幼なじみは魔法使い   作:トラウトサーモン

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 みなさん、読んでいただいてありがとうございます。
 令和の時代になってなのは二次を書くとは思いませんでしたが、これがむしろ新鮮な気持ちになって面白いです。やっぱり、時が経っても好きな作品は変わらないということでしょう。
 今後ともよろしくお願いいたします。


第十話

 ある日、家族で神社を参拝した。

 それに嫌々ついてきていたわたしは、境内で綺麗な青い石を見つけた。他の人は気づいていなかったけれど、わたしはその石に対して何か運命的なものを感じた。

 罰当たりだってわかっていたものの、我慢できず拾って持ち帰ることにした。

 

 いつものように学校で嫌がらせを受けていたとき、筆箱に入れていた青い石が光っていることに気づいた。青い石は、わたしが悲しみを感じた時に強く光ることがわかった。

 わたしの話を聞いてくれているような、不思議な感覚だった。神様からの贈り物かもしれないと思って、わたしは常にそれを持ち歩くことにした。

 

 青い石を拾ってから数日後の夜、わたしは変な夢を見た。

 強く恐ろしい怪物に、男の子が襲われている夢……

 

 気味が悪かった。

 あの男の子がなのはで、怪物が悪い子たちのように感じた。

 そう、悪い子は怪物のようなものだから、こちらの話なんて通じない。

 ずっと逃げ回っていた男の子も、やがて怪物の攻撃を受けて倒れてしまう。

 怪物は動けなくなった彼を置き去りにしていく。

 まるで、「力がないのが悪い」とでも言うかのように……

 男の子の助けを呼ぶ声が聞こえたけど、助ける気にはならなかった。

 

 そして目が覚めた。

 

「力が欲しい」

 

 汗で濡れたベッドの上で、わたしはそう呟いた。

 そんなこと、今まで思いもしなかった。悪い子にやり返したりしたら、わたしも悪い子になってしまう気がしたから。それが正解だと信じて疑わなかったから。

 でも……たとえば、悪い子たちがあの怪物のようにわたしを殺そうとしたとき、何も抵抗せずにそのまま殺されるのが「いい子」なのかな? わたしは本当にそれでいいの?

 ……相手を打ち倒す「力」を持つお兄ちゃんたちが羨ましく、妬ましく思えた。

 

 

 

 いい意味で夢のようなことが起きたのは、悪夢を見た次の日だった。

 静かな公園、わたしがいつも一人で時間を潰していた公園にみーくんが現れた。わたしの姿を見つけて、わざわざ話しかけに来てくれた。

 そして、みーくんはわたしと仲良くなりたいと言った。それがあまりにも嬉しくて、涙が止まらなくなった。

 泣き続けるわたしを優しく抱きしめて、頭を撫でてくれて……今までよりもっと好きになってしまう。やっぱり、わたしにはこの子しかいない。

 

 学校で、辛くて我慢できないようなことをされた日。

 そういう日の夜に、わたしはよく自分の部屋に空想上の「みーくん」を呼び出した。

 

『みーくん。今日も学校で転ばされちゃった』

(そっか、大変だったね)

『ノートにも嫌なことをいっぱい書かれてた。みんな、わたしのこと嫌いなんだね』

(でも、俺はなのはのことが大好きだよ)

『ありがとう……わたし、がんばる』

 

 そんなわたしの様子は家族にも見られていた。みんな、やめた方がいいと言っていたけれど……なかなかやめられなかった。こうでもしないと、自分が壊れてしまいそうで怖かった。

 

 現実世界のみーくんは少し冷たいところがあるから、仕方ないと思っていた。

 でも、それはわたしの勝手な思い込みだった。みーくんは想像していたより何倍も優しくて、誰よりもわたしのことを大切にしてくれて、悲しみも苦しみも全部分かち合ってくれる、そんな「魔法使い」みたいな存在だった。

 ずっとずっと一緒にいたい。絶対に離れたくない……そう、強く思った。

 

 

 

 その舞い上がった気持ちを、あの怪物が全て台無しにした。

 真夜中、目が覚めた。

 

(何かがおかしい……?)

