掬われないように気をつけるんだな──ぽん」

 

 マスターに意を唱え、独自の判断基準を持つ。電脳妖精らしからぬ欠陥を持つこのマスコットキャラクターの事を、ルダは好ましく思っている。だが、それはそれ、これはこれ。その一線だけは越えるつもりはない。

 

 

「……んで、ソイツの言うことは信じるつもりか? ぽん」

 

「それを判断するために、話を聞くべきなんだろうね」

 

「正気か? ……怪しすぎるぜ。この現状だって、ソイツがやってきてから始まったようなもんだ。どっかの組織と繋がっていて、囚人を逃すための手引き──あるいは、マスター達をここに留めるための時間稼ぎをしていると考える方が自然じゃねぇか? ぽん」

 

「勿論、その可能性はあるだろうね。だけど、さっきも言ったけど……疑わしきは罰せずだよ。それに、そういう役割はファザー達が十分に果たしてくれるだろうから、ね」

 

「ハッ、人任せって事か? 仕方のないマスターだな──ぽん」

 

 ファザは白黒の体を揺らして電子の鱗粉を周囲へと撒き散らす。ぶっきらぼうな口調──いつの間にかこうなっていた──で誤魔化してはいるものの、ファザは電子妖精らしく、頼られる事が満更でもないらしい。ルダが何かをお願いする時は、いつもこういう反応を見せる。

 

 

「──それで、説明はしてくれるのかな?」

 

「私からは……魔法の条件に抵触しますので」

 

「ああ、そうだったね」

 

 囚人の魔法の制限を解除し、全員への行使を推奨する。正気ではない提案だが、それを上申してきたサンドラはいたって平常通りであり、正気そのもののように見える。先ほどから何度か会話を重ねて、受け答えもしっかりしているのは確認済みだ。何者かに……あの囚人に操られている、というような気配もない。

 

 サンドラの魔法は扱いが難しく、告解室の中で交わされた会話の内容については他言出来ないため、囚人に問題があるか否かについては、サンドラの自己申告を信じるほかない。そのため、魔法自体は強力だが全面的に信用するには問題がある、というのが魔法の国とルダの共通認識だ。

 

 だが、それでもルダはサンドラの言葉(・・)を信じることにしている。魔法ではない、サンドラそのものを殆ど無条件に信頼していて、そしてそれはサンドラに限った話ではない。

 

 

 多くを語れないことを、申し訳なさそうに。視線を泳がせたサンドラは、それでも正面からルダの瞳を見つめ返す。そこに躊躇いや罪悪感は存在せず、ただただ自分の信じるものを貫ぬかんとする、尊い光がある。

 

「ですが、ネクスタシー様は協力的な方です」

 

 そのサンドラが、ネクスタシーを擁護する。

 

 

「そうか、そうか。なら、直接聞くとしよう」

 

 ルダが視線を向けた先では、403とマンダラクタルが囚人であるネクスタシーを囲んで警戒態勢に入っている。この「第八宿舎」に移送された時よりも緊張感が漂っていて、見方によれば一触即発の気配を感じ取れるだろう。

 

 だが、403とマンダラクタルのそれに比べて──ネクスタシーの態度はフラットであり、そこから緊張は感じられない。相変わらず焦点はぼんやりしていて、視点はどこに向けられているのかは分からないが。少なくとも、看守よりリラックスしているのは間違いない。

 

 魔法の国から受け取った資料を思い返す。

 

 囚人ネクスタシーの魔法は「いつでも次回予告が見られるよ」というものであり、その効果は「限定的な未来予知」であるというのが、取り調べを担当した部門の公式的な見解だ。次回予告、というのがどこまで先の未来を観測できるかは未知数だが、この落ち着きようを見る限りだと、少なくとも今この瞬間に関しては既知だった可能性がある。

 

 その気になれば幾らでも逃亡することが可能で、しかも、魔法の国に登録がなかった事から、余程大きなコト(・・)でもやらかさない限りは存在を認知される事すらなかった筈の存在。

 

 それが自首(・・)してきたと聞いた時は、のっぴきならない事情を感じ取ったものだが。なるほど、収容のタイミングに合わせて問題が発生している所を鑑みるに、何かしらの情報を“次回予告”で手に入れている可能性があると考えて良いだろう。

