Fleet Gear~狂った歯車~   作:刹那・F・セイエイ

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北上「魚雷は投げるもの、いいね?」


#03 パラオからの客人

新提督が着任してから、数日が過ぎた。どうやら、10回の転属の経験は嘘ではないらしく、艦隊指揮はなかなか様になっている。書類整理が遅いのがネックだが、それは今後の課題だろう。

『次の作戦』の資料を取りに執務室へと向かうと、北上が私の名前を出して何か悩んでいる。私に何か用だろうか?

 

「提督、今からどちらへ?そして北上、私が何か?」

 

どうやら、私がいないと思っていたのか、北上が珍しく慌てて事情を説明している。どうやら、提督は岩川基地見学ツアーに出かけるらしく、その説明をどうしようかで悩んでいたようだ。もっとも、次の作戦の内容が同胞(同じ艦娘)に手を掛ける内容のため、乗り気でないのもひとつの理由か。だが、それにしてもこの第六駆逐隊の反応……

 

「………なぜ私を見て怯えるのです?」

 

私の知る限り、目の前の彼女達(第六駆逐隊)に直接手を挙げた覚えはないはずだ。だが、現に彼女達は私を見て怯えている。そんなに怖いキャラ付けはしていないはずだが……

 

「さぁね、それは知らないよ。ところで、大和は執務室に何用?」

「資料を取りに、そして提督がサボってないかチェックに」

 

提督がサボってないかチェック、これは本来秘書艦の役目なのだが、その秘書艦の北上が駆逐艦組の教育係を兼任しているため、提督代行の自分がその役目を請け負うことになった。気掛かりな点があるといえばひとつ、重要な案件がすべて提督ではなくこちらに回される――特に、三石などはわざわざ私を探し回ってまで渡してくる――ことくらいか。なぜ私に回す、今は提督がいるだろう。などと考えていると、突然北上が立ち上がった。どこへ行くのだ?

 

「北上、どちらへ?」

「昨日言ってた、パラオのファウスト提督がもうすぐこっち来るみたいだし、お出迎えに。悪いけど、大和も来てくれる?提督()()として」

「はぁ……どうせ私が行かないと面倒事になるんでしょ?私が行くわ」

「面倒事になるっていうか、他の奴に任せらんないのよ。大和以外でほかに任せられそうなのは、MIAになった武蔵くらいだし……」

 

………武蔵……あなたいったいどこにいるのよ……必死になって探している捜索隊の身にもなってほしいものだ。深海棲艦の捕虜にでもなったというのなら、ある程度説明はつくのだが、さすがにそんな与太話はないだろう。

 

「基地案内が終わり次第、俺もそっちへ向かおう。それで構わないな?」

「構わないよ、そうたいして広い基地でもないから、60分もあれば全部見て回れるよ」

 

………北上、無茶を言い過ぎだ、いくらなんでも。横須賀や呉に比べれば格段に狭い基地ではあるが、全部見て回ろうとするなら――特に艦娘寮をくまなく見て回る場合――120分はかかる。

 

「艦娘寮はけっこう広そうだな、手早く見て回れるといいが……」

「私の私室は、入らないでください。あまり、見られたくないので……」

「あたしは別に構わないよ、けど、中のものは触んないでね」

 

二隻の艦娘が、それぞれの理由をつけて提督に釘を刺す。自分の場合、見られたくないというのもひとつの理由だが、入ってほしくない理由はもうひとつある。それは……

 

「提督特権使ってまで内部を捜索しなきゃいけないだけの事態は起こってないし、入るのは向こうから招かれたときだけにするか」

 

………どうやら、説明する手間が省けたらしい。この岩川の絶対的ルールに「他者の私情を詮索しない」があり、提督はそこを察して何も聞かなかったのだろう。

そんなことを考えている間に提督は第六駆逐隊と共に岩川基地見学ツアーに出かけたらしく、すでに執務室からいなくなっている。北上は「もうすぐ来る」と言っていたことから、そう時間的余裕はないだろう。そう思い、ちょうど近くにいた雪風に雑用でも頼もうかと声をかける。

