幼なじみは魔法使い   作:トラウトサーモン

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第四話

 すでに母には遅くなる旨をメールしてあるものの、一応うちの門限は午後七時ということになっている。俺は小学生だから当然だし、むしろ緩い方だろう。

 長話はできない。まずは率直に、俺の持つ疑問をぶつけることにする。

 

「高町ってさ、俺のことをどう思ってるの?」

「どう、って言われても……」

 

 突然切り出されて驚いたらしく、高町はおどおどしてしまった。

 以前にも思ったが、彼女は少し小動物みたいなところがある。

 

「さっき、シュークリームを買いに翠屋へ行った。そうしたらさ、高町のお母さんが俺に話しかけてきたんだ。まさかあそこの店主だとは思わなくて驚いたよ」

「そ、そっか。吉村くんが、翠屋に……」

 

 どうやら、少々嫌な気持ちにさせてしまったようだ。表情が曇っている。

 だが話の核心に到達していないため、俺は構わず話を続ける。

 

「高町のお母さんは、俺たちはいつも仲良くしていると言っていた。それで、俺たちはどういう関係なのか、高町から見て俺はどんな人間なのか知りたくなったんだ」

「……」

 

 普段と違って饒舌な俺が珍しいのか、黙ってこちらを見つめてくる。

 

「これは俺の考えなんだけどさ。人と人が心で分かり合う、なんて事はほとんどできないと思う。だから俺は言いたいことがあるなら言ってほしい。もっと高町と会話して、お互いを理解したい」

「……」

 

 これでもだんまりか。

 うーん……

 

「こうなったら単刀直入に聞くぞ。高町は、俺のこと嫌い?」

「ちがう! きらいなわけ、ないでしょ……」

 

 そう言って、泣き出してしまった。

 さすがに予想外の反応だったので焦る。何か地雷に触れるようなことでも言っただろうか?

 

「あー落ち着け落ち着け。俺も、高町のことは全然嫌いじゃない。いじめたりとか、高町が嫌がるようなことは絶対しない。むしろ、これから仲良くなれたらいいと思って話しかけたんだ」

「……ぐすっ、うわああああん!」

 

 フォローしたつもりだったが、泣き止む様子はない。

 抱きつかれた俺の制服が涙で濡れていく。明日も学校あるのに……

 どうすれば泣き止んでくれるかわからないので、とりあえず頭を撫でてみることにした。

 

「うぅ……」

 

 少し落ち着いたようだ。

 

 

 

 気を取り直して、今度は高町の話を聞くことにした。

 

「わたしは、ずっと昔から一人だったの。お母さんたちはみんな忙しそうにしてて、誰もわたしのことなんて見てないし、いやなことがあっても気づいてくれない。みんなに酷いことされるようになる前からも、友達なんていなかったよ」

 

 それで、誰にも助けを求めないようになったのか。

 高町の独白は続く。

 

「家にいるとわたしが邪魔者のような気がしてくるから、学校から帰った後は公園でこうやって一人でいるようにしたの。でも、みーくん……あっ。吉村くんは、そんなわたしにも普通にお話ししてくれるよね」

 

 ん?

 母さんしか知らないあだ名で俺を呼んだ気がしたが、気のせいだろうか。

 誰かに教えたことなど、一度もないはずだが。

 

「今日の体育のときに、やっぱりわたしを見てくれてるって思って、とってもうれしかった。そういう気持ちにさせてくれるから、仲良くしたいって思ってたけど……わたしといたら吉村くんまでいじめられちゃうよ。だから……」

 

 そこで高町は言葉を止めた。

 可愛らしい顔は、涙でびしょびしょになっている。

 

 高町はずっと、俺と仲良くしたいと思っていたようだ。素直に嬉しい。

 そうか、俺の立場を考えてくれていたのか……

 これほどに優しい少女を追い詰めたクラスの連中のことが、急に憎くなってきた。

 

「それなら、俺たちは今までよりもっと仲良くしていこうじゃないか。言っておくが、俺はいじめなんか全然怖くないぞ?」

「いいの? わたしといても、きっと楽しくないよ……」

「それは高町が決めることじゃない。俺も友達なんていたことがないから、友達という存在がどんなものかよくわかっていない。けれど、俺は高町と友達になりたいと思った。それで十分だろう」

 

 自分で言うのもなんだが、俺は変なやつだ。ガキのくせして無駄に理屈っぽいし、とてもじゃないけど良い性格をしてるとは思えない。でも、目の前にいる少女はそんな変なやつと仲良くしたいと言ってくれている。ありがたいことじゃないか?

 そもそも、俺は今まで友達が「いなかった」だけで「いらない」と思ったことはない。図書館に籠ったりゲームをするだけの休日は寂しいし、学校のやつらがどこで遊ぶだとか旅行に行くだとかの話をしていると胸が痛くなる。

 高町が友達になってくれるなら、俺は嬉しい。これは嘘偽りのない正直な気持ちだ。

 

「休みの日は、連絡さえしてくれれば俺の家に遊びに来てもいい。逆にこっちから高町の家に行くこともあるかもしれない。お互いの親に許可をもらって、どこか一緒に遊びに行くなんてのもいいと思う。どうだ、仲良くしてくれないか?」

「あ、ありがとう! ほんとにうれしい……これからは、もっと一緒にいようね!」

 

 満面の笑み。

 これを見ることができただけでも、一肌脱いだ甲斐があるというもの。

 

「でも、わたしの家はちょっと……なの」

「あぁそっか。家族と、気まずい感じになるかもしれないな」 

「ごめんなさい。その代わり、みーくんの家に遊びに行くね!」

「わかったわかった、いつでもいいよ……って、みーくん?」

 

 やっぱりさっきのは聞き間違いじゃなかったらしい。

 どこで知ったのかさっぱりわからないが、まあいいだろう。些細な問題だ。

 

「あっ、ごめんね。この呼び方はいや、かな?」

「ううん、別に嫌とかじゃない。ただ母さんと同じ呼び方で驚いただけだよ、『なのは』」

 

 意趣返しというわけではないが、名前で呼んでみることにした。

 

「……みーくんが名前で呼んでくれた」

「ダメか?」

「そんなことない! 今日は、生まれてから今までで一番良い日なの!」

「おいおい、それはさすがに大げさだろ」

「こんなに良いことが重なる日なんて、なかったもん……」

 

 遠くを見つめながら、彼女は感慨深げにつぶやく。

 こんな顔をする小学生なんて見たことがない。これまで経験してきた辛いことを少しでも、楽しい思い出で上書きできればいいと思う。それぐらい、俺はなのはのことを気に入っていた。 

 

 そのとき、いきなり俺の携帯が鳴った。

 画面を開くと、『ちょっとどこに行ってるのよ~』という母からのメールが届いている。

 時刻はとっくに七時を過ぎており、周囲は真っ暗だ。

 

「おっと、もう帰らなきゃいけない。なのは、また明日学校で。バイバイ!」

「うん、また明日!」

 

 そうして、俺は公園を後にした。

 門限を破ってこれから怒られるというのに、とても気分が良かった。これほどすがすがしい気持ちになれるのなら、黙ってないでもっと早く行動しておけばよかったと思う。

 

「ずっと一緒だよ……」

 

 なのはの最後の言葉は、よく聞き取れなかった。

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