幼なじみは魔法使い   作:トラウトサーモン

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第三話

「じゃあ、ちょっと行ってくるよ」

「ありがと、気をつけてー」

 

 学校から帰った俺は、母に頼まれてお使いに出ることになった。買いに行くのはシュークリーム。母のお気に入りの店のものだ。

 

 しばらく自転車を漕いで、海鳴駅前商店街へ。

 夕方の商店街は人通りが多いため、自転車は引いて歩くことに。

 

 ……あった。『翠屋』だ。商店街にうまく溶け込んだ外装がおしゃれなこの喫茶店には、多くのファンがいる。店内はいつも通り賑やかで、次々と客が出入りしている。

 席に座らず名物のシュークリームをテイクアウトしていく客も多いが、俺はここの紅茶が好きだ。それを踏まえて多めにお金を貰っているし、店の中で少しゆっくりしていくことにした。

 ちなみに、俺はコーヒーを飲めない。あんなの苦いだけだろう。

 

「いらっしゃいませ、ご注文はどうしましょうか?」

 

 テーブル席に座ると、女性が注文を取りに来た。

 他の店員とは違うエプロンをつけているが、もしかしてこの人が店長だろうか。

 

「紅茶のホットと、シュークリーム一つ。お願いします」

「レモンはどうしますか?」

「あ、結構です」

「はーい、ありがとうございます」

 

 注文を取り終えた後、その女性は元気よくキッチンの方へ指示を飛ばす。

 しかし、どこかで見たような顔つきだ。あんな知り合いいたっけ?

 

 

 

 それから数分待った後、注文したものが届けられた。

 

「はい、シュークリームと紅茶です。ごゆっくりどうぞ~」

 

 湯気が立ちのぼる熱々の紅茶と、バニラのいい香りが漂うシュークリーム。最高の組み合わせに食欲を刺激され、俺のテンションが上がってくる。

 

「あむっ」

 

 シュークリームを一口齧ると、バターの風味が口に広がった。

 うん、やっぱり最高だ。シューの皮はサクッと焼き上げられていて香ばしく、クリームも甘すぎなくて美味しい。甘いもの好きな母の大好物なのも頷ける。

 

 あまりの美味さに、紅茶が冷める前に完食してしまった。

 ティーカップにゆっくり口をつけながら、外の風景を眺める。

 良いひとときだ。ずっとこんな時間が続けばいいが、そうもいかないのが辛い。

 

 客の流れが途切れた時、先ほどの女性が再びこちらに来た。

 

「その制服。聖祥小、だよね?」

「はい。そうですけど」

 

 いきなり話しかけられて、身構える。

 

「ごめん、驚かせちゃったね。うちの娘も通ってるから、つい気になって」

「そうなんですか?」

「うん。三年生なんだけど……」

「じゃあ同学年ですね。でも俺にはあまり友達がいないので、お互いを知らないかもしれません」

 

 あまり、ではなく全くだ。変な強がりが口をついてしまい、恥ずかしくなる。しかしわざわざ絡みに来たということは、何か他に聞きたいことでもあるのだろうか。俺は眉を顰める。

 ……というか、このお姉さんにそんな大きな子供がいることが意外すぎる。女性の年齢というのはわからないものだなあ、と思った。

 

「よかったら、名前を教えてくれないかしら?」

「はい、吉村嶺人っていいます。悪口の一つぐらい、言ってたりしませんでしたか?」

 

 俺の答えを聞いて、お姉さんは笑う。

 その見たことがある笑い方で、俺は彼女が何者であるか察した。

 

「そんなわけないよ。やっぱり、君が……」

「やっぱり?」

「ふふっ。私は、高町なのはの母の桃子といいます。嶺人くんは、いつもなのはと仲良くしてくれてるんだよね? ありがとう!」

 

 まさかここでその名を聞くとは思わなかったが、いろいろと納得した。

 それより今何て言った? 俺と高町が、仲良くしている?

 

 ……いや、そんなことはないだろう。俺は高町と友達らしいことを何一つしたことがないし、いつも仲良くしているなんて間柄ではない。他人ではない、程度の認識である。

 可能性として最初に浮かんだのは、高町が親に嘘をついているということ。でも、そうだとしてもなぜ嘘をつく必要があるのかわからない。

 もしかして、高町はいじめられていることを親にも悟られたくないのだろうか。だが友達ではない人間を友達だと言ったところで、どこかでボロが出る確率は非常に高い。

 そもそも自分に友達がいるように見せかけたいなら、もっと友達が多そうなやつか全くの他人を言っておけばいい。でっち上げる対象としても、顔見知りである上に良い噂がない俺は最悪だ。

 例えば、同じクラスにいる「テストが常に満点のお嬢様」あたりを挙げておけばいいのだ。あいつもどちらかというと一匹狼だから嘘がバレる確率は低いし、俺と違って変な噂や高町との絡みもない。

 俺が黙って考え込んでいると、高町母が次の言葉を発した。

 

「なのははさっき帰ってきたみたいだけど、どこかに行っちゃったかな? なのはったら、最近ここに来たがらないのよね~」

 

 それは理解できる。店の中なんかにいて、万が一いじめっ子組とでも鉢合わせたらどんな目に遭わされるかわからないからだ。このお母さんは、本当に何も知らないということか?

 ……客が増えて騒がしくなってきた。俺もいろいろ考えたいことがあるので帰ることにする。

 

「ごちそうさまでした、会計お願いします。あと、ケースにあるシュークリームを4つください」

「ありがと〜、一つおまけしておくね!」

「ありがとうございます」

「これからもなのはと仲良くしてあげてね? なのはは………」

 

 高町母は何か言おうとしたが、取りやめたようだ。

 俺は黙って店を後にする。

 

 

 

 店を出てから、俺は自転車を引きながら先ほどのことを考えていた。

 高町のついた嘘。その意味は何ぞや?

 

 ……いや、本当に嘘なのだろうか。

 一つの可能性に行き着く。

 これが真実だとすれば、俺は今まで相当酷いことをしていたことになる。

 自意識過剰であればいいのだが。

 

 そう。

 あいつが、俺のことを本当に友達だと思っていたとすれば?

 

 夕方五時を過ぎて、あたりは少し暗くなってきている。

 ふと、静かな公園に目が止まった。海鳴臨海公園とは比較にもならないような、いくつか遊具を置いただけの小さな公園である。住宅と住宅の隙間を埋めるように存在するその場所に、たった一人で悲しそうな顔をしてブランコに座る少女がいた。

 

「……」

 

 俺は一瞬迷ってから、声をかけることにした。

 

「よう、こんなところでどうしたんだ?」

 

 彼女は驚いた様子でこちらを見る。

 

「あっ……」

「ちょっと話したいことがあるんだけど、いい?」

 

 何かが変わるだろうか?

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