次の日も、なのはと遊ぶことになった。
特に約束をしたわけではなかったが、昨日と同様に朝一番からうちに来たので、自然とそういう流れになった。どんどん一緒の時間が増えてきて、嬉しく思う。
なんと、今日はなのはが練習がてら魔法を見せてくれるらしい。
リアルな異能を目にできる機会が訪れて、俺の心は沸き上がっている。
「ここなら……あんまり人は来ないと思う」
俺たちがやってきたのは、「国守山」という海鳴市内の山である。特に公園などが整備されているわけでもなく、登山客もさほど多くはないため、人目につかないという意味では最適な場所だ。
家から歩くこと一時間。結構な遠出であるが、気持ちが高揚しているため気にならない。
目的地までの間、なのはを通じてレイジングハートの知っている情報を教えてもらった。
何でも、この世界のどこかに「ジュエルシード」という物体が散らばっているという。先日なのはが出くわした怪物は、そのジュエルシードのうちの一個体が暴走したものらしい。
レイジングハートにはそれを封印する機能……「シーリングモード」が備わっており、魔法による攻撃などで暴走を鎮めさえすれば、内部に格納することができる。なんとも現実離れした話だ。
「今後、なのはがジュエルシードを回収するつもりはある?」
「うーん。前みたいな怪物が襲ってくるようなことがあれば、戦わなくちゃならないけど……わたしに関係ないのなら、頑張りたいとは思えないかも。みーくんと一緒の時間を減らしたくない」
安心した。全部封印しに行くとか言い出したら、どうしようかと思った。
ジュエルシードが野放しになっている限りは、暴走体が現れる可能性をなくすことはできないだろう。しかし、どこの誰かも知らない人のためになのはの大切な命を懸けてほしくはない。
仮にこの世界を揺るがすような事態が起きたとしても、それをどうにかするのは大人の役目だと思う。間違っても、小学生の女の子が背負うようなことではない。
登山道を少し登ったところで、なのはがレイジングハートを起動した。
<Set up.>
昨日見たのと同じ、白い服を纏っていく。
美しく強い、なのは専用の装備だ。
「かっこいい」
「えへへ、ありがとう。じゃあさっそく……『ミラージュハイド』」
その瞬間、なのはの姿が消えた。
俺は驚いて周囲を見回すが、誰もいない。ただ木々が立ち並んでいるだけの風景。
誰かがすぐ近くにいる気がするけど、場所を特定することができない。
気配だけが存在し、実体がなくなったような……「いる」のに「いない」感覚が不気味だ。
「……どこにいるのか、全然わからない。出てきてくれ」
「みーくんっ!」
探すのをギブアップしたところで、背中側から姿を現した。
ずっと俺の後ろに立っていたようだ。
「びっくりしたよ。こんなことができるなんて」
なのはのほっぺたをむにむにしながら考える。
本当にすごい。透明人間なんてマンガやアニメの世界でしか存在しないと思っていたが、こうも簡単に実現してしまうとは……魔法の力の凄まじさを感じる。
「自分の存在を消して、やり過ごす……わたしの得意技だもん」
しかし、なのはの表情は浮かない。
あまり好きな魔法ではないのだろうか?
「その『ミラージュハイド』ってのは、レイジングハートに?」
「うん。誰からもわたしが見えなくなるイメージをしたら、レイジングハートが反応したの。そのとき、急にこの魔法の名前が思い浮かんで……あとは力を込めるだけで使えるようになった」
「なるほど。勝手に処理してくれるわけか」
なんというか、パソコンみたいだと思った。プログラムを書き込めば、何度でも再現可能になるイメージ。レイジングハートとは、魔法使いの記憶装置のようなものなのかもしれない。
AIのような会話能力といい、魔法って意外と科学的?