 

「雪風」

「ひ、ひゃい!!」

 

緊張しているのか怯えているのか、上擦った声で返答する雪風。そこまで怯えなくともいいだろうに……と苦い表情を浮かべていると、不知火が「大和司令、雑用なら不知火が」と名乗り出る。申し出はありがたいのだが、これは雪風のためでもある。

 

「不知火、これは雪風のためでもあるの。私は雪風にこんな小さな世界で終わるような子であってほしくない、だからあなたは手出ししないで」

「………すみません、大和司令」

 

不知火には多少キツい言い方をしたが、あまり雪風を甘やかしていると、近い将来他者に依存しないと何ひとつできない子になってしまう。

 

「大和司令、何をすれば……」

「そうね、お茶汲みでも頼もうかしら?」

「雪風、任務を遂行します!!」

 

なにやら張り切った様子でお茶汲みの準備を始めた雪風を横目に、ファウスト提督を迎える準備を始める。展開艤装寄港用の内部港に到着して数分ほど待っていると、管制塔からパラオ泊地から戦艦榛名の入港許可を求める通信が入ったため、二つ返事で許可する。誘導班の誘導に従い、内部港に入港を果たす榛名の展開艤装を見やりつつ、大和は提督がいない理由をどう説明しようかで悩む。ここは正直に「岩川基地見学ツアーに出かけました」と言ってしまおうか?などと考えていると、榛名の展開艤装からファウスト提督と妙高型一番艦の妙高、そして金剛型三番艦の榛名が降りてくる。

 

「ようこそ、岩川基地へ。連合艦隊旗艦、大和型戦艦一番艦、()()()()、大和です」

「重雷装巡洋艦、秘書官、北上」

「パラオ泊地所属、金剛型巡洋戦艦三番艦、秘書艦、榛名です」

「妙高型重巡洋艦一番艦、妙高です。ところで、そちらの提督はなぜ来られないのです?」

 

互いの艦娘が自己紹介をして、提督がいないことに疑問を感じたのか、やや苛立った口調で質問をぶつけてくる。

 

「提督?提督なら第六駆逐隊に連れられて岩川基地見学ツアーに出かけたよ。けど、それがどうかしたの?」

「まったく……部下をほっぽり出して自分はお遊びですか……提督としての自覚がないようですね」

 

ふと、隣からジャキ、という音が聞こえてきたため、振り向くと北上が両手に酸素魚雷を構えて投擲体制に入っているのが見え、大和は落ち着いた様子で止めに入る。

 

「北上、やめなさい」

「けど、大和……」

「やめなさい」

 

北上、苛立つのはわからなくもないが、外交問題になりかねないからやめてくれ。こちらはそうでもないが、向こうはパラオの威信を掛けてここまで来てくれたのだ。いわば、これは小さな外交である。

 

「………わかった」

 

二度の静止でなんとか納得したのか、酸素魚雷を発射管に戻している。重点的に各発射管にロック――自分ではワンタッチで外せる程度のもの――をかけてから北上はバツが悪そうに謝った。

 

「………ごめん……提督侮辱されたみたいで、なんか我慢できなくてさ……」

「妙高も妙高だ、相手を刺激するようなことをするな。今回は理性的に謝ってくれたからいいようなものの……」

 

どうやら、向こうも面倒事は避けたかったらしく、妙高を叱っている。数分後、なんとか話もまとまり、ファウスト提督と二隻の巡洋艦を連れて応接室へと向かう途中、大和はこう思う。

もう、これ以上何も起こらないでくれ、と。

 

 

妙高は今、不機嫌の中にいた。向こうの提督は見学ツアーで来ないし、良かれと思いそこを指摘したら今度はファウスト提督に怒られるしで最悪だ。提督の護衛でついてきたのだが、正直もう帰りたい。生まれ故郷の呉鎮守府にも、パラオ泊地に来る前にいたブイン基地にも、こんな提督はいなかった。秘書艦の北上は「後から来る」とは言っていたものの、どうにも納得できない。

