愛しきベレスの死に顔を写す最初の一葉を何にするか、もう決めている。
ブオナパルテ大凱旋門。大国フランクの武勇の象徴たる戦勝記念碑であり、戦地に骸を埋めた全ての無名戦士を祀る墳墓たるこの門をフィルムに納めることは、神から賜りし崇高な使命に合致する。
ベレスの街に足を踏み入れてはや数時間。FT-17軽戦車「クローバー」号が、発動機を力強く歯車を回し、ガタガタと地面を走る無限軌道の上で、巨大な前輪をゴウンゴウンと回していく。
十八の小転輪が、砲火で荒れ果てた舗装道路を踏みならし、起伏ある道のりを危なげなく進んでいくなかで、己の使命を果たす最初の目的地へとついに辿り着いた。
殆ど十年ぶりにこの目に納めた大凱旋門は、傷付き、消耗しつつも、芸術的で不気味な程の威厳を、今もなお世に見せつけていた。
全高百メートル、幅七十メートルに及ぶこの大凱旋門は、古今のフランクの戦神を大理石製のアーチに彫り込み、過去に幾多の戦争を重ねる中で敵国から分捕った戦利品をこれ見よがしに飾り立てた、フランク戦勝の記念碑としてベレスの地に屹立していた。
しかし、そんなフランクの戦勝記念碑は、いつの間にか我が帝国の戦勝記念碑に成り代わり、そしてベレス攻防戦における最大の激戦地となったのだ。
FT-17軽戦車の発動機を止めた私は、前扉、前覆いを開け、写真機を片手に持ち、短機関銃を肩にかけて、いてもたってもいられずに、半身を外へ乗り出した。
伝聞で聞いた通り、いいや、それ以上に鮮烈な光景だった。
政治的にも、戦略的にも、ベレスにおける最重要拠点である大凱旋門は、我が帝国の手で難攻不落の要塞へと作り替えられていた。連合軍とは異なり、慢性的な資材不足、兵器不足に悩まされていたはずの帝国は、ここにあらん限りの資材を注ぎ込んでいたことが、見て取れる。
そして、ベレス最大の要塞と化した大凱旋門を占領するために、連合軍もまた戦慄させられる物量を注ぎ込んでいたことも。
大凱旋門から放射状に延びる十五の道路網の付け根には、城壁の如く積み上げられた土嚢、かつての鹿砦のように設置された鉄条網、そしてダメ押しと言わんばかりの鉄製障害物「ライノのハリネズミ」が配置されていた。
口径90ミリの大型対戦車砲は、全ての道路網に備え付けられ、道路網を伝い雲霞の如く進軍してくる連合軍の戦車に向けてその砲口を向けている。大凱旋門の周囲を囲む石造りのビルディングの窓には、電動糸鋸のような射撃音を発する重機関銃が過剰なまでに備え付けられ、濃密な十字砲火網を構築している。
榴弾砲、迫撃砲、歩兵砲に機関砲。帝国がその版図を広げていく中で鹵獲した外国製の砲の姿も確認できる。帝国の砲兵装の見本市だと言わんばかりに大凱旋門の周囲に配置され、それらは道路というには余りにも広い十五の道路へと照準を合わせていた。
凱旋門を取り囲む防御陣地は更に、幾種の戦車に装甲車、装甲兵員輸送車といった装甲車両によって、補強されている。特に道路の真ん中を占有する「ケーニヒスアドラー」重戦車……口径100ミリの主砲は連合軍のあらゆる戦車の装甲を打ち抜き、厚さ250ミリの装甲は連合軍のあらゆる砲撃を弾き返す……最強の鉾と最強の盾を両手に持った無敵の騎士といえる超重戦車の存在感は格別だ。
だが、何よりも目立つのは、大凱旋門の上に配置された四基の重対空砲。この要塞が持つ最も大きな砲であり、この要塞の守りの要とも言える巨砲だ。口径150ミリを誇る連装砲は、重爆撃機を一撃で屠るべく天を仰ぎ見て、サイのように鋭利で長大な角を今も空へと突き立てていた。
我が帝国が用意できた至高の要塞。それは人類が滅びる最期の時まで連合軍の手に堕ちることはなかった。
しかし、連合軍は何が何でもこの凱旋門の下をくぐるつもりだったようだ。大凱旋門の周囲に刻まれた痕跡が、それを明瞭に物語っていた。