幼なじみは魔法使い   作:トラウトサーモン

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 あけましておめでとうございます。


第十三話

 夜、俺はなのはと電話をしていた。

 

「やっぱり、なのはの家に行くのはダメ?」

『むぅ……どうしてもみーくんが来たいならいいけど』

 

 なのはは他人が自分の家に来ることに対して、結構な嫌悪感を持っている。

 その理由が気になっているのだが、突き止めるのはなかなか難しい。

 もちろんなのはを傷つけるわけにはいかないから、無理に聞き出すのは論外だ。しかし、これを知らない限り俺はなのはの家にお邪魔することができない。本人の意思を無視して押しかけるなんて、嫌われても仕方ない行為である。

 とはいえ、ずっとなのはの家族と会わないというわけにもいかないだろう。なのはが俺のことを大切な存在だと思ってくれているからこそ、挨拶ぐらいはしておくべきだと考えている。今後仲良くなっていく上で泊まりで遊ぶ機会などもあるかもしれないし、お互いの家族を知っておいて損はないはずだ。

 ちなみに、母に対しては日曜にある程度の説明を済ませた。俺が自分から友人を作ったことには驚いていたが、なのはの状況を話せる範囲で話したところ納得したようだった。

 

「なのはが嫌がることはしたくない。でも、いつかは通る道だと思う」

『……そうだよね。わたしも、わかってるよ』

 

 この電話を通して、いくつか得た情報がある。

 まず、高町家の家族構成は、父・母と兄と姉……五人家族である。これだけ聞くと何の変哲もない一般家庭だが、なのは曰く「全然普通じゃない」らしい。複雑な家庭事情を抱えているようだ。

 ならば、ここは今の段階で決して深堀りすべきではない。このあたりに問題の鍵がある可能性は十分にあるが、それがきっかけで嫌われてしまっては元も子もないからだ。家族関連の話は、つつき方によっては最悪絶縁になってもおかしくないほどデリケートな話題である。

 そもそも、俺だって家庭の問題にずけずけと踏み込んでくるような人間とは仲良くしたくない。これらの情報の整理やそれに基づく推測は、当分の間頭の中に留めておくことにした。

 

「無理して話す必要はないからな?」

『ううん……わたしと一緒になるために、踏み出そうとしてくれてるんだよね』

 

 ちょっと大げさな気もするが、まあ概ね間違ってはいない。

 結局、なのはと仲良くやれればそれでいいと思う。

 

「ああ、そういえば気になってたことが」

 

 しんみりした雰囲気を変えるべく、強引に話題を変えてみる。

 

『なあに?』

「なのはって名前。可愛くて良い名前だなって思ってたんだけど、これはお母さんが決めたの?」

 

 このぐらいの質問なら大丈夫だろう。なのはという名前が好きなのも事実だ。

 

『えへへ、ありがとう。みーくんがかわいいって思ってくれるなら、きっと良い名前なんだと思う。でも、これはお父さんが決めたんだって』

「へぇ、意外」

 

 男のわりに、なかなか良いセンスしてるじゃないか。

 

『えっと、お父さんは漢字で……「菜乃葉」って付けようとしたんだけど、お母さんが平仮名の方が良いって言ったみたい。どっちの方が良かったのかな?』

 

 楽しそうに、自分の名の生い立ちを語るなのは。

 本当に家族のことが嫌いというわけでは、無さそうだが……?

 なのはのお母さんと、俺は翠屋で会話している。少なくとも変な人じゃないし、第一印象は優しそうな感じだった。というか、話を聞けば聞くほどなのはの両親が良い人のイメージになっていく。一体どうしてこうなってるんだ?

