令和の時代になってなのは二次を書くとは思いませんでしたが、これがむしろ新鮮な気持ちになって面白いです。やっぱり、時が経っても好きな作品は変わらないということでしょう。
今後ともよろしくお願いいたします。
ある日、家族で神社を参拝した。
それに嫌々ついてきていたわたしは、境内で綺麗な青い石を見つけた。他の人は気づいていなかったけれど、わたしはその石に対して何か運命的なものを感じた。
罰当たりだってわかっていたものの、我慢できず拾って持ち帰ることにした。
いつものように学校で嫌がらせを受けていたとき、筆箱に入れていた青い石が光っていることに気づいた。青い石は、わたしが悲しみを感じた時に強く光ることがわかった。
わたしの話を聞いてくれているような、不思議な感覚だった。神様からの贈り物かもしれないと思って、わたしは常にそれを持ち歩くことにした。
青い石を拾ってから数日後の夜、わたしは変な夢を見た。
強く恐ろしい怪物に、男の子が襲われている夢……
気味が悪かった。
あの男の子がなのはで、怪物が悪い子たちのように感じた。
そう、悪い子は怪物のようなものだから、こちらの話なんて通じない。
ずっと逃げ回っていた男の子も、やがて怪物の攻撃を受けて倒れてしまう。
怪物は動けなくなった彼を置き去りにしていく。
まるで、「力がないのが悪い」とでも言うかのように……
男の子の助けを呼ぶ声が聞こえたけど、助ける気にはならなかった。
そして目が覚めた。
「力が欲しい」
汗で濡れたベッドの上で、わたしはそう呟いた。
そんなこと、今まで思いもしなかった。悪い子にやり返したりしたら、わたしも悪い子になってしまう気がしたから。それが正解だと信じて疑わなかったから。
でも……たとえば、悪い子たちがあの怪物のようにわたしを殺そうとしたとき、何も抵抗せずにそのまま殺されるのが「いい子」なのかな? わたしは本当にそれでいいの?
……相手を打ち倒す「力」を持つお兄ちゃんたちが羨ましく、妬ましく思えた。
いい意味で夢のようなことが起きたのは、悪夢を見た次の日だった。
静かな公園、わたしがいつも一人で時間を潰していた公園にみーくんが現れた。わたしの姿を見つけて、わざわざ話しかけに来てくれた。
そして、みーくんはわたしと仲良くなりたいと言った。それがあまりにも嬉しくて、涙が止まらなくなった。
泣き続けるわたしを優しく抱きしめて、頭を撫でてくれて……今までよりもっと好きになってしまう。やっぱり、わたしにはこの子しかいない。
学校で、辛くて我慢できないようなことをされた日。
そういう日の夜に、わたしはよく自分の部屋に空想上の「みーくん」を呼び出した。
『みーくん。今日も学校で転ばされちゃった』
(そっか、大変だったね)
『ノートにも嫌なことをいっぱい書かれてた。みんな、わたしのこと嫌いなんだね』
(でも、俺はなのはのことが大好きだよ)
『ありがとう……わたし、がんばる』
そんなわたしの様子は家族にも見られていた。みんな、やめた方がいいと言っていたけれど……なかなかやめられなかった。こうでもしないと、自分が壊れてしまいそうで怖かった。
現実世界のみーくんは少し冷たいところがあるから、仕方ないと思っていた。
でも、それはわたしの勝手な思い込みだった。みーくんは想像していたより何倍も優しくて、誰よりもわたしのことを大切にしてくれて、悲しみも苦しみも全部分かち合ってくれる、そんな「魔法使い」みたいな存在だった。
ずっとずっと一緒にいたい。絶対に離れたくない……そう、強く思った。
その舞い上がった気持ちを、あの怪物が全て台無しにした。
真夜中、目が覚めた。
(何かがおかしい……?)
一瞬、時が止まったような感覚。
その直後に地響きがして、ベッドの下から殴りつけられるような衝撃を受けた。
たまらずわたしは部屋を出て、靴を履き替え家の外に出る。
真夜中の路地をしばらく歩いていると、そこに動く『何か』がいた。
「これって……」
黒く巨大な怪物。
昨日の夢に出てきたものと、全く同じモノだった。
目が合った。ギロリとした眼光に足が竦む。
獲物を見つけた獣のような声。巨大な咆哮が響き渡る。
そして、見た目からは想像できない速さでわたしとの距離を詰めてきた。
きっとこの怪物は、わたしを殺す気なのだろう。
死がすぐそこに迫っているというのに、何もすることができない。
逃げないとダメだとわかっていても、身体が動かない。
助けが来る気配もない。夢で見た男の子と、全く同じ状況だった。
わたしは今日で死ぬのかな?
……どうして今日なの?
ようやくみーくんと一緒になれて、これからだって思ってたのに。
どうして? なんでみんなわたしの邪魔ばっかりするの?
わたしが何をしたの? こんなに「いい子」なのに……なんで?
