幼なじみは魔法使い   作:トラウトサーモン

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 面白い作品を探していたとき、拙作がランキングに載っているのを見て目を疑いました。まさか、これほど多くの方に読んでいただけるものになるとは……皆さんありがとうございます。


第十七話

 学校の昼休み。

 

「……だから、旅行に連れていかれそうになってるの」

 

 いつものように、俺たちは二人で食事をしていた。

 なのはが、「はぁ」と憂鬱そうに大きなため息をつく。なんでも、高町家は来週の土日を使って温泉旅行に行くらしい。普通の子供ならワクワクして眠れないような、楽しみで仕方ないイベントだと思うが、この子は違うようだ。

 

「俺と離れたくない?」

「そんなの当たり前なの! みーくんがいない旅行なんて、無い方がいい! わたしはずっとそう言ってるんだけど、あの人たちは誰も聞いてくれない。わたしのことを全然わかってくれない」

 

 だいぶ怒っている。要は俺を連れていけということだろう。しかし、一度も顔を見たことがない奴が家族旅行に参加するなんて意味がわからない。そんなの気まずすぎて俺としても行きたくないし、ついて来られる方も嫌がるはずだ。

 挨拶を先延ばしにしている影響が、こんなところで出てくるとは思わなかった。

 

「うーん。俺としては、はやてが心配だな。あの子を置いていけないよ」

 

 ここ最近、俺たちはほとんど毎日はやての家に行っている。会うことがお互いの日常になりつつある今、週末の二日間を一人ぼっちで過ごさせるなんて……俺にはできない。あの悲しげな顔を思い出すだけで、放っておくという選択肢は無くなってしまう。

 

「優しいね。それでこそみーくんなの。だから、わたしは……みーくんとはやてちゃんの二人が一緒じゃなければ、絶対に行くつもりはない。今日、お父さんにそう伝えるよ」

 

 意志は固まっているようだ。こうなったら最後、意地でも自分の要求を通すだろう。つまり、旅行をキャンセルするか俺とはやてを連れて行くかの二択になったわけだ。

 ……少しばかり、なのはの家族に対して申し訳ない気持ちになる。家族間の関係がうまくいっていないことは聞いている。であれば、それを少しでも改善すべく企画した可能性もあるだろう。

 

 そういえば、母は来週からしばらく休日を消化すると言っていた。つまりスケジュールは空いているし、うちの車はワンボックスなので後部座席を倒せばはやての車椅子も運ぶことが可能だ。

 単独で高町家の家族旅行についていくのではなく、はやてを含む俺たち一家が同行するという形にはできないだろうか。費用の問題などもあるが、こうすれば俺としても気まずくない。

 兎にも角にも、俺はまずなのはの家に行く必要がある。ちょうどいい機会だ。

 

「なのはのお父さんと、話をさせてもらえないか?」

「えっ?」

「せっかくの機会なのに、断るのはもったいない気がする。ちょっと考えがあるんだ」

 

 とはいえ、この件はなのはがどう思っているかが肝心である。詳細な理由はわからないが、あまり俺を自分の家に連れていきたくないことも知っている。無理強いはできない。

 

「……じゃあ、うちに来る?」

「なのはが嫌じゃなければ」

「わかった」

 

 渋々、といった感じだが認めてもらうことができた。

 ……ついに俺は、なのはの家族と対面することになる。気が引き締まるというか、緊張してドキドキする。お母さんとは翠屋で一度だけ会話する機会があったものの、あれは数分程度の接触にすぎず、その人となりを完全に理解するにはあまりにも短いコミュニケーションであった。

 俺という男は、高町家の人々にどう思われているのか。それを知るのが少し怖かった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 そして夕方になった。スクールバスは、今日は母が迎えに来ると嘘をついて乗車を断った。その理由は、高町家までなのはが魔法で連れて行ってくれることになったからである。

 誰もいない体育館裏で、人目が無いことを確認してからなのはの背中に乗る。レイジングハートが輝き、ミラージュハイドが俺たちを包み込む。

 世界から姿を消す魔法。何を今さらという話だが、なのはの魔法は本当にすごいと思う。俺の見ていないところで練習しているのか、最近はフィンを広げながら攻撃魔法を撃つこともできるようになったとか。凄まじい成長を遂げていると、他でもないレイジングハートが言っていた。

 

 茜色に染まった、海鳴市の上空。綺麗な風景に感動する。

 ……あの金髪魔法使いが、いつ襲ってくるかもわからない。けれど、なんとなく今のなのはは負けないような気がする。負けるイメージが湧かないという方が近いか?

