地雷女の遊矢♀が舞網市のアイドルになるまで。   作:ウェットルver.2

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()が道を()け! シャークラーケン!

 エンタメデュエルは必要なのか。

 いきなり、わけのわからないことを詩弦は言った。

 

「……いや、わかるぜ?

 ショーマンである以上、エンタメは必要だ。

 でも、()()()()()()()()()()()。わかるだろ?」

「……続けてくれ。君は何を訊きたい?」

 

 念を押すようにパパが聞いた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ショーマンなら話は分かる、お客さんを笑顔にするべきだ。

 できなかったら商売にはならない、プロですらない。

 だからといって、」

 

 ちらり、と、詩弦が私を横目で見た。

 どうしたのだろうと私が思っているうちに、詩弦の視線はパパへと向け直されていた。

 

「まだショーマンでもなんでもない。

 そんな普通の人間が、エンタメデュエルをやる必要ってあるのか?」

「あるさ。」

「後継者教育ってやつか?」

「ゆくゆくは。そう考えているのだがね。

 今はまだ、そこまで気負わせることはない」

 

 パパがおだやかに笑った。

 

「すでに、デュエルそのものが楽しい。

 そう思える者には余計なエンタメかもしれないが、」

 

 詩弦を見つめて、パパは続ける。

 

「誰も彼もが、君のように成れるわけではない。そうだろう?」

「……ああ、そうかもな。」

 

 そっか、そういうことか。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 詩弦のデュエルへの姿勢は(ワレ)にとって、うらやましい。

 とてもではないが、まだ真似さえままならない。けれども、

 

「そうは思えない人間のためにも、私はエンターテイナーであり続けたい」

 

 (わたし)の憧れたデュエリストの、パパの背中に。

 エンターテイナーとして恥ずべきものなど、なにもなく。

 ()()()()()()()()()()()()()()、という強さに憧れがあった。

 自分の幸せのために全力を尽くす詩弦では足りない、強さの高みがあった。

 

「『ちょっと気が変わった。』

 ……などとエンタメを辞めてしまえば、エンタメを求める観客からの信頼を裏切ることになる。

 そもそも人々の希望を忘れたデュエルに、」

 

 その高みから、パパが。

 舞網市の英雄が語る。

 

「期待や笑顔の光などないさ。」

 

 ママは時に、私へ教えてくれた。

 かつての舞網市が、どういう街だったのか。

 暴走族が峠を攻め、我が物顔で街を「自分達の縄張りだ」と言い張り、警察相手に立ち回り。

 そんな世界での闘争の手段でしかないデュエルが、ひとを笑顔にするはずがない。なにかを奪うデュエルなんかが、みんなを幸せにできるはずがない。

 

 一言で言えば、期待や笑顔がない街だったらしい。

 希望を忘れた都市、デュエルで勝利した人間だけが幸せになる世界。

 そこに産まれた弱い子供が弱いまま大きくなれば、デュエルで笑顔になれるはずがない。

 デュエルはデュエルであるだけで誰かを幸せにするエンタメである、とは言えない時代だった。

 

 だから、パパは立ち上がったのだ、と。

 みんなの笑顔を護るために、みんなを笑顔にするために。

 

 デュエルで笑顔を作るために。

 そう私は聞いた。

 

「それが分かっていながらッ……!」

 

 そう、詩弦は……聞いてしまったのだ、今。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私ほど詳しく聞かされていないとしても、デュエルがデュエルであるというだけで笑顔になれる、あの詩弦にとっては、

 

「だからこその選択だったとしても!」

 

 きっと、パパの言葉は。

 詩弦にとって、()()()()()()()()()()()()()

 

「目の前のアイツの笑顔をッ!」

 

 私を助けた、詩弦には。

 自分の笑顔のためにデュエルをする人間でありながら、そうであるからこその彼だから。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()!!

「―――なんだと?」

 

 

 

 ああ、やっぱり。

 あなたは、そう言ってくれるのだ。

 

 その瞬間。

 胸の奥が、心臓が。

 彼に、優しく触れられた気がした。

 

「やっている気になってんじゃねえよ。

 プロのエンタメデュエリストと、父親は!

 まったくの『別物』じゃねえかよっ……!

 

 ぼろぼろと、涙を頬から零れ落としながら。

 詩弦という男が、私の父親へと噛みついている。

 ……ほんとに噛みついたわけじゃなくて、ひとに噛みつく態度って意味だ。でも、

 

「エンタメデュエリストぉ?

 そんなもん、これから何人も生まれるさ!

 だが、なぁ……そうだとしてもなあ!?

 あいつの父親は榊遊勝、おまえひとりだけなんだよ。おまえひとりだけだったんだ……!」

 

 ただの態度だけでも。

 榊遊勝へと謙らずに叫ぶ男なんて、プロデュエリストでも観なくなったような気がする。

 ストロング石島さん、くらいじゃなかったっけ。屈指の悪役を演じるプロデュエリストのひとりで、口調はともかく態度は紳士的だったひと。

 でも、目の前の彼にそんな礼儀作法はない。

 自分より高みにパパがいようと、関係がない。

 

「あいつの父親という役は!

 おまえにしかできないことだろ、榊遊勝!

 なんで助けたのが俺だ、なんで遊夜を助けられたのが!

 よりにもよって俺しかいなかった!?