そんな彼女の前に、一隻の駆逐艦が現れる。吹雪型駆逐艦一番艦、吹雪だ。だが、今の彼女は両手をポケットに突っこんで歩いている。これは見過ごすわけにはいかない、と感じた妙高は、吹雪に詰め寄り彼女の腕を掴む。

 

「あなた、なぜ両手を出さないの?みっともないから出しなさい」

「い、嫌です……出しません……」

 

………なんなんだ、この生意気な駆逐艦は……私はただ「手を出せ」と言っただけだ。なのに、なぜ嫌がる?ただ両手を出せばいいだけのことじゃないか。そんなこともできないのか?この特型駆逐艦は。

 

「いいから、四の五の言ってないで手を出しなさい!!」

「嫌です!!だいたい、司令官でもないのになんなんですか!?あなたは!!」

「いいからその手を……」

 

出しなさい、と言い切るよりも早く、何者かに組み伏せられる。加賀……にしては髪型が変だ。イメチェンしたと言われたらそれまでだが、何かがおかしい。この加賀は……

 

「加賀、やめなさい」

「大和司令、いくら吹雪に落ち度があるとはいえ、彼女の蛮行には目に余るものがあります。多少キツい制裁を加えてもよろしいのでは?」

「見えないが故に、わからないこともあるでしょう。吹雪、両手を出して見せてさしあげなさい」

 

大和に言われたからか、決心したからかは不明だが、ポケットから両手を出してこちらに見せる。………なるほど、これは嫌がるのも納得できる。彼女の両手、そこに本来あるべきものが足らなかった。簡単に言えば、指が二本ずつないのだ。

理由を問いただしたくなったが、やめた。彼女の反応をうかがう限り、相当デリケートな内容なのだろう。時には、知らないほうがいいこともある。吹雪には少々悪いことをしたな。

そして、吹雪に一言詫びを入れて――この時に加賀の拘束から逃れることができた――、再び案内を受けるのだが、その途中で楽しそうに岩川基地見学ツアーに興じている提督に冷徹な視線(コールド・アイ)を飛ばして睨みつける。遊んでいる場合か?呼んだのはそっちだろう?などと考えていると、いつの間にか応接室にいた。

 

「提督不在ではありますが、今回お呼びいたしました理由について、私から説明させていただきます」

「今回、我々がお呼びした理由についてですが、ある大型作戦の戦力増強のため、艦隊をお借りしたいのです。作戦の概要は、こちらとなります」

 

大和がそう言い、提督とこちらにいくつかの資料を渡してくる。手元の資料によると、どうやら大型作戦というのは一ヶ月半後に行われるらしく、その作戦の概要が大まかに記載されている。そして、そのままぱらぱらとページを読み進めていくと、トレイを抱えた雪風が、そろりそろりとやってくる。

 

「お茶が入りました」

「雪風、トレイごと置いて行っていいわ。あとは私がやるから」

 

この基地では、錬度の低い駆逐艦は雑用をやるのか、などと少々感心していると、北上がどこかへ電話をかけ始めた。誰に電話を?と思っていると、北上が「提督」と言ったため、相手は提督だろう。

 

「提督、聞きたいことあるんだけどさ。「アレ」の資料、どこにあるか知らない?………うん、………だね?それと、会議ちょっと行き詰まってるからいったんこっち来てくれない?」

「北上、提督は今どちらに?」

「自殺寮、扶桑姉妹と伊勢姉妹の声がかすかに聞こえてきたから間違いないよ」

 

自殺寮、随分と物騒なネーミングの艦娘寮だな。などと考えていると、ようやく刹那提督が来た。

 

「提督、『次の作戦』のことなんだけど、パラオから何隻か艦娘を借りたいんだ。千歳型と飛鷹型、それに妙高型。それと特務艦に伊168と高雄の10隻でどうかな?」

 