 むしろ心配しているのは、勝ち負けのことではなく……

 

「みーくん、見て」

「えっ?」

 

 そう言って、なのはが空中で急停止した。慣性で身体同士が強くくっつく。

 周囲を見渡すと、時間が止まったように空間が固定されている。これは水族館に行ったときに見たのと全く同じ光景だ。つまり、あの日と同じ術者が近くにいる?

 

「にゃ、待ち伏せされていたみたいなの」

 

 外部との接触を絶つ結界。俺たちはいつの間にか、罠に嵌められていたようだ。

 そう考えるのも束の間、金色の稲妻がこちらに向かって飛来してきた!

 

「なのは!」

「……ああ、そういうこと。めんどくさいなあ」

 

 ミラージュハイドが切れている。この結界にはどうやら、一部の魔法を無力化する効果があるらしい。まさに飛んで火にいる夏の虫。とんでもないピンチに陥ってしまった。

 ……まあ、それでもなのはが負けるビジョンは見えないが。

 

<Rear Fin>

 

 背中に桜色の翼が現れて、思い切り後退した。

 敵の攻撃を大きく回避してから、なのははレイジングハートを高々と掲げる。

 

<Shoot Bullet>

 

 これがなのはの成長か。俺を乗せてもなお、攻撃を仕掛けることができる。

 しかし現れたのは、手のひら程度の大きさしかない弾であった。金髪の魔法使いは警戒していったん引き下がったものの、低級の魔法であると判断したのか、再び武器を構えて勢いよく突っ込んでくる。

 え、大丈夫? 一瞬心配になったが、これこそなのはの新しい戦い方だった。

 

「……ディフューズ」

 

 なのはがそう宣言すると、一度放たれた魔法の弾丸が拡散した。

 予想できない方向からの攻撃。相手のバリアジャケットに小さな傷が入った。

 

「レイジングハート。あれぐらいなら、わたしがコントロールしなくても撃てるよね?」

<Yes>

 

 そのやりとりの後、背中の翼の周囲から先ほどの弾丸……「シュートバレット」が無数に現れた。それはなのはが言った通り一切コントロールされていないもので、全てが無作為な方向へ飛んでいく。そして、それぞれの弾が分裂・拡散することによって、俺たちの周りを常に魔法の弾が飛び交っている状態が作り出される。いわば魔法の弾幕だ。

 

「わたし、思ったんだ。魔法を制御できないなら、しなければいいの。三百六十度、全ての方向に撃てば敵を狙う必要はないよね」

「……そうだな」

 

 これも最近レイジングハートに聞いた話だが、なのはの魔力……魔法を使う力の最大値は、すさまじいものだという。魔法の弾幕を張るということは、撃った弾のほぼ全てが無駄になることを意味する。だからきっと、こんな戦法はなのはにしかできないのだ。

 

「それは、何?」

 

 金髪の魔法使いは戸惑いを隠せない。こちらに近づこうとして、シュートバレットを被弾し後退することを何度も繰り返している。もしかして、近接攻撃が強いスタイルなのか?

 

「え、あなたのための魔法だよ?」

 

 ……そういうことか。その返答で考え方が修正された。

 これがなのはの戦い方というのは、俺の大いなる勘違いであった。なのはは、相手の魔法使いの戦闘スタイルを理解した上で、最も嫌がる方法を使って応じているにすぎない。

 なるほど、だから俺はこんなに安心できるわけだ。

 

 以降は一進一退の攻防、というよりも地味な戦いが続く。

 時々金色の弾が飛んでくるが、なのはの「プロテクション」を破るには至らない。やはり、あちらの遠距離攻撃は牽制の意味合いが強いものであり、撃ち合いには向かないようだ。

 弾幕を潜り抜けられそうになっても、なのはが得意の「ディバインシューター」を一発放って怯ませてしまう。一度動きが止まれば、また弾幕の餌食になるだけ。

 俺というド素人でもわかるぐらいの圧倒的優勢を築いたまま、時間ばかりが過ぎていく。

 そんなことを続けているうちに、なのはの方がイライラし始めた。

 

