終末世界の写真録   作:西東 吾妻

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第三話:崩壊都市ベレスでの一葉②

 死んだベレスからは、生活音は勿論聞こえない。

 

 百万都市は荒涼とした空の下で寂れ、風化し、土に還る日を待つばかりである。

 

 沈黙。静寂。

 

 かつてはあったはずの人の営みは、その片鱗すらも感じられない。

 

 凱旋門通りに軒を連ねる優美なカフェ群。紳士淑女の憩いの場としてベレスを彩り続けたそれらは、がらんどうになった骨組みばかりの外装を恥ずかしげもなく晒している。

 

 炎に炙られ、灰と煤だらけの店内は、略奪にあった後のように荒れ放題で、匠の意匠が凝らされたテーブルはひっくり返され、表面は無数の弾痕、亀裂で彩られている。

 

 店内の椅子はことごとく脚をもがれ、針のような木片を床にちりばめており、天井の壁紙はビリビリに引き裂かれ、ダランと床へ向かって垂れ下がっている。

 

 店内には金色の空薬莢が足の踏み場も無いほどに散らばり、積み上げられた土嚢と機関銃は、自分を使ってくれるものはいないのかと言いたげに鎮座していた。

 

 かつてはベレスで生きる人々の足となった路面電車たち。赤錆と裂傷で汚れた車体が動くことは二度と無い。車体側面に嵌め込まれたガラスは肉食獣の歯のように鋭利な割れ目を露わにし、戦車に轢かれ、砲弾に貫かれた車体はくの字型にひしゃげている。

 

 ベレスの空を幾何学的に彩った架線に電気が流れることはありえない。彼等は戦火の中で裁断され、力無く地面へと垂れ下がっているからだ。

 

 大通りの真ん中で屹立する大将軍の銅像は、その厳粛とした立ち居姿に激戦による荒廃が加わり、怪物と相対しているかのような不気味な空気を醸し出している。幾多の銃火が彼を支える台座の淵を削り、無秩序にばら撒かれた弾丸は将軍の顔に痣のような弾痕を刻んでいる。

 

 かつてはその知略と勇気でもって、大陸を所狭しと暴れ回った天下の大将軍は、荒廃した祖国、華のベレスの残骸を悲しげな眼差しで見下ろすことしかできないのであった。

 

 あぁ、死体。死体。死体。

 

 どこまでも続く死体の山。

 

 肉挽き機の中に放り込まれた彼等は、10mgの鉛玉の嵐に晒され、人間としての尊厳を根こそぎ奪われた姿のまま、野晒しにされている。

 

 眠っているかのような面持ちで沈黙する者。

 

 生への渇望、死への恐怖に汚れた顔のまま、床へと倒れ伏す者。

 

 壁紙を血で彩り、壁に背中を預けたまま事切れた者。

 

 全てに対して諦め、濁った眼差しで灰色の街を見上げる者。

 

 四肢を道路にぶち撒け、驚嘆の面持ちのまま体内時計を止められた者。

 

 炎の中で、最愛の人との最期を過ごした者。

 

 死後に救いを求めた者。

 

 兵士達は死んでなお銃を手放すことはなく、陣地の影に身を横たえている。突撃の合図を死後も待ち続ける彼の戦争は、永遠に終わることが無い。

 

 市民達は死んでなお暴力の坩堝と化したベレスの中で怯え、逃げようとしている。運命に翻弄された彼等に安住の地は無い。

 

ベレスでの泥沼の市街戦は、勝者が決まらないまま、人類最期の瞬間まで続いたのだった。

 

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