 

 問題は、それ(情報)をどう使うのか。自分の利のために役立てるのか、それとも、魔法少女“らしく”世のため人のために使おうというのか。あるいは、ルダを含む看守達を上手く操ろうというのか。ネクスタシーが何を考え、どういう意図があって「第八宿舎」にきたのか。ルダはそれを見極め、正しい判断を下す必要がある。

 

 

「囚人……いや、ネクスタシー。話すつもりはある、そういう認識でいいのかな?」

 

「──先に、魔法の使用許可を」

 

「貴様──っ!」

 

 ルダが、というより、サンドラ以外の看守が今ひとつ尋問に乗り気に慣れない理由が、ネクスタシーのこの頑なな態度だった。

 

 ルダが、403が、何を問いかけても。まず(・・)最初に魔法を使わせろ、と、そういう要求をしてくる。最初は眉を顰めつつも何も言わなかった403だが、同じ言葉を何度も繰り返し聞くたびに、冷静さを失い、ルダが止めなければ今にも襲いかかりそうな様相を見せるようになった。

 

 マンダラクタルは面白いものを見る目で見つめているし、サンドラは心配そうな目線をネクスタシーに向けている。403も見せかけの態度ほど怒ってはいないだろうが、どこか困惑しているように見える。

 

 ネクスタシーは本来、第四層に収容される予定だった魔法少女だ。「第八宿舎」に収容される囚人達は基本的に403の魔法によって魔法の使用を制限され、それは“更生”が進み第三層以上での生活を許可された者しか解除されない。そして、制限が解除された者も不要不急の魔法の行使は規則で禁じられている。

 

 第八層での封印刑に処された場合、当然ながら魔法の使用など許可が降りない。今回のネクスタシーに対する求刑は明らかに不当な力が働いているというのはルダも理解しているが、それでも本来なら第四層での服役が妥当と判断されている。これは間違いない事実で、事前に魔法の国から降りてきていた資料とも内容が一致している。

 

 そう、基本的には。ネクスタシーの魔法の制限を解く事などあり得ない。

 

 だが、ネクスタシーは未来の予知ができる魔法少女だ。此処にきて焦る様子もなく、何が何でも制限から逃れようという様子もみられない。

 

 あくまで、自然体。そうなるのが当然、未来はそう決まっている。そう考えているのが態度に透けている。

 

 ならば、ルダのその推測が本当に正しいのか。

 試してみるべきだ。

 

「ネクスタシー、君の──」

「『君の魔法の制限を解く為には条件がある。この言葉を私が口にする前に自ら述べる事だ』……これで、いい?」

 

「……ああ、合格だ。403、彼女の制限を解除してやってくれ」

 

「ハッ! ……え? ルダ看守長、それは……今のは、えっと、どういう?」

 

 呼びかけられ、条件反射で返事をしたのだろう。威勢よく声をあげた直後に、予想していなかった命令に狼狽える403を見て、マンダラクタルが無邪気に笑っている。確かに面白かったが、そこまで笑うのは流石に可哀想だ。あとで嗜めなければいけない。

 

 

「見た通りだ、囚人ネクスタシーは恐らく……自分が今こうして、この“第八宿舎”に収容される事まで把握した上で自首してきている。今のネクスタシーは、403、君の魔法によって制限をかけられている状態だね? ならば、私が口にしようとした言葉をこの場で先読みするのは不可能だ……そう、少なくとも君が魔法の国から彼女の身柄を預かるよりも前から、彼女は今この瞬間を予想していた事になる。ならば、魔法の使用に許可を求めているのにも理由があるはずだ」

 

「はぁ……えっと、ではこの囚人は……自分が封印刑になるのを分かって出頭してきたと?」

 

「というより、そうならない(・・・・・・)事を知っているから自首したのかもしれないね。いや、もしかしたら……封印刑になっても良いのかもしれない、その代償を受け入れてでも成したいと思う何かを、魔法によって導かれて、知ったんじゃないかな?」

 

 403はルダを前にすると少し気が弱くなるのが欠点だが、それ以外は基本的に高水準な能力を持った魔法少女だ。ルダが何を考え、どのような意図を持って命令しているのか。最低限の言葉で理解してくれる。

 

