おっさん探索者、ダンジョンから溢れ出すモンスターを倒し英雄になる~飼い犬の為なら命を懸けるぜ~ 作:カミナリ7402
大阪の地下300mに、無数の洞穴が張り巡らされていた。さながらアリの巣のようであるが、広さは人間が5人並んで歩けるほどだ。そして穴を掘った張本人が、暗いダンジョンの中で蠢いている。
羽根が退化したハチのような生物だった。その顎は人の首程度であれば容易く引きちぎれるほど、太く鋭く力強い。羽根が無くなった代わりに足は異様に分厚く、土を掻き分け移動するのに特化していた。
俺、中田誠は静かにクロスボウを構える。銃刀法違反の制約上、民間人は銃器を持てない。だから俺のような民間の探索者は、銃器以外でこの化け物を倒す必要があった。
「ギギギギギ!?!?!?!?」
「よし、ヒット」
だが俺も35歳、探索者としての経験は10年近くある。クロスボウから放たれた矢は見事にハチもどきの首元に命中し、体液が飛び散る。ハチもどきのモンスター、サンドビーは狩人を探すべく首を振るが、奴の目には何も映らない。
静かに息を吐いて次の矢を装填する。焦っても何一つ良いことはない。俺のような中年の強みは、経験からくる余裕だ。音を立てずに矢を装填し、再び放つ。矢は再びサンドビーの首元に命中し、遂にその命を絶った。頭はしばらく蠢くが、直ぐに動きを止める。俺はサーマルスコープをずらし、ふぅと息を吐いた。
このモンスターは自衛隊と戦闘しすぎたせいか、銃器に対抗すべく装甲が厚い。また銃を探知するために磁気誘導による金属探知や光感知能力も保有している。
しかしサンドビーの金属探知能力は精度と有効距離が極めて低い。磁力は距離の二乗に反比例なんていうが、実際30m先の俺を探知することに失敗している。さらに言えば、暗闇の中では触覚頼りで視界は無いに等しいのがこいつの生態だった。
だからできるだけ非金属で固めた装備とサーマルスコープで闇に紛れ、クロスボウで関節を破壊する。
周囲を警戒しながら死骸に近付き、尻の毒針に近付く。手袋をし、ゆっくりと力を入れると針は細い臓器と共にするりと抜け落ちる。数十センチほどの針と臓器を専用のケースに収め、背中に入れる。
「これで一万円か。今日は美味しいものが食べられるぞ」
この臓器、すなわち毒のうにはサンドビーの毒が貯蔵されている。この毒は非常に合成が困難な物質であり、それ故に一万円という高値で取引されている。もっと高くてもよいと思うのだが、不純物を取り除く工程がかなりかかるらしい。だから俺たち探索者にはそこまで支払うことはできない、とのことだった。
世知辛い話である。極悪企業が探索者を搾取しているならもっと話は簡単だった。だが現実として、如何なる手を尽くしても俺たち民間の探索者に支払う金額は年々下がる一方である。
「そんなことを考えても仕方がないな。さて、仕事を続けるか」
俺は首を振り、背中に道具を仕舞い探索を再開した。
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あれから数時間。何とかサンドビーをもう一体倒せた俺は探索を切り上げ、自宅の前に立っていた。季節は既に冬で、寒さが染みるが俺の懐は温かかった。サンドビー二匹で2万円。日給としては悪くない。
「ただいまー」
扉を開けた瞬間、鳴き声と共に部屋の奥から愛犬のポチが駆け寄ってくる。柴犬なのにやたらと甘えたがりなポチは俺に向かって飛び込ついてきて、顔を舐めようとしてきた。
「よしよし、今日は美味しいおやつ買ってきたからな」
探索用の道具を下ろし、食料が入ったビニール袋を開ける。半額の刺身にご飯パック、それと千切りにされたキャベツのパックを食卓に並べる。同時にポチ用に買ってきた犬のおやつを取り出すと、ポチの息が荒くなる。夕飯の前にもかかわらず、何とか俺の手からおやつを奪おうと背伸びを始めるポチであった。
