幼なじみは魔法使い   作:トラウトサーモン

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第六話

 その後は特に何かあるわけでもなく、放課後となった。

 強いて言うなら、午後の授業中になのはが寝ていたことぐらい。真面目ななのはにしては珍しいと思ったものの、特に気に留めることはなかった。 

 

 帰る直前、なのはに声をかけてみた。

 

「そういえば、昼休みはどこへ行ってたんだ?」

「ちょっと外に出たくなって……」

 

 どうも歯切れが悪い。何かを隠そうとしているような雰囲気を感じるので、どんどん心配になってくる。本当に大丈夫だろうか?

 

「誰かに脅された、とかじゃないだろうな?」

「ううん、違うよ」

 

 自分の弱みを見せたがらない性格だということを、俺はもう知っている。だからこそ、気が気でないのだが……いや、無理に聞き出そうとするのも良くない。それがストレスになる可能性もある。

 

 いいことを思いついた。携帯の電話番号を教えておこう。

 人の目のある場所では話しづらいことも多いだろう。だが電話であれば、場所さえ選べば内密に話すことができる。二人だけのコミュニケーションを取るには最適だ。俺は早速ボールペンを筆箱から取り出し、ノートの切れ端に番号を書き込みなのはへ渡した。

 

「ほ、ほんとにいいの?」

 

 それを受け取った後、なのはは大事そうにカバンのポケットへしまった。

 

「もちろん。さすがに夜中は出られないと思うけど、基本的にはいつ掛けてもらって大丈夫」

「うん! いっぱい電話しちゃうかも……」

「携帯で掛けるときは、通話代に気をつけろよ? 俺らが金払ってるわけじゃないからな」

「はーい」

 

 ニコニコしながら手を挙げている。かわいい。

 そうしているうちバスの発車時間が来てしまったため、急いで玄関へと向かう。なのはともっと話していたい気持ちもあるが、一緒のバスではないのが残念でならない。

 ……どちらかといえば、電話したいのは俺の方かもしれない。

 靴を外履きに履き替えたとき、なのはが再びこちらへ寄ってきた。

 

「どうした?」

「あのね……明日、お家に遊びに行ってもいいかな?」

「俺の家に? いいけど、あんまり面白いものはないかもよ?」

「いいの! みーくんと二人でいられれば……」

 

 明日は土曜日、休日だ。なのはは俺と一緒に遊びたいらしい。

 しかし、なのはの方から誘ってくるとは思わなかった。積極的になってくれて嬉しい。

 

「わかった。じゃあ明日は家にいるから、いつでも来てくれ」

「ありがとう! すっごく楽しみ!」

 

 わくわくする気持ちを抑えきれない様子。かくいう俺も、友達を家に招くなんて初めてのことだから楽しみだ。自分の部屋に入れることも考えて、帰ったら片付けておかないといけないな。

 この少女によって、俺のつまらなかった日常がどんどん明るく彩られていく。仲良くなって、一歩踏み出してよかったと思う。

 

「じゃあ、また明日」

「また明日、なの」

 

 そう言って、俺はスクールバスに乗り込んだ。 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 誰もいない、静かな家に着いた。いわゆる鍵っ子というやつだ。 

 カバンを置くなり、俺は手洗いうがいをして冷蔵庫のジュースを飲む。

 

「ただいま~」

 

 その時、母がちょうど仕事から帰ってきた。

 

「おかえり。俺も今帰ったところだよ」

「そっか。今日は早く上がれたから、そのままスーパーで買い物してきたんだ」

「わかった。冷蔵庫に入れておくから、母さんはゆっくりしてくれ」

「ありがとう……ごはん、買ってきたものでもいいかな?」

「全然構わないよ、お疲れさま」

 

 普通の親子の会話だが、大事なコミュニケーションである。仕事が忙しい母とは、特に平日はゆっくり話せる機会が少ないのだ。

 

「ごめんね。そういえばニュース見た?」

「何の?」

「昨日の夜、商店街の方の木が何本か折れてたりして、その片付けが大変だったんだって。竜巻とか、突発的な自然現象じゃないかって言われてる。明日どこかに行くなら、気をつけてね?」

 

 そんなことがあったのか。ニュースをチェックする習慣がないので、全く知らなかった。

 

「でも、竜巻に気をつけるほど難しいことはないよなぁ」

「ふふっ。言われてみればそうかも」

 

