Fleet Gear~狂った歯車~   作:刹那・F・セイエイ

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ジパングとのコラボはよ


#02 基地案内

着任してから数日後、追われていた書類整理から解放されひと息ついていると、執務室のドアをノックする音が聞こえてくる。

 

「失礼します。第六駆逐隊、暁、響、雷、電、入ります」

「ああ、入れ」

 

提督に許可をもらった第六駆逐隊の四隻は、長女の暁を筆頭に、響、雷、電と入り、全員が一斉に礼を取る。ズレた帽子の位置を直す暁、セーラー服の襟を正す響、そんな二隻を見てため息をつく雷、緊張しているのかあわあわとうろたえる電と、統率のとれないバラバラな動きを見せる。

 

「ほら、アンタたち。提督の前でみっともない姿見せない」

 

先日秘書艦に任命した北上が「みっともない姿」を見せる第六駆逐隊を叱る。北上にしてみればもはや慣れっこなのだろう、またやってるとでも言わんばかりにため息をつく。

 

「見てたのがあたしだからよかったようなものの、大和だったらグーパンが飛んできてたね、間違いなく」

 

おそらく連合艦隊旗艦として、部下達の情けない姿は見ていられないのだろう。しかし、大和の名前を出した途端に一斉に真っ青な顔をしてガタガタ震えだしたのはなぜだろうか。

 

「ここの連中、あたしもそうだけどさ、ほとんどみんな大和に拾われたようなもんだからさ。一航戦の二隻も、形式だけの転属指令書を抱えて広大な海をフラフラしていたところを、っていうか一晩だけ泊めてもらおうと寄港を頼んだら、転属指令書引ったくられて拾われたらしいから」

 

北上がこちらの思考を読み取ったような言い回しで、第六駆逐隊が怯えている理由を独り言よろしく解説する。なるほど、拾ってもらった恩義から、彼女の顔に泥を塗りたくないのか。だが、ひとつ引っ掛かることがある。転属初日に彼女に言われた「精々、私を失望させないように」の一言がよくわからない。

 

「それはそうと、お前ら何しに執務室に?」

「そろそろ、執務作業や艦隊指揮にも慣れていただけたと思うので、改めて岩川基地のご案内をしようかと」

 

言われてみれば、執務室、工廠ドック、入渠施設以外の場所はまだ見ていなかった。せっかく、第六駆逐隊が気を利かせて基地案内を立候補したのだ。案内してもらおう。

 

「ああ、頼む」

「提督、大和が帰ってきたとき、提督がいない理由どう言えばいいのさ」

「提督、今からどちらへ?そして北上、私が何か?」

 

北上が大和のことで悩んでいると、当の本人が執務室入口に腕を組んで立っていたため、北上はやや慌てて説明し、第六駆逐隊は真っ青な顔をさらに青くしてガタガタと震えている。

 

「………なるほど、第六駆逐隊に基地案内をさせるから、ですか。それなら問題ありません、案内して差し上げなさい……なぜ私を見て怯えるのです?」

「さぁね、それは知らないよ。ところで、大和は執務室に何用?」

「資料を取りに、そして提督がサボってないかチェックに」

 

それを聞いて北上はふーん、とでも言いたげな顔で大和を見つめていたが、やがて何かを思い出したのか、突然立ち上がる。

 

「北上、どちらへ?」

「昨日言ってた、パラオのファウスト提督がもうすぐこっち来るみたいだし、お出迎えに。悪いけど、大和も来てくれる?提督()()として」

「はぁ……どうせ行かないと面倒事になるんでしょ?私が行くわ」

「面倒事になるっていうか、他の奴に任せらんないのよ。大和以外でほかに任せられそうなのは、MIAになった武蔵くらいだし……」

 

大和型の二番艦がMIAになるだけの戦闘、すなわちレイテ沖海戦や第三次ソロモン海戦と同等の戦闘に参加し、行方不明になったのだろう。そうでもなければ、世界一を誇る大和型がMIAになった理由にならない。木っ端駆逐艦風情に沈められるような戦艦に世界一を名乗る資格はないし、第一そんな戦艦を建造する程トチ狂った上層部ではなかったはずだ。

 

