幼なじみは魔法使い   作:トラウトサーモン

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 ニッチな需要に応えられたらと思って書き始めたのですが、多くの方に読んでいただけてとても嬉しいです。ありがとうございます。
 それでは、今後ともよろしくお願いいたします。


番外編

 今日は父の命日である。

 学校から帰った後、俺は母の車で国守山近くの墓地を訪れた。

 

(見てるか……? やっと、俺にも友達ができたんだ)

 

 父の墓の前で手を合わせながら、俺の一年を報告する。この行動に意味があるかはわからないが、父の「力」を受け取った者としてやらなければならないような気がしている。

 ふと、隣に立つ母を見た。その姿はあまりにも弱々しく、見ているこっちが辛くなってしまうほどのものだった。今もなお悲しみが癒えることはないようだ。

 

(父さん、あんたは幸せ者だ)

 

 一人の女性にこれだけ強く愛されたということ。それは父が素晴らしい男性であった証だ。だからこそ……だからこそ、あまりにも早く逝ってしまったことが惜しい。

 父がろくでもない奴だった方が、母にとってはマシだったのかもしれないとさえ思う。死んでラッキーと思われる程度の人間であれば、これほど悲しむ必要もなかったのに。

 

 そこまで考えて、これは故人に対して途轍もなく失礼な想像だと気づく。

 あちらの仕事が忙しかったこともあり、俺と父の思い出はあまり多くない。こうやって墓参するぐらいの気持ちはあるものの、やはり母とは大きな温度差があると実感する。

 

「……帰ろっか。みーくんも、毎年ありがとね」

「うん」

 

 俺は墓前に上げた線香の灰を掃除し、最後に一礼した。その間に母はお供え物の煙草や線香の箱などをバッグにまとめ、帰る準備をしている。

 そうして立ち去る直前、俺たちの前に一人の女性が現れた。

 

「あっ、すいません……わたしも、お参りに来たんです」

 

 金髪が目立つ、大学生ぐらいに見える可愛らしい女性だった。

 

「あなたは、一体?」

「わたしはね……きみのお父さんと、何度か一緒に仕事をしたことがあったの。まさかこんなに早く亡くなるなんて思わなかった。本当に、悲しい……」

 

 彼女は生前の父の同僚? だったらしい。

 それを聞いた俺は、長年の疑問を聞かずにはいられなかった。

 

「父さんは、どんな力を持っていたんですか?」

「……それは、本人以外の誰にもわからないよ」

 

 わからない? 予想しない答えに目を見開く。

 超能力は、政府によって管理されているのではなかったのか?

 

「でも、吉村さんはわたしが知る『能力者』とは全然違った。他に分類のしようがないから、とりあえず超能力のカテゴリーに入れられていた感じかな。本来は全く別次元の力だと思う」

 

 俺の顔を見ながら、彼女はそう補足した。

 何だそれは。分類できない能力って、そんなものが存在するのか。誰も知らないし理解できない異形の力。そういう力のことを……

 

「『魔法』って言うんじゃないか?」

「えっ!? ……ふふ、言い得て妙かも。なるほど、吉村さんは魔法使いだったのかぁ」

 

 つい口からこぼれてしまった言葉に、彼女は笑って反応した。

 ちなみに、母も父の持つ力に関してはほとんど知らない。とにかく公私の分別がしっかりしている人で、仕事の話を家ですることは全くといっていいほど無かったからだ。

 

「情報ありがとうございます。今後何かわかったら、俺に教えてもらうことは可能ですか?」

「大丈夫だよ。ちゃんと答えられなくて、ごめんね」

 

 女性は申し訳なさそうに目を伏せる。悪い人ではなさそうだ。

 今後のためにお互いの連絡先を交換し、俺たちは家へと戻った。

 

 結局、謎は深まるばかりだった。

 俺の持つ力の正体を、知ることができる日は来るのだろうか?

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 ユーノ・スクライアは失敗した。

 ある事故により管理外世界「地球」に散らばってしまったロストロギア、『ジュエルシード』。ユーノはその発掘作業に携わっていたという事実による罪悪感を抑えることができず、危険を承知で単身地球で回収作業を行うことにしたのだった。

 

 しかし、ユーノという魔導師は補助魔法に特化しているため、その戦闘力は決して高くない。結局、彼はジュエルシードの封印に失敗し暴走体を取り逃がしてしまうのだった。

 さらに悪いことに、地球では魔力を持つ人間の割合が非常に少ない。彼に命の危機が迫ってもなお、助けを求める念話に応じる者は終ぞ現れなかった。

 

 その日の夜、力を蓄えた暴走体が満身創痍のユーノに襲い掛かる。

 身体はボロボロで、魔力の残量もほとんどない。最初から勝ち目はなかった。

 

(もう、ダメだ……)

 

 死を悟ったユーノは、最後にこの暴走体による被害を減らすための行動を取る。

 彼が持っていたデバイス、『レイジングハート』の所有者登録を解除し、魔力さえあれば誰でも使用可能な状態にした上で、ジュエルシード暴走体の内部に転移魔法で送り込んだ。