 気をつけたところで、目の前に竜巻が来たらどうしようもない。だから災害は理不尽なのだ。

 人間は自然には勝てない。魔法でも使わない限り、その理が崩れることはないだろう。

 

「はい、アイスとかは冷凍庫に入れといたよ」

「ありがとう。母さんはちょっとだけ、寝る……」

「わかった。俺は弁当をチンして、食べておけばいい?」

「いつもごめん……みーくんも疲れてるのに、ダメなお母さんだね」

「気にしないで」

 

 何度も謝られると、こちらが申し訳なくなってくる。

 家庭を支えるために頑張ってくれているのはよく理解しているから、自分を責めないでほしい。ずっと俺はそう思っているのだが、本人は親としての責任を果たせていないと感じているようだ。

 ……こういう場合、俺が変に気を遣うとそれ自体が精神的な負担になりかねない。

 なかなか難しい問題である。

 

 スーパーの安い弁当を、レンジで温めてから食べる。

 うーん、可もなく不可もない味。こういう弁当って、メインではない食べ物の味が微妙なことが多いと思う。申し訳程度に添えられたポテトサラダとか、ひじきとか、漬け物とか。

 自分で料理を作るのも考えた方がいいかなあ、と思いつつ完食した。

 

 弁当を食べ終えた後、風呂を掃除した。

 給湯器のボタンを押して、テレビを見ながらお湯が入るのを待つ。

 

 つまらない。あまりにもつまらない。

 スポーツ実況やお笑い番組、何を見ても微妙なものばかり。

 昨日のドラマとかで盛り上がれる感性が、俺には備わっていないらしい。まあ、こんな性格だから友達ができないんだろうけど。

 

 十分ぐらい待っていると、風呂が沸いた。

 服を脱いで洗濯機に突っ込む。まるで一人暮らしのようだが、慣れたものだ。

 

「はぁ~」

 

 浴槽で足を動かして、水しぶきを上げてみる。

 ようやく訪れた至福のひととき。ゆっくりと身体を伸ばし、お湯の温かさを堪能した。

 

 

 

 風呂から上がって、身体と頭を拭く。

 ジャージを着てから自分の部屋でゆっくりしていると、なのはから電話がかかってきた。

 

『もしもし、みーくん? なのはだよ!』

 

 こうして電話越しに話すのは新鮮だ。

 元気な声を聞いて、なんだか俺も元気になったような気がする。

 

「おう、早速だな。どうした?」

『特に用事はないんだけど……みーくんの声が聞きたいなって思って』

 

 その理由を聞いて、つい笑みがこぼれてしまう。

 なかなか可愛いことを言ってくれる。

 

「俺もなのはの声が聞けて嬉しいよ。でも、あんまり夜ふかしするのはダメだぞ?」

『もう。今日のみーくんはわたしを子供扱いするの』

「だって子供だし」

『いざってときは、わたしもすごいんだよ!』

 

 ふざけたやり取りが心地よい。

 今までずっと、何もせずただ寝るだけの夜だった。それが電話一本でこんなにも楽しくなるなんて、やっぱり友達という存在は偉大だ。

 

「はいはい、なのははすごい子だよ」

『うう、信じてくれない。でも、本当に危ないときはわたしがみーくんを守るから。絶対に』

「俺がそんな状況に陥ることなんて、ある?」

『……もしかしたら、あるかもしれない』

 

 んん? なのはの口調が変わった。

 ずっと冗談感覚で話していたはずが、急に真剣なトーンに変わったような気がする。

 何か心当たりがあるのか?

 

「まあ、そういうことがあったらよろしく頼む。それに、今はなのはの方がひどい目にあってるじゃないか。困ったら俺に言ってくれれば……どうにかするよ。なんたって、友達だからな」

『うん、うん……ありがとう』

 

 軽い違和感を覚えつつも、俺は話を流した。

 時計を見ると、夜九時になったところであった。

 あちらの親御さんに怒られるのも困るし、今日はもうお開きにしよう。

 

「じゃあ時間も遅くなってきたし、また明日。おやすみ」

『おやすみなさい、なの』

 

 俺は電話を切って、寝る準備をする。

 最後話した内容が少し気になったものの、また改めて聞けばいいと思い直す。

 

 ……あっ。

 俺の家の住所を伝えるのを忘れていた。

 

 まあ、明日の朝に電話で連絡すればいいか……

 そう考えているうちに、睡魔に襲われた。




 なのはという作品は、私がオタク界隈に入り込むことになった原点です。
 そういう思い入れがあるからか、書いていてとても楽しいです。
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