「基地案内が終わり次第、俺もそっちへ向かおう。それで構わないな?」

「構わないよ、そうたいして広い基地ではないし、60分もあれば全部見て回れるよ」

 

たった60分で見て回れると北上は軽く言うが、そんなに狭い基地ではなかったはずだ。艦娘寮は外から見た限りでもなかなか広そうではあるし、工廠ドックも見ていない部分が多々ある。

 

「艦娘寮はけっこう広そうだな、手早く回れるといいが……」

「私の私室は、入らないでください。あまり、見られたくないので……」

「あたしは別に構わないよ、けど、中のものは触んないでね」

「提督特権使ってまで内部を捜索しなきゃいけないだけの事態は起こってないし、入るのは向こうから招かれたときだけにするか」

 

一階の駆逐艦、潜水艦寮、二階の巡洋艦寮、三階の空母、戦艦寮と、三階建ての艦娘寮は艦種ごとに入居できる階層が決まっているらしい。誰が決めたわけではないが、いつの間にかそんなルールがあったらしい。ちなみに、今一番少ないのは巡洋艦で、もっと来てほしいと北上が度々愚痴っている。

とりあえず、第六駆逐隊に岩川基地を案内してもらおう。そう決めた提督は四隻の駆逐艦を引き連れ、基地を見て回ることにした。

 

 

はじめて司令官を見たときに思ったのは、こんなポケポケした司令官で大丈夫かという不安だった。前の司令官は、私の姉である暁にセクハラを繰り返し、あまつさえ食い物にしようとしたので、入念に罠を仕掛けて「不慮の事故」を装って殺した。さらに前の司令官は、マトモなのは容姿だけで、艦娘を自分の名声を上げるための道具としか見ていなかったため、反乱にあい殺された。自分達第六駆逐隊は四代目の司令官のときに当時の天龍姉妹とトレードされる形で転属したので、三代目以前の司令官については知らないが、マトモなやつがいなかったであろうことは容易に想像がついた。

どいつもこいつも、自己保身か艦娘へのセクハラ以外何もしていなかったため、今回の司令官もどうせそうなのだろう。司令官なんて、みんな一緒。今回の基地案内を提案したのは、この男の化けの皮を剥がしてやろうという響の薄汚い打算からきたものだった。

楽しそうに司令官と話す妹を見つつ、この男をどうやって失脚させてやろうかと考えていると、背中に冷徹な視線(コールド・アイ)を感じる。どうせ加賀姉妹かパラオの伊勢姉妹のどちらかだろうと思い、彼女に負けないように冷徹な視線を作って振り向くと、そこにはこちらの予想を遥かに凌駕した艦娘がいた。パラオの妙高、彼女がこちらを睨んでいるのが見え、恐怖感から慌てて目を逸らす。

何故、彼女が来ているのだ。ファウスト提督が来ているから、当然護衛の艦娘は秘書艦の榛名だろうと高をくくっていた自分を殴りたくなる。だが、何故彼女なのだ?妙高以外にも、優秀な艦娘はいるはずだ。おそらく、彼には彼で、榛名をパラオに置いてきた理由と思惑があるのだろう。まぁ、そんなことはいい。今やるべきことは、司令官の護衛だ。

そう結論づけた響は、先程の妙高の一件を頭の隅に追いやり司令官についていく。だが、あの司令官をどうやって失脚させようか。新任とはいえ、曲がりなりにも司令官の座についている。失脚させるにしてもそれ相応の理由が必要なはずだ。作戦を立てよう。

 

作戦その1:偶然を装い、着替え中の艦娘の部屋を開けさせる

駄目だ、この作戦はギャンブル制が高すぎる。そうそう都合よく着替え中の艦娘に出くわすわけではないし、女性の部屋にノックもせず入るようなデリカシーのない司令官ではないはずだ。それに、艦娘の無防備な姿を見たいだけならこんな回りくどい手段を選ばず、盗聴器や隠しカメラを取り付ければいいだけのことだ。よって、この作戦(プラン)は却下だ。

 

作戦その2:偶然を装い、下着姿を晒す

これについては、ある程度有効打が認められるだろう。司令官も、所詮は男。うら若き乙女の下着姿を見て欲情しないはずはない。だが、問題はどうやって見せるか、である。あまりチラチラ見せていては効果がないし、最悪感づかれる恐れがある。それに、そういう趣味があると思われたくもない。だが、失敗したところでうまく次の作戦に転べばいいのだ。