 

「個人的には平仮名かな。柔らかくって、なのはのイメージに合ってる」

『ありがとう!』

 

 ふと時計を見ると、もう夜十時だった。

 いい感じに話も切れたことだし、そろそろ寝ることにしよう。

 

「さて、ここまでにするか。明日も学校だし」

『あ、あのね! 一つだけ、みーくんにお願いがあるの』

 

 俺が電話を切り上げようとすると、慌ててなのはがそう言った。

 

「いろいろ話も聞かせてもらってるし、何でも言ってくれよ」

 

 急に改まってどうしたんだと、俺は疑問に思う。明日宿題を見せてくれとか、そんなところだろうか。なのはは数字に強い代わりに、国語など文系の教科が少し苦手であると知っている。

 そんな適当な予想をしていたが、なのはのお願いは全く違うものだった。

 

『みーくんのお部屋の窓を、少しだけ開けておいてくれないかな?』

「えっ、ここ?」

 

 それがあまりにも不可解すぎて、一瞬頭がフリーズした。

 俺は言われるがまま窓のカギを開けて、網戸越しに少しだけずらした。

 この行動に何の意味があるか、全然わからない。

 

『うん、ありがとう。また明日!』

「ま、また明日……」

 

 ルンルンと弾んだ声で、なのはの方から電話を切ってきた。

 全くちんぷんかんぷんなまま、俺は部屋の電気を消しベッドに身体を沈めた。

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 その夜中のことだった。

 俺はなのはと抱き合っている夢を見た。

 それは夢というにはあまりにもリアルすぎるもので、まるで本当に自分の目の前にいるかのような感覚になった。なのはのシャンプーの香り、息遣い、体温……すぐ近くにいなければ味わうことのできない、五感に対する刺激。なのはと溶け合うかのような錯覚を持ちつつ、ふわふわと幻想空間の中を揺れ動く。ピンク色の雲の上で目を瞑って、安らかに……

 

「すー、すー……」

 

 その音を聞いて、夢から目を覚ました。

 

 ……えっ?

 むくりと上半身を起こす。

 悪くはないが変な夢だった。まさか夢の世界でもなのはと一緒なんて、びっくりだ。どれだけなのはのことが好きなんだよと苦笑いしつつ、携帯を探ってベッドをまさぐる。

 

 ふにっ。

 何かが手に触れた。機械のような無機質な感触ではなく、柔らかな何か。

 

「にゃ……みーくん………はずかしいよ………」

 

 ちょっと待て。

 なんだか、信じられないものを見たような気がする。

 

 一旦深呼吸して落ち着いた。

 尿意を催したため、まずトイレへと向かうことにした。頭が寝ぼけているからあんな幻覚を見るのかもしれない。いくらなのはが好きといっても限度がある。最近疲れているのかなぁ?

 

 用を足してから、冷水で手を洗う。

 水の冷たさでぼけた頭が冴えていく。

 よし、大丈夫だ。まさかそんなはずはないだろうと、気を取り直して自室へと戻る。

 

 しかし、夢ではなく現実だった。

 俺のベッドの上で、パジャマ姿のなのはがすやすやと眠っていた。

 

 おいおい、どういうことだ。

 さすがにもう幻覚とは思わないが、まだ理解ができない。

 寝る前までの記憶を思い起こしていく。そう、俺はなのはの言った通りに窓を開けて……

 

 ……わかった。魔法を使ったのか。

 実際に見たことは無いが、きっとなのはは空を飛べるんだ。

 それで二階から入ってこようと画策して、あんなヘンテコな指示をしたわけか。

 

「こんなことのために、お前……」

 

 何やってんだと呆れながら、再びベッドに潜る。

 幸せそうな寝顔が目の前にあるのを見て、毒気を抜かれてしまう。

 

(まあ、なのはが幸せそうならいいか)

 

 これがバレたら大問題であるのは間違いない。無断でお泊まりするなんて、あちらの家族に何を言われるかと思うとぞっとする。

 しかし、安眠するなのはを起こしてまで帰ってもらおうとは全く思わなかった。そんなことをするのは可哀想だし、そして何より今の状況を嬉しく思っている自分がいた。

 

「おやすみ」

 

 起きてしまわないよう気をつけながら、布団をかけていく。シングルサイズのベッドでも、小学生の身体二つなら十分だ。少し身を寄せ合う体勢になるのがかえって気持ちいい。

 レイジングハートを握っているなのはの左手に触れてから、俺は再び眠り始めた。

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