パラオ艦隊から10隻、つまり艦隊の過半数を岩川に貸し出すことになる。つまり、その間は戦艦と駆逐艦、一隻しかいない重雷装巡洋艦の8隻でパラオを守らねばならなくなる。今から建造したところで、到底間に合うものではない。しかし、この作戦を成功に導けば、最新の技術をつぎ込んでパラオ艦隊のさらなる強化も望めるだろう。

 

「私は一向に構わないわ、あとは提督がどう返答するかだけよ」

「作戦の内容はさっき聞いたとおりの内容で進むんだろ?なら、機動力に優れた軽空母と火力と装甲のバランスのとれた重巡洋艦は必須だろう」

「すまん、助かる」

 

どうやら、話を聞く限りでわかったことなのだが、岩川基地には軽空母と重巡洋艦がいないらしい。高雄と伊168が特務艦として召還される理由については不明だが、伊58ではできないから彼女にお鉢が回ってきたのだろう。

だが、こちらとしては少々気がかりなことがある。それは夕立のことだ。自分は彼女の上官ではないし、彼女と艦隊行動を共にしたわけではないので彼女を悪く言う気はないのだが、ハッキリ言って危険すぎる。できることなら、彼女と艦隊行動を共にしたくはないものだ。

どうやら、刹那提督もまた、夕立の処遇に困っていたらしく、難しい顔をして悩んでいる。夕立をどうして艦隊に組み込むか、という問題だけを残して会談は終わり、渡された資料を返還してあとは帰るだけとなったときになって、別種の問題が生じた。憲兵隊に拘束されたのである。

連れて行かれた先で、赤城そっくりな艦娘二隻――おそらく、空母のほうではない――に身ぐるみを剥がされ、一糸纏わぬ姿にされてしまう。窓はないし、おそらく監視カメラの類もない。だが、うら若き乙女の服を脱がしてまですることか?「機密保持」のためとはいえ、いくらなんでもやり過ぎだ。恥ずかしい。早く私の服を返してくれ。

その後も十数分ほど羞恥心と戦い、ようやく服を返してもらえた。検査にかけた時間の倍近い時間かけて不満と文句をぶつけて一室を後にする妙高。やはり、来なければよかった……こんなことなら、パラオに残って駆逐艦の教官でもやっていればよかった。

 

「悪かったな、妙高。まさか、こんなことになるとは思わなかった」

「同感です、まさか素っ裸にされるとは思いませんでした」

 

はぁ、とため息をつく妙高に何を思ったのかは不明だが、ラムネの瓶を両手に握りしめて戻ってくる。提督に渡されたラムネを飲みつつ、妙高は思う。そこまでして成功させたい作戦って、いったいなんなんだ?と。

 

 

司令官から解散を命じられて以降、何の連絡もなく少々退屈な時間を過ごしていると、突然大和司令に呼び出される。だが、そのときの大和司令は鬼のような表情で私を睨んでいたのだが、何故だ?大和司令に対して何かした覚えはないが……

そんなことを考えつつ、姉の暁と執務室へと連れて行かれる。そして、大和司令が私と暁が入るのを認めるなり、執務室の内鍵を閉めてこう切り出す。

 

「暁、響、提督が艦娘にセクハラしようとしている偽装工作を持ちかけたのはどっち?」

 

まさか、もうバレたのか?いや、「アレ」はうまく隠したはずだ。バレるはずはない。暁がしくじったのか?だが、次に大和司令が投げつけた一言で、その考察が間違いだと悟る。

 

「北上のデータスティックから艦隊のスケジュールを盗んだつもりなんでしょうけど、甘かったわね、響」

 

マズい!!完全にバレてる!!一番肝心なことを忘れていた、大和司令の辞書に「見逃す」なんて文字はなかったんだ。なんとか弁明しようと、取り繕うための言い訳を考えようとした瞬間、急に視界が傾ぐ。頬を張られたと気がついたのは、遅れて襲ってきた痛みが教えてくれた。

 

「言い訳するのなら言いなさい、聞いてあげるわ」

 

大和司令はそう言うなり、私にメモ帳とボールペンを渡してくる。主犯は響なんだから、理由は響が答えろ、ということだろう。そして、私は大和司令の眼光に怯えながら、必死になって書き綴った。うっかりロシア語で書いてしまったが、大和司令なら読んでくれるだろう。