「この魔法はとっても高度なものだって、レイジングハートが褒めてくれたんだ。にゃはは、おかしいよね。いつもやってることなのに……ひゃっ! みーくん?」
言い終わるのを待たず、なのはを抱きしめた。
「……辛かったんだな。ごめん、もっと早い段階で声をかけるべきだった」
おそらく、学校での自分をイメージしたのだろう。
クラスのやつらから嫌がらせを受けているときも、なのはは反応しなかった。無感情な顔で、ただ時間が経過するのを待っていた。自分の意思を無にして、耐え忍んでいた。
その感覚をレイジングハートが読み取った結果が、あの魔法なのだ。いじめという行為から精神的に逃避する習慣が、魔法を習得する礎となった。全く嬉しくないだろうと思う。
「みーくんは悪くないよ。確かに辛かったし、悲しかったけど……今こうやって、一緒になれたから。わたしはそれだけで十分なの」
ずっと傍観していた自分を悔やむ。
現実逃避しなければ耐えられないほど、追い込まれていたというのに……
なのはに申し訳なくて、俺はしばらく目を伏せていた。
少し休憩してから、次の魔法を見せてもらえることになった。
魔法は無限に発動できるものではなく、連発すると結構疲れるらしい。
「じゃあ、次は……」
そう言って、なのはは「溜め」に入った。
桜色の光がレイジングハートの先端に集束していく。
これはもしかして、攻撃魔法?
「……ディバインバスター」
力を溜め終わると、レイジングハートから桜色のビームが放たれた。
それは直線的に放出されて、その延長線上にある樹木へと向かっていく。
ドカーンと大きな音。おっかない。
「すごい! それがあれば、怪物でもなんでも倒せそうだ」
「そうかな?」
ヒットした部分に大きな穴があいている。
なのはがディバインバスターと呼んだその魔法は、驚くほど高威力のものであった。
他の魔法を知らないので比較はできないが、直撃すればまず無事では済まないだろう。
「……さっきの消える魔法を使っている状態で、見えないところからあれを撃てば、無傷で勝てるんじゃない?」
「うーん、わたしもそうしたいなって思ったんだけど……試してみたら、ディバインバスターが出せなかった。隠れている時に撃つイメージができなくて」
俺が聞くまでもなく実験済みだったようだ。必勝パターンだと思ったんだけど……
「魔法って、同時発動できない制約とかあるのかな?」
<No>
俺の疑問は、レイジングハートによって否定された。
<Divine Shooter>
そのまま続けて言葉を発した。
直後、なのはの周囲に五つほどの光の玉が現れる。
<Master, please call me “Shoot.”>
「あ、じゃあ……あの木に『シュート』」
なのはが命じると、光弾がそれぞれ別の軌道を描いて飛んでいく。
……そういうことか。俺はレイジングハートの言いたいことを理解した。
あのような簡単な魔法なら、今の段階でも複数同時使用できる。しかし難しい魔法……ミラージュハイドを並行で発動するには、まだ魔法使いとしての経験値が足りない。
慣れていくうちに、ゆくゆくはマルチタスクな動きが可能になっていくのだろう。
何事も経験が大事なんだなあ、と思った。
「あれ?」
急になのはがふらついて、俺の身体に向かって倒れこんできた。
「よしよし、よく頑張った。見せてくれてありがとう」
魔法の負荷によって、身体が悲鳴を上げているのかもしれない。
無理する意味もないので、今日はここで終わりだ。
「みーくんは楽しかった?」
「もちろん。最高に面白かったぞ」
「よかったぁ。今日のことは、二人だけの秘密だよ?」
共通の秘密ができたことが嬉しいのか、ニコニコと笑っている。
なのはは座ったまま俺の手を取り、指を絡めて握ってきた。
身体が触れ合う。心臓の鼓動が早くなる。
俺が立ち上がれずにいると、何やら頬に温かい感触。
「……えっ」
顔を真っ赤にするなのは。それを見て、俺は彼女が何をしたのか察した。
お互いに照れてしまい、帰るまで顔を直視することができなかった。
フェレットもそのうち出ます。