ポチ用の食事と自分用の食事をささっと用意して、いただきますと手を合わせる。
凄い勢いでドッグフードを貪るポチは、俺の唯一の家族だ。両親は既に他界し、兄弟もいない。だからポチがこうやって満足そうに食事している姿を見ると、一日働いてきて本当に良かった、と思える。
『続きましてのニュースです。自衛隊のダンジョン特殊作戦群がまたしても新発見をしました。2035年頃から出現したダンジョンと、内部に潜む謎の生命体、通称モンスター。今回、ダンジョン特殊作戦群は僅か1日にして108匹ものモンスターを討伐し、新たな資源を獲得しました』
テレビから流れ出す自衛隊の討伐記録は、流石としか言いようがない。民間人の俺とは違い、マシンガンやロケットランチャーでモンスターを狩るのだから討伐速度が段違いなのだ。更に銃撃に巻き込まないように、という理由で自衛隊が突入する日はそのダンジョンを使用することはできない。
自衛隊に就職しておけばもう少し良い人生を送れたのかな、と思うも後悔先に立たず。今の俺は民間の探索者として自衛隊のおこぼれを拾う、冴えない中年だ。
「バウッ!」
「もう食べ終えたのか。よしよし」
ポチを見ていると、まあそれでも良いかと思えてくる。収入は低いが貧しさにあえぐほどではない。社会的な地位は高くはないが自ら卑下するほどでもない。身の丈に合った穏やかな人生を送ることが出来るのなら、それで構わない。
ポチが買ってきたおやつに夢中なのをよそ目に、俺はカバンから今日の戦利品を取り出す。黒光りする太い角のようなもの、それはサンドビーの顎だ。
ほとんど価値が無く、買い取ってもらえない素材であるが俺には使い道がある。まず糸鋸で先端を切り落とす。次に小型の旋盤にセットし、曲がった顎を真っすぐな円錐になるよう切削していく。
旋盤とは物を回転させながら刃を当てて、素材を削り加工する装置だ。今回はこれを用いてクロスボウの矢じりを制作している、というわけだ。
人間を嚙みちぎり岩を砕くサンドビーの顎といえども超合金の刃には勝てないらしく、みるみるうちに指先ほどの円錐が出来上がる。あとはこれをクロスボウの矢じりとして接続すれば、サンドビーアロー(命名:俺)の完成だ。
サンドビーアローの特徴は壊れにくく、錆びにくいことだ。一見地味だが、矢じりの交換の手間や新規購入費用を考えると、何度でも使いまわせる矢というのは極めて有用だ。ましてやモンスターの血液がかかったり、矢を抜こうと変な力を加えられる状況ならなおさら。
更に言うと、非金属なのでモンスターに感知されにくい。銃弾対策として金属を探知するモンスターに対して、非金属ながら貫通力を持つこの矢はうってつけの素材であった。
「こうやっていると、ダンジョンに潜っているって感じがするな」
ダンジョンに潜り、得た素材で装備を更新し、再びダンジョンに潜る。古き良きRPGのような生活である。違いはレベルアップや魔法なんてものはなく、あるのは人の知恵と工夫だけということだろうか。
矢の出来栄えに満足し、カバンに詰めなおす。もっとおやつをくれとにじり寄ってくるポチを宥めながら、俺は明日の探索に備えて装備の点検を始める。時刻は既に8時。もう少し作業をして、ゲームでもしたらもう寝る時間だ。
探索者としての穏やかな一日が、また終わりつつあった。
『続いてのニュースです。オーストラリア第175号ダンジョンにて、探索に向かった特殊部隊が消息を絶ちました。周辺区域では謎の地響きが相次ぎ、本件と関係があるのではないかと考えられています。明日の明朝に救援部隊が突入を開始する見込みとなっており、オーストラリア政府の発表によると――――――』
次話は明日更新予定です。