よく見ると、隣で暁も一緒になって書き綴っている。おそらく暁にも聞いておきたいのだろう、と考えていると急に大和司令が「とっとと寄越せ」とでも言わんばかりに片手を差し出しているので、暁と私は大和司令にメモ帳とボールペンを返す。

 

「………で、言い訳はそれだけ?」

 

メモ帳の内容を読み終えて、彼女の口から出てきたのは、深いため息と失望だった。

 

「転属して間もない提督に対して、下着泥棒の罪を被せようとして、自分達は被害者面して助けを求める。私はあなた達をそんな風に育てた覚えはないわ」

 

確かに、大和司令の言う通り、ショートランドから送られてきて、何もできないようなひよっこ同然の私達を育ててくれたのは他ならぬ大和司令だ。確かに、そのことには感謝している。だが、それとこれとは話が別だ。突然、机を叩く音が響き、びくりとして向き直ると、悔しそうな表情(かお)をして俯く大和司令の姿があった。

 

「こんな子に……育てた覚えはなかったのに……どうしてこうなったの……?武蔵……あなたさえいてくれれば、子供達がこんな風に育つこともなかったのに……」

 

その後も幾度となく机を叩いて悔しがっている大和司令を見て、私は思う。大和司令はこんなにも私達のことを思っていてくれていたというのに、私は自分のことばかり。なんて最低なんだ、私は……!!

大和司令の恩義に答えられなかった悔しさと、その思いを踏みにじった自分の情けなさに、思わず姉妹で泣いてしまう。私は最低だ、こんなにも思っていてくれていたというのに、自己中な思いばかり押し付けて……私は……私…は……

自己中な自分に絶望していると、不意に暖かさを感じる。大和司令に抱きしめられていると気づいたのは、すぐだった。

 

「反省、してるのね?それならいいわ」

 

その後、もうこんなことはしないように、と注意され、ようやく解放されたが、心中は後悔でいっぱいだった。私は大和司令の顔に泥を塗った、なんて馬鹿なことをしたんだ、私は……

不安になって追いかけてきたのであろう妹達が、気遣わしげに声をかけてくるが、それを遮るかのようにして通りがかった天城の拳骨が降ってきて、姉共々私をどこかへと連れて行こうとする。連れて行かれた先の入渠施設に司令官がいたため、司令官に抱きついて助けを求める。

 

「暁、響、どうしたんだ?そんなに怯えて」

「提督、そこの駆逐艦がおいたをしたので、少しお説教をしたいのです」

「殴って、か?」

 

司令官と天城さんが睨み合いをきかせながら、互いに腹のうちを探っているのだろう。そのうち、天城が苛立ってきたのか、拳を鳴らして威嚇しだしたため、司令官が抱きしめるようにして守ってくれる。

 

「提督、そこの駆逐艦を引き渡してください」

「断る、天城が今やっているのは暴力だ」

 

司令官、こんなに優しい人だったんだ……それを知ろうともせずに勝手な妄想で失脚させようとした。私は本当に馬鹿だ、大馬鹿だ。

 

「雷、電、大和を呼んで来い。大至急だ」

 

司令官やめてくれ!!今、大和司令を呼ばれたら、何をされるかなんてわかったものじゃない!!もし、天城さんの思想に同調しようものなら……頭上に九一式徹甲拳(ストレートパンチ)が降ってくる……アレの痛さは並のものではないし、そうでなくとも三式脚(ハイキック)で脳震盪を引き起こしかねない。だが、そんな響の願いもむなしく、大和司令が入渠施設に来てしまう。ああ……終わった……もうおしまいだ……

 

「大和、天城を止めてくれ。このままじゃ、暁と響を殺しかねんぞ」

「大和司令、邪魔しないでください……!!私は今からそこの駆逐艦に正義の鉄槌を……」

 