 

 一瞬、時が止まったような感覚。

 その直後に地響きがして、ベッドの下から殴りつけられるような衝撃を受けた。

 たまらずわたしは部屋を出て、靴を履き替え家の外に出る。

 真夜中の路地をしばらく歩いていると、そこに動く『何か』がいた。

 

「これって……」

 

 黒く巨大な怪物。

 昨日の夢に出てきたものと、全く同じモノだった。

 

 目が合った。ギロリとした眼光に足が竦む。

 獲物を見つけた獣のような声。巨大な咆哮が響き渡る。

 そして、見た目からは想像できない速さでわたしとの距離を詰めてきた。

 

 きっとこの怪物は、わたしを殺す気なのだろう。

 死がすぐそこに迫っているというのに、何もすることができない。

 逃げないとダメだとわかっていても、身体が動かない。

 助けが来る気配もない。夢で見た男の子と、全く同じ状況だった。

 

 わたしは今日で死ぬのかな?

 ……どうして今日なの?

 ようやくみーくんと一緒になれて、これからだって思ってたのに。

 どうして? なんでみんなわたしの邪魔ばっかりするの?

 わたしが何をしたの? こんなに「いい子」なのに……なんで?

 

 ……嫌いだった。

 わたしをいじめる人が嫌いだった。

 わたしを見てくれない人が嫌いだった。

 何もできない、何もしようとしないわたし自身が大嫌いだった。

 

「みんな、大っ嫌い!!!」

 

 怪物が、わたしの身体目掛けて飛び掛かってきた。

 ようやく死ぬことの怖さを実感して、怖くなる。

 

 その瞬間、偶然パジャマのポケットに入れていた青い石が大きな光を放った。

 その光に吹き飛ばされるように、怪物がわたしから離れる。

 

「……助けて」

 

 わたしは、大きな力で輝く石をぎゅっと握りしめる。

 この宝石が、この想いに応えてくれるものだと信じて。

 握る手に力をこめて、精いっぱい強く願う。

 

「力が欲しい。この怪物を倒す力が欲しい。わたしの邪魔をするものを……全て壊せる力がほしい。お願いだから、わたしを助けてよ!!!」

 

<Stand by ready.>

 

 その願いが、叶ったのかもしれない。

 

 突然地面が大きく揺れ、わたしを殺そうとしていた怪物が苦しみ始めた。

 強い吐き気に襲われたのか、その巨大な口をだらんと開ける。

 

 口内から何かが飛び出してきた。

 わたしは手元に転がってきたそれ……赤く小さな球体を拾う。

 

<Set up.>

 

 セットアップ、という言葉が頭に響く。

 わたしの身体が熱くなる。力がみなぎってくる。

 

「あなたが、わたしに力をくれるの?」

(はい。あなたは私の所有者として登録されました)

 

 直接、頭の中に話しかけてくる。不思議と言葉が理解できる。

 いつの間にかわたしの服装が変化していて、手には杖が握られていた。

 

(マスター、私はレイジングハートです)

「……そう。じゃあレイジングハート、あのバケモノを倒すにはどうすればいい?」

 

 いつの間にか恐怖感がなくなっていた。

 あんなに強そうな怪物なのに、全く負ける気がしない。

 

(魔法についての知識は?)

「ない」

(では、私の指示通りに。あのジュエルシードを封印する魔法をイメージしてください)

「ジュエルシードを封印?」

 

 魔法の杖となったレイジングハートの先端を向けて、「ジュエルシード」と呼ばれた目の前の敵を拘束するイメージを膨らませていく。

 すると桜色の光が輪を描き、怪物の身体を縛り付けた。封印の呪文が頭に浮かぶ。

 

「……リリカルマジカル。ジュエルシード、シリアル21」

(シーリングモード起動)

「封印!」

 

 レイジングハートから放たれた光線が怪物を貫き、跡形もなく消し去っていく。

 勝った。わたしは、勝ったんだ。

 今のことを、早くみーくんに話したい。きっと褒めてくれるだろう。わたしの頭を撫でて、「頑張ったね」なんて言ってくれたら……それを想像するだけで胸がドキドキしてしまう。

 はやく会いたいなぁ。大きなことを成し遂げたというのに、わたしの心を支配するのは彼のことばかりだった。好きだから、仕方ないよね?