「で、では……本当によろしいのですか?」

 

「責任は拙が取る、頼んだよ」

 

「……ハッ! それでは──囚人ネクスタシー、魔法の使用を許可する! ルダ看守長の命令に従い、我欲に惑わされず、清く正しく魔法少女であること!」

 

 403が警棒でネクスタシーを叩き、魔法の制限を解除する。相変わらず、見た目の印象が良くない発動方法だ。ネクスタシーが無抵抗であり、叩かれた事に対してカケラも反応を見せない事が、ただでさえ痛ましいそれを余計に際立たせている。

 

 

 囚人、ネクスタシー。

 未来予知が可能な魔法をもった、犯罪者。

 これは、なるほど。驚異的だ。

 

 未来を知る、というのは魔法の国の歴史においてもかなり珍しい部類の、端的にいってレアな魔法だ。前例は数えるほどしかない上に、基本的には何かしらの制約が存在していて、完璧な未来予知というのは殆ど不可能だと言われている。“次回予告”という申告が正しいのなら、恐らくは断片的な光景を垣間見るような、そういうイメージの魔法と考えていいだろう。

 

 真に驚異的なのは、この魔法少女がそれを……恐らくは、殆ど完璧に使いこなしているという事だ。

 

 ネクスタシーは当然ながら、魔法の国の司法手続きに則って裁判を受け、実刑判決を受けた魔法少女だ。つまり、実際に確保されてから此処にくるまでには勾留期間があり──およそ三ヶ月の間、403以外の方法で魔法を封じられ、その末に此処に辿り着いたのだ。

 

 三ヶ月。これを“たった”三ヶ月と取るか、三ヶ月“も”と見るか。人によって判断は別れるだろうが、ルダとしては驚愕に値する。

 

 つまり、少なくとも三ヶ月前には。

 

 この「第八宿舎」に収容され、入所手続きで不測の事態が発生し、こうしてルダから尋問を受ける。その瞬間を予知して、予知した通りの未来に辿り着くように動き、実際にこうして、此処にいる。

 

 推測が多分に混じっているが、概ね間違いないだろう。ルダがこうしてネクスタシーに対して推測を重ねて、その上で判断を下すと。その事まで理解して、計画的に動いている。

 

 驚異的だ。実に驚異的な精神力だ。

 

 調査が正しいのであれば、ネクスタシーが魔法少女になったのはおよそ“半年前”だ。たった三ヶ月で己の魔法を理解して、この場所に辿り着くための計画を作り上げた。魔法を封じられ、何の抵抗も出来なくなり、過酷な取り調べを突破し、自分が行き着く先をコントロールするために問答の一つ一つに何と答えるかを決め……と、ルダがその道筋を想定するだけで幾つもの障害が思いつくが、恐らくそれ以上の困難を乗り越えている筈だ。そうでなければ、この現状に説明がつかない。

 

 

 そしてこれは、この中(看守)だとルダにしか思い至れない視点の話だ。

 

 ネクスタシーがスケジュール通りに第四層に収容されるのであれば、ルダはネクスタシーの様子を一目見れども、その後の対応は403達に任せて別の作業に入っているはずだった。その場合、ネクスタシーとルダは殆ど会話を交わす余裕など無かっただろう。403からサンドラ、マンダラクタルの二名にネクスタシーが引き渡されるまで、ネクスタシーに掛けられた「言葉を発してはならない」という制限は解除されない。サンドラの魔法による告解のその瞬間まで、ネクスタシーが言葉を発する機会は存在しない。

 

 つまり、403から直接サンドラ達にネクスタシーが引き渡された場合、この局面にならなかった。仮にサンドラからルダに対して報告が上がってきていたとしても、その瞬間には既に現状のような問題が発生して、その対処に追われていた可能性がある。ルダがネクスタシーの魔法の使用を許可する時間などない。

 

 何処の誰が、どんな目的を持って。このネクスタシーという魔法少女に対して、封印刑──過剰な罰を与えようとしたのかは分からない。

 

 だが、ネクスタシーはその事を利用して此処にいる。ルダと直接対面して、魔法の使用を許可してもらう。封印刑すら、彼女がその未来に辿り着く為に何か誘導した(選んだ)結果ではないかと思わされる。

 