司令官が天城さんを止めるよう大和司令に要請して、天城さんが抗議した瞬間、ばきりという鈍い音と共に天城さんが倒れる。おそらくは大和司令の三式脚を食らったのだろう。

 

「………話は入渠しながら聞きます」と大和司令が締め、全員が入渠施設へと入る。だが、この後悔だけは当面消せそうにないな、と響は思った。

 

 

入渠施設、と一口に言うが、内部は多彩な構造になっており、一種の娯楽施設ともいえる。内部には、間宮さんと伊良湖さんが常駐する食堂や銭湯並みに広い大浴場、娯楽室には大型の液晶テレビとゲーム機が目立つところに鎮座して、周囲には民間の遊戯施設にも並んでいるアーケードゲームやスロットマシン――誰が持ち込んだのかは不明だが、全自動麻雀卓まである――が並び、この入渠施設が病棟も兼ねているのか、緊急修復カプセルやベッドが並ぶ区画がある。

大和に連れられ、大浴場へと来た提督たち。どうやら、この岩川基地は男女で別々に入るという概念がないのか、風呂はここ一つしかない。つまり、混浴である。もっとも、今までがそうだったため、どこもそうなのだろうと思っていると、鎮守府や、一部の外洋泊地は男女別々に入る場所もあるとのことだ。

今日はいろいろあって疲れた、早いとこ風呂に入って疲れを癒したい。そんなことを考えつつ脱衣所に入ると、風呂上がりなのであろう二航戦の飛龍と蒼龍がその豊満な胸部装甲と贅肉の少ない引き締まった肉体を隠そうともせず、談笑している。頼むから隠してくれ、目のやり場に困る。

大浴場へと入り、突然雷電姉妹がコケたのを見て何事かと思っていると、湯船にのんびり浸かっているのであろう北上から怒号が飛んでくる。

 

「そこの駆逐艦!!浴場内は走るな、湯船に浸かる前に身体洗えって、何度も言ってるでしょ!?」

「北上、あなたこそそういう真似はやめろ、って何度も言ってるはずよ」

「けどさぁ……」

「言い訳無用」

 

………とりあえず、スーパー北上様の次なる怒号が飛んでくる前に身体を洗ったほうがよさそうだ。どうやら、雷電姉妹がコケた原因は、北上がダウンスローで投げた石鹸を踏んで足を掬われたかららしい。だが、北上。当たり所が悪かったら、大怪我どころじゃすまなかったぞ。

 

「北上、子供達がケガをしたらどうするつもりだったの?」

「大和、ルール守らせるほうが先じゃないの?」

 

北上、言いたいことはわかるが、少々やりすぎだ。雷電姉妹が泣いてるじゃないか。

 

「司令官、痛いのです……」

「北上秘書艦がいじめた……」

 

二隻の駆逐艦がぶつぶつ文句を言いつつ、髪を洗っている。あとで明石に見てもらえ、とだけ言って髪を洗っていると、背中に柔らかいものの存在を感じる。この大きさ、空母クラス……!!

 

「提督、どう?けっこうあるでしょ?」

「瑞鶴、提督が困ってるでしょ?」

 

おそらく、瑞鶴に困らせようという意図はないのだろうが、そのボリュームのある胸部装甲を押し付けられると、どうしても反応せざるをえない。

 

「瑞鶴、夜戦に誘うのならあとで誘いなさい。時間的にまだ早いわ」

「すみません、大和司令。けど、初代提督以来の男性提督だったものでつい……」

 

どうやら、初代提督以外は皆、女性提督だったらしい。瑞鶴にしてみれば、久々の男性提督着任とあって、喜びが抑えきれなかったのだろう。瑞鶴、嬉しいのはわかったから時間と場所を弁えてくれ。駆逐艦(こども)達に対して示しがつかんだろう。

その後、大和にこってり絞られた瑞鶴が、半ベソをかきながら夕食の中華丼を掻き込んでいたのだが、それはまた別のお話。

 

――次回予告――

17の基地、17の日常

戦いのない日の、平和な一日

次回、『それぞれの日常』

今日楽しもう、明日は楽しめないかもしれないから




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