天に昇るような、恍惚とした高揚感が、背骨を伝って全身の隅々にまで巡っていった。
千切れんばかりに張り詰めていた緊張の糸が緩む気分は素晴らしい。心地よい疲労感が血流に乗って、脱力した肉体へと染み込んでいくこの時間が、なるべく長く続いて欲しいと強く願う。
大通りを伝って、大凱旋門へと流れ込む風がとても心地よい。うっすらと汗が染み込む軍服が、風と一緒に体の熱を奪う現状は、仕事終わりにあおるビールのように爽快だった。
群青の空の下で、夏風と談笑を交わす小麦畑を駆け抜けた幼少の記憶が、爽快感の中で呼び覚まされていく。両手を広げ、目を瞑り、口から喉を伝って肺へと広がる空気の味に酩酊したい……そんな欲求が、私の理性を強く揺さぶるのである。
北風がはらむ冷気を前に、体を一度ブルリと震わせて、私は大きく息を吸い込んだ。風船のように肺を膨らませ、ずっしりとした空気の重さを胸に感じたタイミングで私は目を閉じ、ほんの短い間、瞑想する。
息を止めた数秒間。飲み込んだ酸素が血液へと溶け込み、身体がポカポカと温まってくる。肺を通り、瑞々しい赤に染まった血液が、頭のてっぺんから足先までまわる長い旅路へと出た時、私は口から息を吐き出した。
人影は無く、埃混じりの空気ばかりが行き交う大凱旋門前の広場では、私の呼吸音は心なしか大きく感じられる。耳を震わす私の息吹が、たまらなく心地よい。
私は生きているんだという自覚が、今更ながら芽生えてくる。成し遂げた、上手くいったという充実感が、より強固な物となっていく。
瞼をゆっくりと開けたのは、私がこの長い呼吸を終えた後のことだった。
「……! あぁ……!」
そこにある光景に、私は言葉を失った。
今は太陽を背にしている大凱旋門は、その白い大理石製の体に、影色のヴェールを纏っていた。神の写し絵としての力強さを誇示した先ほどとは、また違った趣だ。
麗しき未亡人のような、美しくも、どこか死を彷彿とさせる儚さが、今の大凱旋門には秘められているように思えてならない。
時の経過で、かくも表情が変わる物なのか……
眼前に映し出された美は、私の感受性に強く働きかけるには十分すぎる物だった。
写真機へ意識を向けることすらも、億劫だと思えてしまう程の絶景。それ以外の何物にも意識を向けられなくなってしまうほどの衝撃。
……忘れてなるものか。忘れてなるものか。
いかなることがあっても、かき消されることがないよう、私はこの情景を網膜へ焼き付けなければならない。
そんな使命感にも似た感情が、この時の私を支配し、私の肉体をこの場所へと留め続けたのだった。