 実に惜しい。

 

 彼女が前科者であり、この「第八宿舎」に収容されるべき囚人でなければ。魔法の国と、世界の平和を守る為に動くことのできる、一分の後ろめたさもない潔癖な魔法少女であれば。ルダは多少の期間を見極めに使った後に、彼女に対してスカウトをしていた事だろう。魔法の国の未来を担うに相応しい人材だと、胸を張って紹介していただろう。

 

 だが、そうはなっていない。半年前に魔法少女になった、ということは。この施設で働いているルダには、彼女が捕まるより前に接触する手段が皆無だという事。縁がなかったといえばそれまでだが、それは実に勿体無い事だと。ルダの中の元人事部門としての血が騒ぎ、嘆いている。

 

 そして、評価はすれど信頼はできない。

 

 現時点でのネクスタシーはルダの中で、囚人という立ち位置から更に警戒度が上がり、得体の知れない魔法少女という評価になってしまっている。

 

 これから彼女が何を語るか、あるいは、騙るか。それを聞いた上で真贋を見極め、その性質が善と悪どちらに在るかを把握し、どこまで信用するかを判断しなければならない。

 

 大事な役割だ。責任といっていい。

 

 不測の事態に対して、最善を尽くし、決して判断を間違えない。それが看守長としてルダに与えられた、ルダが果たさねばならない役割。

 

「じゃあ……囚人ネクスタシーへ、これで喋ってくれるね? 君が何を知り、どんな目的を持っているのか。今この第八宿舎で何が起きていて、どんな事態に陥っているのか……嘘偽りなく、知っている事を教えてくれないか」

 

 看守達の命にも、そして、囚人達の命にも責任を持たなければならない。

 

 

 ルダの、403の、マンダラクタルの、サンドラの視線の先で。ネクスタシーの瞼が仕切りに痙攣し、口を開きかけ、考え直すように閉じて、また瞼が痙攣する。

 

 勿体ぶっている訳じゃないだろう。恐らくは、未来を観測する事で伝えるべき事(言葉)を選んでいる。自分が何を言うかを決め、その結果どのような未来になるか、事細かに観測している。

 

 これまで言葉数が少なかったのも、そのせいだろう。伝える事を最小限にする事で、観測した未来がブレないように調整している。

 

 荒ごとの気配がする。いや、ずっとしていた。

 ネクスタシーが此処に訪れてから……いや、それよりもずっと前から。ネクスタシーが第八宿舎に到着するよりも前、403がネクスタシーを受け取りに行くよりも前、ずっと前からルダはそれを感じていて、だからこそ、こうして現状を受け入れている。冷静に、選択肢を掴み取っている。魔法少女としての長い経験が囁き、教えてくれている。

 

 此処にきて、ルダの感覚が更に研ぎ澄まされる。

 感じているのだ、争いを。戻っているのだ、戦う魔法少女へと。

 

 ネクスタシーが特定の動作を繰り返す。

 403やマンダラクタルはルダよりも気が早いが、それでもネクスタシーを急かそうとしていない。グッと堪え、息を呑み、何か尋常ではない気配を感じ取りながらも、その時(・・・)を待っている。ネクスタシーが口を開くのを、待ち構えている。

 

 

 そして、その瞬間が訪れる。

 

「ネクスタシーは、未来を変える為にやってきた」

 

「脱獄した魔法少女が、世界を滅ぼす」

 

「炎の魔法少女が、世界を燃やし尽くす」

 

「ネクスタシーは、その未来を変えたい」

 

「お願いだから、ネクスタシーの世界を助けて」

 

 さぁ、この魔法少女を信じるべきか。

 それとも──。

 





 ネクスタシー達の活躍で日常を取り戻したZ市。
 だが、束の間の平穏は、突然破られる。

 「第八宿舎」を脱獄した強大な魔法少女の魔の手によって、一人、また一人と倒れ伏す仲間達。何故、どうして、私達が何をした? 世界は救われたのではなかったのか。
 こんな未来は認めない。
 こんな結末などあってはならない。

 私は一人でも立ち向かう、仲間達のため、世界のために。
 例えそれが、大切な人々との未来(過去)を否定する選択だとしても。

 次回、魔法少女ネクスタシー 最終回
 『地獄』
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