華の都「ベレス」。
この都市は、その全てが緻密なまでの都市計画によって形作られ、都市の至るところに美の巨匠たちの造形物が散りばめられている。
全ての道が、皇帝の戦勝を称揚する凱旋門に通ずるように敷設され、都市を彩る全ての建造物が、厳格に定められた規格に則って形作られている。
この都市を収めた代々の市長が、一つの都市計画を連綿と引き継ぎ、都市の開発を進めていった結果、都市それ自体が一つの芸術作品として完成したのであった。
この世のどこに、このような都市があろう。
一個師団の軍隊が十分な余裕を持って行軍できるほどに広大なベレスの道路には、正方形に切り出した鼠色の石灰岩が敷き詰められており、かつては砥石で磨かれたように艶やかな表面が、太陽の光を反射し燦燦と輝いていた。
道行く人々を見下ろす幾万の建造物たちは、白い大理石でのみ形作られることを許されており、定規で図ったかのように画一的なそれらは、当代最高の彫刻家たちの手で彫られた見事な彫像で彩られていた。
一定の間隔を置いて建てられた街灯は、夜の街を幾度もオレンジに染めあげ、シャンデリアのような意匠を掘られたそれらは見えいるだけで芸術への造詣が深まっていくようであった。
道なりに植えられたプラタナスの街路樹たちは、近衛兵のように毅然とした面持ちで直立し、言葉少なにこの街の計画の護持に努めていた様は、今後忘れることは決してないだろう。
戦勝パレードの最中、栄光の帝国軍一兵士として、戦友たちと共に凱旋門を潜ったあの時の思い出は、私がこの世にある限り、決して忘れることのない情景だ。
そんな「ベレス」は、死に顔すらも美しかったようだ。
愛車を連れて、この都市への再入場を果たした私は、この事実に気づかされた。
鉄の狂風を受けて尚、この都市の美しさは色褪せることはなかったのである。
帝国と連合軍が、血を血で洗う市街戦を演じたこの都市は、勿論見るも無残に破壊されている。
幾十万の砲弾が飛び交い、幾千トンの爆弾が投下される中で、ベレスの道路には至るところで大穴が開き、大理石の建造物は外枠だけを残してガラガラと崩れ去ってしまっていた。
曇り一つなかったはずの窓ガラスは、今や一つも無事な物がなく、かつては街の至るところに掲げられていた帝国の国章は、煤け、破けた無惨の姿となって沈黙を保っている。
大小無数の激戦が繰り広げられたベレスの道路では両軍の戦車の残骸が至る所で放置され、自動車に至っては燃え切って骨組みだけになった物が落ち葉のように散乱している。
建材が織り成す瓦礫の山は、ベレスのあらゆる道路の横に積み上げられ、基部を破壊された野砲、対戦車砲の残骸も横たわっている。あの広大だった道路は、今、FT-17軽戦車がようやく通れる道幅しかない。
数か月に及ぶ激闘の中で発生した大火災は、今なおベレスを燃やし続けており、都市の外壁はすべからく煤で汚れ、空では灰が雪のように舞っている。私の愛車が石畳の道路を震わせるたびに、道路に沈み込んでいた埃がブワッと巻き上がり、ただでさえ悪い視界をいよいよ宿曜がない物へと変えていく。
空を舞い降りる灰。吹き上がる埃。そして、今なお都市に沈殿する毒ガス。
帝国の可憐にして鮮烈な防衛戦を前にしびれを切らした連合軍が散布した黄色いそれは、黄砂のように都市を覆いつくし、人々の命を情け容赦なく奪い去っていった。今もなお、この憎たらしいガスは人の生命活動にとどめを刺すべく、悠々と漂っている。
パチパチと音を立てて炎が瞬く中で、パキパキと音を立てて廃材が燃えていく。
炎が生み出す上昇気流が、帝国の国章をバタバタとはためかせ、熱に炙られた空気は視界をユラユラと歪ませる。
両軍が繰り出した戦車の残骸は、炎に炙られ真っ赤に錆び付き、ガラスのように割れた装甲は、子供のおもちゃ箱のようにグチャグチャな中身を外にさらけ出している。長大にして重厚な彼我の戦車砲は、今は力なく地面へと垂れ下がり、車体の周りでは戦車の履帯が割れたタイルのように散乱しているのだった。