 

作戦その3:他のことに気をとられた司令官の隙をついて「動かぬ証拠」をねじ込む

最後はやや強引になるが、証拠さえあればいいのだ。失脚させるだけの証拠が。艦娘にセクハラを仕掛けようと画策していると思われる証拠、すなわち「アレ」だ。いくら言い訳しようが、「アレ」が手元にあれば言い逃れはできなくなる。そして、司令官の私室からも「アレ」が見つかれば、艦娘からの信用はガタ落ち、提督失格の誹りを受けるのは間違いないだろう。そうと決まればさっそく実行だ、今回は姉にも協力してもらおう。

隣を歩く暁に事前に伝えたとおりに動くよう目配せして行動を起こさせ、自身も妹達に断りを入れて動き出す。だが、「アレ」を握らせるにしても、艦種が偏っていては足がつくだろう。ここは申し訳ないが、ほかの艦娘達には犠牲になってもらおう。これも姉の純潔のためだ、きっと許してくれる。

各艦のスケジュールは北上秘書艦の所有するデータスティックから盗み出したからどの時間に誰が留守にしているかはばっちり把握している。駆逐艦、潜水艦寮のところは姉に任せているため、こちらは三階の空母、戦艦寮に忍び込んで「アレ」をいただいて司令官に握らせてしまおう。まずは誰のところから行こうか……

数十秒ほど悩み、空母一警戒のゆるそうな二航戦の飛龍に犠牲になってもらおうと、彼女の部屋に忍び込む。室内のレイアウトを変えないよう細心の注意を払いながら、目当ての物を探す。軽く物色していくつかいただき、何事もなかったかのようにして部屋を出る。さて、次の部屋だ。

その後も、警戒のゆるそうな空母、戦艦の私室に忍び込んでお目当ての「アレ」をいただき、事前に打ち合わせていたポイントで姉と落ち合う。どうやら、暁は巡洋艦寮にも忍び込んでくれていたらしく、自分の予想以上の量を抱えていた。あとは司令官の私室と誰もいない執務室、そして司令官の制服のポケットに仕込んでミッションコンプリートだ。

 

 

姉達が突然どこかへ行ったため、何事かと思っていると程なくして戻ってくる。何かあったのかと聞いてみるが、なんでもないという風にはぐらかされ答えようとしない。道中、退屈そうにしている司令官に妹の電と色々と話しかけてみると、向こうも楽しそうにして応対したため、退屈せずに終わりそうだと思っていると、突然司令官の足が止まる。

 

「ところで雷、電、前のときは案内してもらえなかったんだが、何があるんだ?ここは」

「ここは、使われなくなった艦娘寮なのです。ですが、夜な夜な不気味な声が聞こえてくるとの噂が……」

 

「そうか、なら調べる必要があるな」と中に入ろうとする司令官にぎょっとしたのか、暁と響が率先して引き止めようとしている。「なぜ止める?敵対勢力が潜んでいる危険性があるだろう」と言わんばかりの怪訝そうな顔をする司令官にこの艦娘寮のことを説明する必要がありそうだ。

 

「ここの「廃棄艦娘寮」、通称「自殺寮」は艦娘としての機能を果たせなくなった艦娘を「処分」するための寮で、艦娘寮を新設したのはそのためなの。解体も近代化改修の素材にもできない、言うなれば「使えない艦娘を処分するゴミ捨て場」よ……って、話聞いて司令官!!」

 

必死になって廃棄艦娘寮の説明をしたのに、全然聞かずにさっさと中に入ってしまう司令官にあきれつつ、後を追う第六駆逐隊の四隻。まったく、ここは気味が悪いから来たくなかったのに……

中に入った司令官をビクビクしながら探していると、暁と響が真っ青な顔をして一点を見つめていることに気づく。何事かと彼女達と同じ先を見つめてみると、虚ろな瞳でフラフラと歩いている金剛型四姉妹とエンカウントする。だが、幸いにもこちらに気付いていないのか、スルーしようとしている。

