幼なじみは魔法使い   作:トラウトサーモン

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 まだ見てくれる人がいるなんて……うれしいです。


第二十話

 美味しい食事の後、俺たちは眠りについた。

 一日の疲れからぐっすりと眠れる……と思っていたのだが。

 

(あれ?)

 

 身体に違和感を覚えて、深夜に目が覚めてしまった。

 そして、隣の布団になのはの姿が無いことに気づく。いつも抱きつかれているからか、いないことを身体が察知するようになってしまったらしい。

 まるで中毒者だと苦笑しつつ、俺は布団を抜け出し探し始める。

 

 トイレの前に立ったが、明かりはついていなかった。であれば、部屋の外にいるのだろうか。

 

 なぜ? こんな時間に外に行くなんて……

 

 ……わかった。それしかないよな。

 俺は外履きを履いて部屋の扉を開け、浴衣のまま薄暗い廊下へ出る。

 

(気味が悪いなぁ)

 

 明るい日中であればこの古さからも風情を感じられるが、今の時間帯ではホラーでしかない。あまりオカルトの類を信じる性格ではないものの、背中に薄ら寒いものを感じてしまう。

 建物を大方見回っても、なのはの姿は見つからなかった。しかしこれは想定内。

 俺は、魔法関係のことで緊急事態が発生して、その解決のために出て行った可能性が高いと見ている。黙って行ったのは、起こしてしまうのを申し訳なく思ったか、俺を危険に晒さないため。

 

 こうなることもあろうかと、部屋に備え付けられた懐中電灯を持ってきていた。その明かりを頼りに、旅館の入り口から外に出る。

 そして、駐車場の方向へ歩いていった時のことだった。強烈な桜色の光が目に入る。

 

「なのは!」

 

 かけがえのない存在。

 その姿を見て、やや心細かった気持ちが一気に晴れた。

 

「みーくん、来てくれたの!?」

 

 空からなのはが降りてくる。ものすごく嬉しそうな顔を見て、こっちも嬉しくなった。

 ……もしかしたら、俺はなのはがいないとダメな人間になってしまったのかもしれない。

 二つの身体が空中から落下してきたのは、そんなことを考えたのと同じタイミングだった。

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 地面に倒れている二人は、見覚えのある顔だった。

 なのはを襲撃した金髪の魔法使いと、その仲間。

 

「えーっと……」

「ちょっと待っててね」

 

 意識を失っている間に、なのはは拘束系の魔法を使い厳重に縛り付けていく。

 グルグルと桜色の鞭のような魔法が身体を覆う。まるでミノムシのようだ。

 

「何があった?」

「なんにもないけど、旅館の近くにいたから捕まえようと思ったの」

 

 あっけらかんとした態度で、なのはは状況を説明する。

 そういえば、以前「サーチャー」を飛ばしたとか言ってた気がする。

 今日はやられる前にやったということか。なかなか攻撃的なスタンスである。

 

「俺を置いて行ったのは?」

「あっ、ごめんね。わたしも本当は一緒がよかったんだけど、一人の方が見つかりにくいと思って。見つかる前に倒したかったから」

「なるほど。まぁ、眠い中よく頑張ってくれたよ」

「えへへ……」

 

 とりあえず褒めておく。ニコニコと笑いながら近づいてくる様子に庇護欲をそそられて、つい抱きしめてしまう。この子の方が圧倒的に強いというのに、不思議なものだ。

 ……まさか先制攻撃を受けるとは思っていなかっただろうし、少しばかり彼女たちを気の毒に思う気持ちもある。しかし、この二人には待ち伏せして攻撃してきたという前科がある。今の時間帯に旅館の近くにいたということ自体、何らかの意図を感じる。おそらく、こちらが何も手を出さなかったとしても戦闘は避けられなかっただろう。

 

「これ、どうする? みーくんのしたいようにするよ」

 

 俺の胸に抱かれたまま、なのはは問いかけてきた。

 仮になのはが動かなければ、危ない目に遭っていた可能性は大いにある。そう考えると危険な存在であることは間違いないが……

 

「うーん、難しい。何もせず解放したとして、また襲ってくるのも嫌だなあ」

「それなら、ここで殺せばいい?」

「さ、さすがにそれはダメだろ」

 

 恐ろしく残酷な選択肢を提示されて一瞬驚いた。確かに恒久的な解決策ではあるが、それはまずい。このあたりはまだ子供というか、俺が良いと言えば本当にやってしまいそうな危うさがある。

 これは、年端も行かぬ少女がその身に余る力を得てしまった弊害であるのかもしれない。

 だが、ダメだと言うからには代案を考える必要がある。俺たちに害をなす敵である以上、何もせず帰すのは憚られるものの、なるべく傷つけない方法を取りたい。

 何かいい手段は……一つ思いついた。

 

「そうだ。魔法を使えなくすることってできる?」

 

 結局のところ、なのはも含め彼女たちの力の根源は魔法である。魔法さえなければただの一般人にすぎないのだから、それをなんとかして封じ込めることができればいい。

 

「魔法を使えないようにする、かぁ」

 

 なのははうーんと唸りながら、首をかしげている。

 

「かわいい」

「も、もう! はずかしいよぉ」

 

 その仕草の可愛さに胸がきゅんとした。

 

 ん?

 捕まってる人が……魔法の縄から抜けかかっているような?