……嫌いだった。
わたしをいじめる人が嫌いだった。
わたしを見てくれない人が嫌いだった。
何もできない、何もしようとしないわたし自身が大嫌いだった。
「みんな、大っ嫌い!!!」
怪物が、わたしの身体目掛けて飛び掛かってきた。
ようやく死ぬことの怖さを実感して、怖くなる。
その瞬間、偶然パジャマのポケットに入れていた青い石が大きな光を放った。
その光に吹き飛ばされるように、怪物がわたしから離れる。
「……助けて」
わたしは、大きな力で輝く石をぎゅっと握りしめる。
この宝石が、この想いに応えてくれるものだと信じて。
握る手に力をこめて、精いっぱい強く願う。
「力が欲しい。この怪物を倒す力が欲しい。わたしの邪魔をするものを……全て壊せる力がほしい。お願いだから、わたしを助けてよ!!!」
<Stand by ready.>
その願いが、叶ったのかもしれない。
突然地面が大きく揺れ、わたしを殺そうとしていた怪物が苦しみ始めた。
強い吐き気に襲われたのか、その巨大な口をだらんと開ける。
口内から何かが飛び出してきた。
わたしは手元に転がってきたそれ……赤く小さな球体を拾う。
<Set up.>
セットアップ、という言葉が頭に響く。
わたしの身体が熱くなる。力がみなぎってくる。
「あなたが、わたしに力をくれるの?」
(はい。あなたは私の所有者として登録されました)
直接、頭の中に話しかけてくる。不思議と言葉が理解できる。
いつの間にかわたしの服装が変化していて、手には杖が握られていた。
(マスター、私はレイジングハートです)
「……そう。じゃあレイジングハート、あのバケモノを倒すにはどうすればいい?」
いつの間にか恐怖感がなくなっていた。
あんなに強そうな怪物なのに、全く負ける気がしない。
(魔法についての知識は?)
「ない」
(では、私の指示通りに。あのジュエルシードを封印する魔法をイメージしてください)
「ジュエルシードを封印?」
魔法の杖となったレイジングハートの先端を向けて、「ジュエルシード」と呼ばれた目の前の敵を拘束するイメージを膨らませていく。
すると桜色の光が輪を描き、怪物の身体を縛り付けた。封印の呪文が頭に浮かぶ。
「……リリカルマジカル。ジュエルシード、シリアル21」
(シーリングモード起動)
「封印!」
レイジングハートから放たれた光線が怪物を貫き、跡形もなく消し去っていく。
勝った。わたしは、勝ったんだ。
今のことを、早くみーくんに話したい。きっと褒めてくれるだろう。わたしの頭を撫でて、「頑張ったね」なんて言ってくれたら……それを想像するだけで胸がドキドキしてしまう。
はやく会いたいなぁ。大きなことを成し遂げたというのに、わたしの心を支配するのは彼のことばかりだった。好きだから、仕方ないよね?
怪物が消滅した後、一つの物体がその場に残っていた。
それは、私が持っているものと同じ形をした小さな青い石。
「えっ……?」
輝きを失った青い石が、レイジングハートに吸い込まれていく。
わたしが持っている方の青い石は、今もなお光り続けている。
これとあの怪物はどちらも「ジュエルシード」。実は同じものだったみたい。
(マスターが手にしているそれは、封印の必要はありません。このまま回収することが可能です……完了)
レイジングハートが一度青い光を発して、もう一つのジュエルシードを取り込んだ。
これで本当に終わった、のかな?
「助けてくれてありがとう、レイジングハート。これからもよろしくね」
(もちろんです)
一件落着となったけど、レイジングハートは今後も力を貸してくれるらしい。
わたしは、ずっと欲しかった「力」を手に入れた。もう怯える必要はない。
そのことが最高に嬉しくて、戦ったことによる疲れを忘れてしまう。
家に帰るまでの間、レイジングハートにいろんなことを聞いた。
ジュエルシードには、持ち主の願望を具現化する力があるという。あのとき怪物が苦しみ始めたのは、わたしの願いにジュエルシードが応えた結果なのかもしれない。
……つまり、あの怪物だって元を辿れば誰かの願望だったということ。わたしとは何かが違って、その願いが暴走してしまった結果。ジュエルシードに頼ったという意味では、わたしと変わらない。一歩間違えれば、逆の立場だった可能性もある。
ふと疑問に思った。
そういえば、あの夢に出てきた男の子は誰だったんだろう?
全くわからないけど、みーくんでないことは間違いなさそうだ。
……だったら、どうでもいい。彼以外の人間なんて、わたしには必要ないのだから。
真っ暗な家に戻り、部屋の扉を開ける。
なんだか眠たくなってきた。早く横になりたい。
「なのは、一体どこへ行ってたんだ?」
暗闇の中、急に聞こえた声に身体がびくっと反応する。
声の主はお兄ちゃんだった。タイミングが悪くてイライラしてしまう。
「お兄ちゃんには関係ないでしょ?」
「そんな言い方しなくてもいいだろ……」
「もう、うるさい! わたしのことなんて何にもわからないくせに!」
眠気にストレスを感じているからか、使う言葉がきつくなっていく。
部屋の中に入り、そのまま勢いよく扉を閉めた。もう放っておいてほしかった。
お兄ちゃんはしばらくガチャガチャしていたけれど、わたしが鍵を閉めると諦めた。
「少しは、俺達も頼ってくれよ………」
そう言いながら、自分の部屋に戻っていく。
やっぱり、わたしのことを全然理解していない。
携帯を開けて、学校で隠し撮りしたみーくんの画像を見る。ほとんど見せない、笑顔の画像。
わたしは彼がいればそれでいい。一緒に大人になって、ずっと二人で暮らしたい。結婚して毎日愛し合っていたい。結婚したらわたしがご飯を作って、彼に喜んでもらいたい。いつかは赤ちゃんも欲しいけど、しばらくは二人きりがいいな。できれば家も建てて、それからそれから……
……いけない。変な妄想をするのはもう卒業しようって、決めたはずなのに。
(マスター、魔力が漏れていました)
「にゃはは……」
レイジングハートに気づかれてしまった。
急に恥ずかしくなって、わたしはベッドに潜った。