これはチャンス、と思って金剛型の脇をすり抜けようとしたが、やはり気づかれていたらしく、暁は金剛に、響は比叡に、私は榛名に、電は霧島に捕まってしまう。なぜこうなったのだ、今すぐにでも司令官を追って見つけなければいけないというのに……

 

「先日来た提督なら、この先で扶桑姉妹、伊勢姉妹とダラダラ話し込んでるネ」

「さっきまでは愛宕と何か話してたようですけどね」

「今度の提督は大丈夫なんでしょうか?榛名、心配です」

「お姉様、それは私達が心配する必要のないことです。お気遣いは無用かと」

 

金剛型の四隻が口々に司令官の悪口を好き放題言い、やがて悪口にも飽きたのか第六駆逐隊を手放してどこかへと去る。いったい何がしたかったんだ?ここにかつて所属していた金剛型は、確かに口は悪いが他者の悪口を好き放題言うような性格ではなかったはずだ。彼女達はいったい……

しばらく薄暗い不気味な寮の廊下を四隻固まってビクビクしながら司令官を探す。ここでもない、あそこでもないとしばらく探すと、ようやっと司令官を見つけた。まったく、司令官は何をやっているのだ、部下をほっぽり出して……ここを出たら文句のひとつもぶつけてやろう、と雷は固く心に誓うのだった。

 

 

第六駆逐隊の制止を振り切って廃棄艦娘寮へと入った提督は、こもった空気と埃っぽい空間に歓迎されつつ周囲を探索する。どうやら現行の艦娘寮と構造は同じらしく、特に変わった部分はないようだ。特に何も見つけられずに帰るのか、と思っていた矢先、提督は奇妙なものを見つける。誰か倒れている?と近づき、調べてみると古鷹型重巡洋艦の一番艦古鷹と高雄型重巡洋艦の二番艦愛宕が折り重なるようにして倒れていた。かわいそうに、と思いひとつ祈りを捧げる。そして、次の部屋を探索しようと部屋を出た瞬間、後方から肩を掴まれる。

 

「あなたですね?先日着任した提督というのは」

「そういうお前は誰だ?我が艦隊に重巡洋艦はいないはずだが」

「私は愛宕、ここへ好奇心で入ったことを……後悔させてあげますよ。嫌というほどね」

 

どうやら、高雄型重巡洋艦との戦闘は避けられないようだ。護身用の拳銃を懐から抜き、そうと悟られぬよう静かに撃鉄を起こす。互いに腹の内を探り合うこと十数秒、振り向いて銃口を後方の重巡洋艦の鼻先に突きつける。光を失った瞳でこちらを睨む愛宕の顔には怒りと憎しみがありありと浮かび上がっていた。だが、この愛宕、どこかで会ったような気がする。だが、どこで……

数十秒程悩み、ようやく思い出した。だが、彼女が同一艦とは限らない。だが、試してみる価値はありそうだ。意を決し、愛宕に聞いてみる。

 

「愛宕、俺を覚えてるか?俺だよ、ラバウルの刹那だ」

「て、提督……生きておられたのですか?てっきり死んだものかと……」

「俺はそう簡単に死なんよ。にしても、お前死んでるはずなのに、なんで動けるんだ?」

 

この自殺寮にいるということは、少なくとも彼女は死んでいるはずだ。にもかかわらず、目の前の愛宕は生きているかのごとく振る舞う。何故だ?

 

「提督、不思議そうですね。ご説明いたしましょうか?」

「ああ、頼む」

 

目の前のかつての秘書艦の妹に、死して尚動ける理由を聞くことにする。その一連の話を要約するとこうだ。

艦娘は、建造中に機能保持のためのナノマシンを多量に投与されて造られる生体兵器で、機関部にあたる心臓と艦橋にあたる脳を破壊しないと機能停止しないという。もっとも、首を跳ね飛ばした艦娘がどうなるかまではわかっていない、とも言っていたが。

また、母体艦娘は脳と心臓、その両方を破壊しない限りはナノマシンの影響を受けて活動を続けるため、解体の際には艤装ごと圧縮して処分するのだという。正式な呼び方はないが、艦娘達の間では「解体処分」と呼ばれているとのこと。