 

「なのは!」

 

 俺が叫んだ瞬間、魔法の弾が獣人?女性の頭を撃ち抜いた。

 多分これは「ディバインシューター」だな。だいぶ俺も魔法を判別できるようになってきた。

 

「……めんどくさい」

「何なんだよあんたは!」

 

 あ、しゃべった。

 

「うるさいなぁ、もう」

 

 話を中断させられたのが嫌だったのか、なのはの機嫌が急激に悪くなった。

 レイジングハートがもう一度拘束の魔法を発動し、彼女は再びミノムシ状態に戻る。

 

「せっかく起きたんだし、ちょっと話を聞こうか」

「むぅ、みーくんがそういうなら」

 

 ちょうどいい機会と思い、相手の考えを探ってみることにした。事情によっては分かり合えるかもしれないし、何か新しい発見がある可能性もある。

 なのはが手を下さずに済むのであれば、それに越したことはない。力でねじ伏せるのはあくまでも最終手段にすべきだと俺は考えている。

 

「……」

 

 女性はなのはの目を真っ直ぐ睨みつけている。

 さて、何を聞こうか。自分で提案しておいてなんだが、改めて考えると難しい。

 ……とりあえず、俺の推測が当たっているか確認してみよう。

 

「君たちは、ジュエルシードを集めているのか?」

「それをあんたに答える必要があるのかい?」

 

 すげない回答。ある程度予想していたとはいえ、顔が引き攣ってしまう。

 俺は九分九厘そうだろうと確信しているが、先方からすれば敵に答える義理なんてない。当然それはわかっているものの、しかし俺だって感情を持つ人間である。こちらが話し合おうとしているのに冷たく突っぱねられるのはなかなか気分が悪い。怒るほどではないけれど、顔に出てしまう程度には不愉快だった。

 とりあえず、彼女はもう少し自分の置かれた状況を考えたほうが……って。

 

「ねぇ。なんでみーくんが嫌な気持ちになるようなことをするの? どうしてかな?」

 

 なのはが怒っていた。小さな身体からとてつもない負のオーラを感じる。

 しくじった。これはよくないパターンだ。

 

「みーくんは優しいんだよ? あなたみたいなどうしようもない人にも手を差し伸べようとしてくれてるんだよ? なんでそんな態度を取れるの? ねぇどうして?」

 

 次々と責め立てるように言葉を並べる。その様子を見て、獣の女性はぎょっとした顔になる。

 なんだか辺りが桜色に光り始めてるような……

 

「待て待て待て、ちょっと!」

「あー、もういい。あなたたちは()()()なの。ここで消えて」

 

 俺の言葉にも全く聞く耳を持たず、レイジングハートに魔法が集束していく。

 とんでもない破壊力を持つものであることはすぐにわかった。

 

「なのは! 頼むから落ち着いてくれ!」

 

 話している間にもレイジングハートはどんどん力を蓄えている。

 やがて、大きな魔法陣がなのはの周囲に現れる。

 巨大な球体状に集められた魔力。向けられた相手の顔に恐怖の色が滲んでいる。

 ダメだ。それを撃ったら、本当に死んでしまう!

 

「……死んじゃえ」

 

<...Starlight Breaker>

「やめて!!!」

 

 レイジングハートがその力を振るう直前、少女の叫び声が聞こえた。

 なのはが声の主の方を向くと同時に、集中が切れたのか魔力が放散していく。

 

「何でも話すから、お願いだから……アルフを殺さないで」

 

 それは、捕まえたもう一人の魔法使い……以前戦った金髪の少女による言葉。あの日とは助ける側と助けられる側が逆だなあ、なんて呑気な感想が頭に浮かぶ。

 この二人の絆は相当強いものであるようだ。俺は心の中で賞賛した。

 

「……」

 

 レイジングハートの輝きが消え、スタンバイ状態へと戻る。なんとか冷静さを取り戻してくれた。この場にいる、なのは以外の全員が胸を撫で下ろした。

 

「なのは、そんなことをしたら旅館が壊れちゃうよ。そうなったら俺たちも無事では済まない」

「にゃ……」

 

 レイジングハートによれば、攻撃魔法というのは物理的・肉体的な破壊を伴うものとそうでないものがあるという。そして、それはデバイス……レイジングハートの「非殺傷」設定をいじることにより至って簡単に調整可能らしい。

 なのはが今撃とうとしていた魔法が前者であることは明らかだった。また、目の前の敵だけでなく周囲のもの全てを粉砕してしまう威力があることも。

 

「みーくん、ごめんなさい。あの人の態度が我慢できなくて」

「うん、嫌だったよね。けれども、全てを壊していい理由にはならない」

「ごめんね……許してほしいな」

 

 なのはは申し訳なさそうに目を伏せる。

 完全に暴走していた。溜め込んだストレスが爆発するとどうなるのか、嫌でも理解させられた。俺はなのはをああいう状態にさせないよう、もっともっと考えなければならない。

 今後、なのはのメンタルに負荷がかかるようなイベントは可能な限り阻止していく必要がある。

 さもなくば……死人が出るかもしれない。

 

(力を持たなければ、この子はずっと優しいままでいられたのかな)

 

 なのはが本当に優しい子であることを俺はよく知っている。その優しさを、真っ黒な闇で塗りつぶしてしまうようなことは起きてほしくない。

 筋違いとは理解しつつも、魔法の存在そのものが憎たらしく思えてきた。

 

「レイジングハート、俺はどうすればいい?」

 

 その力の主に問いかけたが、何も答えてはくれなかった。

 ……さて、ここからが肝心だ。もう一人の魔法使いは、何を語るのだろうか?

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