 

 必至だった。

 なにかを伝えるためだけに、余裕や品格を連想させる言葉遣いなんかしない、ありのままの言葉で詩弦が嘆いていた。

 

「ただの開き直りひとつすら満足にできない遊夜が、ことあるごとにエンタメに結びつけて話をややこしくさせて! 馬鹿にされて!

 あんな嘲笑を『笑顔だ』と勘違いさせて!

 ピエロじみた奇行をやらせていたのは!

 ただの変な子にさせちまった男は!

 榊遊勝ッ!

 エンタメにばかり感けた、おまえなんだよ!」

 

 ぴくりと。

 ほんの一瞬だけ、パパの眉が動いた。

 エンターテイナーであろうとした、舞網市最高のデュエリストの微笑みが。

 揺るがされた、のだろうか。

 

「そもそも、どうして! なんで!?

 おまえが助けてやらなかったんだ、榊遊勝!」

 

 そうなったパパの気持ちよりも。

 すとんと胸に入ってきた言葉があった。

 

「エンタメで他人様を笑顔にする前に!

 誰よりも先に笑顔にする()()家族がいただろ!?」

 

 言葉の重みで刻まれた何かが、私の中で広がっていく。それが罅だと気づいたときには、ほろりとこぼれた欠片を我慢できなくなっていた。

 

「家族じゃあなかったのかよ、遊夜は!?

 どうしてエンタメのほうを先に教えた!?

 なんでテメェを守る力より、『いじめっこを笑顔にする』なんて馬鹿みたいな真似を選ばせるようなモノを教えやがった!?

 いじめっこが、あいつらがチョーシにのるだけだろうがよ、なあ!?」

「…………。」

 

 なにも答えないパパ。

 涙で視界がぼやけて、その表情はわからない。

 なにを思っているのかも、なにを考えているのかも、私からは全然わからない。

 

「わかっているさ、答えられねえよな!

 仕事と家族、どっちを取るかと言えば、男が先にやるべきは仕事で、まずは金だッ!

 じゃねえと遊夜が飯を食えねえ! しかも!

 あんたは偉大なショーマンさ。

 観客を裏切るわけにはいかない。遊夜が自分の子供であれ弟子なら、その弟子が半人前のショーマンのままじゃあ、いずれは観客から馬鹿にされちまうことに変わりはねえ。

 どのみちエンタメこそが父親の背中なんだろうよ、だから、」

 

 私には、わからない。

 なにもわからない。伝わらない。

 パパが本当のところ、私をどう思っているのかなんて。私が変な子だった頃、パパがどう思っていたのかだって。

 なにを思って、エンタメの心得ばかりを教えてくれたのかだって、ひとつもわからない。

 それでもひとつ、パパへの願いはあった。

 

「……だから、わかっているさ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 それでも、それでも……!」

 

 ―――って、ほしかった。

 

「どうして俺しかいなかった、榊遊勝!

 どうしておまえが救わなかった、榊遊勝!

 

 パパに。

 私を守って、ほしかった。

 

「理由はわかる、事情もわかる、……だからわからねえ、わかりたくねえ、わかっちゃいけねえことなんだ! 俺は黙るべきだった!」

「……詩弦くん」

「だから、もう、()()()()()()()()()!」

 

 パパに、ずっと。

 私のことを、助けてほしかった。

 

「どうして家族が家族を救えねえんだ!

 たったそれだけのあたりまえに、どうして男にできる最善がなくて、どうして娘が(こじ)らせる。なんで俺が『力を示させる』まで、いじめが終わらなかった……!?

 なんであんたが俺に感謝するんだ。今日に感謝するまでエンタメデュエルを教える以外、何も対処しない場合じゃなかったんじゃあないのか、あいつらからの遊夜へのいじめは!

 

 俺が怒っているのはな、榊遊勝。

 そうせざるをえず、そうあり続けるしかない、あんた自身が(せば)めた未来が!

 遊夜の期待を裏切るしかない、あんたのエンタメの道が!」

 

 

希望のない未来が!

 いちっばん、気にくわねえんだよ!

 

 

 どうして、パパは助けてくれなかったのか。

 

 なにに、詩弦は怒ってくれているのか。

 

 どの答えも知らない私のために、詩弦がカードから指を離さず、今もなお戦おうとデュエルを続けようする。

 彼の熱い、あたたかい、燃え(たぎ)るような意志が胸に伝わってくる。

 

「そんなレールに遊夜を乗せるんじゃあねえッ!

 エンタメを貫くのが『榊遊勝』なら。

 あんたにエンタメを教わって、クラスの道化になるのが『榊遊矢』なら。

 ……エンタメなんざ関係ない俺だけの意志で闘ってやる。何度でも、何ッ度でも!

 俺は《ハリマンボウ》を()()()に―――!」

 

 海底を貫く慟哭に、カードの意志が呼応する。

 

「現れろ、()がデュエルの化身!

 より、さらに!

 何度でも()()()を喰らう、海の怪物。

 出やがれ、《シャークラーケン》!」」

 

 ないはずの表情筋(かんじょう)を歪めた《シャークラーケン》が、《ハリマンボウ》を咥えて噛み砕き、あふれた《ハリマンボウ》のトゲを吹き飛ばす。彼らのコンボ攻撃に、あきらかな怒りが宿る。

 

「お楽しみは俺たちからだ!

 あんたを一発殴るまで、俺のデュエルは終われない……!」




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