あのお馴染みの「カーン、カーン、カーン」の音はプレス機の立てるハンマーの音で、解体と廃棄で音が違う理由は「解体のときはプレス機の圧力を限界まで上げるため」とも言っていた。ちなみに、広報でよく説明される「艤装を外して普通の人間に戻る」解体は「解体治療」と呼ばれているとのこと。

首がなくても動き回る艦娘はデュラハンのニックネームでもつけてやろうと思いつつ、昔話に花を咲かせる。

 

「懐かしいですね、提督が毎晩お姉様のベッドに潜り込んでいた頃が懐かしいです」

「それは昔の話だろ……俺パラオでも高雄に同じネタでいじられんのかよ……あいつ俺の元秘書艦だから、パラオの連中にいらんこと吹き込んでねーか心配なんだが……」

 

そんなことありませんよ、と笑う愛宕の顔からはいつの間にか負の感情が消えていた。どうやら、話しているうちに、すっかり毒気が抜けたらしい。そして、そんな「すっかり毒気の抜けた」愛宕に、扶桑姉妹と伊勢姉妹の居所を聞いて彼女達のところへ向かう。もっとも、扶桑姉妹と伊勢姉妹が自分の覚えている彼女達とは限らないのだが……

そんな期待と不安を胸に抱き、扶桑姉妹と伊勢姉妹のもとへ向かう。自分の知っている彼女達ならよし、だが、そうでなければ……知っていることを洗いざらい吐かせて潰すのみ。

道中、特型駆逐艦何隻かが首を吊っていたので助けてやり、目的の場所にたどり着いた瞬間、伊勢姉妹に拘束された。

 

「こんなところへ入り込んで、追い剥ぎが目的ですか?」

「何が目的だ?返答次第では、ただじゃおかんぞ」

 

案の定というかなんというか、伊勢姉妹にとっ捕まってしまう。しかも、「逃がさん」と言わんばかりに首元を刀で封じている。万事休すか……

 

「伊勢、日向、やめなさい」

「トラック泊地で私達の指揮を取った刹那提督よ、忘れたの?」

「て、提督……生きておられたのですか……?」

「確か、トラック泊地は壊滅したはず……」

 

刀を鞘に納めつつ、呆然とした表情でつぶやく伊勢姉妹。追い剥ぎが目的でないということはわかってもらえたようだ。だが、トラック泊地が壊滅したというのは初耳だ。どういうことだ?伊勢、日向。

 

「トラックが壊滅したなんて、タチの悪い冗談はやめてくれ。あそこなら、金剛の指揮のもとしっかり活動してるぞ」

 

それに反応したのは、扶桑姉妹。「壊滅した」と聞いていただけに、わけがわからないのだろう。

 

「提督、それはどういうことですか?」

「艦娘が指揮を取るなんて、ありえませんよ。うちの大和司令じゃあるまいし……」

 

………ここの大和はいったいどういう艦娘なんだ?部下には信頼され、作業員にも信頼され、そして司令官の権限を握っている。そこに至るまでの道程は、並大抵なものではなかったはずだ。

その後も、しばらくトラック泊地での思い出に浸っていると「司令官!!」と雷の怒鳴り声が聞こえてきたため、振り向くと、怒り心頭といった具合の雷と、あわあわといった風にうろたえる電、ジト目でこちらを睨む響、不服そうな顔で膨れっ面をしている暁と、やはり統率のとれないバラバラな反応を見せる。

 

「おいおい、何をそんなに怒ってるんだ?」

「司令官が勝手にいなくなるからよ!!」

 

ぎゃあぎゃあとわめく雷を無視して、提督はかかってきた電話に出る。

 

「北上?まだ30分くらいしかたってないはずなんだが、何かあったのか?………「アレ」の資料?それなら………にあったはずだ。あったか?………そうか、わかった。いったん切り上げてそっちへ行く」

電話を切って、まだ工廠ドック見てないんだけどなぁ、とぼやいて第六駆逐隊を引き連れて廃棄艦娘寮を出る。親鳥についてくるひよこよろしく、よちよちと列をなして歩いている第六駆逐隊を一度解散させ、北上と大和のいる応接室へと向かう。

 