 

 

 

 怪物が消滅した後、一つの物体がその場に残っていた。

 それは、私が持っているものと同じ形をした小さな青い石。

 

「えっ……?」

 

 輝きを失った青い石が、レイジングハートに吸い込まれていく。

 わたしが持っている方の青い石は、今もなお光り続けている。

 これとあの怪物はどちらも「ジュエルシード」。実は同じものだったみたい。

 

(マスターが手にしているそれは、封印の必要はありません。このまま回収することが可能です……完了)

 

 レイジングハートが一度青い光を発して、もう一つのジュエルシードを取り込んだ。

 これで本当に終わった、のかな?

 

「助けてくれてありがとう、レイジングハート。これからもよろしくね」

(もちろんです)

 

 一件落着となったけど、レイジングハートは今後も力を貸してくれるらしい。

 わたしは、ずっと欲しかった「力」を手に入れた。もう怯える必要はない。

 そのことが最高に嬉しくて、戦ったことによる疲れを忘れてしまう。

 

 家に帰るまでの間、レイジングハートにいろんなことを聞いた。

 ジュエルシードには、持ち主の願望を具現化する力があるという。あのとき怪物が苦しみ始めたのは、わたしの願いにジュエルシードが応えた結果なのかもしれない。

 ……つまり、あの怪物だって元を辿れば誰かの願望だったということ。わたしとは何かが違って、その願いが暴走してしまった結果。ジュエルシードに頼ったという意味では、わたしと変わらない。一歩間違えれば、逆の立場だった可能性もある。

 

 ふと疑問に思った。

 そういえば、あの夢に出てきた男の子は誰だったんだろう?

 全くわからないけど、みーくんでないことは間違いなさそうだ。

 ……だったら、どうでもいい。彼以外の人間なんて、わたしには必要ないのだから。

 

 

 

 真っ暗な家に戻り、部屋の扉を開ける。

 なんだか眠たくなってきた。早く横になりたい。

 

「なのは、一体どこへ行ってたんだ?」

 

 暗闇の中、急に聞こえた声に身体がびくっと反応する。

 声の主はお兄ちゃんだった。タイミングが悪くてイライラしてしまう。

 

「お兄ちゃんには関係ないでしょ?」

「そんな言い方しなくてもいいだろ……」

「もう、うるさい! わたしのことなんて何にもわからないくせに!」

 

 眠気にストレスを感じているからか、使う言葉がきつくなっていく。

 部屋の中に入り、そのまま勢いよく扉を閉めた。もう放っておいてほしかった。

 お兄ちゃんはしばらくガチャガチャしていたけれど、わたしが鍵を閉めると諦めた。

 

「少しは、俺達も頼ってくれよ………」

 

 そう言いながら、自分の部屋に戻っていく。

 やっぱり、わたしのことを全然理解していない。

 

 携帯を開けて、学校で隠し撮りしたみーくんの画像を見る。ほとんど見せない、笑顔の画像。

 わたしは彼がいればそれでいい。一緒に大人になって、ずっと二人で暮らしたい。結婚して毎日愛し合っていたい。結婚したらわたしがご飯を作って、彼に喜んでもらいたい。いつかは赤ちゃんも欲しいけど、しばらくは二人きりがいいな。できれば家も建てて、それからそれから……

 ……いけない。変な妄想をするのはもう卒業しようって、決めたはずなのに。

 

(マスター、魔力が漏れていました)

「にゃはは……」

 

 レイジングハートに気づかれてしまった。

 急に恥ずかしくなって、わたしはベッドに潜った。

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