 暴走体は執拗にユーノを襲うことからも分かる通り、魔力を持つ人間を優先的に攻撃する傾向にある。この性質を使う他ない。

 ユーノは賭ける。暴走体に襲われた者が、魔法の資質を持っていることに。

 

 レイジングハートとは、スクライア家が発掘したデバイスである。

 その力はまだ未知数な部分も多いが、高性能と高いレベルの人工知能を併せ持つ極めて優秀なものである。レイジングハートであれば、使い手に魔法の経験がなくてもこれを封印できるかもしれない。かなり分が悪い賭けだが、何もせず死ぬよりはマシだと判断した。

 暴走体がユーノに飛び掛かり、フェレットの身体が引きちぎられるような痛みを覚えたところで彼の意識が途絶えた。彼は最後まで、この世界の安全が保たれることを祈っていた。

 

 

 

 

 

『槙原動物病院』

 

(えっ?)

 

 意識があることに、僕は驚いた。

 ここは死後の世界?

 

「あっ、目が覚めたのね。おはよう」

 

 身体は……まだフェレットの形態だ。ということは、これは現実か。

 何が起きたかわからないが、僕は助かったらしい。

 周りをきょろきょろと見回すと、調子の悪そうな動物たちが何匹もケージの中で過ごしていた。つまり、目の前の白衣を着た女性は獣医なのだろう。 

 

 あれほど僕に執着していた暴走体が、なぜとどめを刺さなかったのかを考えてみる。

 ……あの時、僕の魔力は消耗を重ねてゼロに近くなっていた。それを見て暴走体はターゲットを変えてくれたのかもしれない。九死に一生を得たのは事実だが、この仮定が合っていた場合は誰か他の人間が襲われるということになる。早く行動しないと。

 

(ぐぅっ……)

 

 しかし、どれだけ力を込めても念話を飛ばすことすらできなくなっていた。

 おそらくリンカーコアがダメになっている。これは回復までかなりかかりそうだ。

 

 それにしても、誰が僕をここまで運んできたんだろう?

 とどめを刺されなかったとはいえ、意識を失うほどの怪我だ。こうして病院に運び込まれなければ、確実に死んでいたと思う。

 

「ああ、よかった。アリサちゃんも喜んでくれそうね」

 

 獣医の女性が僕を見てそう呟いた。

 そのアリサという子が、僕を助けてくれたんだろうか。

 だとしたら、どれだけお礼を言っても足りない。間違いなく命の恩人だ。

 

 包帯でほぼ全身を包まれていることもあって、今のところは身体も動きそうにない。獣医のおかげで痛みはないものの、これだけ大きなダメージを負ってしまっては人間形態に戻った際に身体の一部が壊れていてもおかしくはない。

 しかし、命まで奪われたわけではない。命さえあれば、まだ頑張れる。諦めなければ何かが起きると信じて、少しでも状況を良くするために行動しよう。

 

 

 

 夕方ごろ、一人の少女が動物病院に駆け込んできた。

 

「先生! あの子の意識が戻ったって本当ですか?」

「ええ、今日の昼ごろ目を覚ましました」

「よかった……」

「助けたいって思いが通じたのかな。とにかく、命が救えて本当によかった。ありがとうアリサちゃん」

 

 二人のやりとりを聞いて、状況を把握する。

 そうか、あの少女が僕をここに運んできてくれたんだ。彼女から見たら、僕は道端に倒れていた小動物に過ぎないのに……なんて優しい人なんだろうと思った。

 

「そんな、お礼を言うのはあたしの方です。その子を連れてきた病院が、先生のところでよかったって思います」

「ありがとう。それじゃあ、私としても怪我が治るまでは様子を見たいけど……問題なくなったら、アリサちゃんが引き取ってくれるってことで良かったわね?」

「はい。大切にします!」

「ふふっ、頼もしいなぁ……って、わわっ!!!」

「大丈夫ですか!? もう、先生は動物を診てる時はとってもすごいのに……そうじゃないときは結構おっちょこちょいですよね」

「ごめんね、それは昔からよく言われるなぁ」

 

 この二人には、必ず恩を返さなければならない。

 リンカーコアが回復したら、まず人間形態に戻ってアリサにお礼を言おう。ここまで失敗している以上、今さら魔法のことを秘匿するなんて考える必要もない。

 あとはどうにか時空管理局にアポを取って、ジュエルシードの件に介入してもらうか……僕が罰せられることは免れないだろうが、地域の安全を考えれば背に腹は代えられない。

 

 そして、夜になった。

 窓の外の真っ暗な風景を見ると、暴走体に飛び掛かられた瞬間がフラッシュバックしてしまう。トラウマというほどではないが、胸が痛くなる。

 ジュエルシードは本当に危険なロストロギアだ。あんな代物が、よりにもよって管理外世界にばら撒かれてしまった。

 ……この辺りで魔力反応を感じられないということは、もしかしたら僕は「賭け」に勝っていて、誰かがレイジングハートを受け取り暴走体を封印してくれたのかもしれない。それすらも希望的観測にすぎないが、今の僕には、そうであればいいと願うことしかできない。

 とにかく今は助けてくれた獣医とアリサに感謝しながら、回復を待とう。

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