「提督、『次の作戦』のことなんだけど、パラオから何隻か艦娘を借りたいんだ。千歳型と飛鷹型、それに妙高型。それと、特務艦に伊168と高雄の10隻でどうかな?」

「私は一向に構わないわ、あとは提督がどう返答するかだけよ」

「作戦の内容はさっき聞いたとおりの内容で進むんだろ?なら、機動力に優れた軽空母と、火力と装甲のバランスのとれた重巡洋艦は必須だろう」

「すまん、助かる」

 

ファウスト提督の意向もあり、なんとか艦隊の半数以上の戦力を借りることができた。だが、今回の作戦でひとつ気掛かりなことがある。それは、夕立改二のことだ。

味方殺し(フレンドリー・キラー)の夕立』の二つ名を有する彼女をいったい誰が止めるのか、ということだ。綾波がいた頃は、彼女が一喝して食い止めていたそうだが、今はそのストッパーとなる彼女はいない。地獄の単冠湾泊地ですら持て余し、最終的に捨てるように岩川に転属した夕立がパラオから借りた艦娘を傷物にしないだろうか、と今から不安だ。

どうやら、北上と大和が『次の作戦』の内容を粗方説明していたらしく、会談はスムーズに進んだ。あとは、夕立をどう戦線に参加させようかという問題だけを残し、会談は終わった。ファウスト提督と別れ、工廠ドックへ向かう途中、ふとあることを思いつく。確か、彼女の真価を発揮できそうな武装のデータがあったはずだ。さっそく依頼しようと思い、新型武装のデータが入ったハードディスクとデータスティックを取りに私室へと向かう。ついでに、いろいろと開発してもらって『次の作戦』までにデータを収集しておくのも悪くない。さて、何を開発してもらおうか……

 

 

暁と響が大和司令に呼び出されてから早数十分、乾いた音が二発響いてから時折何かを叩く音が聞こえてくるばかりで、中の様子はまったくわからない。それからまたしばらくして、やっと暁と響が戻ってきたが、姉達の頬は真っ赤に腫れ上がり、よほど怖い思いをしたのだろう、帰ってきてからずっと泣きじゃくっている。

 

「な、何かあったの?」

「子供の浅知恵で、提督を失脚させようとした罰が当たったの……よ!!」

 

雷が事情を聞こうとすると、通りかかった天城がグーパンで暁と響の頭を殴ったため、電があわあわと慌てて姉を慰めようとするのだが、それよりも早く天城が連れ去ってしまう。

慌てて天城を追いかけて入渠施設へと走る雷と電がそこで見たのは、司令官に抱きついて助けを求める暁と響と、しきりに拳を鳴らして引き渡しを要求する天城の姿だった。

 

「提督、そこの駆逐艦を引き渡してください」

「断る、天城が今やっているのは暴力だ」

 

暁と響を庇いつつ、天城と口論になっている提督がこちらに気づいたのか、手招きして呼んでいる。何の用だろうか?

 

「雷、電、大和を呼んで来い。大至急だ」

 

「大和を呼べ」と言われて、必死になって司令官に何かを訴えている姉を無視して、大和司令を呼びにいく雷。ちょうどこれから入渠施設へと行こうとしていたのであろう大和司令を引っ張り、入渠施設へと走る。

 

「雷、これはいったい何の騒ぎ?」

「天城さんと司令官が、喧嘩してるんです。けど、原因がわからなくて……」

 

そう、原因がわからないが故にどうすることもできないのだ。天城が言うには「子供の浅知恵で提督を失脚させようとした罰が当たった」とのことだが、何のことだがさっぱりわからない。

 

「大和、天城を止めてくれ。このままじゃ、暁と響を殺しかねんぞ」

「大和司令、邪魔しないでください……!!私は今からそこの駆逐艦に正義の鉄槌を……」

 

天城の言い分を聞き終わるよりも早く、大和司令のハイキック――通称「三式脚」――が天城の頭部を蹴っ飛ばし、天城が地に平伏す。

「………話は入渠しながら聞きます」の大和司令の言葉を締めに、その場にいた全員が入渠施設へと入っていった。

 

――次回予告――

次の大型作戦のために、戦力を借りる必要がある

遠方の泊地より招いた、彼に頼もう

次回、『パラオからの客人』

だが、こんなときに限って、提督はいない




次回は、同じ時間軸の大和、北上視点。
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