「……いい加減帰ったらどうかな? わたしとみーくんは、これから用事があるんだよね」

 

 撤退を要求する。それでも、少女は表情を変えず無理やり突っ込んでくる。どうしてそこまで頑張るのか理解できない。何か大きな理由があるのかもしれないけれど、こんな状況では……対話は難しい。いずれは彼女の主張を聞いてみたいものだが、今日は無理だろう。

 なのはは一度ため息をついてから、弾幕を維持したまま後退し始めた。しかし、この結界が強固であるためか、どれだけ飛んでも範囲外へ脱出することができない。

 レイジングハートを持っていない方の手で、くしゃくしゃと頭を掻いている。ストレスが溜まっているのが嫌でも伝わってくる。この状態になってしまうと、なかなか俺も口を出しづらくなる。

 勝負の結果は、もう見えている。どうか彼女には引き際だと悟って欲しい。

 

「ねえ、レイジングハート。非殺傷設定を解除して」

<......Yes>

 

 しびれを切らしたなのはが、何やら物騒なことを指示した。レイジングハートが少し迷ったように見えたのは、俺の気のせいだろうか。

 いつの間にか、金髪の魔法使いの動きが鈍くなっていた。バリアジャケットの傷は少ない。なのはの攻撃で受けたダメージよりも、消耗戦による魔力の枯渇で苦しんでいるように見える。

 

「あなたたちがこの結界を解除してくれたら、撃つのをやめるけど……そうする気はないんだよね。だったら、仕方がないの。()()()()()()()()()()()()()()()だから、ね?」

 

 そう言って、なのはは……レイジングハートに力を集束し始める。

 同時に、激しい弾幕が止んだ。あちらからすればやっと訪れたチャンスだが、彼女はもうまともに飛ぶことさえ苦労している様子。

 

 急に俺は怖くなった。これから何が起きる?

 今から撃とうとしているのは、ディバインバスター……いや、さらに上位の魔法であるかもしれない。少なくとも、いまだかつて見たことのない威力であることは確実だ。

 そして、あの少女はこれを避けられそうにない。「非殺傷設定の解除」が言葉通りの意味だとすれば、彼女はどうなる?

 

 桜色の光がどんどん増幅していく。

 ふと少女の顔を見た。酷く怯えた顔をしている。

 なのはに怯えているのか、それとも別の何かが怖いのか。

 

 ああ、止めなきゃ。

 やっと理解した。なのはにとって、人間は二種類しかいないのだ。

 大好きな人か、それ以外か。なのはの世界には今、俺とはやてしかいない……

 

「やめろっ!!!」

 

 その瞬間、一人の乱入者が現れた。まるで獣のような見た目をした女性だった。

 彼女はボロボロになった少女を抱きかかえて、すさまじい速度で俺たちから離れていく。追撃するつもりはないのか、なのははそれを黙って見送っていた。

 結界が晴れて、正常な空間が戻ってくる。沈みかけの太陽が再び海鳴に現れた。

 

 二人きりになった空中で、俺はほっと一息ついた。

 なのはを信頼していたとはいえ、戦闘の緊張感は大変なものだと実感した。

 

「そうか、さっきの結界はあの人が……」

 

 なるほどな、と思った。あれほどボロボロになっても維持できていた理由がわかった。

 そもそも敵は一人ではなく二人だったのだ。

 

「やっといなくなった。本当に、めんどくさい人たちなの……」

「……もしかして、これを狙ってた?」

「うん。もう一人いるのは、ずっとわかってたよ。『サーチャー』を使ってたから」

 

 知らないうちに、さらに魔法のレパートリーが増えていたらしい。

 ……本気で殺すつもりはなかったようで安心した。しかし、見ているこちらが怖くなるぐらいの暴力的で過激な交渉だった。他に置き換えて言えば、ナイフを喉元に突きつけて要求を通すようなやり方である。「どんな手を使ってでも守り抜く」と、以前言っていた意味がよくわかった。

 

「今から挨拶に行くのか……」

 

 まだ家に行ってすらいないのに、俺のメンタルは削られていた。

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